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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
2話「暗闇」
家の中に戻る。突然すぎて頭がとても混乱している。あいつらはなんなんだ。わけがわからない。夢ならさっさと覚めて欲しいが頬をつねっても、壁に頭をぶつけても、夢から覚めてくれなかった。しかし本能でこの状況がまずいことはわかった。
地震の時のために置いておいたバックを手に取る。水や食料、防寒具やマッチなどが入っている。地震以外の時で使うのは予想してなかった。しかしこれだけでいいのかわからない。外にいるヤツらが襲ってきた時のために武器が必要だ。倒れている母を見る。さっき刺した包丁がまだ刺さっている。使うべきなのだろうがあまり使いたくない。母に刺さった包丁を抜いて、その場に捨てた。そして母に布団を被せた。
近くのタンスをあさってみるとポケットナイフを手に入れた。正直心もとないがまぁいいだろう。半袖半ズボンのパジャマだった服を脱いで長袖長ズボンの服に着替える。さっき外を見た時は尖っているものが多く散乱していたためである。死んでいる母に手を合わせた。
「……なんでこんなことに……ごめん、行ってくる」
こんなことしかできない自分が嫌になる。僕がやったのだが、せめて天国に行って欲しい。僕は玄関の扉を開けた。
外は静寂に包まれていた。さっきまでいたヤツらがどこかに消えていた。この状況は嬉しいが妙な不気味さがある。とにかく離れたい。近くに僕が通っていた小学校がある。そこは地震の時の避難場所になっている。もしかしたら誰かいるのかもしれない。目的地はそこだ。僕は歩き出した。
周りを見ながらゆっくりと歩く。見た感じヤツらはいない。中腰だった体勢をあげて歩き出す。周りにガラス片やら電線が飛び散ってとても危ない。長ズボンを着ていて良かった。手には刃を出したポケットナイフがある。いざという時はこいつで応戦する。少し気が緩んでしまいそうになるがそれでも周りに集中し続ける。
交差点の所まで来た。この道を真っ直ぐ進めば小学校に着く。しかしヤツらが現れた。交差点の真ん中に三体ほどいる。右側には五体、左側には二体いる。ここを隠れながら行くのはかなり至難の業だ。所々壊れた車があるのでそこを隠れながらしゃがんで移動する。心臓が鳴る。この量だ。一体だけなら何とかなりそうだがこの物量だと無理そうだ。それにさっきの母のスピードを見るに、逃げ切るということも難しそうだ。中学校時代は陸上で長距離していたがそこまで速くなかった上に今はやめてだいぶ経つ。さすがに走れない。息を潜めて静かに移動する。
目の前に警官の死体を見つけた。首元が無くなっており、顔に至ってはもはや無かった。全て噛みちぎられたようだ。警官の服を静かに漁る。銃を発見した。よくテレビで見るリボルバー式の拳銃。撃った形跡はないが弾は込められている。装弾数は5発。弾がもっと無いか漁ってみるがどうやらないらしい。警官の人に黙祷し拳銃を懐に入れて、先に進む。
まだ気づかれてはいない。しかし車がそう都合よく何台も置いてあるわけがなく、車がなく見晴らしのいいところを通り抜けないといけなくなった。横のヤツらには気づかれてないようだが前に進むには三体のヤツらを回避しないといけない。息を止めて進み出す。できるだけ自分が発する音を小さくする。三体は全て左側にかたよっているので右側を進む。ここは運が良かった。息を潜めてゆっくりと着実に動く。時折ヤツらを見ながら動く。死にたくない。母を殺したのだ。死ぬわけにはいかない。ヤツらのうちの一体の頭が動いた。一瞬全ての細胞の動きが止まる。体が動かない。やつがゆっくりとこちらを向いてくる。死んだ。そう思った。
