29 / 119
2日目
隠密
しおりを挟む
「……どうだった?」
出ていった音を聞いた美結が後ろからおそるおそる歩いてくる。
「――ちょっと出かけてくる」
「出かけるって……なんでまた急に」
「氷華を追いかける。あいつなら何か知ってるはずだ」
引き留めようとする声を無視し、桃也は外へと踏み出した。
隠れるのは得意だった。家の影に隠れながら氷華を追いかける。影に身を潜めれば、意外とバレない。
人の敷地にも無断で入る。この村ではとやかく言われない。他の人も無断で入っているからだ。それはどうかと思うが。
しかし八月村は田んぼ道が多い。そこだけは隠れることができない。なら――あえて堂々と。氷華からは離れつつ、かといって目を離さない距離を歩く。
堂々としてたら何も言われない。閉鎖的な村は情報が伝わるのが早いと思っていたが、さすがに桃也がいざこざを起こしたというのはバレてないらしい。
コツは音を合わせること。薄紙を重ねるかのように。音と音を重ねる。一体化させる。そうすればバレない。
不安になれば音がズレ始めてしまう。だからもうひとつのコツは、信じることだ。思い込むことだ。――自分は必ずバレない。
しばらく進んでいると、坂野家に着いた。今朝来た時のように敷地へと入っていく。もちろん桃也もついて行った。
氷華は家の中に入った。流石に家の中までは入ることができない。ここで手詰まり……とはならない。それは一般的な家の場合だ。
かなり広い敷地。縁側の下には広い空洞がある。そして床は薄い。聞き耳を立てれば音くらいは聞くことが可能だ。
1度訪れた場所。記憶には家の図が出来上がっている。下の空洞にいたとしても、場所は分かる。
静かに。スムーズな動きで縁側まで移動。誰にも見られてないことを確認しながら、床下に潜り込んだ。
薄暗いくてジメジメしている。虫も多い。叫びそうになる声をなんとか抑えた。顔にかかる蜘蛛の巣は気分が悪くなる。
(さっさと探そう……)
上の音に注意しながら、ほふく前進で移動。ひんやりと流れる汗。感覚が鋭くなっているので一層冷たく思った。
「――」
聞こえた。一瞬で場所を特定し、音源の下に移動する。
「――なに?今日は狩りに来ないって?」
これは確か……蓮見だ。鴨島蓮見。1度は聞いたことのある声だったのですぐわかった。
「妻が熱っぽいらしいよ」
「時斜さんにでも面倒見てもらえ、とでも言ったらよかっただろ」
「無茶言わないでよ」
舌打ちをしたらしい。怒っているのか。
「生贄はもって明日だぞ。今日のうちにアイツを地下に連れていかないと」
「他の場所から攫ってこないの?」
「今回の生贄が警察にバレかけてんだ。内部に潜伏させている奴が言ってる。もう目立ったことはできない。久しぶりの移住者。これはチャンスなんだよ」
生贄。地下。警察。そして内部。もうこれそのものが黒である証拠。八月村が異常であることの証明だ。
念の為に携帯を持ってきて良かった。録音しているから、これを警察にでも持っていけば調査をしてくれる。
「……ほんとに……するの?」
「当たり前だ。羽衣桃也はこの村で初めての生贄に適さないヤツだ。狩りの腕もいいんだろ?」
「まぁ……光るところはある」
「アイツはここの村人にする。運のいいことに、妻の方は生贄に適してたからな。一緒にいられたら桃也の方は抵抗するはず。そうなるとこちらもタダじゃ済まない」
……。やはりここはダメだ。さっさと逃げないと。自分は生贄に適さない?らしいが、美結は生贄にされてしまう。
そんなことはさせない。2人だけでも逃がす。じゃないと――。
「村の車道は塞いである。5歳の子供を引き連れて山を歩くほど、アイツも馬鹿じゃないはずだ。俺らの企みに気がついたとしても一日は猶予がある」
――今日連れ出すのはやめた方がいい理由はそういうことか。氷華の言う通りだ。もしかしたら氷華は良い奴なのかもしれない。
「こんなチャンスは逃さないぞ。神がこの村に微笑みかけてくれてるんだ。今度は俺らが森の神にお礼を渡さなくちゃいけない」
神。森の神。もうよく分かんない。大学で民俗学を専攻すれば良かったと今更になって思っていた。
「――氷華。お前も儀式を見に来い」
「え……」
「もう16の大人だ。八月村にいる以上、この儀式をお前は見なくちゃいけない。猟虎には言ってるから、必ず来いよ」
「……わかった」
「10時に俺ん家の地下だぞ。わかってるな?」
「わかってるって――!」
ドンドンと踏み鳴らしながら離れていく。話の流れ的に氷華だろう。つまり今上にいるのは――。
「……悪いな氷華……」
寂しそうな蓮見の声が聞こえた。
出ていった音を聞いた美結が後ろからおそるおそる歩いてくる。
