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囚われのメイナード※(両片想い・無理矢理・ファンタジー)
囚われのメイナード※
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昼食の後、バーガンヴィル侯爵家に仕える家令のメイナードは、侯爵の一人息子であり、嫡男であるギルバートを自らの執務室へと招いた。
執務室は本館からも、厩舎や調理場があり鍛冶職人たちもいる中庭からも離れた西の塔を借り受けていた。そこは近寄るものもなく、静かで仕事がはかどる。
ここ一月ほど、お互いの暇を見つけては、メイナードはギルバートに家令の仕事を教えていた。
「何を焦っている」
目当ての帳簿を書架から手にとったメイナードの後ろ姿に椅子に座ったギルバートが問いかけた。
「はい?」
振り返ったメイナードは、怪訝な目をしたギルバートと目があった。
「お前、最近おかしいぞ。私も家令の仕事を把握しておいたほうがいいというのはもっともだが」
帳簿の付け方、王宮とのやり取りの仕方、書状の各様式、裁判の取り仕切り方、判例、一年間の仕事の流れなど、メイナードはギルバートへその経験と知識のすべてを駆け足に伝えようとしていた。
「ええ。家令の中には、私腹を肥やすものも大勢おりますから」
「お前はそんなことしなかろう。まるで新しい家令が来るような口ぶりだな」
「……」
「まさか、出ていくつもりか」
「……はい」
「何故」
「……これからは神にお仕えしようと。ロジャー様には許可を頂いております」
ギルバートの若草色の瞳が怒りに燃える。
母を幼いころに亡くし、父は多忙を極める幼いギルバートの傍らにつねにあり、時には兄のように教え導いたのは十五歳年長のメイナードであった。
幼い頃には眠れないギルバートにせがまれて物語を聞かせ、添い寝をしたこともある。
そのメイナードが自分に相談もなく、修身院行きを決めたのだから怒りも当然だろう。
「父上に、話したのか」
ギルバートが眉根を寄せる。
どうしてもギルバートに伝え難く、父君に許可をもらってからもずるずると後回しにしたのも良くなかったのだろう。
「……はい」
「修身院へ行くというのか」
「はい」
「父上が許しても、私は許さない」
「……もう決めたことです」
こればかりは譲れない。するとますますギルバートは、怒りを燃え上がらせ眉間の皺を深くした。
ギルバートが椅子から立ち上がる。
「お前、言ったな。ずっと私のそばにいると。その言葉は偽りか?」
「……事情が変わったのです」
「どんな事情だ」
「……」
「待遇が不満か?」
「いいえ、滅相もございません」
「私に言えないことか!」
鋭い怒気をはらんだギルバート声にメイナードは身をすくめた。
「……いえ、ただ神のみ心にかなった生き方がしたくなりました」
目をそらし、かすかに声が震えた。決して嘘ではないが、後ろめたさがあった。
顔を上げられないメイナードに、ギルバートが大股で距離を詰めた。
「修身院など、行けぬ体にしてやろう」
耳元で囁かれ、突如、メイナードの視界がぐるりと回った。手に持っていた帳簿が床に音を立てて落ちる。
「いっ……!!」
背中と腰をしたたかに固い板そのままの床に打ち付けた。痛みに思わず声をあげた。
一体何が起こったのか。
ギルバートがメイナードを組み敷き、見下ろしていた。
「神は男同士のまぐわいををお許しになるかな?」
口元だけが笑みの形を作っていた。
「許さないだろうな」
ぞくりとするような昏い笑みだ。
「ご冗談は……」
言いかけた唇をギルバートの唇が乱暴に塞ぐ。
「んっ……! ふっ……」
両手を床に押さえつけられ足は体重をかけられ身動きがとれなかった。
体格も腕力も違いすぎる。日々一流の騎士から剣技や馬術を教わり、鍛錬しているギルバートにメイナードが力でかなうわけもない。
美しい唇がメイナードの唇をむさぼり、逃げる舌を追い回し滑らかな舌を絡める。口内を蹂躪する深い口づけだった。
息も出来ないメイナードをようやくギルバートが解放した。
「嫌なら噛みつけばいい、簡単だろう?」
組み敷かれながらどうにか逃れようともがいて見せても、噛み付くなど思いつきもしなかった。