その瞬間さっき銃を取った警官の死体が地面に倒れた。どうやらさっき銃を取った時に体が斜めになっていて、その影響で転けたようだった。ヤツらが一斉に死体の方に向く。その隙にそそくさと前に進む。そしてすぐに塀の後ろに隠れた。緊張と恐怖で、吸えなかった息を大きく吸う。目の前が歪む。肩が大きく上下に動く。そして少しして、呼吸が整った後、塀の影からヤツらの方を見る。ヤツらは僕に気づかずにそのまま動いていなかったようだ。安心で体がだれる。しかしこのままでもいけない。僕はそのまま静かに前に進んだ。
ようやく学校に着いた。時間にしてみれば10分程度だっただろうが、僕には1時間にも思えた。校門から校舎の中に入る。とりあえず生存者はいるか確認したい。外に付けられている階段を使って2階に上がる。体育館の扉をゆっくりと開けて覗く。その瞬間、高速の物体が右頬をを通り過ぎた。驚いて後ろの手すりに倒れかかる。すると中から60歳前後の老人が出てきた。手には狩猟用のライフルを持っている。そのライフルをこちらに向けてきた。
「ま、待って!撃たないで!」
「うるさい……お前はヤツらではないな。さっさと入れ」
「は、はい」
なんだこの爺さんと思ったがどうやら中に入らせて貰えるようだ。中に入るとだだっ広い体育館の中身が見えた。ほとんど通っていた時と変わらず、小学校に戻った気分になった。辺りを見渡すと1人の少女が毛布にくるまって眠っていた。その子の周りには食料や水、血の着いた包帯が置かれていた。
「お前、何か手当てできる物は持ってるか?」
「え?あ、はい。ガーゼとかならあります」
「ちょっとよこせ」
カバンから出した応急処置用の箱をぶんどられる。その箱の中を開けて、雑に中身を漁る。その中から消毒とガーゼを取り出し、少女の毛布を取った。少女の腕とふくらはぎには大きな噛みちぎられた跡があり、とても痛々しいことになっていた。
「ごめんな花蓮…ちょっと痛むぞ」
爺さんは少女に消毒をふりかけた。少しビクッとしたがその痛みに我慢しているようだった。見た感じまだ10歳程度なのに強い子だ。その後消毒を終え、ガーゼを巻いて手当を済ませた。僕はその様子を静かに見ているしかできなかった。
「……さっきは撃ってすまんな。ヤツらが来たのかと思った」
手当を終えた爺さんが話しかけてきた。
「大丈夫です。ケガはなかったので」
「そうか、ならいい」
なんか無愛想だな。感じも悪いし……。でもこの女の子を必死で助けてるんだからまぁ悪い人ではないんだろう。
「そういえば聞いてなかった。お前の名前はなんだ?」
「あぁはい、僕の名前は如月楓夜です」
「如月楓夜か、儂の名前は糸部神蔵(いとべかんぞう)だ」
目の前に手を出してくる。その手を握り返して握手した。握力が強くて普通に痛かった。
「この子はお孫さんですか?」
眠っている少女の方に向いて問う。
「あぁ、名は糸部花蓮(いとべかれん)。ちょうど学校が休みで儂のところに来てたんだ…」
少女の髪を撫でる。とても大事にしているようだ。
「その子怪我は…」
「ここに避難する時にヤツらにやられてな。儂がちょっと目を話してしまったからこんなことになってしもうた…」
「そうなんですか……」
糸部さんの悲しい顔が目に映った。
「……この状況は一体何なんでしょうか。僕が寝て起きたらこんなことになっていて…」
「儂にもわからん、気がついたら婆さんもあんな姿になっていた…まさか30年以上暮らしていた嫁も殺さなくてはならないとはな……」
「僕もさっき実の母に襲われて殺してしまいました……」
「そうか…苦労は同じということか」
空気がしんみりとする。どちらにも苦労はあるのだ。悲しみというのは人それぞれあるようだ。
「とにかくここからはあまり出ない方がいい、外にはヤツらがうろちょろしとる。こっちには食料がある。儂らの物も分けてやるからお前も分けろ。そうやって助けが来るまでここでいた方がいい」
確かにここからは出ない方がいい。しかし僕には心残りがある。桃だ。あの子が心配でならない。あの子が死んでいるかもしれない。もしかしたら外のヤツらと同じように…いや、考えたくはない。
「そうですね、そのほうがいいですよね」
とにかく助かっていることを信じて今は待つしかない。そうじゃないと精神がおかしくなりそうだった。
