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5日目
恩返
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上から雨のように燃えた木材が降ってきた。老化している木材。燃えたならば更に脆くなる。降り注いでくる木材に義明は押し潰された。
「ぐぬっ――!?」
脆いとはいえ重さは相当。屋根そのものが落ちてくるようなものだ。流石の義明も膝を崩してしまう。
「氷……華ァ……!!!!」
睨みつけ。呪うかのように。歪んだ声を氷華に向けながら――義明の姿は木材の中に消えていった。
立ち上がる氷華。ライフルを撃ったせいで家屋が崩れそうだ。そのまま居ると死んでしまう。
「ごめんね……もう引けないの……」
燃える瓦礫を横目に、氷華は家屋の外へと出た――。
――体がまた吹き飛ぶ。痛い。爆弾が爆発したのか――違う。これは殴り飛ばされたのだ。
「――ははは!!馬鹿だなぁ氷華!!この村の全員を敵に回すとはよォ!!」
この声。歪んだ視界でも姿を掴める。――巽の父親だ。
「この前はよくも殴ってくれたなぁ!!!」
倒れている氷華の腹部を蹴り飛ばす。
「ぐふっ――!!」
疲弊も疲労も限界を超えていた。一般人の攻撃を避ける余力もない。
更に蹴り飛ばされた。もっと後ろにあった灯篭まで転がっていく。
「ぐぅ……」
「どーしたよ。『御三家』が情けない姿を見せんなよォ!!」
蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴りまくる。折れた肋が肺に刺さる。内蔵がグルグルと掻き回される。
喉の奥から出てくる血を止められない。外へと吐き出した。
「汚ぇなぁ……オラァァァ!!!」
虫の息。呼吸をすればするほど痛みが続く。強くなる。
「御三家に刃向かったらどうなるか……教えてくれねーーかーー??ん?んん??」
声も耳に届かない。怒りすら湧かない。
「……」
「――聞こえねぇよ!!!!」
――キィィィィィィィ!!!
その時。瓦礫の間から白い猿が飛び出てきた。
「な、なんだこの猿――」
猿はすかさず巽の父親の顔面を引っ掻く。子供ながら鉄のように硬い爪。皮膚を切り裂くのには十分だ。
野生の馬鹿力で何度も何度も顔面を引っ掻く。血が滴り、皮膚が吹き飛ぶ。
「イダだだだだ!?なんだよクソ猿!!」
猿に気を取られ――立ち上がった氷華に気がついていない。ここまでに散々やられている。怒りは限界突破していた。
腰から取り出したサバイバルナイフ。宝石のような瞳とは正反対に目を血走らせ――腹部に突き刺した。
「ぐぇ?」
気の抜けた声を出した。何が起こったか分からないような顔。ナイフは研がれてある。瀕死の氷華でも横にスライドさせれば肉くらいは軽く切れる。
「くぇ――」
倒れる。血が口から出る。吹き出る。流れ落ちる。泥のように粘土のある血だ。
「……せめてもの情けだ」
腹を切っただけではすぐに死なない。切腹もそうだった。長く苦しむ。蹴られまくったが、そこまで露悪的な人柄はしてない。
氷華はナイフを首に突き立てた。――小さい呻き声。魂の炎は静かに消えていった。
「……」
猿はそこにいた。いきなり出てきた猿だ。なんの脈絡もなく出てきた猿。
すぐに氷華は何か分からなかった。しかし頭に流れる記憶から――その猿が何かを理解した。
「山駆けの子供……?」
「キーー!」
満足そうな声を猿は出した。氷華の言葉を肯定するような声を。
「……ありがとうね」
近づいていた猿の頭を撫でる。猿は静かに微笑んだ。――まるで親を思い出して笑っているかのように。
「キーー♪」
気分をよくした猿は氷華の元から離れた。そして燃え盛る瓦礫の中、どこかへと元気に走り去っていった。
「まだ――終わってない」
引きちぎれそうな体を持ち上げる。消えかかっている握力でライフルを掴む。霧のかかった頭で思考をクリアにする。
