星月夜の海

Yonekoto8484

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見えない星

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日が昇り始める頃に,海保菜はようやく家に帰った。

「一体,どこに行っていたんだ!?心配したよ!」
尚弥は,珍しく怒っていた。朝目覚めても,海保菜がまだ帰って来ていないのは,初めてのことだった。

「…海。」
海保菜は,疲れ果てて,一言以上答える気力は,残っていなかった。

「何か,あった?」
尚弥は,妻の顔を見て,すぐに一晩泣いていたことがわかった。目元はひどく腫れていたし,表情もこの上ないくらい暗かった。

「うん,色々あった。」
海保菜は,答えた。

「何があったか,訊いていい?」
尚弥は,心配になって,追求してみた。

「ごめん。話せないの。」
海保菜は,項垂(うなだ)れて言った。

尚弥は,カチンと来た。
「考えていたけど、妊娠しているから,あまり海で過ごさない方がいいと思う、なるべく。胎児に影響が出るかもしれないよ。」

「は!?影響は出ても,悪影響なんか出るわけがないのに…
赤ちゃんが,私の体の中で,成長しているよ。私の体が元気じゃないと,赤ちゃんも元気に産まれない。そして私の健康を維持するためには海に行く必要があるの,知っているでしょう?」
海保菜は,またまた面食らった。

「でも、海に行っていたのに、しんどそうだよ。全く眠れていないような顔をしているよ。」

「それは,色々あって,眠れていないから…。」
海保菜は,説明した。

二階から保菜美の泣き声が,聞こえて来た。海保菜は,急いで二階へと向かった。娘をすぐに抱き上げようとした。

すると,ついて来た尚弥が,いきなり言った。
「触る前に手を洗った方がいいんじゃないの?」

「は!?」
海保菜は,また驚いた。

「だって、間接的に海に触ることになるよ。何か影響があるかも知れない。」
尚弥は,自分の考えていることを説明した。

「とうとう頭がおかしくなったの!?手を洗っても,同じだよ。今の姿以上に,人間にはなれない。人間じゃないし,なりたくない。そして,私の子供だよ。悪い影響なんて,出ない!海と触れても,死んだりゃしない!」
海保菜は,泣きそうになりながら,言った。

「おかしくない。慎重に考えているだけだ。子供を守らなきゃ。」
尚弥は,真剣な顔で言った。

「守る!?何から守るの!?私から!?母親だよ。二人目だって,今,私の体の中で成長しているの!それを,どうするつもりなの!?」
海保菜は,狼狽えた。

「それも,考えていた。だから、妊娠中は,なるべく海では,過ごさないようにしてほしい。出来るだけ人間の姿で,過ごしてほしい。あなたの体がしょっちゅう変わっていると、赤ちゃんにも影響が出るかもしれないから。」
尚弥は,続けた。

「何を言っているの!?影響が出ても,別にいいんじゃない!?人魚の子供が生まれたら,嫌なの!?なら、どうして私と結婚したの!?人間の姿でも,人間なんかじゃないし!扮装しているだけだし!この子が,お腹にいる時だって、自由に海に行ったりしていたのに,人間の形で産まれたでしょう?あなたの希望通りに。
どうして,このわけのわからないことを言ってくるの!? 人間じゃないし、我慢して海に行かないのは、無理!純血な人間の赤ちゃんがほしかったら、結婚する相手を間違えたよ。私の体から,純血な人間の子供が産まれるわけがない。この子だって、純血じゃない!今は人間の姿をしているけど、将来どうなるか,わからないよ!」
海保菜は,とうとう気持ちを抑えられなくなった。

