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2日目
強制
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「え……」
立っていたのは巽だ。暗闇の中にポツンと立っている。一瞬、巽が幽霊のように見えて、凛は目を擦った。
「なんで……」
「パパが言ってたでしょ。『この村では男の子の家に女の子が入ったら結婚しなくちゃならない』って」
「で、でも――」
――美結が異変に気がついた。冷蔵庫から出した食材や調味料を放り出し、凛の居た方へと走る。
予想通りだ。敷地内に子供が入ってきている。今朝も来ていた巽っていう男の子だ。
凛が巽を見て怯えている。それだけで美結が動く理由には十分だった。巽を敵と思うのには十分だった。
「凛――」
素足のまま庭へと降りる。恐怖で立ち尽くしている凛を抱きかかえようと――。
――男が美結を突き飛ばした。体格は美結より上。筋肉ももちろんある。美結は縁側に倒れた。
「いっ――」
「……はは。美人だ美人」
光が男に差し掛かる。――白みがかかった髪。シワの目立ってきた顔。そして加齢臭。巽の父親だ。
立ち上がろうとする美結を男は押し倒す。荒い呼吸を美結に押し付けていた。
「やめてっ――!!」
「忘れたか?この村は『みんなでひとつ』だ。こんないい女は分合わなくちゃな」
暴れる。だが力で敵わない。暴れる体にのしかかり、抵抗をできなくさせる。こうなってはまともに動けない。
男の目は野獣と化していた。鋭い眼光が美結の胸元に向かう。強くなる握力。男の体温を腹部から感じる。……気持ち悪い。
「――巽。その子は好きにしていいぞ」
男の声に反応した巽。口角を上げる。真っ白な歯が見える。
1歩1歩。草を踏みつけながら。虫を踏みつけながら。凛に歩み寄ってくる。
「やだ――」
腰が抜けた。本能的な恐怖を凛は受け取った。隣で母親が襲われている。男に襲われている。――自分もそうなる。
凛の声にも反応しない。腰を引きずりながら後ろへ下がる。しかし歩くスピードはそれよりも早い。
いずれ捕まる。想像もしたくないことをされてしまう。首を振っても、どれだけ「嫌」と言っても。この男の子はやめてくれない。予想するまでもなかった。
頭にノイズが走る。過去の映像が断片的に蘇ってくる。過去の記憶が。過去の記憶が。最悪の記憶が。
瞳に映る男が――に見えて来る。自分を壊したあの――が。トラウマが。思念体が。憎悪の塊が。
こちらを見つめる。自分の服を引き剥がそうとしてくる。抵抗なんてできない。力はそれほど差がある。
「あ――」
桃也がいてくれたら。助けてくれる。だけど今はいない。桃也はいない。過去に自分を助けてくれた。あの人が。
希望は無い。周りに人はいない。いたとしても助けてくれないだろう。信用なんてしていない。誰のことも。
せめて娘だけでも。自分はいいから娘だけには手を出さないで欲しい。そう願ってみる。意味の無いことだとしても。
せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。娘だけは。娘だけは。娘だけでも――。
――男がぶん殴られた。こめかみの部分を何かでぶっ叩かれる。重い音を鳴らしながら美結から離れた。
理解ができていない様子。「なんだ……?」と呟きながら。青く染まったこめかみを抑えながら立ち上がった。
殴ったのは――氷華だ。手に握りしめたライフル。これで殴ったようだ。
「氷華……!?」
男は驚いている。美結も驚いていた。庭の方では泣きそうな顔で頬を抑えている巽がいる。
「お前……なんでここに!?」
「そっちこそなにやってんの。儀式がもうすぐ始まろうとしてる時に」
「……まだ時間はあるだろ」
「10分前集合は当たり前。遅刻と一緒だよ」
訳が分からない、といった顔をしている。そりゃそうだ。美結は今のところ何も知らないのだから。
「……今までビビって来てなかったくせに偉そうにしやがって」
「ふーん……そんな言い方するんだ」
――氷華は銃口を男の方に向けた。トリガーには指をかけている。
撃つ気だ。後ずさりする男。本当に撃つと思った美結も恐怖で動けずにいた。
「な、なんだよ!?」
「御三家に歯向かうんでしょ?なら殺されても仕方ないよね」
「歯向かってなんかねぇよ!悪かった、悪かったって!!」
さっきまでの怖さは消えていた。取り乱しながら庭の方へ走っていく。泣きそうな顔の巽の手を握った。
「い、行くぞ巽」
状況が飲み込めてない巽を無理やり引っ張りながら、男は暗闇へと飲み込まれていった。
ここには3人だけ。動けない美結と凛。そして2人を見つめている氷華だ。
お礼を言いたかった。言いたかったが、声が出なかった。さっきの恐怖が残っている。
「……無事ならいい」
美結の様子を察した氷華。そう言って何も言わずに出ていった。
どうすればいいのか分からなかった美結だったが、泣きそうな顔をしている凛を見てすぐに体が動いた。
庭に飛び出て凛を抱きしめる。ダムが壊れたかのように出てくる涙。その涙は凛だけじゃない。美結からも流れていた。