辺りを見渡す。体育館なのでかなり広い。人が3人しかいないととても広く感じる。糸部さんは花蓮ちゃんの近くで銃の手入れをしている。銃も大事に扱っているようだ。銃を見ていると自分の弓を思い出す。母に買ってもらった弓。全部のパーツを合わせるとだいたい20万円ほどしたっけな。あんなに苦労かけたのに僕は親孝行できただろうか。母を殺したのは僕だ。親孝行なんてできてなんかないな。花蓮ちゃんには僕みたいなやつにはなってもらいたくない。
数日がたった。体育館の時計は動いてはいるが、自分がここに来た日なんて覚えていない。あれから僕は糸部さん達と共に生活していた。食料を分け合い、保健室で医療道具を持ってきて花蓮ちゃんの手当をしたり。そのおかげか花蓮ちゃんの容態はかなり良くなっていった。感染症にかかってないか不安だったが見た感じ元気そうだった。そのまま僕は2人と仲良くなっていった。どちらも信用してくれたようで色々と話をしてくれたしてくれた。花蓮ちゃんの両親のことや自分の職業である猟師の事などを教えてくれた。僕も家族のことや部活のことも教えた。辛いことがあったが糸部さんと花蓮ちゃんはそれを一時的にだが忘れさせてくれた。
糸部さんは花蓮ちゃんの頭を撫でながら、座ったまま寝ている。とても疲れたのだろう。僕も寝ようと思ったがヤツらが急に襲来してくる可能性がある。何かで体育館の扉を閉じておこう。鍵はかかっているがドアをぶち破ってくるかもしれない。少し前に糸部さんと話し合って決めたが、色々と後回しになってしまった。寝ている糸部さんと花蓮ちゃんを起こすためにはいかないので1人ですることを決めて、僕は立ち上がった。
辺りを探索する。劇場の上に登った。何回か登ったことはあるが、高校生になると見える景色が違う。意外と小さく感じた。裏の所を見てみる。平均台やピアノ、動かせる階段などが置いてあった。それらは壁を抑えるのには最適だろうが1人で運べるようなものでは無かった。もう少し辺りを見渡す。2階に続く階段を発見した。段差が高く手すりも細いので怖いが何かあるかもしれないので登ってみた。そこは2階の音響室だった。ここで放送とか色々なものを流すのだ。内側から鍵が閉めれるのでここにたてこもるのもいいかもしれない。小学生の時はここに入るなんてことは無かったのでなんか新鮮だ。扉を開けて出てみるとそこは体育館の通路だった。下で小学生が運動しているのを上から先生が見下ろす所だ。真っ直ぐな道をよく見てみる。奥にひとつポツンと鉄パイプの椅子があった。卒業式の時とかにしか座らないような椅子だ。なぜ置いてあるかは分からないが思い出してみるといつもあった。この椅子をてこの原理みたいにすれば多少は扉が開きにくくなるだろう。そういえば下に大量の椅子が入ってたっけな。奥の椅子を持って行ったら全部出して扉を抑えるとしよう。奥に向かって歩く。全てのドアは一応締め切っているからヤツらは入っていない。扉を壊して入ろうとしているのなら僕が気づいている。いつも通り。いつものように。友達と一緒に歩くように。椅子のところまで歩いた。そして椅子を持ち上げようと、背もたれのところに手を置いた。
その瞬間腹部を何かに押された気がした。ふと腹を見てみる。何かに刺されている。鉄の何か。それはかなり長く後ろにあった窓を突き破っていた。そしてとてつもない痛みが襲ってきた。痛い。痛い。痛い。普通ならば感じることの無い痛みだ。口から血を吐く。刺さっている何かの先を見てみる。そこには人の形をした化け物がいた。顔には鉄の仮面をしており口を縫われていてしゃべなくなっている。爪が異様に発達しておりかなり長く、鉄のような色をしていた。体は小柄だが筋肉質で特に足の筋肉が強そうだ。そしてここからは見えないが、おそらく腰のところから鉄の尾が生えている。僕はその尾に刺されているのだ。
鉄の尾が腹部に突き刺さったまま僕の体が持ち上がる。痛みで声が出せない。糸部さんに助けを呼ぼうとするが痛すぎてできない。とにかく何とかしないと。そう思い頭を回転させてこの状況を打破できる策を考えた。
……そういえば銃があったはずだ!