「だから、それを防ぐために…。」

「防ぐ必要はない!悪いことじゃない!健康なら、人間でも人魚でもいい!私の事が,そんなに嫌い!?」
海保菜は,激しく泣き始めた。

「違う!嫌いじゃない。好き。大好き。」
尚弥が,慰めようとした。

「それは,嘘でしょう!もう,よくわかった。私を愛してなんかいないわ!」
海保菜は,娘を抱きかかえて,外へ逃げて行った。

娘を海辺に連れて行く誘惑には,やっぱり勝てなかった。海保菜は,娘と砂浜で遊びながら,夜になるのを待った。暗くなってから,母親を呼んでみた。すぐ来てくれた。

「急に,どうしたの!?何が起こるかわからないから,やめとこうってずっと言って来たじゃないの?!?どうして,急に気が変わった?」
母親の仁(ひと)海(み)は,海保菜の保菜美を海に入れてみたいという話を聞いて,すぐに様子の変化に気付いて,訊いた。訝しそうに娘を見た。

「知らなきゃ。もう待てない。もう耐えられない。」

「この間の村長との面談とは,何か関係ある?」
仁海は,尋ねてみた。

図星だったが,本当のことを話してはいけないと口止めされているから,誤魔化した。
「関係ない。小さい頃は,まだ体も弱いから危ないと思っていたけど,もう一歳半にもなったし,もう赤ちゃんじゃないし,いいかなと思って…。」

仁海は,少し迷って,娘をとめるべきかどうか考えたが、人魚の子供である以上、海に入れることによって,何か悪いことが起きるとは考えにくかった。止めないことにした。
「じゃ,やってみたら?」

海保菜は,すぐに頷いた。

娘の足を慎重に、水につけてみた。保奈美は,全然泣かなかった。海保菜は,これを見て、ためらわずに娘を母親に抱かせた。

「海保菜…もし…!?まあ、長い時間,耐えて待ったよね。」
仁海は,また娘をとめるべきかどうか考えたが,止めなかった。止める理由は,思い当たらなかった。

仁海は,孫を大事そうに,水に下半身が浸かるように,しっかりと抱いた。

保奈美は,目を大きく,丸く開けて,戸惑った顔で海保菜を見たけれど、泣かなかった。海保菜の必死な顔とは,大違いだった。

「海保菜、まだ幼いし、まだまだこれからじゃないの?」
仁海は,孫の体が少しも変わらないのを見て,言った。

海保菜は,静かに泣き始めた。

「どうして,泣いているの!?人間でも構わないと,自分で言っていたくせに!まだ一歳半で、これからなのに…まだまだこれからだし、変わるかもしれないよ。まだわからないよ。絶望するのは,まだ早いよ。」
仁海は,娘の意外な反応に驚いて、必死で慰めようとした。

「海保菜、今,人魚に変われるかどうかというのは、どうして,急にあなたを泣かせるぐらい重要なことになったのかな?教えて。話していいよ。」
仁海は,娘は話せないことがあるとわかりながら,尋ねてみた。

「…自分らしく,育てたかったから。」
海保菜は,涙目で言った。

「えー!?そんなこと,関係ないのに。今はまだ変わらなくても、たとえ一生このままでも,自分らしく育てられるよ。体だけじゃないよ。あなたの娘だよ。それは体がどうであれ、変わらないことだ,絶対に。肉親だ。」
仁海は,泣きじゃくる娘を励まそうとした。

「子供は,人間でもいい。でも、私は,人間になれない…。」
海保菜は,泣き続けた。

「なれないし,ならなくていい。関係ない。」
仁海は,冷静に対応し続けた。

「これなら、一生隠さないといけない…。」
海保菜は,小さい声で呟いた。

娘のこの一言を聞いて,仁海は,すぐに村長との面談の内容がわかった。合点した。
「海保菜,言っていることも,様子もおかしいから,心配。今日は,私と一緒に帰って,休んで。保奈美は,体が浸かっても大丈夫なら、私が面倒を見るよ。潜らずに、ここで見ているから,私に任せて。」