メイナードはギルバートを愛していた。
父母の愛に飢えメイナードの後ろをついて回った少年は、時を経て高い教養と武芸を身につけた立派な青年となった。
母親譲りの優美さと父親譲りの精悍さ、美しく力強くしなやかな肉体、メイナードと呼ぶ朗々とした声はどこか甘い響きを持っている。
大人になった彼をいつしか愛するようになっていた。
ギルバートは二人きりの時には昔のように甘えて来ることがあった。肩を抱き寄せ、膝枕をねだった。
父上の仕事を一部任されるようにもなり、さぞお疲れなのだろうと甘えさせていたが、そのたびに、高鳴る鼓動を抑えるのに必死であった。
幾夜、ギルバートを思い、手を白濁に汚しただろうか。恐れ多くも弟のように思っていたギルバートに対し、汚い欲望を向ける自分自身をメイナードは嫌悪した。
そして、この先、ギルバートは跡継ぎを残すためどこぞの貴族の娘を娶るだろう。今もギルバートの評判を聞いて、縁談はひっきりなしに持ちかけられている。
妻を娶ったギルバートを隣で見続けるなど、メイナードには耐え難かった。きっと、彼の妻に激しい嫉妬を覚えるだろう。なんと醜いことか。
また、神は同性の愛を許さず、メイナードだけでなく、一方的に愛されるギルバートにまで災いがあると教えられてもいた。
自身の耐えきれない醜悪さから逃れるため、ギルバートへの災いを遠ざけるため、修身院で生涯神への許しを乞うて過ごそうと決心した。
ギルバートの一生が光り輝くものであり続けるように祈りを捧げようと。
それなのに、ギルバートが今、道を踏み外そうとしている。
「こんな悪ふざけをして、神の怒りに触れます!」
ギルバートの顔から薄ら笑いが消えた。
「私は神など信じない。母上は信心深く礼拝を欠かしたことがなかった。優しく勤勉で聡明だった。それがなぜ苦しみぬいて死なねばならなかったのか」
非常に淡々と、ギルバートが言う。
メイナードは、なんて恐ろしいことを言うのだと、戦慄した。
「ギルバート様……!」
「そうして! 今度は私からお前までも取り上げようというのか!」
一転、ギルバートは声を荒げた。ぎりぎりとメイナードの手首を掴む手に力がはいる。
「いっ……うっ……」
痛みに唸るメイナードをギルバートは転がしてうつ伏せにした。
メイナードの腰布を抜き取り、それで手を縛り上げ、下半身は体重をかけて抑え込む。
そうしてから、メイナードの下半身の衣服をずり下げ、肉の薄い尻をあらわにした。
「ギルバート様……!! おやめください!」
なけなしの抵抗を試みるが、尻を揺らす卑猥なダンスになるだけだった。その肉の薄い尻たぶに平手打ちをくらった。
「いぎっ!!」
「大人しくしろ」
抵抗するたび、何度も何度も尻を叩かれた。
「ひぎっ! あがっ! ぐああ!!」
何がギルバートにこのような行為をさせるのだろうか。
ギルバートは子どものころこそ癇癪を起こすこともあったが、長じてからは多少強引なところもあるが、概ね理性的で声を荒げることもなかった。
尻が真っ赤になり、痛みに動けなくなったメイナードの尻の穴に、ぬるりとしたものが触れた。
「力を抜け、メイナード」
「ひっ! い゛っ……!! ギル、バ、ぐっ、い、いたい……!!」
尻の穴を無理矢理こじ開けて、指先が中に侵入した。
「お願いだから力を抜け。お前が苦しいだけだぞ」
「い゛! あ゛、む、むり、抜いて、い゛っ……!!」
「優しくしたいんだ、頼む」
「そんな、ぎっ! 汚、い、い゛、あ゛、お゛……!!」
無理に押し込まれる指に、メイナードは獣のような悲鳴をあげる。
加えて、ギルバートがメイナードのうちもっとも汚いところに指を入れるなど、絶対にあってはならないことだ。
ぼろぼろと、涙が溢れ出した。
「我慢しろ、慣らさないでは裂けてしまうぞ」
「うっ……ゔっ……ひっ! い゛っ!」
「なんだ、いいものがあるじゃないか」
脂汗をかくメイナードを床に押さえつけたまま一旦指を抜き、ギルバートは手の届くところにある執務机から獣脂のランプをとった。
ランプから獣脂をすくい、尻穴に塗りつける。
固まった脂が体温で溶けると、脂のぬめりを助けに、指がメイナードの中に再度の侵入を試みた。
「あひっ! うっ! おやめください!!」