そう思い出しポケットの中に手を突っ込む。予想通りあった。銃には安全装置があることを知っていたので、まず安全装置を外し銃のトリガーに指を入れた。そして相手の顔に標準を向ける。
バン!と1発放った。しかし効くどころか怯みすらしない。今度は体に標準を向けて、4発連射する。銃弾は入りはしたが怯んでいる様子がない。これはまずい。弾ももう持っていない。このままだとこいつに殺されてしまう。そう思っていると糸部さんが目を覚ましたようで叫び始めた。
「大丈夫か!?待ってろ!!」
糸部さんは銃を構えて化け物に撃ち始めた。3発目にようやく怯んだようで体勢が低くなった。これで抜けられる。そう思った時、体が大きく動き出した。化け物が尻尾を振り回し始めたのだ。刺さっている腹に負担がかかり更に痛くなる。また少し血を吐いた。そうして少し振り回した後、腹から尻尾が抜けた。
しかし抜けたのはちょっとやばかった。振り回した反動で抜けたせいで、ガラスを突き破って外に放り出されてしまった。ここは三階。とても高い。頭から重力に従って落ち始める。やばい。これは死ぬ。なんとかもがいていると背中全体重い衝撃が入った。痛い。だが死んではいないようだ。体も一応動かせる。少し震えている体を起こして地面を見てみる。どうやら花壇に落ちたようで土が柔らかかったためクッションになったようだ。ひとまず少し安心した。しかし安堵している暇はない。さっきのやつが糸部さんを襲いに行くだろう。しかも良くなっているとはいえ、傷を負っている花蓮ちゃんもいる。そんな状況で戦えるはずがない。今の僕には戦闘能力がないが、囮とかにならなれるはず。血が流れ落ちている腹部を抑えて動き出す。この程度の血なら問題なく動ける。後で包帯でも巻けばマシになるだろう。
運動場に落とされたようで周りにはヤツらが結構な数がいた。その数体がこちらに気がついたようで舌なめずりをして向かってくる。まずいことになった。糸部さんを助けに行くのは後だ。自分の命が大切。近くの保健室に逃げ込む。中は電気が着いておらず、薄暗かった。近くにあった消毒とガムテープを持ってベッドの下に潜り込んだ。消毒の蓋本体を開けてガムテープに消毒を雑にふりかけ、傷口にひっつけた。死ぬほど痛いがヤツらに気が付かれたらまずいので口で手を抑えた。背中の方にも雑につけた消毒ガムテープを貼っつけた。また来た痛みに耐えていると窓ガラスが割れる音がした。息遣いの荒い音がする。ベッドの下に隠れて息を止め、存在を消す。荒い息遣いのヤツは数秒滞在した後どこかへと走り去っていった。少し安心して大きく息を吸う。体をベッドから出してすぐに体育館に向かおうとする。ガムテープで一応止血はできているつもりだが不安だ。上で残っているガーゼを使って止血しようと思う。フラフラと階段を登り、体育館の扉の前に来た。扉を開けようとするが鍵がかかっているので開かない。扉についているガラスを叩き割って扉の鍵を開けた。今思うと結構警備はガバガバのようだ。
扉を開けて中に入る。そこには首から大量の血を流している糸部さんと縫われていた口が裂けて大きな牙を出している化け物に頭をかじられている花蓮ちゃんの姿があった。
「……孫に…手を…出すなぁ……」
声にならない声で糸部さんが化け物の足を掴む。しかし無惨にも掴んだ手をを鉄の尾で斬られてしまう。
「や、やめろ!!」
この惨状に叫んでしまう。こんなにも孫思いなおじいさんを殺すのは許せない。しかし戦おうにも銃の弾は残っておらず、武器はポケットナイフだけ。しかしないよりマシなのでポケットに入っている、ポケットナイフを取り出して刃を向ける。化け物はこちらを見てくる。仮面で表情が読み取れないのが不気味さを増している。見つめあって少しした後何故か化け物は咥えていた花蓮ちゃんを吐き捨ててどこかへと走り去っていった。唐突すぎて訳が分からなくなってしまった。頭が回らない。しかし糸部さんが少し動いたのを見た瞬間頭が鮮明になった。
すぐに糸部さんに近づく。首の横側を斬られており、もう手遅れなほど血が流れ落ちていた。
「……ヤツはどこへ行った?」
「だ、大丈夫ですか!?ヤツはどこかへ行ってしまいました……」
「……花蓮は?」
花蓮ちゃんの方向に目をやる。顔は原型がなくなり、頭の中の脳みそが露出していた。
