レッドリアリティ

アタラクシア

文字の大きさ
108 / 119
5日目

恩返

しおりを挟む
上から雨のように燃えた木材が降ってきた。老化している木材。燃えたならば更に脆くなる。降り注いでくる木材に義明は押し潰された。

「ぐぬっ――!?」

脆いとはいえ重さは相当。屋根そのものが落ちてくるようなものだ。流石の義明も膝を崩してしまう。

「氷……華ァ……!!!!」

睨みつけ。呪うかのように。歪んだ声を氷華に向けながら――義明の姿は木材の中に消えていった。


立ち上がる氷華。ライフルを撃ったせいで家屋が崩れそうだ。そのまま居ると死んでしまう。

「ごめんね……もう引けないの……」

燃える瓦礫を横目に、氷華は家屋の外へと出た――。





――体がまた吹き飛ぶ。痛い。爆弾が爆発したのか――違う。これはのだ。

「――ははは!!馬鹿だなぁ氷華!!この村の全員を敵に回すとはよォ!!」

この声。歪んだ視界でも姿を掴める。――巽の父親だ。

「この前はよくも殴ってくれたなぁ!!!」

倒れている氷華の腹部を蹴り飛ばす。

「ぐふっ――!!」

疲弊も疲労も限界を超えていた。一般人の攻撃を避ける余力もない。


更に蹴り飛ばされた。もっと後ろにあった灯篭まで転がっていく。

「ぐぅ……」
「どーしたよ。『御三家』が情けない姿を見せんなよォ!!」

蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴りまくる。折れた肋が肺に刺さる。内蔵がグルグルと掻き回される。

喉の奥から出てくる血を止められない。外へと吐き出した。

「汚ぇなぁ……オラァァァ!!!」


虫の息。呼吸をすればするほど痛みが続く。強くなる。

「御三家に刃向かったらどうなるか……教えてくれねーーかーー??ん?んん??」

声も耳に届かない。怒りすら湧かない。

「……」
「――聞こえねぇよ!!!!」





――キィィィィィィィ!!!


その時。瓦礫の間から白い猿が飛び出てきた。

「な、なんだこの猿――」

猿はすかさず巽の父親の顔面を引っ掻く。子供ながら鉄のように硬い爪。皮膚を切り裂くのには十分だ。

野生の馬鹿力で何度も何度も顔面を引っ掻く。血が滴り、皮膚が吹き飛ぶ。

「イダだだだだ!?なんだよクソ猿!!」


猿に気を取られ――立ち上がった氷華に気がついていない。ここまでに散々やられている。怒りは限界突破していた。

腰から取り出したサバイバルナイフ。宝石のような瞳とは正反対に目を血走らせ――腹部に突き刺した。

「ぐぇ?」

気の抜けた声を出した。何が起こったか分からないような顔。ナイフは研がれてある。瀕死の氷華でも横にスライドさせれば肉くらいは軽く切れる。

「くぇ――」


倒れる。血が口から出る。吹き出る。流れ落ちる。泥のように粘土のある血だ。

「……せめてもの情けだ」

腹を切っただけではすぐに死なない。切腹もそうだった。長く苦しむ。蹴られまくったが、そこまで露悪的な人柄はしてない。

氷華はナイフを首に突き立てた。――小さい呻き声。魂の炎は静かに消えていった。



「……」

猿はそこにいた。いきなり出てきた猿だ。なんの脈絡もなく出てきた猿。

すぐに氷華は何か分からなかった。しかし頭に流れる記憶から――その猿が何かを理解した。

「山駆けの子供……?」
「キーー!」

満足そうな声を猿は出した。氷華の言葉を肯定するような声を。

「……ありがとうね」

近づいていた猿の頭を撫でる。猿は静かに微笑んだ。――まるで親を思い出して笑っているかのように。

「キーー♪」

気分をよくした猿は氷華の元から離れた。そして燃え盛る瓦礫の中、どこかへと元気に走り去っていった。



「まだ――終わってない」

引きちぎれそうな体を持ち上げる。消えかかっている握力でライフルを掴む。霧のかかった頭で思考をクリアにする。

爆弾でかなりの数が削れたとはいえ、たった1人で村人を殲滅するのは不可能だ。自分も手伝わないと。

あともう少し。良心を痛ませている時間はない。傷の体に鞭を打つ。殺してきた人たちのためにも。まだ止まれないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

処理中です...