入り口で脂をなじませるように円を描く。
「あっ、汚い、もう、いや、いやです、後生ですから!」
ぬぷ、と今度はたやすく指先の侵入を許してしまった。
「ううう、あ、あっ、ギルバート、様、いけません……!!」
「お前が私との約束を違え、離れようとした罰だ」
確かに、メイナードはギルバートのそばにずっといると誓ったのだ。
在りし日の天使のようだった幼いギルバートとの約束が、昨日のことのように思い出された。
メイナードとギルバートは、初夏の野原をバッタや蝶を追いかけていた。疲れて野原に寝転んだ。
『メイナード、ぼく、メイナードとけっこんする!』
薔薇色の頬をしたギルバートが、その若草色の瞳でメイナードを見つめてそう言った。
『ギルバート様、男同士は結婚できないのですよ』
メイナードは苦笑した。
好かれてもちろん嬉しかったが、男は女を愛し、女は男を愛するものだということは神によって定められた当然の法であると当時は疑いもしなかった。
『どうして!?』
ギルバートが愕然と目を見開く。
『神様がお許しになりませんよ』
『やだ! メイナードとけっこんするんだもん!』
ギルバートは、目に涙をため、怒って地団駄を踏んだ。
『結婚はできませんが、私はずっとあなたのお側にいますよ』
確かに、そう約束した。
しかし状況が変わった。このギルバートへの恋慕はもはやメイナードの身を焦がす拷問となり、神の怒りはギルバートにすら及び兼ねないのだ。
いや、すでに神の怒りはギルバートの精神へ影響を及ぼしているのかもしれなかった。
そうでなければ、女でもなくまして若くもなく美しくもないメイナードを無理矢理犯そうなどするものか。
なんということだ。神の教えはまことに正しかったのだ。メイナードの咎が、ギルバートをこのような暴挙へと至らしめてしまったのだ。
「あうっ……! 神よ、ギル、バート様を、お助けください、あっ、ひっ……!!」
「神がいるなら、今すぐお前を助けるだろうさ」
ギルバートがせせら笑い、祈るメイナードの中に第二関節まで進めた指を大きくくるりと回した。
「ひあっ!」
脂のおかげで痛みはほぼないが、凄まじい異物感だ。
「もう……これ以上は……ギルバート様が汚れます」
悲しくて苦しくてメイナードはすすり泣いた。
こんなことは本来のギルバートのすることではない。自分のせいで、人の道を踏み外そうとしている。
「汚しているのは私の方なのにな」
ギルバートはそう言うと、脂を足し、中をぬちぬちとほぐしていった。何かを探している指が、ついに探しものを見つけ出した。
「あっ、ひっ!?」
「ここか?」
くりくりと、中のしこりを刺激される。
「あっ、やっ!? ひっ!」
「これから神に仕えようとしていたくせに随分と淫らじゃないか」
「んっ、ちがっ、ひっ!? あっ、いや、です! ひっあっ!」
こりこりとされるたび、びりびりと甘いしびれが広がる。何かよくわからない塊が膨らんで、張り詰めていくのを感じた。
わけのわからない感覚を恐れ、とにかくやめさせようと暴れるとまた尻たぶを打たれた。
「ぎっ……!! い゛……!!」
すでに真っ赤になりじくじくと痛む尻を打たれて悲鳴を上げた。
「メイナード、そう暴れると中で俺の指が折れる」
「ならば、抜いてっ! うっ、あっ! あっ!」
「それは出来ぬ相談だ」
指が折れると言われれば、ギルバートを傷つけたくないメイナードは、ただ尻を差し出してされるがままになってしまう。
「んっ、やっ、これ、やめ……!! ギル、バート様! あっ! あっ! んんんっ!!」
「気持ちがいいか? 随分良い声で鳴く」
「そんな……!!」
未知の感覚に声を抑えることができなかった。幸か不幸か、西の塔にあっては大声を出そうともほとんど誰にも気づかれることはないだろう。
ギルバートがメイナードの腰をつかみ引き寄せた。後ろ手に縛られたメイナードは、尻だけを高く付きあげる姿勢にしてしまう。
羞恥にかっと体が熱くなる。
「体は嘘をつけないな」
くつくつと笑いながら、体勢を変えたことで立ち上がってしまっていることが明らかになったメイナードの陰茎をギルバートが握った。
「……!!」
立ち上がってしまっていることが、メイナードには信じられなかった。