「……花蓮ちゃんは……もう…」
本当のことを伝えた。伝えてしまった。せめて心残りがないように偽のことを伝えるべきだった。
「……そうか…すまないなぁ、花蓮……」
大量の涙を流している。涙が滴り、流れていた血に混ざっていく。そうして糸部さんは大粒の涙をしばらく流していた。そして糸部さんは動かなくなっていた。
床を思い切り殴った。糸部さんが流した血が飛び散る。指が痛くなったがそんなことはどうでもいい。
「……なんなんだよ、この状況は!!!!」
思い切り叫んだ。何故こんなことになったのだろう。なぜこんな目にあうのだろう。何もかも分からない。心の中に桃の顔が浮かぶ。桃もこんなことになっているのだろうか。分からない。あの子がただひたすら心配だ。あの子を見つけないといけない。僕は立ち上がった。糸部さんと花蓮ちゃんの遺体を近くに並べて黙祷した。そして糸部さんの荷物を少し分けてもらい、バックに入れた。
体育館の扉を開ける。後ろを振り返り、糸部さんと花蓮ちゃんを見る。動かない。悲しいほどに動かない。天国でせめて幸せに暮らしていると信じておく。
「すみません…僕は行きます……どうかお元気で」
僕は外に向かって歩き出した。
続く
地震の時のために置いておいたバックを手に取る。水や食料、防寒具やマッチなどが入っている。地震以外の時で使うのは予想してなかった。しかしこれだけでいいのかわからない。外にいるヤツらが襲ってきた時のために武器が必要だ。倒れている母を見る。さっき刺した包丁がまだ刺さっている。使うべきなのだろうがあまり使いたくない。母に刺さった包丁を抜いて、その場に捨てた。そして母に布団を被せた。
近くのタンスをあさってみるとポケットナイフを手に入れた。正直心もとないがまぁいいだろう。半袖半ズボンのパジャマだった服を脱いで長袖長ズボンの服に着替える。さっき外を見た時は尖っているものが多く散乱していたためである。死んでいる母に手を合わせた。
「……なんでこんなことに……ごめん、行ってくる」
こんなことしかできない自分が嫌になる。僕がやったのだが、せめて天国に行って欲しい。僕は玄関の扉を開けた。
外は静寂に包まれていた。さっきまでいたヤツらがどこかに消えていた。この状況は嬉しいが妙な不気味さがある。とにかく離れたい。近くに僕が通っていた小学校がある。そこは地震の時の避難場所になっている。もしかしたら誰かいるのかもしれない。目的地はそこだ。僕は歩き出した。
周りを見ながらゆっくりと歩く。見た感じヤツらはいない。中腰だった体勢をあげて歩き出す。周りにガラス片やら電線が飛び散ってとても危ない。長ズボンを着ていて良かった。手には刃を出したポケットナイフがある。いざという時はこいつで応戦する。少し気が緩んでしまいそうになるがそれでも周りに集中し続ける。
交差点の所まで来た。この道を真っ直ぐ進めば小学校に着く。しかしヤツらが現れた。交差点の真ん中に三体ほどいる。右側には五体、左側には二体いる。ここを隠れながら行くのはかなり至難の業だ。所々壊れた車があるのでそこを隠れながらしゃがんで移動する。心臓が鳴る。この量だ。一体だけなら何とかなりそうだがこの物量だと無理そうだ。それにさっきの母のスピードを見るに、逃げ切るということも難しそうだ。中学校時代は陸上で長距離していたがそこまで速くなかった上に今はやめてだいぶ経つ。さすがに走れない。息を潜めて静かに移動する。
目の前に警官の死体を見つけた。首元が無くなっており、顔に至ってはもはや無かった。全て噛みちぎられたようだ。警官の服を静かに漁る。銃を発見した。よくテレビで見るリボルバー式の拳銃。撃った形跡はないが弾は込められている。装弾数は5発。弾がもっと無いか漁ってみるがどうやらないらしい。警官の人に黙祷し拳銃を懐に入れて、先に進む。
まだ気づかれてはいない。しかし車がそう都合よく何台も置いてあるわけがなく、車がなく見晴らしのいいところを通り抜けないといけなくなった。横のヤツらには気づかれてないようだが前に進むには三体のヤツらを回避しないといけない。息を止めて進み出す。できるだけ自分が発する音を小さくする。三体は全て左側にかたよっているので右側を進む。ここは運が良かった。息を潜めてゆっくりと着実に動く。時折ヤツらを見ながら動く。死にたくない。母を殺したのだ。死ぬわけにはいかない。ヤツらのうちの一体の頭が動いた。一瞬全ての細胞の動きが止まる。体が動かない。やつがゆっくりとこちらを向いてくる。死んだ。そう思った。
