ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴

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兎と狼 第2部

第71話 バトルへの自信

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 ◇◇◇◇◇◇

「これが今ある情報だよ」
「ありがとう……。ってGVこの資料薄っぺらいわね……」
「仕方ないよ。見つけたばかりなんだから」

 なんでこうなった。相手は敵陣営のロゼッタヴィレッジのリーダーなのに、裏世界の情報提供をするだなんて。
 まあ、過去に彼女からスターのマップをもらったので、これでおあいこということになるが……。
 この資料を作成したのはVさんで、とても素早く完成させてくれた。ちゃんと俺が言ったことをしっかりまとめてくれている。

「わかったわ。こんな薄っぺらいものに10万アニマ支払うのは釣り合いが悪いと思うけど……」
「確かに10万アニマいただきました」
「いい情報だったわ。ところでこの裏世界を見つけたのは誰かしら?」

 ヤサイダーはそう言いながら資料をストレージの中に入れ、興味深そうに指を弄り始める。

「僕とケイ以外のメンバーだよ」
「ふーん。カケルたちがね……。なかなかやるじゃない」

(褒めてる? 褒めてるつもりだとしても俺は嬉しくないぞ?)

 そうして、情報提供は終わった。だけど、ヤサイダーにはもうひとつこの情報を買った理由があるようで。

「GV。貴方なにか隠しているわよね」
「ん? それは何のことかな?」
「貴方。リアゼノン事件と深い関わりがあるんじゃないかしら?」
「うーん。関わりは……。あるけど……」
「黒白様! バラしちゃ……」
「大丈夫大丈夫。それよりケイがもうバラしちゃってるよー」
「ッ!?」

(はいっ。ケイアウトー。もろ"黒白様"と言ってましたねー)

 俺の心の中での反応は別として、ケイは顔を真っ赤にさせて反省の表情を見せる。普段から結人さんのことを黒白様と呼んでたことで、癖が出てしまったのだろう。
 人の癖はなかなか治らないものだ。俺だってほんと些細だが癖――ほぼこだわりがある。
 それは、食器の位置で正しい位置に並べられていないと食べ始めることができない。
 最近は忙しいので位置を気にしないようになってきたが……。

「やはりそうなのね。さっきそちらのリーダーが黒白様と言ってたけど、本人で間違いないと言い切れる?」
「もしかして君。僕を疑いつつ煽ってるのかな?」
「あ、煽ってないわよ。確認がしたいだけ。本人と言い切れるのなら、あたしを超えなさい」
「あはは。簡単すぎるね。だって君。本気モードのケイに負けたんでしょ? 僕だったら本気出さずとも手で触れることなく倒せるよ」

 Vさんの威圧たっぷりの言葉に身動ぎそうになるヤサイダー。Vさんすごい……。でも、本当に手で触れずに倒せるものなのだろうか?
 本気を出さなくても倒せると言ったのも印象的だった。Vさんの本気は一度も見たことがない。
 すると、Vさんは大きな空間を作った。

「みんなー! ごめーん! これから僕とヤサイダーさんの討伐数バトルが始まるよー! 場所は裏世界。この歪みから直接行けるから来てねー」
『ロゼッタヴィレッジのヤサイダーと無所属のGVが討伐数バトルをするってよ』
『マジか。ってかGVって誰?』
『あの亀のアバターの人だ。けど、戦闘能力が不明だから、きっとヤサイダーが勝つんじゃないか?』

 Vさんのバトルショー開催宣言に焼肉ブース全体がざわつく。こんなに大体的に宣言していいのだろうか?
 Vさんは鼻を鳴らしながら、楽しそうな表情をしている。かなり自信があるらしい。俺は彼のバトルを初めて見ることになる。

「ささ、カケルくんたちも入って。運営にはこの企画の開催許可取ってあるから、今日の裏世界は魔物でいっぱいになってるみたいだよ」
「マジか……」
「マジマジ。久しぶりに戦闘するから楽しみ」

 久しぶりに戦闘? Vさんってどれくらいの間戦闘をしてなかったのだろうか? 俺はまたはてなを浮かべて考える。
 たしか、リアゼノン事件が起こったのは今から22年前。Vさんはそこまでゲームに夢中になるような人ではなさそうだから、それを考えると、かなりの期間が空いてるのかもしれない。
 ちょっと不安なので聞いてみると、ゲーム内での戦闘は、戦闘という戦闘をしていないため初めてに近いらしい。
 そんな状態でヤサイダーを倒せるのか? と思ったけど、そんなことはないようで。俺は裏世界にやってくると、ちょうど火蓋が切られるところだった。

「ヤサイダーさん。君は見た目だけだと思うよ。僕もそうだけど自分の実力だけでランキング上位に上がってきたようには見えないからね」
「それってどういう意味よ」
「そのままの意味だと思うよ。運営に……っと。討伐数バトル開始まで残り3分。ヤサイダーさん。心の準備はいいかな?」

 Vさんは左手甲を何度も確認しながらそう言う。ヤサイダーはまだ準備が整っていないようで、少し戸惑っている様子だった。
 討伐数バトルというのは、魔物を倒した数をカウントして競うという単純なもの。PVPではないのであまり迫力はないが、実力がはっきりわかるバトル方式だった。

「GV。貴方魔法使う気よね?」
「ん? ああ、空間魔法のこと? 使うか使わないでおくかは君が決めていいよ。どちらにしても僕が勝つけどね」
「そこまで自信があるのなら正々堂々魔法を使わずに勝負して貰えるかしら?」
「わかった。えーと。いつも使ってる武器は……。運営が用意してくれてるみたいだね。絶夜!」

 Vさんがなにかを叫ぶと空間が開いた。そこから黒い刀が出てくる。これが運営が用意してくれたという武器なのだろうか?
 彼はその武器を手に取ると、なにかをエンチャントした。これは魔法? だけど、魔法は使わない約束じゃ……。

「これは切れ味をよくするための魔法だからノーカンだよ。僕に制限がかかっているのは、空間魔法の使用だけ。だよね、ヤサイダーさん」
「ええ、そうよ。残り15秒」

 ――10秒……5秒……3、2、1……。

「「バトルスタート!」」
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