これまで何度も想像の中でギルバートを汚してきた。
本物の愛するギルバートに触れられれば、いけないことなのに知らずしらずのうちに体は高ぶってしまっていたのだ。
いやだいやだと口では言っておきながら、この状況を喜んでいたというのか。なんて罪深く浅ましい。
ギルバートは後ろをほぐすのと同時に、前を扱いた。
「ひあっ、いやだ、ギルバート様、汚い……!! 汚い……!!」
「お前の体に汚いところなどあるものか」
快感、悲しさ、恥ずかしさ、困惑、神への恐れ、それらがメイナードの中でぐちゃぐちゃになっている。
「ギル、バート様、ギルバート、様……!! あっ、ひっ! だめ、だめです……!! んっ!」
後ろのしこりをいじられながら、雁首を引っ掛けるように竿を扱かれ、裏筋をなぞられ、先端をぬるぬると刺激され、尿道口をこじられ限界を迎えつつあるメイナードが、なんとか射精をこらえようと身を震わせた。
信心深いメイナードは教えの通り性欲を良くないものとして、この年まで性的なことに疎かった。
ごく単純な自慰しか知らなかったメイナードにとっては、それは愛する人の手による経験したことのない激しい快感だった。
「も、許して、ギルバート様、お許しください……!」
「では、私のそばにずっと居るともう一度誓え」
「それは……!!」
「メイナード、誓え」
「ひっ! あっ! い゛っ、うっ!」
後ろと前を刺激され、堪えられず果ててしまった。
愛するギルバートの手を自身の欲望で汚してしまった。
「もう、どうか……ギルバート様」
後ろをなおもほぐされ続ける。
にちにち、くちくちと、音を立て、耳の奥を犯されている錯覚に陥る。
「うっ、あっ、ひんっ! うう……」
脂を足され、指を増やされ、中をぐちゅぐちゅと掻き回される。
入り口から奥まで、指がゆっくりと出入りし、肉の壁を擦り上げる。
「んっ! あっ、あっ!!」
「もう少しだな」
掻き出され、掻き回されて、抜き差しされ、いいところを繰り返し繰り返し嬲られる。そうされるうち、ゆるゆるとまた陰茎が芯を持ち出した。
「いやだ、はっ、あっ、絶対にこんなこと! いやだ! 間違って、います……!!」
「どこからが間違いなのだろうな。はじめから全てか? お前と私が出会ったところからか?」
「うっ、そんな……」
小領主の三男であるメイナードは、八歳のときからこの城で働いてきた。メイナードが十五歳のときにギルバートが生まれた。
はかなく美しい奥方様が慈しみ愛おしげに見つめる赤子。その赤子のなんと愛らしかったこと。
『メイナード、この子を色々と助けてやってね』
そう奥方様はメイナードにもったいなくも声をかけたのだ。それが、何を間違ってこんなことになっているのか。これでは天国の奥方様に対する手酷い裏切りである。
そして当然メイナードを信頼して家令を任せてくれた主であるロジャーに対する裏切りでもある。
生まれた時から成長を見守ってきたギルバートが、健やかに聡明に育っていくのがメイナードの自慢でもあった。
その思い出のひとつひとつが全て過ちだったと言うのか。
「うぐっ、あっ! ひっ、ああっ!!」
散々に中を掻き回した指が抜き取られる。
思わず脱力したメイナードの尻を、再度引き寄せる。
硬いものが押し付けられた。
「それは……! それはいけません、本当に、いやだ!」
がっちりと両手で腰を掴まれ、抵抗を封じられる。
ぐい、とまずは先端が押し込まれた。
「い゛っ!! あ゛……は……」
それから、指などとは比べ物にならない質量が一気に最奥までをメイナードを刺し貫いた。
「……っ!!!」
あまりの衝撃に、目をかっと見開き、悲鳴をあげることすらかなわはかった。
「……きついな、食いちぎられそうだ」
そう言いながら、ゆっくりとギルバートが腰を使う。
「い゛! あぎっ! ひ、は、あ゛っ」
指で感じていた快感は霧散した。しかし、痛いほうがずっといいと、そう思った。これも神の罰に違いない。
腕を縛られ、押さえつけられ、剛直に貫かれながら、メイナードは、神に祈った。
神よ、ギルバート様をお許しください。罪深きは私め一人にございます。
ギルバートは、祈るメイナードの中に何度も何度も己を打ち付けた。メイナードに自身を刻み込むかのように。
メイナードを犯しながら、ギルバートが再度命じる。