その瞬間さっき銃を取った警官の死体が地面に倒れた。どうやらさっき銃を取った時に体が斜めになっていて、その影響で転けたようだった。ヤツらが一斉に死体の方に向く。その隙にそそくさと前に進む。そしてすぐに塀の後ろに隠れた。緊張と恐怖で、吸えなかった息を大きく吸う。目の前が歪む。肩が大きく上下に動く。そして少しして、呼吸が整った後、塀の影からヤツらの方を見る。ヤツらは僕に気づかずにそのまま動いていなかったようだ。安心で体がだれる。しかしこのままでもいけない。僕はそのまま静かに前に進んだ。
ようやく学校に着いた。時間にしてみれば10分程度だっただろうが、僕には1時間にも思えた。校門から校舎の中に入る。とりあえず生存者はいるか確認したい。外に付けられている階段を使って2階に上がる。体育館の扉をゆっくりと開けて覗く。その瞬間、高速の物体が右頬をを通り過ぎた。驚いて後ろの手すりに倒れかかる。すると中から60歳前後の老人が出てきた。手には狩猟用のライフルを持っている。そのライフルをこちらに向けてきた。
「ま、待って!撃たないで!」
「うるさい……お前はヤツらではないな。さっさと入れ」
「は、はい」
なんだこの爺さんと思ったがどうやら中に入らせて貰えるようだ。中に入るとだだっ広い体育館の中身が見えた。ほとんど通っていた時と変わらず、小学校に戻った気分になった。辺りを見渡すと1人の少女が毛布にくるまって眠っていた。その子の周りには食料や水、血の着いた包帯が置かれていた。
「お前、何か手当てできる物は持ってるか?」
「え?あ、はい。ガーゼとかならあります」
「ちょっとよこせ」
カバンから出した応急処置用の箱をぶんどられる。その箱の中を開けて、雑に中身を漁る。その中から消毒とガーゼを取り出し、少女の毛布を取った。少女の腕とふくらはぎには大きな噛みちぎられた跡があり、とても痛々しいことになっていた。
「ごめんな花蓮…ちょっと痛むぞ」
爺さんは少女に消毒をふりかけた。少しビクッとしたがその痛みに我慢しているようだった。見た感じまだ10歳程度なのに強い子だ。その後消毒を終え、ガーゼを巻いて手当を済ませた。僕はその様子を静かに見ているしかできなかった。
「……さっきは撃ってすまんな。ヤツらが来たのかと思った」
手当を終えた爺さんが話しかけてきた。
「大丈夫です。ケガはなかったので」
「そうか、ならいい」
なんか無愛想だな。感じも悪いし……。でもこの女の子を必死で助けてるんだからまぁ悪い人ではないんだろう。
「そういえば聞いてなかった。お前の名前はなんだ?」
「あぁはい、僕の名前は如月楓夜です」
「如月楓夜か、儂の名前は糸部神蔵(いとべかんぞう)だ」
目の前に手を出してくる。その手を握り返して握手した。握力が強くて普通に痛かった。
「この子はお孫さんですか?」
眠っている少女の方に向いて問う。
「あぁ、名は糸部花蓮(いとべかれん)。ちょうど学校が休みで儂のところに来てたんだ…」
少女の髪を撫でる。とても大事にしているようだ。
「その子怪我は…」
「ここに避難する時にヤツらにやられてな。儂がちょっと目を話してしまったからこんなことになってしもうた…」
「そうなんですか……」
糸部さんの悲しい顔が目に映った。
「……この状況は一体何なんでしょうか。僕が寝て起きたらこんなことになっていて…」
「儂にもわからん、気がついたら婆さんもあんな姿になっていた…まさか30年以上暮らしていた嫁も殺さなくてはならないとはな……」
「僕もさっき実の母に襲われて殺してしまいました……」
「そうか…苦労は同じということか」
空気がしんみりとする。どちらにも苦労はあるのだ。悲しみというのは人それぞれあるようだ。
「とにかくここからはあまり出ない方がいい、外にはヤツらがうろちょろしとる。こっちには食料がある。儂らの物も分けてやるからお前も分けろ。そうやって助けが来るまでここでいた方がいい」
確かにここからは出ない方がいい。しかし僕には心残りがある。桃だ。あの子が心配でならない。あの子が死んでいるかもしれない。もしかしたら外のヤツらと同じように…いや、考えたくはない。