爆弾でかなりの数が削れたとはいえ、たった1人で村人を殲滅するのは不可能だ。自分も手伝わないと。
あともう少し。良心を痛ませている時間はない。傷の体に鞭を打つ。殺してきた人たちのためにも。まだ止まれないのだ。
「ぐぬっ――!?」
脆いとはいえ重さは相当。屋根そのものが落ちてくるようなものだ。流石の義明も膝を崩してしまう。
「氷……華ァ……!!!!」
睨みつけ。呪うかのように。歪んだ声を氷華に向けながら――義明の姿は木材の中に消えていった。
立ち上がる氷華。ライフルを撃ったせいで家屋が崩れそうだ。そのまま居ると死んでしまう。
「ごめんね……もう引けないの……」
燃える瓦礫を横目に、氷華は家屋の外へと出た――。
――体がまた吹き飛ぶ。痛い。爆弾が爆発したのか――違う。これは殴り飛ばされたのだ。
「――ははは!!馬鹿だなぁ氷華!!この村の全員を敵に回すとはよォ!!」
この声。歪んだ視界でも姿を掴める。――巽の父親だ。
「この前はよくも殴ってくれたなぁ!!!」
倒れている氷華の腹部を蹴り飛ばす。
「ぐふっ――!!」
疲弊も疲労も限界を超えていた。一般人の攻撃を避ける余力もない。
更に蹴り飛ばされた。もっと後ろにあった灯篭まで転がっていく。
「ぐぅ……」
「どーしたよ。『御三家』が情けない姿を見せんなよォ!!」
蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴りまくる。折れた肋が肺に刺さる。内蔵がグルグルと掻き回される。
喉の奥から出てくる血を止められない。外へと吐き出した。
「汚ぇなぁ……オラァァァ!!!」
虫の息。呼吸をすればするほど痛みが続く。強くなる。
「御三家に刃向かったらどうなるか……教えてくれねーーかーー??ん?んん??」
声も耳に届かない。怒りすら湧かない。
「……」
「――聞こえねぇよ!!!!」
――キィィィィィィィ!!!
その時。瓦礫の間から白い猿が飛び出てきた。
「な、なんだこの猿――」
猿はすかさず巽の父親の顔面を引っ掻く。子供ながら鉄のように硬い爪。皮膚を切り裂くのには十分だ。
野生の馬鹿力で何度も何度も顔面を引っ掻く。血が滴り、皮膚が吹き飛ぶ。
「イダだだだだ!?なんだよクソ猿!!」
猿に気を取られ――立ち上がった氷華に気がついていない。ここまでに散々やられている。怒りは限界突破していた。
腰から取り出したサバイバルナイフ。宝石のような瞳とは正反対に目を血走らせ――腹部に突き刺した。
「ぐぇ?」
気の抜けた声を出した。何が起こったか分からないような顔。ナイフは研がれてある。瀕死の氷華でも横にスライドさせれば肉くらいは軽く切れる。
「くぇ――」
倒れる。血が口から出る。吹き出る。流れ落ちる。泥のように粘土のある血だ。
「……せめてもの情けだ」
腹を切っただけではすぐに死なない。切腹もそうだった。長く苦しむ。蹴られまくったが、そこまで露悪的な人柄はしてない。
氷華はナイフを首に突き立てた。――小さい呻き声。魂の炎は静かに消えていった。
「……」
猿はそこにいた。いきなり出てきた猿だ。なんの脈絡もなく出てきた猿。
すぐに氷華は何か分からなかった。しかし頭に流れる記憶から――その猿が何かを理解した。
「山駆けの子供……?」
「キーー!」
満足そうな声を猿は出した。氷華の言葉を肯定するような声を。
「……ありがとうね」
近づいていた猿の頭を撫でる。猿は静かに微笑んだ。――まるで親を思い出して笑っているかのように。
「キーー♪」
気分をよくした猿は氷華の元から離れた。そして燃え盛る瓦礫の中、どこかへと元気に走り去っていった。
「まだ――終わってない」
引きちぎれそうな体を持ち上げる。消えかかっている握力でライフルを掴む。霧のかかった頭で思考をクリアにする。
爆弾でかなりの数が削れたとはいえ、たった1人で村人を殲滅するのは不可能だ。自分も手伝わないと。
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