「二度と私から離れるなど言うな」
そうして、ひときわ強く、メイナードに突き入れた。
「いいか、メイナード。お前は私のものだ」
おわり
執務室は本館からも、厩舎や調理場があり鍛冶職人たちもいる中庭からも離れた西の塔を借り受けていた。そこは近寄るものもなく、静かで仕事がはかどる。
ここ一月ほど、お互いの暇を見つけては、メイナードはギルバートに家令の仕事を教えていた。
「何を焦っている」
目当ての帳簿を書架から手にとったメイナードの後ろ姿に椅子に座ったギルバートが問いかけた。
「はい?」
振り返ったメイナードは、怪訝な目をしたギルバートと目があった。
「お前、最近おかしいぞ。私も家令の仕事を把握しておいたほうがいいというのはもっともだが」
帳簿の付け方、王宮とのやり取りの仕方、書状の各様式、裁判の取り仕切り方、判例、一年間の仕事の流れなど、メイナードはギルバートへその経験と知識のすべてを駆け足に伝えようとしていた。
「ええ。家令の中には、私腹を肥やすものも大勢おりますから」
「お前はそんなことしなかろう。まるで新しい家令が来るような口ぶりだな」
「……」
「まさか、出ていくつもりか」
「……はい」
「何故」
「……これからは神にお仕えしようと。ロジャー様には許可を頂いております」
ギルバートの若草色の瞳が怒りに燃える。
母を幼いころに亡くし、父は多忙を極める幼いギルバートの傍らにつねにあり、時には兄のように教え導いたのは十五歳年長のメイナードであった。
幼い頃には眠れないギルバートにせがまれて物語を聞かせ、添い寝をしたこともある。
そのメイナードが自分に相談もなく、修身院行きを決めたのだから怒りも当然だろう。
「父上に、話したのか」
ギルバートが眉根を寄せる。
どうしてもギルバートに伝え難く、父君に許可をもらってからもずるずると後回しにしたのも良くなかったのだろう。
「……はい」
「修身院へ行くというのか」
「はい」
「父上が許しても、私は許さない」
「……もう決めたことです」
こればかりは譲れない。するとますますギルバートは、怒りを燃え上がらせ眉間の皺を深くした。
ギルバートが椅子から立ち上がる。
「お前、言ったな。ずっと私のそばにいると。その言葉は偽りか?」
「……事情が変わったのです」
「どんな事情だ」
「……」
「待遇が不満か?」
「いいえ、滅相もございません」
「私に言えないことか!」
鋭い怒気をはらんだギルバート声にメイナードは身をすくめた。
「……いえ、ただ神のみ心にかなった生き方がしたくなりました」
目をそらし、かすかに声が震えた。決して嘘ではないが、後ろめたさがあった。
顔を上げられないメイナードに、ギルバートが大股で距離を詰めた。
「修身院など、行けぬ体にしてやろう」
耳元で囁かれ、突如、メイナードの視界がぐるりと回った。手に持っていた帳簿が床に音を立てて落ちる。
「いっ……!!」
背中と腰をしたたかに固い板そのままの床に打ち付けた。痛みに思わず声をあげた。
一体何が起こったのか。
ギルバートがメイナードを組み敷き、見下ろしていた。
「神は男同士のまぐわいををお許しになるかな?」
口元だけが笑みの形を作っていた。
「許さないだろうな」
ぞくりとするような昏い笑みだ。
「ご冗談は……」
言いかけた唇をギルバートの唇が乱暴に塞ぐ。
「んっ……! ふっ……」
両手を床に押さえつけられ足は体重をかけられ身動きがとれなかった。
体格も腕力も違いすぎる。日々一流の騎士から剣技や馬術を教わり、鍛錬しているギルバートにメイナードが力でかなうわけもない。
美しい唇がメイナードの唇をむさぼり、逃げる舌を追い回し滑らかな舌を絡める。口内を蹂躪する深い口づけだった。
息も出来ないメイナードをようやくギルバートが解放した。
「嫌なら噛みつけばいい、簡単だろう?」
組み敷かれながらどうにか逃れようともがいて見せても、噛み付くなど思いつきもしなかった。
メイナードはギルバートを愛していた。
父母の愛に飢えメイナードの後ろをついて回った少年は、時を経て高い教養と武芸を身につけた立派な青年となった。
母親譲りの優美さと父親譲りの精悍さ、美しく力強くしなやかな肉体、メイナードと呼ぶ朗々とした声はどこか甘い響きを持っている。
