レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

散策

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「まずは……鴨島家だな」

村人の言葉を信用したのではない。今回の目的は情報収集。むやみやたらに歩き回っていたら不審に思われるだろう。

少ない情報から細い糸を辿っていく。桃也が生きてるのかも分からない現状、その細い糸が切れないことを願うしかなかった。

「行くっきゃねぇ」

車のエンジンをかけた――。


「……ん。あれ?」

違和感。ほんの少しの違和感。いつも乗っている車だ。少しの違和感が大きなモヤモヤを心の中に作り出す。

車から降りてタイヤを確認した。――タイヤがパンクしていたのだ。ホイールも猫が引っ掻いたような跡もついている。

これは動物じゃない。明らかに人の手でやられている。動物ならタイヤをピンポイントで狙うのはおかしいからだ。

「……んだよクソっ」

帰る時はどうしようか。そんなことを考えながら、小次郎は歩き出した。



――村はやはり普通だ。見てる限りでは。ただののどかで過疎の進んだ村にしか見えない。

桃也が田舎で暮らしたいと言っていたが、いまなら気持ちが分かる。嫁と子供を連れてここに住みたい……。

と考えてみる。だが不振なところが多い。刑事である自分に嘘をつくような人たちだ。子供に悪影響がある。やはり住むのはやめだ。

「やっぱり故郷が1番だな」

――ちょうど呟いた時。小次郎は鴨島家の前までたどり着いた。


チャイムがない。桃也の家と一緒だ。仕方なく扉を叩く。

「すみませーん!!」

昔ながらのラーメン屋で注文を頼むかのごとく。小次郎は大きく喉を震わせた。声が聞こえてるかも分からない。聞こえてると信じることにしておこう。


数秒か。数十秒か。ドタドタとアニメのような足音を鳴らしながら扉の方へ向かってくる。

――扉が開けられた。出てきたのは茶髪の可愛い少女。アイヌ衣装のような柄の着物を着ていた。

今どき祭りでもないのに着物を着ている人もいるんだな。それとも今日が祭りなのか。どれにしろ今は関係ない。

「あ、鴨島さん……?」
「はい。鴨島亜依です」

亜依だ。珍しいものを見るような目で舐めまわすように小次郎を見てくる。ちょっと恥ずかしそうにした。

「えーっと、どなた?」
「牧野小次郎。羽衣桃也の友人です」
「あー」

何度も頷く。

「どんなご用事で?」
「先日、この家の前でいざこざが起きたりしませんでしたか?」
「いざこざ……あー。ありましたね」

受け答えはスムーズ。さっきの村人とは違う。だがどれだけ自然でも嘘は嘘だ。信用してはならない。聞くべき情報は桃也の場所。その手がかりだ。

「どんなのが?」
「どんなのって。聞いたでしょ?最近ここに引っ越してきたあなたの友人さん。あの人が木下さんを殴ったんです」
「殴った……ね。時間帯とかは?」
「細かくは覚えてないなー。お昼ぐらいだったんじゃないですか?」
「そうですか……なんで殴ったとかは?」
「いやぁ分かりません。父が対処していたので。でもブツブツ言いながら帰ってましたよ。それからは見てませんし、そのまま家族ごとどっかに消えたそうです」

やっぱり目新しい情報はない。どれもこれも聞いたのばかり。新しい情報も、桃也の特定に繋がるようなものではなかった。

「なにかおかしなこととかありませんでしたか?細かいことでもいいんです」
「おかしなことって言われても、あの人は最初っからおかしかったですよ」
「……ですよね。アイツ昔から頭がおかしかったんですよ」
「ははは、大変そうな姿が思い浮かびます」


「そういえば――」と切り出す。

「来る時に聞いたんですが、獣が現れたらしいですね。大丈夫でしたか?」
「……4人。殺られました」
「それは大変……でしたね」
「まぁこの辺りでは珍しいことではありませんからね」

周りが山に囲まれた土地。言い換えれば自然に囲まれた場所だ。整備されてる都会と違って、村には柵すら建てられていない。

言い方が悪いが、襲われて当然だ。村人たちはそれを望んでいるのだろうか。

「失礼ですが、ご遺体の方は?」
「え、遺体?」
「仕事柄、不謹慎ですが興味があって。こういう街から離れた村では、どうやって遺体を弔っているのかなって」
「……遺体は家族の元へ。1人は今も行方不明ですけど」
「あ……すみません」
「いえ」

頭を下げる小次郎に優しく話す。不覚にも心が和らいでしまった。

「その……ご遺体のお家を教えてもらっても?」
「すみません。それは流石に……」
「こちらこそすみません。深入りしすぎましたね」


1歩下がる。話はこれで終わり、と亜依は受け取った。

「お話ありがとうございました。桃也が迷惑かけてしまってすみません」
「そちらこそ気おつけて」

立ち去ろうとした時――亜依が小次郎に話しかけた。

「さっき仕事柄とか言ってましたけど、お仕事は何をされていらっしゃるんですか?」
「――刑事です」


「そう……ですか」とボールから漏れ出た空気のように言葉を出す。小次郎が前を向き直すと同時に、後ろで扉が閉まる音が聞こえてきた。
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