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2章 宝石の並ぶ村

第43話 まさかのマグニチュード!

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「気を取られていたとはいえ……俺相手にここまで接近できたのは褒めてやる」

木の棒を手に取るカエデ。

「それと……ヘキオンを殺さなかったのも褒めてやる。殺してたらどうなってたか分からないぞ」

少しずつ。少しずつナイフを近づける男。ヘキオンの首筋に銀色に輝くナイフが近づいていく。

「言いたいことは分かるな。大人しく食料と水をよこせ」
「ははは。面白いことを言うな。脅してるのか?俺を?」
「……この子が大切ではないのか?」
「大切だよ。大切だ。すっごく大切だ」

立ち上がる。これまたゆっくりと立ち上がる。

「やってみろよ」
「――は?」
「ナイフ。ヘキオンに刺してみろ」
「な、何を言ってるんだ?一緒に旅をしている仲間だろ?」
「そうだよ。仲間だ」


口角が上がる。ニヤリ。擬音が自動的に頭に入ってくるような上がり方だ。

「まだ分からないのか。お前が刺すよりも早く、俺がお前を殺すという意味だ」
「――」

ナイフを持つ手が震えている。怒っているようだ。

「随分と舐められたもんだな。そんなことができるとでも?」
「できなかったらこんなことを言ってない。嘘だと思うなら試して見るか?おすすめはしないが」


静かになる空間。止まる空気。ヘキオンの呼吸音のみが聞こえる。

少し離れている少女。2人の威圧で近付くことすらできない。冷や汗がポトリ。呼吸すらも一苦労している。



「――!!??」

一瞬。突き立てられるはずだったナイフ。ヘキオンには刺さらなかった。

残像を出して離れる男。冷や汗が服の上からも見えるほど流れる。焦り。恐怖。

「――」

目に見えて焦りが見える。

「どうした?ナイフを刺さないのか……いい判断だ」
「――」
「ヘキオンが寝ているからな。体を休めるのもトレーニングだ。起こすのはダメだ。静かにやろう……」



放たれる威圧。殺気。真っ黒な殺気。心の奥の奥に届く恐怖。生物としての本能が疼く。

怖気。寒気。怪物を見るかのような目でカエデを見ている。

「――ッッ!!」
「あっ――ぁ、ぁ」

腰を抜かす少女。対して戦闘態勢をとる男。カエデに対する恐怖が心を支配する。

「いいね……隠密メインの暗殺者といっても、正面戦闘だったらヘキオンじゃ倒せなかっただろうな――」








――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


地鳴り。連続的な音が機械的に鳴る。音と同じリズムで揺れる地面。地震。

突然の地震に驚く3人。ヘキオンはまだぐっすり眠っている。カエデですら驚いているというのにだ。

「――!?」
「……スゥ」
「寝る子はよく育つと言うが……さすがに寝すぎだ!」

相当疲れているのか、それとも相当鈍いのか。


「これは――まさか!?」
「お兄ちゃん!」

両手両足でバランスとる2人。それほどまで大きい地震。震度で表すなら7はあるだろう。


「……ん?」

ようやく目を覚ますヘキオン。寝ぼけているようで、まだ自分のいる状況を理解でいていない。

目を擦りながらムクっと起き上がる。……他の3人が何とか地震に耐えているのに呑気なやつだ。


「――!!」

男がヘキオンを視認する。

「……」

握りしめるナイフ。カエデに傷つけられたプライド。

カエデとの力の差は理解している。だからカエデには手を出さない。そう、


ヘキオンはまだ男に気がついていない。カエデも男から意識が逸れている。つまりまだ隠密を成立させることができる。

この地震をてヘキオンを人質に使う。さっきは油断しただけ。今度こそは。

「ふぅ……」

男に纏わりつく黒い影。ただでさえ黒かった服がさらに黒くなる。

「――ダークナイト私は黒く

黒。ダークホール。黒すぎて不自然なほどの黒さ。真っ黒。


2人は男に気がついていない。それどころか仲間であるはずの少女ですら気がついていない。

「……」

静かに、それでいて素早く移動する。

ヘキオンの後ろ。握りしめられたナイフ。振り上げられる。未だ気が付かないふたり。

「――あ、え?なにが起こってるんですか!?」
「気がつくのが遅いな!?わりと地震強かったぞ!!」

ワチャワチャするヘキオンをなだめるカエデ。どちらも気がつく様子もない。





バキ。

地面が割れる。ヘキオンは空を飛べるが、寝起きでそこまでの反射神経は使えない。

下は見えない。真っ暗。何キロとかはあるだろう。


「――なっ!?」
「――ふぇ!?」
「――うぉ!?」
「――ひゃ!?」


声をあげる暇もなく、4人はくらい地割れの底へと墜ちていった。
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