言葉にならない声が2人から出ている。涙腺が壊れそうなほど流れる涙が2人の頬を伝って地面へと流れていた。
立っていたのは巽だ。暗闇の中にポツンと立っている。一瞬、巽が幽霊のように見えて、凛は目を擦った。
「なんで……」
「パパが言ってたでしょ。『この村では男の子の家に女の子が入ったら結婚しなくちゃならない』って」
「で、でも――」
――美結が異変に気がついた。冷蔵庫から出した食材や調味料を放り出し、凛の居た方へと走る。
予想通りだ。敷地内に子供が入ってきている。今朝も来ていた巽っていう男の子だ。
凛が巽を見て怯えている。それだけで美結が動く理由には十分だった。巽を敵と思うのには十分だった。
「凛――」
素足のまま庭へと降りる。恐怖で立ち尽くしている凛を抱きかかえようと――。
――男が美結を突き飛ばした。体格は美結より上。筋肉ももちろんある。美結は縁側に倒れた。
「いっ――」
「……はは。美人だ美人」
光が男に差し掛かる。――白みがかかった髪。シワの目立ってきた顔。そして加齢臭。巽の父親だ。
立ち上がろうとする美結を男は押し倒す。荒い呼吸を美結に押し付けていた。
「やめてっ――!!」
「忘れたか?この村は『みんなでひとつ』だ。こんないい女は分合わなくちゃな」
暴れる。だが力で敵わない。暴れる体にのしかかり、抵抗をできなくさせる。こうなってはまともに動けない。
男の目は野獣と化していた。鋭い眼光が美結の胸元に向かう。強くなる握力。男の体温を腹部から感じる。……気持ち悪い。
「――巽。その子は好きにしていいぞ」
男の声に反応した巽。口角を上げる。真っ白な歯が見える。
1歩1歩。草を踏みつけながら。虫を踏みつけながら。凛に歩み寄ってくる。
「やだ――」
腰が抜けた。本能的な恐怖を凛は受け取った。隣で母親が襲われている。男に襲われている。――自分もそうなる。
凛の声にも反応しない。腰を引きずりながら後ろへ下がる。しかし歩くスピードはそれよりも早い。
いずれ捕まる。想像もしたくないことをされてしまう。首を振っても、どれだけ「嫌」と言っても。この男の子はやめてくれない。予想するまでもなかった。
頭にノイズが走る。過去の映像が断片的に蘇ってくる。過去の記憶が。過去の記憶が。最悪の記憶が。
瞳に映る男が――に見えて来る。自分を壊したあの――が。トラウマが。思念体が。憎悪の塊が。
こちらを見つめる。自分の服を引き剥がそうとしてくる。抵抗なんてできない。力はそれほど差がある。
「あ――」
桃也がいてくれたら。助けてくれる。だけど今はいない。桃也はいない。過去に自分を助けてくれた。あの人が。
希望は無い。周りに人はいない。いたとしても助けてくれないだろう。信用なんてしていない。誰のことも。
せめて娘だけでも。自分はいいから娘だけには手を出さないで欲しい。そう願ってみる。意味の無いことだとしても。
せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。せめて。娘だけは。娘だけは。娘だけでも――。
――男がぶん殴られた。こめかみの部分を何かでぶっ叩かれる。重い音を鳴らしながら美結から離れた。
理解ができていない様子。「なんだ……?」と呟きながら。青く染まったこめかみを抑えながら立ち上がった。
殴ったのは――氷華だ。手に握りしめたライフル。これで殴ったようだ。
「氷華……!?」
男は驚いている。美結も驚いていた。庭の方では泣きそうな顔で頬を抑えている巽がいる。
「お前……なんでここに!?」
「そっちこそなにやってんの。儀式がもうすぐ始まろうとしてる時に」
「……まだ時間はあるだろ」
「10分前集合は当たり前。遅刻と一緒だよ」
訳が分からない、といった顔をしている。そりゃそうだ。美結は今のところ何も知らないのだから。
「……今までビビって来てなかったくせに偉そうにしやがって」
「ふーん……そんな言い方するんだ」
――氷華は銃口を男の方に向けた。トリガーには指をかけている。
撃つ気だ。後ずさりする男。本当に撃つと思った美結も恐怖で動けずにいた。
「な、なんだよ!?」
「御三家に歯向かうんでしょ?なら殺されても仕方ないよね」
「歯向かってなんかねぇよ!悪かった、悪かったって!!」
さっきまでの怖さは消えていた。取り乱しながら庭の方へ走っていく。泣きそうな顔の巽の手を握った。
「い、行くぞ巽」
状況が飲み込めてない巽を無理やり引っ張りながら、男は暗闇へと飲み込まれていった。
ここには3人だけ。動けない美結と凛。そして2人を見つめている氷華だ。
お礼を言いたかった。言いたかったが、声が出なかった。さっきの恐怖が残っている。
「……無事ならいい」
美結の様子を察した氷華。そう言って何も言わずに出ていった。
どうすればいいのか分からなかった美結だったが、泣きそうな顔をしている凛を見てすぐに体が動いた。
庭に飛び出て凛を抱きしめる。ダムが壊れたかのように出てくる涙。その涙は凛だけじゃない。美結からも流れていた。
言葉にならない声が2人から出ている。涙腺が壊れそうなほど流れる涙が2人の頬を伝って地面へと流れていた。
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