「――ちょっと出かけてくる」
「出かけるって……なんでまた急に」
「氷華を追いかける。あいつなら何か知ってるはずだ」
引き留めようとする声を無視し、桃也は外へと踏み出した。
隠れるのは得意だった。家の影に隠れながら氷華を追いかける。影に身を潜めれば、意外とバレない。
人の敷地にも無断で入る。この村ではとやかく言われない。他の人も無断で入っているからだ。それはどうかと思うが。
しかし八月村は田んぼ道が多い。そこだけは隠れることができない。なら――あえて堂々と。氷華からは離れつつ、かといって目を離さない距離を歩く。
堂々としてたら何も言われない。閉鎖的な村は情報が伝わるのが早いと思っていたが、さすがに桃也がいざこざを起こしたというのはバレてないらしい。
コツは音を合わせること。薄紙を重ねるかのように。音と音を重ねる。一体化させる。そうすればバレない。
不安になれば音がズレ始めてしまう。だからもうひとつのコツは、信じることだ。思い込むことだ。――自分は必ずバレない。
しばらく進んでいると、坂野家に着いた。今朝来た時のように敷地へと入っていく。もちろん桃也もついて行った。
氷華は家の中に入った。流石に家の中までは入ることができない。ここで手詰まり……とはならない。それは一般的な家の場合だ。
かなり広い敷地。縁側の下には広い空洞がある。そして床は薄い。聞き耳を立てれば音くらいは聞くことが可能だ。
1度訪れた場所。記憶には家の図が出来上がっている。下の空洞にいたとしても、場所は分かる。
静かに。スムーズな動きで縁側まで移動。誰にも見られてないことを確認しながら、床下に潜り込んだ。
薄暗いくてジメジメしている。虫も多い。叫びそうになる声をなんとか抑えた。顔にかかる蜘蛛の巣は気分が悪くなる。
(さっさと探そう……)
上の音に注意しながら、ほふく前進で移動。ひんやりと流れる汗。感覚が鋭くなっているので一層冷たく思った。
「――」
聞こえた。一瞬で場所を特定し、音源の下に移動する。
「――なに?今日は狩りに来ないって?」
これは確か……蓮見だ。鴨島蓮見。1度は聞いたことのある声だったのですぐわかった。
「妻が熱っぽいらしいよ」
「時斜さんにでも面倒見てもらえ、とでも言ったらよかっただろ」
「無茶言わないでよ」
舌打ちをしたらしい。怒っているのか。
「生贄はもって明日だぞ。今日のうちにアイツを地下に連れていかないと」
「他の場所から攫ってこないの?」
「今回の生贄が警察にバレかけてんだ。内部に潜伏させている奴が言ってる。もう目立ったことはできない。久しぶりの移住者。これはチャンスなんだよ」
生贄。地下。警察。そして内部。もうこれそのものが黒である証拠。八月村が異常であることの証明だ。
念の為に携帯を持ってきて良かった。録音しているから、これを警察にでも持っていけば調査をしてくれる。
「……ほんとに……するの?」
「当たり前だ。羽衣桃也はこの村で初めての生贄に適さないヤツだ。狩りの腕もいいんだろ?」
「まぁ……光るところはある」
「アイツはここの村人にする。運のいいことに、妻の方は生贄に適してたからな。一緒にいられたら桃也の方は抵抗するはず。そうなるとこちらもタダじゃ済まない」
……。やはりここはダメだ。さっさと逃げないと。自分は生贄に適さない?らしいが、美結は生贄にされてしまう。
そんなことはさせない。2人だけでも逃がす。じゃないと――。
「村の車道は塞いである。5歳の子供を引き連れて山を歩くほど、アイツも馬鹿じゃないはずだ。俺らの企みに気がついたとしても一日は猶予がある」
――今日連れ出すのはやめた方がいい理由はそういうことか。氷華の言う通りだ。もしかしたら氷華は良い奴なのかもしれない。
「こんなチャンスは逃さないぞ。神がこの村に微笑みかけてくれてるんだ。今度は俺らが森の神にお礼を渡さなくちゃいけない」
神。森の神。もうよく分かんない。大学で民俗学を専攻すれば良かったと今更になって思っていた。
「――氷華。お前も儀式を見に来い」
「え……」
「もう16の大人だ。八月村にいる以上、この儀式をお前は見なくちゃいけない。猟虎には言ってるから、必ず来いよ」
「……わかった」
「10時に俺ん家の地下だぞ。わかってるな?」
「わかってるって――!」
ドンドンと踏み鳴らしながら離れていく。話の流れ的に氷華だろう。つまり今上にいるのは――。
「……悪いな氷華……」
寂しそうな蓮見の声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。
荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる