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2日目
潜入
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(――見つけた)
地獄のような暗闇。瞳にすら光を反射しない。自分の手のひらすら見えないほどの暗闇の中、桃也は立っていた。
場所は家の前。ずっと暗闇の中にいたから瞳孔が開いている。なのである程度は名札の文字も見えた。
『鴨島』
ここは鴨島家だ。坂野の家と同じくらいの大きさはあるだろう。
(さて。どこから探すか)
しらみ潰しに探すのはアリだ。だが見つかった時がめんどくさい。それ以上の詮索が出来なくなるからだ。
1番怪しいのは蔵だ。かなり大きい蔵。地下室とかならここにある気がする。なんとなくの勘ではあるけど。
しかし音が聞こえてこない。人がいる音が一切聞こえてないのだ。光も見えない。気配すらしてこない。
消去法だ。しらみ潰しでしか探すことができなさそう。これは時間がかかりそうだ。
――敷地に入ろうとした時だった。どこかから音が聞こえてきたのだ。夜目に慣れてきたとはいえ、周りを見渡しても暗闇の方が多い。
誰かがこの家に近づいてきている。見つかれば……。考えるよりも先に体が動いた。
音を出さないように敷地内に隠れる。ちょうど門の扉の裏が真っ暗だった。ライトでも当てられない限りバレないはず。
体を縮めて扉の裏に隠れる。どんどんと近づいてくる音。誰かが近づいている。音は――門の前で止まった。
(入ってきた……!!)
ため息。同時に敷地内へと入ってくる。声の高さからして女性。しかも少女に近い年齢だ。
その子は一直線に蔵の方まで歩いていく。桃也が予想していた場所だ。もしかしたら儀式の場所まで行っているのかも。
桃也はついて行くことにした。少女にスピードを合わせつつ、呼吸をできるだけしないようにする。
歩くのに夢中になりすぎないようにしないと。暗闇は前が見えにくい。壁にでもぶつかったら音でバレてしまう。
見失わないように。息を少女に合わせるように。足音を合わせるように。一体化させるように。瞬きをしないように――。
少女は蔵に入らなかった。蔵の壁を沿うように歩いている。思っていた場所と違った。
どこまで行くのか分からない。少し怖かったが、ここまで来たのに引き返すわけにはいかない。行くところまで行ってやる。
少女が止まったのは蔵の真後ろだった。壁に隠れながら少女を覗き込む。何も知らない人が見たら覗き魔みたいに思われるかもしれない。
まぁそんなことは気にしない。少女は桃也の存在に気がついていないようだ。
地面に付いた扉。木製のボロボロの扉。取っ手だけは鉛が使われているようだった。まだ暗闇で全容は分からないが。
少女は扉を開け、中へと入っていく。階段だろうか。桃也の位置からでも降りる音が聞こえてきた。
「……あそこか」
ゴキブリのように素早く扉の前まで近づく。音はまだしていた。このタイミングで入るのはまずい。バレる可能性がある。
扉に耳を当てる。――ほんの少し。ほんの少しだけ。ほんの少しだけ音が聞こえてきた。念仏のような何かの。
気味が悪い。この場から逃げ出したい。そんな思いを押さえつける。唇を噛み締めながら、桃也は音を拾い続けた。
――歩く音が聞こえなくなった。しかし万が一のこともある。桃也は1分ほど待った後、木製の扉を開けた。
ギギギと古臭い音を鳴らしながら開かれる。地下へと続く階段。ホコリっぽい匂いが鼻を突き刺した。
光が奥の方でほんのりと見える。揺らめいているのようだ。松明かも。それとも人かも。どちらにしろ行かない手はない。
ゆっくりと中へと入り込む。外とは空気が違った。生暖かい。息苦しい。重苦しい。深海にでもいるかのようだ。
階段の冷たさ。靴を通して、靴下を通して桃也が突き刺さってくる。そしてもっと内部へ。つま先から目の奥まで冷える。
ゴクリと唾を飲み込む。この先には何かがある。そう確信できる。できた。
桃也はゆっくりと――扉を閉めた。
地獄のような暗闇。瞳にすら光を反射しない。自分の手のひらすら見えないほどの暗闇の中、桃也は立っていた。
場所は家の前。ずっと暗闇の中にいたから瞳孔が開いている。なのである程度は名札の文字も見えた。
『鴨島』
ここは鴨島家だ。坂野の家と同じくらいの大きさはあるだろう。
(さて。どこから探すか)
しらみ潰しに探すのはアリだ。だが見つかった時がめんどくさい。それ以上の詮索が出来なくなるからだ。
1番怪しいのは蔵だ。かなり大きい蔵。地下室とかならここにある気がする。なんとなくの勘ではあるけど。
しかし音が聞こえてこない。人がいる音が一切聞こえてないのだ。光も見えない。気配すらしてこない。
消去法だ。しらみ潰しでしか探すことができなさそう。これは時間がかかりそうだ。
――敷地に入ろうとした時だった。どこかから音が聞こえてきたのだ。夜目に慣れてきたとはいえ、周りを見渡しても暗闇の方が多い。
誰かがこの家に近づいてきている。見つかれば……。考えるよりも先に体が動いた。
音を出さないように敷地内に隠れる。ちょうど門の扉の裏が真っ暗だった。ライトでも当てられない限りバレないはず。
体を縮めて扉の裏に隠れる。どんどんと近づいてくる音。誰かが近づいている。音は――門の前で止まった。
(入ってきた……!!)
ため息。同時に敷地内へと入ってくる。声の高さからして女性。しかも少女に近い年齢だ。
その子は一直線に蔵の方まで歩いていく。桃也が予想していた場所だ。もしかしたら儀式の場所まで行っているのかも。
桃也はついて行くことにした。少女にスピードを合わせつつ、呼吸をできるだけしないようにする。
歩くのに夢中になりすぎないようにしないと。暗闇は前が見えにくい。壁にでもぶつかったら音でバレてしまう。
見失わないように。息を少女に合わせるように。足音を合わせるように。一体化させるように。瞬きをしないように――。
少女は蔵に入らなかった。蔵の壁を沿うように歩いている。思っていた場所と違った。
どこまで行くのか分からない。少し怖かったが、ここまで来たのに引き返すわけにはいかない。行くところまで行ってやる。
少女が止まったのは蔵の真後ろだった。壁に隠れながら少女を覗き込む。何も知らない人が見たら覗き魔みたいに思われるかもしれない。
まぁそんなことは気にしない。少女は桃也の存在に気がついていないようだ。
地面に付いた扉。木製のボロボロの扉。取っ手だけは鉛が使われているようだった。まだ暗闇で全容は分からないが。
少女は扉を開け、中へと入っていく。階段だろうか。桃也の位置からでも降りる音が聞こえてきた。
「……あそこか」
ゴキブリのように素早く扉の前まで近づく。音はまだしていた。このタイミングで入るのはまずい。バレる可能性がある。
扉に耳を当てる。――ほんの少し。ほんの少しだけ。ほんの少しだけ音が聞こえてきた。念仏のような何かの。
気味が悪い。この場から逃げ出したい。そんな思いを押さえつける。唇を噛み締めながら、桃也は音を拾い続けた。
――歩く音が聞こえなくなった。しかし万が一のこともある。桃也は1分ほど待った後、木製の扉を開けた。
ギギギと古臭い音を鳴らしながら開かれる。地下へと続く階段。ホコリっぽい匂いが鼻を突き刺した。
光が奥の方でほんのりと見える。揺らめいているのようだ。松明かも。それとも人かも。どちらにしろ行かない手はない。
ゆっくりと中へと入り込む。外とは空気が違った。生暖かい。息苦しい。重苦しい。深海にでもいるかのようだ。
階段の冷たさ。靴を通して、靴下を通して桃也が突き刺さってくる。そしてもっと内部へ。つま先から目の奥まで冷える。
ゴクリと唾を飲み込む。この先には何かがある。そう確信できる。できた。
桃也はゆっくりと――扉を閉めた。
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