レッドリアリティ

アタラクシア

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2日目

隠密

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「……どうだった?」

出ていった音を聞いた美結が後ろからおそるおそる歩いてくる。

「――ちょっと出かけてくる」
「出かけるって……なんでまた急に」
「氷華を追いかける。あいつなら何か知ってるはずだ」

引き留めようとする声を無視し、桃也は外へと踏み出した。



隠れるのは得意だった。家の影に隠れながら氷華を追いかける。影に身を潜めれば、意外とバレない。

人の敷地にも無断で入る。この村ではとやかく言われない。他の人も無断で入っているからだ。それはどうかと思うが。

しかし八月村は田んぼ道が多い。そこだけは隠れることができない。なら――あえて堂々と。氷華からは離れつつ、かといって目を離さない距離を歩く。

堂々としてたら何も言われない。閉鎖的な村は情報が伝わるのが早いと思っていたが、さすがに桃也がいざこざを起こしたというのはバレてないらしい。

コツは音を合わせること。薄紙を重ねるかのように。音と音を重ねる。一体化させる。そうすればバレない。

不安になれば音がズレ始めてしまう。だからもうひとつのコツは、信じることだ。思い込むことだ。――自分は必ずバレない。


しばらく進んでいると、坂野家に着いた。今朝来た時のように敷地へと入っていく。もちろん桃也もついて行った。

氷華は家の中に入った。流石に家の中までは入ることができない。ここで手詰まり……とはならない。それは一般的な家の場合だ。

かなり広い敷地。縁側の下には広い空洞がある。そして床は薄い。聞き耳を立てれば音くらいは聞くことが可能だ。

1度訪れた場所。記憶には家の図が出来上がっている。下の空洞にいたとしても、場所は分かる。


静かに。スムーズな動きで縁側まで移動。誰にも見られてないことを確認しながら、床下に潜り込んだ。

薄暗いくてジメジメしている。虫も多い。叫びそうになる声をなんとか抑えた。顔にかかる蜘蛛の巣は気分が悪くなる。

(さっさと探そう……)

上の音に注意しながら、ほふく前進で移動。ひんやりと流れる汗。感覚が鋭くなっているので一層冷たく思った。


「――」

聞こえた。一瞬で場所を特定し、音源の下に移動する。

「――なに?今日は狩りに来ないって?」

これは確か……蓮見だ。鴨島蓮見。1度は聞いたことのある声だったのですぐわかった。

「妻が熱っぽいらしいよ」
「時斜さんにでも面倒見てもらえ、とでも言ったらよかっただろ」
「無茶言わないでよ」

舌打ちをしたらしい。怒っているのか。

「生贄はもって明日だぞ。今日のうちにアイツを地下に連れていかないと」
「他の場所から攫ってこないの?」
「今回の生贄が警察にバレかけてんだ。内部に潜伏させている奴が言ってる。もう目立ったことはできない。久しぶりの移住者。これはチャンスなんだよ」


生贄。地下。警察。そして内部。もうこれそのものがである証拠。八月村が異常であることの証明だ。

念の為に携帯を持ってきて良かった。録音しているから、これを警察にでも持っていけば調査をしてくれる。

「……ほんとに……するの?」
「当たり前だ。羽衣桃也はこの村で初めてのヤツだ。狩りの腕もいいんだろ?」
「まぁ……光るところはある」
「アイツはここの村人にする。運のいいことに、妻の方は生贄に適してたからな。一緒にいられたら桃也の方は抵抗するはず。そうなるとこちらもタダじゃ済まない」

……。やはりここはダメだ。さっさと逃げないと。自分は生贄に適さない?らしいが、美結は生贄にされてしまう。

そんなことはさせない。2人だけでも逃がす。じゃないと――。

「村の車道は塞いである。5歳の子供を引き連れて山を歩くほど、アイツも馬鹿じゃないはずだ。俺らの企みに気がついたとしても一日は猶予がある」

――今日連れ出すのはやめた方がいい理由はそういうことか。氷華の言う通りだ。もしかしたら氷華は良い奴なのかもしれない。


「こんなチャンスは逃さないぞ。神がこの村に微笑みかけてくれてるんだ。今度は俺らが森の神にお礼を渡さなくちゃいけない」

神。森の神。もうよく分かんない。大学で民俗学を専攻すれば良かったと今更になって思っていた。

「――氷華。お前も儀式を見に来い」
「え……」
「もう16の大人だ。八月村にいる以上、この儀式をお前は見なくちゃいけない。猟虎には言ってるから、必ず来いよ」
「……わかった」
「10時に俺ん家の地下だぞ。わかってるな?」
「わかってるって――!」

ドンドンと踏み鳴らしながら離れていく。話の流れ的に氷華だろう。つまり今上にいるのは――。

「……悪いな氷華……」

寂しそうな蓮見の声が聞こえた。
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