「そうですね、そのほうがいいですよね」
とにかく助かっていることを信じて今は待つしかない。そうじゃないと精神がおかしくなりそうだった。
辺りを見渡す。体育館なのでかなり広い。人が3人しかいないととても広く感じる。糸部さんは花蓮ちゃんの近くで銃の手入れをしている。銃も大事に扱っているようだ。銃を見ていると自分の弓を思い出す。母に買ってもらった弓。全部のパーツを合わせるとだいたい20万円ほどしたっけな。あんなに苦労かけたのに僕は親孝行できただろうか。母を殺したのは僕だ。親孝行なんてできてなんかないな。花蓮ちゃんには僕みたいなやつにはなってもらいたくない。
数日がたった。体育館の時計は動いてはいるが、自分がここに来た日なんて覚えていない。あれから僕は糸部さん達と共に生活していた。食料を分け合い、保健室で医療道具を持ってきて花蓮ちゃんの手当をしたり。そのおかげか花蓮ちゃんの容態はかなり良くなっていった。感染症にかかってないか不安だったが見た感じ元気そうだった。そのまま僕は2人と仲良くなっていった。どちらも信用してくれたようで色々と話をしてくれたしてくれた。花蓮ちゃんの両親のことや自分の職業である猟師の事などを教えてくれた。僕も家族のことや部活のことも教えた。辛いことがあったが糸部さんと花蓮ちゃんはそれを一時的にだが忘れさせてくれた。
糸部さんは花蓮ちゃんの頭を撫でながら、座ったまま寝ている。とても疲れたのだろう。僕も寝ようと思ったがヤツらが急に襲来してくる可能性がある。何かで体育館の扉を閉じておこう。鍵はかかっているがドアをぶち破ってくるかもしれない。少し前に糸部さんと話し合って決めたが、色々と後回しになってしまった。寝ている糸部さんと花蓮ちゃんを起こすためにはいかないので1人ですることを決めて、僕は立ち上がった。
辺りを探索する。劇場の上に登った。何回か登ったことはあるが、高校生になると見える景色が違う。意外と小さく感じた。裏の所を見てみる。平均台やピアノ、動かせる階段などが置いてあった。それらは壁を抑えるのには最適だろうが1人で運べるようなものでは無かった。もう少し辺りを見渡す。2階に続く階段を発見した。段差が高く手すりも細いので怖いが何かあるかもしれないので登ってみた。そこは2階の音響室だった。ここで放送とか色々なものを流すのだ。内側から鍵が閉めれるのでここにたてこもるのもいいかもしれない。小学生の時はここに入るなんてことは無かったのでなんか新鮮だ。扉を開けて出てみるとそこは体育館の通路だった。下で小学生が運動しているのを上から先生が見下ろす所だ。真っ直ぐな道をよく見てみる。奥にひとつポツンと鉄パイプの椅子があった。卒業式の時とかにしか座らないような椅子だ。なぜ置いてあるかは分からないが思い出してみるといつもあった。この椅子をてこの原理みたいにすれば多少は扉が開きにくくなるだろう。そういえば下に大量の椅子が入ってたっけな。奥の椅子を持って行ったら全部出して扉を抑えるとしよう。奥に向かって歩く。全てのドアは一応締め切っているからヤツらは入っていない。扉を壊して入ろうとしているのなら僕が気づいている。いつも通り。いつものように。友達と一緒に歩くように。椅子のところまで歩いた。そして椅子を持ち上げようと、背もたれのところに手を置いた。
その瞬間腹部を何かに押された気がした。ふと腹を見てみる。何かに刺されている。鉄の何か。それはかなり長く後ろにあった窓を突き破っていた。そしてとてつもない痛みが襲ってきた。痛い。痛い。痛い。普通ならば感じることの無い痛みだ。口から血を吐く。刺さっている何かの先を見てみる。そこには人の形をした化け物がいた。顔には鉄の仮面をしており口を縫われていてしゃべなくなっている。爪が異様に発達しておりかなり長く、鉄のような色をしていた。体は小柄だが筋肉質で特に足の筋肉が強そうだ。そしてここからは見えないが、おそらく腰のところから鉄の尾が生えている。僕はその尾に刺されているのだ。
鉄の尾が腹部に突き刺さったまま僕の体が持ち上がる。痛みで声が出せない。糸部さんに助けを呼ぼうとするが痛すぎてできない。とにかく何とかしないと。そう思い頭を回転させてこの状況を打破できる策を考えた。
……そういえば銃があったはずだ!