大人になった彼をいつしか愛するようになっていた。
ギルバートは二人きりの時には昔のように甘えて来ることがあった。肩を抱き寄せ、膝枕をねだった。
父上の仕事を一部任されるようにもなり、さぞお疲れなのだろうと甘えさせていたが、そのたびに、高鳴る鼓動を抑えるのに必死であった。
幾夜、ギルバートを思い、手を白濁に汚しただろうか。恐れ多くも弟のように思っていたギルバートに対し、汚い欲望を向ける自分自身をメイナードは嫌悪した。
そして、この先、ギルバートは跡継ぎを残すためどこぞの貴族の娘を娶るだろう。今もギルバートの評判を聞いて、縁談はひっきりなしに持ちかけられている。
妻を娶ったギルバートを隣で見続けるなど、メイナードには耐え難かった。きっと、彼の妻に激しい嫉妬を覚えるだろう。なんと醜いことか。
また、神は同性の愛を許さず、メイナードだけでなく、一方的に愛されるギルバートにまで災いがあると教えられてもいた。
自身の耐えきれない醜悪さから逃れるため、ギルバートへの災いを遠ざけるため、修身院で生涯神への許しを乞うて過ごそうと決心した。
ギルバートの一生が光り輝くものであり続けるように祈りを捧げようと。
それなのに、ギルバートが今、道を踏み外そうとしている。
「こんな悪ふざけをして、神の怒りに触れます!」
ギルバートの顔から薄ら笑いが消えた。
「私は神など信じない。母上は信心深く礼拝を欠かしたことがなかった。優しく勤勉で聡明だった。それがなぜ苦しみぬいて死なねばならなかったのか」
非常に淡々と、ギルバートが言う。
メイナードは、なんて恐ろしいことを言うのだと、戦慄した。
「ギルバート様……!」
「そうして! 今度は私からお前までも取り上げようというのか!」
一転、ギルバートは声を荒げた。ぎりぎりとメイナードの手首を掴む手に力がはいる。
「いっ……うっ……」
痛みに唸るメイナードをギルバートは転がしてうつ伏せにした。
メイナードの腰布を抜き取り、それで手を縛り上げ、下半身は体重をかけて抑え込む。
そうしてから、メイナードの下半身の衣服をずり下げ、肉の薄い尻をあらわにした。
「ギルバート様……!! おやめください!」
なけなしの抵抗を試みるが、尻を揺らす卑猥なダンスになるだけだった。その肉の薄い尻たぶに平手打ちをくらった。
「いぎっ!!」
「大人しくしろ」
抵抗するたび、何度も何度も尻を叩かれた。
「ひぎっ! あがっ! ぐああ!!」
何がギルバートにこのような行為をさせるのだろうか。
ギルバートは子どものころこそ癇癪を起こすこともあったが、長じてからは多少強引なところもあるが、概ね理性的で声を荒げることもなかった。
尻が真っ赤になり、痛みに動けなくなったメイナードの尻の穴に、ぬるりとしたものが触れた。
「力を抜け、メイナード」
「ひっ! い゛っ……!! ギル、バ、ぐっ、い、いたい……!!」
尻の穴を無理矢理こじ開けて、指先が中に侵入した。
「お願いだから力を抜け。お前が苦しいだけだぞ」
「い゛! あ゛、む、むり、抜いて、い゛っ……!!」
「優しくしたいんだ、頼む」
「そんな、ぎっ! 汚、い、い゛、あ゛、お゛……!!」
無理に押し込まれる指に、メイナードは獣のような悲鳴をあげる。
加えて、ギルバートがメイナードのうちもっとも汚いところに指を入れるなど、絶対にあってはならないことだ。
ぼろぼろと、涙が溢れ出した。
「我慢しろ、慣らさないでは裂けてしまうぞ」
「うっ……ゔっ……ひっ! い゛っ!」
「なんだ、いいものがあるじゃないか」
脂汗をかくメイナードを床に押さえつけたまま一旦指を抜き、ギルバートは手の届くところにある執務机から獣脂のランプをとった。
ランプから獣脂をすくい、尻穴に塗りつける。
固まった脂が体温で溶けると、脂のぬめりを助けに、指がメイナードの中に再度の侵入を試みた。
「あひっ! うっ! おやめください!!」
入り口で脂をなじませるように円を描く。
「あっ、汚い、もう、いや、いやです、後生ですから!」
ぬぷ、と今度はたやすく指先の侵入を許してしまった。
「ううう、あ、あっ、ギルバート、様、いけません……!!」
「お前が私との約束を違え、離れようとした罰だ」