「いや、今は,海には帰れない。保奈美も,早くここから離れないといけない。」
海保菜は,暗い表情で言った。

「なんで?いいと言っているのに。」
仁海は,ますます心配になった。

「ここに連れて来るんじゃなかった。」
海保菜は,悔しそうに呟いた。

「なんで?嫌がっていないし、泣いていないし…たまには,私に任せて,休んでもいいんじゃないの?海の中でも,こんなに落ち着いているのだから。」
仁海は,娘をこのまま帰らせるのは,どうしても避けたかった。引き止めて,何とかしないと,娘との間に大きな壁が出来てしまうような気がしたからだ。娘の今悩んでいることは,ただ事ではないのは,今の様子を見れば,誰にでもわかる。一人にしてはいけないと思った。一人になったら,何をするのか,わからない。そう思った。

「いや、だめ。ここに来たら,この子と何らかの繋がりを感じるかなと思ったけど…。」
海保菜は首を横に振りながら,言った。

「この子は,あなたの娘だよ。まだ幼いし,これからだよ。これだけで決めつけるな。娘を否定することになるよ。」
仁海は,厳しい口ぶりで言った。

「嘘だった…人間でもいいとか…自分についた嘘だった!」
海保菜は,苦しそうに嘆いた。

これから一生,娘に嘘をついたり,偽ったりしないといけないと思うと,自暴自棄になりそうで,怖い。発狂しそうなくらい,嫌な話だ。

しかし,村長夫妻の言ったことは,ただの脅しではないことがわかる。逆らったら,実行するに違いない。村長夫妻の命令に逆らって,夜中に突然に姿を消した人の噂は,小さい頃から,度々耳にして来た。逆らったら,大変なのは,充分に想像できる。子供の命を守ろうと思ったら,絶対に背いてはならない。

「海保菜、このまま帰っちゃダメ。この状態では,帰らせない。話せないことは,話さなくていいから,今日は,一緒に帰ろう。」
仁海は,必死で娘を説得しようとした。

「尚弥が,このことを知ったら,激怒するから,言わないでくれる?」
海保菜は,保奈美を母親の腕から奪い返して,お願いした。

「もちろん言わないよ。言う機会もない…。」
仁海は,まだ一度しか婿に会ったことがない。結婚が決まった時に,一度,挨拶に来たきりだ。

「本当に,もう帰るの?海の中にいても、害はない,痛くないとせっかくわかったのに…私に任せていいのに…私と一緒にいても,大丈夫だよ。おばあちゃんだもの。馴染ませても,いいんじゃないの?海を恐れるような、人魚を恐れるような子に育てないでほしい、お願い。」
これまで,努めて平常心を保っていた仁海は,とうとう取り乱して来た。

海保菜は,とてもつらくて重い気持ちで、申し訳なく,悲しい目で,母親を見た。生まれて初めて,本気で死にたいと思った。死んでしまって,存在しなくなるより、今の気持ちの方がずっと恐ろしく感じた。

このままだと、母親を、 自分を恐れるような子供を育ててしまうことになる。そう思うと,耐えられない心苦しさに襲われる。

海保菜は,母の最後の言葉には,結局応答できないまま,別れてしまった。

海保菜は,海岸の一番東側の端まで,彷徨うように歩いた。家から一番遠く、保奈美が生まれた洞窟とは,反対側の方の海だった。一番日当たりが悪く、昼間でも人気のないところだった。洞窟がたくさんあり、どれも尖った岩でできていて,海に突き出ているため、人間にとって,とても危ないところだった。

しかし,海保菜は,人間ではない。

この場所には,人魚にしかわからない趣があるのだ。海がよくシケル場所で,波は高くて,荒い。波が海に突き出ている洞窟の巨大な岩に当たると,すぐに波の花になる。潮騒も,どの時間帯にも,よく聞こえる場所で,海の嵐が宿る人魚の心は,落ち着く。波が激しく打ち寄せ,岩に当たる音は,荒れた心には,子守唄に聞こえる。

感情を酷く取り乱した心境の海保菜を落ち着かせる場所は,ここしかないのだ。

海保菜は,チラッと夜空を見上げたが,星が一つもない,果てしなく真っ暗な空だった。

保奈美をしっかり抱いたまま,洞窟に入り,倒れるように横たわった。

「もう一回だけ。最後に,もう一回だけ。」と呟(つぶや)いて,変身して,本当の姿になった。

眠くなっていた保奈美は,すぐに海保菜の傍までやって来て,尻尾に頭をあてて,すやすやと寝た。

「お願いだから、忘れないで。もう二度と,ここに連れて来れないけど。もう二度と,この姿は,見せられないけど,どうか忘れないで。」
海保菜は,号泣しながら小さな声で囁(ささや)いた。

「ママを忘れないで,本当のママのことを。」
海保菜は,保奈美の小さな手を握って,呪いを唱えるように言った。

海保菜は,朝まで寝ずに泣き続けた。 しかし,彼女の泣き声は,どこにも届かずに,波の音にかき消され,暗闇に包まれて、海に飲み込まれて行くだけだった。

数日後,海保菜は,気を取り直して,両親のところに,自分の正体を子供に話さないつもりでいることを報告しに行った。理由は,尚弥のせいにすることにした。別に,尚弥に対して,何か恨みがあるわけではない。単に,それしか思いつかなかっただけだ。本当は,尚弥には,申し訳ないと思っている。しかし,彼も,人魚のことを子供には話さないでほしいと,ついこの間言っていたのは,事実だし,海保菜の家族と会うことはないから,直接責められることもない。

本当は,両親に嘘をつくのは,とても辛い。これまで,嘘をつかずにやってきたのに。裏切りたくないのに。しかし,逆らえない命令だから,仕方がない。

父親の拓(たく)海(み)は,カンカンに怒った。

「何ですって!?いよいよ,狂ってしまったのか!?自分は何か,忘れちゃったのか!?一番大事なことを、自分の全てを子供には,話さないつもりなのか!?それは,父親としては,遺憾だ。この娘に育てた覚えはない!恩知らずだ!」
父は,怒鳴った。寡黙な人なのに。

「自分の意思じゃない。本当に話せないの…。私が,自分の意思でこのことを選ぶと思っている?私だって,誇りというものは,あるのよ。」
海保菜は,必死で自分の意思ではないということを説明し,弁解した。

「なら,なんでだ!?村長夫妻と話した日から,あなたは,ずっと様子がおかしい…。」

海保菜は,一瞬黙り込んでから,
「関係ない。」
と嘘をついた。

「尚弥は,そう願っているし…。」
海保菜は,続けた。

「なんで,その人間の言いなりになる!?無視すればいい!」
拓海は,苦笑した。

「そういうわけには,いかないの…。」
海保菜は,そろそろ限界だった。

「とりあえず,あなたのこの決断には,がっかりしたし。自分の家族に,私たちに自分の子供を会わせないと? 一生,自分の本当の姿を子供には,見せないと?隠し通すと?あまりにも,あなたらしくないあほらしい決断だ。」
拓海の怒りは,収まらない。

「容易に決められたことじゃない。」

「本当に変わっちゃったね、あなた…まるで,人間になっちゃったみたいだ。もう,知らない!」
拓海は,力強く言い放った。

海保菜は,泣きたかったが,涙は出ない。涙が出ないのは,自分でも不思議だった。

海保菜は,久しぶりにずっと黙っている母親の方を見た。仁海は,涙を堪えて,俯(うつむ)いていた。

「お母さん,私の意思じゃない!お願いだから,わかって!」
海保菜は,やけになり,母親に訴えた。

「わかっているよ。」
仁海は,顔を上げて,海保菜と目を合わせた。

「わかっているよ。」
仁海が,もう一回力強く言った。

海保菜は,
「ごめんなさい。」
と深く頭を下げてから,静かに両親の自宅を後にした。

海岸に上がり,暗い海面を見渡した。空を見上げても,星の姿は,見えない。どこまでも真っ暗だ。

泣きたいが,涙は出ない。なんとか胸の痛みを晴らそうとして、海に向かって,闇雲に石を投げ始めた。でも、どんなに石を投げても,張り裂けそうな胸は,少しも楽にならない。

そこで、いつも首につけている,成人する時に母からもらった首飾りを外し,えいっと海に投げ込んだ。

「私は,これからどうしたらいいのだろう?」
海保菜は,お腹をさすりながら,呻(うめ)いた。

「この子を産みたくない。家のベッドで静かに眠っている子も育てたくない。自分として,育てることが許されないなら,偽りの人生を送るぐらいなら,むしろ今死んだ方が,ずっとマシだ。」
本気で,そう思った。

まだ朝までたっぷり時間はあったので,海竜の姿になって、何時間も海の中を,当てもなく泳ぎ彷徨った。ようやく、元の姿に戻り、浜辺の大きな洞窟の陰に隠れて,何もできずに,惨めな気持ちで海の暗い波を眺めていると,両親が突然海の中から現れた。

「海保菜、さっきは,悪かった。あの後,お母さんと話して,これは,あなたが自分の意思で決めたことじゃないことがわかった。あなたの意思でも、あの人間旦那の意思でもない。わかっている。」
父は,さっきの憤りが去り,落ち着いた表情で言った。

「私…。」
海保菜は,口を開けて何かを言おうとしたが,もう返す言葉が何も思い浮かばない。

「何も言わなくていいよ。わかっているから。」
今度,母が言った。

「またこれをつけて,前向きに,胸を張って生きなさい。自分を捨てるなよ。見失うなよ。
たとえ,子供たちに自分の姿は見せられなくても、何も本当のことは話せなくても、 辛抱強く待っていれば,いつかは必ず,道が開けるよ。
私たちの血の持つ力は,とんでもなく強い。その力を信じなさい。そして、自分の中にある力を信じなさい。」
仁海は,海保菜に海に投げ込んだ首飾りを返し,娘を励ました。

拓海も,強く頷いた。
「何があっても,辛くても,自分を捨てるな。誇りを捨てるな。そうすれば,乗り越えられる。」

「たとえ,私の顔は知らなくても、あなたの子供を愛するし、遠くから見守っているから。いつか会える日を楽しみに,いつまでも待っているから。あなたの事を見捨てたりしないから。味方だよ。私も,お父さんも。」

拓海は,また強く頷いた。

海保菜はジーンときて、両親を強く抱きしめた。

「ごめんなさい。」
海保菜が,申し訳なく言った。

「謝らなくていい。」
拓海は,首を横に振りながら言った。

「そして,絶望するのは,まだ早いよ。あなたの子供なら,私たちの血が静脈の中を流れている。その血の力を信じて。
そして,万が一,一生話せないことになっても,あなたの居場所は,ずっとここにあるからね。」
母が,優しい口調で言った。

海保菜は涙ぐみながら,頷いた。

「じゃ、そろそろ家に帰って、子供の面倒をちゃんと見てあげて。あなたがそばにいてあげるだけで、子供の心がこっちよりになるよ。言葉では言えなくても,あなたがそばにいると,生きている海の力が感じられる。だから、大丈夫。海を見せられなくても,海と無縁に育つことは,あるまい。」
父が言った。

海保菜は,頷いた。

「ありがとう。」
海保菜は,頬に涙をつけたまま,笑った。

「そう。あなたは,笑顔が似合うよ。」
母も笑みを浮かべて,言った。

海保菜は,両親と別れて,帰路についた。チラッと空を見上げると,果てしなく広い,黒い夜空に,星が一つだけ,キラキラと瞬いていた。

その僅かな光を道標にしっかりと人生を歩もうと心に決めた。
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