レッドリアリティ

アタラクシア

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2日目

復帰

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階段を一段一段のっそりと降りていく。呼吸は遅く、深く。肺の空気を一気に抜き出す。肺の空気を一気に溜め込む。

揺らめく光は徐々に視界に広がっていく。自分以外の音はもっと大きく聞こえてくる。ちょっとだけ聞こえていた音だ。それが今は強くなってきている。

ここに人がいる。それも大勢。数は分からないが、少なくとも10人以上はいるはず。わざわざ地下に来てまで儀式をするのか。


桃也は昼間のことを思い出していた。氷華と蓮見が話していたこと。『生贄』と『儀式』である。

怖い話とかはよく聞く方だ。なので人柱ひとばしらとか夜這よばいとか、そういう悪い風習というものは知っている。

生贄。いい言葉じゃない。生き物を捧げるのだ。狂信者。どこかのカルト宗教とかがやっているイメージがある。

儀式。これも単体で聞けば怖い。すぐに危ない儀式なんかを思い浮かべてしまう。コックリさんとかひとりかくれんぼとか。

この2つの言葉。何かを隠している村。真実は目の前まで来ている。恐怖もあるが、好奇心が上回っていた。



1番下まで降りられた。揺らめいていた光は松明。とりあえず人じゃなくてほっとした。

――しかし気を抜いている場合ではない。1番下まで降りるとすぐに曲がり道だ。そこを曲がった先には――人がいる。

昨日見た。確か『執行教徒』と呼ばれる人だ。体格は桃也よりも大きい。あの義明とかいう人ではない。

男は刀を持っていた。鞘に収められていて刃は見えない。

(あの奥……声はそこからか)

奥に何かある。おそらく儀式をしているのだ。行くっきゃない……が、まずは扉の前のやつをどうにかしなければ。

(しゃーないか……)



カツン。カツン。

石を叩く音。誰かが歩いてくるような音。扉の前の男は気がついた。――階段前の松明。光の中に影があった。

「おい。そこにいるのは誰だ?」

影は人の形をしている。立ち尽くしているのか。目的が分からずに男は困惑している。しかし普通じゃないくことくらいは分かった。


刀を抜く。銀色の刃に松明の炎が反射する。握り手は強い。万力のような握力だ。緊張と恐怖が入り交じった表情。人を殺したことはないのかもしれない。

すり足で影に近づく。顔の横に掲げられた刀。影に近づく度にカチャカチャとなる。眼光は刃と同じくらいに光っていた。

体をねじる。まるでデコピンのように。力をより大きな力で押さえつける。押さえつけられた力はより強力に、強大になっていく。押さえつけていた力よりも大きく――。


曲がった瞬間、男の横一線が放たれた。刃は影の所有者に当たる――はずであった。

いない。居ない。視界に映らない。刀は支えの木材に深く入り込んだ。音は小さい。扉の奥にまでは聞こえないほど。

影はどこいった。男はふと下に目を向けた――。





「誰だ――お前は――」

――黒いロングコート。真っ黒なお面。深く深く。深淵の奥底のような真っ黒なフードの中には――真っ赤なニコちゃんマークが書かれてあった。

服と同じ黒い手袋。持っていたのは包丁。握りしめられる黒色の持ち手。目立つ銀色の刃。鋭く尖った先を男に向けられている。


しゃがんでいた。太ももの大きな筋肉。男と原理は一緒だ。デコピンと一緒。溜め込んだ力を一気に解き放つ。

「――」

跳ね上がった体。弾丸のように一直線に刃が男の首に突き刺さる。一撃で頸動脈、そして頚椎を刃が貫通した。

絶命。見てわかる絶命だ。死に体となった男の頭を掴んで後頭部を石の壁に叩きつける。死体蹴り。それとも念の為の攻撃だろうか。

どちらにしろ男は完全に絶命した。意外と血は流れない。貫通させたからだろう。傷口から漏れ出た黒い血が男の服に染み込んでいった。



仮面の隙間から呼吸音がする。男を外まで引きずるのは重労働であった。成人男性を運ぶのはかなり力がいる。

時間がちょっとかかってしまった。儀式が終わってしまったかも。そうなったら来た意味がない。今は儀式をしていてほしい、と願っていた。

けど――もう遮るものは何も無い。仮面を被っているので自分の正体は隠せている。ロングコートは体格をある程度隠せる。

久しぶりに着た。まさかこんな場面で着るとは思わなかったが、着心地はかなりいい。昔と変わらない。


――ナイトウォーカー夜を歩く者。巷ではそう呼ばれていた。かっこいいので結構気に入っていた。

誰も自分が世間を揺るがした殺人鬼とは思わない。好き勝手し放題。警察にも捕まらない。違うヤツらに捕まりそうだが。

は扉へと向かう。思い切り開けるわけにはいかない。こっそりと覗き込むように。

バレるのはダメだ。殺しの経験があるとはいえ、桃也は別に退役軍人でもCIAでもない。ただの殺人鬼。ただの一般人。数の暴力には勝てない。

なので慎重に。気が付かれないように。勘づかれないように。桃也はゆっくりと扉を開けた――。
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