確かに、メイナードはギルバートのそばにずっといると誓ったのだ。
在りし日の天使のようだった幼いギルバートとの約束が、昨日のことのように思い出された。
メイナードとギルバートは、初夏の野原をバッタや蝶を追いかけていた。疲れて野原に寝転んだ。
『メイナード、ぼく、メイナードとけっこんする!』
薔薇色の頬をしたギルバートが、その若草色の瞳でメイナードを見つめてそう言った。
『ギルバート様、男同士は結婚できないのですよ』
メイナードは苦笑した。
好かれてもちろん嬉しかったが、男は女を愛し、女は男を愛するものだということは神によって定められた当然の法であると当時は疑いもしなかった。
『どうして!?』
ギルバートが愕然と目を見開く。
『神様がお許しになりませんよ』
『やだ! メイナードとけっこんするんだもん!』
ギルバートは、目に涙をため、怒って地団駄を踏んだ。
『結婚はできませんが、私はずっとあなたのお側にいますよ』
確かに、そう約束した。
しかし状況が変わった。このギルバートへの恋慕はもはやメイナードの身を焦がす拷問となり、神の怒りはギルバートにすら及び兼ねないのだ。
いや、すでに神の怒りはギルバートの精神へ影響を及ぼしているのかもしれなかった。
そうでなければ、女でもなくまして若くもなく美しくもないメイナードを無理矢理犯そうなどするものか。
なんということだ。神の教えはまことに正しかったのだ。メイナードの咎が、ギルバートをこのような暴挙へと至らしめてしまったのだ。
「あうっ……! 神よ、ギル、バート様を、お助けください、あっ、ひっ……!!」
「神がいるなら、今すぐお前を助けるだろうさ」
ギルバートがせせら笑い、祈るメイナードの中に第二関節まで進めた指を大きくくるりと回した。
「ひあっ!」
脂のおかげで痛みはほぼないが、凄まじい異物感だ。
「もう……これ以上は……ギルバート様が汚れます」
悲しくて苦しくてメイナードはすすり泣いた。
こんなことは本来のギルバートのすることではない。自分のせいで、人の道を踏み外そうとしている。
「汚しているのは私の方なのにな」
ギルバートはそう言うと、脂を足し、中をぬちぬちとほぐしていった。何かを探している指が、ついに探しものを見つけ出した。
「あっ、ひっ!?」
「ここか?」
くりくりと、中のしこりを刺激される。
「あっ、やっ!? ひっ!」
「これから神に仕えようとしていたくせに随分と淫らじゃないか」
「んっ、ちがっ、ひっ!? あっ、いや、です! ひっあっ!」
こりこりとされるたび、びりびりと甘いしびれが広がる。何かよくわからない塊が膨らんで、張り詰めていくのを感じた。
わけのわからない感覚を恐れ、とにかくやめさせようと暴れるとまた尻たぶを打たれた。
「ぎっ……!! い゛……!!」
すでに真っ赤になりじくじくと痛む尻を打たれて悲鳴を上げた。
「メイナード、そう暴れると中で俺の指が折れる」
「ならば、抜いてっ! うっ、あっ! あっ!」
「それは出来ぬ相談だ」
指が折れると言われれば、ギルバートを傷つけたくないメイナードは、ただ尻を差し出してされるがままになってしまう。
「んっ、やっ、これ、やめ……!! ギル、バート様! あっ! あっ! んんんっ!!」
「気持ちがいいか? 随分良い声で鳴く」
「そんな……!!」
未知の感覚に声を抑えることができなかった。幸か不幸か、西の塔にあっては大声を出そうともほとんど誰にも気づかれることはないだろう。
ギルバートがメイナードの腰をつかみ引き寄せた。後ろ手に縛られたメイナードは、尻だけを高く付きあげる姿勢にしてしまう。
羞恥にかっと体が熱くなる。
「体は嘘をつけないな」
くつくつと笑いながら、体勢を変えたことで立ち上がってしまっていることが明らかになったメイナードの陰茎をギルバートが握った。
「……!!」
立ち上がってしまっていることが、メイナードには信じられなかった。
これまで何度も想像の中でギルバートを汚してきた。
本物の愛するギルバートに触れられれば、いけないことなのに知らずしらずのうちに体は高ぶってしまっていたのだ。
いやだいやだと口では言っておきながら、この状況を喜んでいたというのか。なんて罪深く浅ましい。
ギルバートは後ろをほぐすのと同時に、前を扱いた。