そう思い出しポケットの中に手を突っ込む。予想通りあった。銃には安全装置があることを知っていたので、まず安全装置を外し銃のトリガーに指を入れた。そして相手の顔に標準を向ける。
バン!と1発放った。しかし効くどころか怯みすらしない。今度は体に標準を向けて、4発連射する。銃弾は入りはしたが怯んでいる様子がない。これはまずい。弾ももう持っていない。このままだとこいつに殺されてしまう。そう思っていると糸部さんが目を覚ましたようで叫び始めた。
「大丈夫か!?待ってろ!!」
糸部さんは銃を構えて化け物に撃ち始めた。3発目にようやく怯んだようで体勢が低くなった。これで抜けられる。そう思った時、体が大きく動き出した。化け物が尻尾を振り回し始めたのだ。刺さっている腹に負担がかかり更に痛くなる。また少し血を吐いた。そうして少し振り回した後、腹から尻尾が抜けた。
しかし抜けたのはちょっとやばかった。振り回した反動で抜けたせいで、ガラスを突き破って外に放り出されてしまった。ここは三階。とても高い。頭から重力に従って落ち始める。やばい。これは死ぬ。なんとかもがいていると背中全体重い衝撃が入った。痛い。だが死んではいないようだ。体も一応動かせる。少し震えている体を起こして地面を見てみる。どうやら花壇に落ちたようで土が柔らかかったためクッションになったようだ。ひとまず少し安心した。しかし安堵している暇はない。さっきのやつが糸部さんを襲いに行くだろう。しかも良くなっているとはいえ、傷を負っている花蓮ちゃんもいる。そんな状況で戦えるはずがない。今の僕には戦闘能力がないが、囮とかにならなれるはず。血が流れ落ちている腹部を抑えて動き出す。この程度の血なら問題なく動ける。後で包帯でも巻けばマシになるだろう。
運動場に落とされたようで周りにはヤツらが結構な数がいた。その数体がこちらに気がついたようで舌なめずりをして向かってくる。まずいことになった。糸部さんを助けに行くのは後だ。自分の命が大切。近くの保健室に逃げ込む。中は電気が着いておらず、薄暗かった。近くにあった消毒とガムテープを持ってベッドの下に潜り込んだ。消毒の蓋本体を開けてガムテープに消毒を雑にふりかけ、傷口にひっつけた。死ぬほど痛いがヤツらに気が付かれたらまずいので口で手を抑えた。背中の方にも雑につけた消毒ガムテープを貼っつけた。また来た痛みに耐えていると窓ガラスが割れる音がした。息遣いの荒い音がする。ベッドの下に隠れて息を止め、存在を消す。荒い息遣いのヤツは数秒滞在した後どこかへと走り去っていった。少し安心して大きく息を吸う。体をベッドから出してすぐに体育館に向かおうとする。ガムテープで一応止血はできているつもりだが不安だ。上で残っているガーゼを使って止血しようと思う。フラフラと階段を登り、体育館の扉の前に来た。扉を開けようとするが鍵がかかっているので開かない。扉についているガラスを叩き割って扉の鍵を開けた。今思うと結構警備はガバガバのようだ。
扉を開けて中に入る。そこには首から大量の血を流している糸部さんと縫われていた口が裂けて大きな牙を出している化け物に頭をかじられている花蓮ちゃんの姿があった。
「……孫に…手を…出すなぁ……」
声にならない声で糸部さんが化け物の足を掴む。しかし無惨にも掴んだ手をを鉄の尾で斬られてしまう。
「や、やめろ!!」
この惨状に叫んでしまう。こんなにも孫思いなおじいさんを殺すのは許せない。しかし戦おうにも銃の弾は残っておらず、武器はポケットナイフだけ。しかしないよりマシなのでポケットに入っている、ポケットナイフを取り出して刃を向ける。化け物はこちらを見てくる。仮面で表情が読み取れないのが不気味さを増している。見つめあって少しした後何故か化け物は咥えていた花蓮ちゃんを吐き捨ててどこかへと走り去っていった。唐突すぎて訳が分からなくなってしまった。頭が回らない。しかし糸部さんが少し動いたのを見た瞬間頭が鮮明になった。
すぐに糸部さんに近づく。首の横側を斬られており、もう手遅れなほど血が流れ落ちていた。
「……ヤツはどこへ行った?」
「だ、大丈夫ですか!?ヤツはどこかへ行ってしまいました……」
「……花蓮は?」
花蓮ちゃんの方向に目をやる。顔は原型がなくなり、頭の中の脳みそが露出していた。
「……花蓮ちゃんは……もう…」
本当のことを伝えた。伝えてしまった。せめて心残りがないように偽のことを伝えるべきだった。
「……そうか…すまないなぁ、花蓮……」
大量の涙を流している。涙が滴り、流れていた血に混ざっていく。そうして糸部さんは大粒の涙をしばらく流していた。そして糸部さんは動かなくなっていた。
床を思い切り殴った。糸部さんが流した血が飛び散る。指が痛くなったがそんなことはどうでもいい。
「……なんなんだよ、この状況は!!!!」
思い切り叫んだ。何故こんなことになったのだろう。なぜこんな目にあうのだろう。何もかも分からない。心の中に桃の顔が浮かぶ。桃もこんなことになっているのだろうか。分からない。あの子がただひたすら心配だ。あの子を見つけないといけない。僕は立ち上がった。糸部さんと花蓮ちゃんの遺体を近くに並べて黙祷した。そして糸部さんの荷物を少し分けてもらい、バックに入れた。
体育館の扉を開ける。後ろを振り返り、糸部さんと花蓮ちゃんを見る。動かない。悲しいほどに動かない。天国でせめて幸せに暮らしていると信じておく。
「すみません…僕は行きます……どうかお元気で」
僕は外に向かって歩き出した。
続く
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