「ひあっ、いやだ、ギルバート様、汚い……!! 汚い……!!」
「お前の体に汚いところなどあるものか」
快感、悲しさ、恥ずかしさ、困惑、神への恐れ、それらがメイナードの中でぐちゃぐちゃになっている。
「ギル、バート様、ギルバート、様……!! あっ、ひっ! だめ、だめです……!! んっ!」
後ろのしこりをいじられながら、雁首を引っ掛けるように竿を扱かれ、裏筋をなぞられ、先端をぬるぬると刺激され、尿道口をこじられ限界を迎えつつあるメイナードが、なんとか射精をこらえようと身を震わせた。
信心深いメイナードは教えの通り性欲を良くないものとして、この年まで性的なことに疎かった。
ごく単純な自慰しか知らなかったメイナードにとっては、それは愛する人の手による経験したことのない激しい快感だった。
「も、許して、ギルバート様、お許しください……!」
「では、私のそばにずっと居るともう一度誓え」
「それは……!!」
「メイナード、誓え」
「ひっ! あっ! い゛っ、うっ!」
後ろと前を刺激され、堪えられず果ててしまった。
愛するギルバートの手を自身の欲望で汚してしまった。
「もう、どうか……ギルバート様」
後ろをなおもほぐされ続ける。
にちにち、くちくちと、音を立て、耳の奥を犯されている錯覚に陥る。
「うっ、あっ、ひんっ! うう……」
脂を足され、指を増やされ、中をぐちゅぐちゅと掻き回される。
入り口から奥まで、指がゆっくりと出入りし、肉の壁を擦り上げる。
「んっ! あっ、あっ!!」
「もう少しだな」
掻き出され、掻き回されて、抜き差しされ、いいところを繰り返し繰り返し嬲られる。そうされるうち、ゆるゆるとまた陰茎が芯を持ち出した。
「いやだ、はっ、あっ、絶対にこんなこと! いやだ! 間違って、います……!!」
「どこからが間違いなのだろうな。はじめから全てか? お前と私が出会ったところからか?」
「うっ、そんな……」
小領主の三男であるメイナードは、八歳のときからこの城で働いてきた。メイナードが十五歳のときにギルバートが生まれた。
はかなく美しい奥方様が慈しみ愛おしげに見つめる赤子。その赤子のなんと愛らしかったこと。
『メイナード、この子を色々と助けてやってね』
そう奥方様はメイナードにもったいなくも声をかけたのだ。それが、何を間違ってこんなことになっているのか。これでは天国の奥方様に対する手酷い裏切りである。
そして当然メイナードを信頼して家令を任せてくれた主であるロジャーに対する裏切りでもある。
生まれた時から成長を見守ってきたギルバートが、健やかに聡明に育っていくのがメイナードの自慢でもあった。
その思い出のひとつひとつが全て過ちだったと言うのか。
「うぐっ、あっ! ひっ、ああっ!!」
散々に中を掻き回した指が抜き取られる。
思わず脱力したメイナードの尻を、再度引き寄せる。
硬いものが押し付けられた。
「それは……! それはいけません、本当に、いやだ!」
がっちりと両手で腰を掴まれ、抵抗を封じられる。
ぐい、とまずは先端が押し込まれた。
「い゛っ!! あ゛……は……」
それから、指などとは比べ物にならない質量が一気に最奥までをメイナードを刺し貫いた。
「……っ!!!」
あまりの衝撃に、目をかっと見開き、悲鳴をあげることすらかなわはかった。
「……きついな、食いちぎられそうだ」
そう言いながら、ゆっくりとギルバートが腰を使う。
「い゛! あぎっ! ひ、は、あ゛っ」
指で感じていた快感は霧散した。しかし、痛いほうがずっといいと、そう思った。これも神の罰に違いない。
腕を縛られ、押さえつけられ、剛直に貫かれながら、メイナードは、神に祈った。
神よ、ギルバート様をお許しください。罪深きは私め一人にございます。
ギルバートは、祈るメイナードの中に何度も何度も己を打ち付けた。メイナードに自身を刻み込むかのように。
メイナードを犯しながら、ギルバートが再度命じる。
「二度と私から離れるなど言うな」
そうして、ひときわ強く、メイナードに突き入れた。
「いいか、メイナード。お前は私のものだ」
おわり
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