ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴

文字の大きさ
72 / 123
兎と狼 第2部

第72話 GVvsヤサイダー

しおりを挟む
 Vさんは50分間のバトルがスタートした後、黒刀を持ったまま20分くらいその場で立ち尽くしていた。
 戦う気配など全く感じない、それくらいすました顔で立っていた。敵はこの前戦った蟻の大群に、黒いキラービーやこのバトルで専用にプログラムされたAI動物アバター。
 ヤサイダーはもう既に戦っている。少しずつ討伐数を稼ぎ1万体を討伐した時。ついにVさんが行動を開始した。
 Vさんは半分やる気なさげな刀捌きをする。1体ずつ1体ずつ的確に倒し100、200とゆっくりのペースで進めて行く。
 もう勝ちは決まりというようなノロノロペースだが、Vさんが言うにはこれは作戦らしい。

『僕ならこれくらい余裕だから、少し手加減しようかなってね』
『手加減ってどんなことをするんですか?』
『うーん。僕は相手が1万体倒した時に行動を開始して……。本気を出すのは残り10分の時くらいかな? 10分もあれば10万倒せるだろうし……』
『何その余裕……。スゴすぎなんですけど……』

 そんなこんなで始まった訳だが、制限時間は残り20分に迫っていた。今現在ヤサイダーは5万体。Vさんは3.5万体と差が縮まってきている。
 Vさんは依然として脱力状態で一度に30体を相手して、倒す敵の数を少しずつ増やしていた。
 50体を5秒。100体を6秒。刀捌きにだんだんキレが出てくる。すると残り10分になった時だった。
 Vさんの左手甲の紋章が、白と黒のツートーンではなく白1色になった。Vさんの動きが急加速する。
 目が追いつかない。だけど確かにVさんは空間魔法を一切使っていない。これがもし毎日のランニングトレーニングの成果としたら、かなりイメージができているのかもしれない。
 残り10分の時点でヤサイダーは8万体。Vさんは7万体だった。しかし、Vさんの紋章が白くなった直後一度に倒す数が1000単位。1万単位と増えていく。
 この展開は異常すぎた。これはゲームの域を遥かに超えている。それにVさんにはズルをしている様子がない。
 すると彼は通信魔法でこう言ってきた。

「この加速はケイのお母さんから教えて貰った秘策だよ。ゲームプログラム改ざんとかは全くしてないから大丈夫。全部僕の思考速度が早いから。だからね」

 バトルしながらも通信魔法を使って会話してくることから、かなり余裕があるようだ。Vさんの足色は衰えることを知らず、ついにヤサイダーとの差は20万を超えた。
 この時点でVさんの勝利は確実化した。これが久しぶりのバトルだとは思えない。それもあって、彼が20分待った理由がよくわかった。

 ――バトル終了まで残り10秒……5……。

「「4、3、2、1……」」

 0になったところで終了のゴングが鳴った……。Vさんは黒刀を空間の中にしまい、少し疲れた表情で歩いてくる。
 だけど、こんなバトルはバトルじゃない。Vさんの独壇場と化していた。まるで個人でショーを披露しているかのように。
 彼の戦いは見応えはあるようなないような。というのも1体にかける時間がかなり少なかった。

「つ、疲れた……」
「Vさんお疲れ様です。30分くらい待っても余裕でしたね……」
「うん。そうだねー」
「黒白様さすがです……。僕も感動しました」
「どうも。さてヤサイダーさんの方はどんな感じかな?」

 Vさんはヤサイダーの方に歩いていった。そこで彼女はあまり機嫌がよくなさそうな顔をして膝立ちになっていた。ヤサイダーは15万4670匹。対してVさんは40万を超えている。
 かなりショックだったのだろう。墓穴を掘った分の罰が下ったらしい。そもそも、Vさんが強すぎた。
 これは戦ってるというより本当にワンパンで仕留めているようにしか見えない。

「ヤサイダーさん。僕の言った通りでしょ」
「確かにあたしの惨敗ね。それよりもあの速度。チートでも使ったのかしら?」
「いいや。一切使ってないよ。僕の思考だけであの速度を出したから」
「そ、そんなの嘘よ! 絶対ズルしたわよね? あの速度はルール違反だわ」

 すると今度はVさんが左手甲をヤサイダーに見せた。俺は気になって近づくと、今度は紋章が黒く光っている。
 彼の紋章は色が変化するようだ。そして、しっかり制御をしているようにも見える。ここまでできるようになるにはかなり練習をしたのか?
 いや、ギルドアーサーラウンダーのメンバーで1番強いケイよりも強く、黒白様と言われている彼に練習という二文字はないに違いない。
 俺は黒く光る紋章を凝視する。その黒は純度99パーセントと言ってもいいくらい、漆黒に染まっていた。なのに、Vさんの瞳にはこれといった変化はなかった。

「じゃ、もう一戦……する? 本来の戦い方を見せてあげるから」
「べ、別にいいわよ……。もう負けを認め……」

 ヤサイダーが言い切ろうとした時だった。後方から大量の魔物が押し寄せてくる。どうやらバトル後に残った敵がシステム制御できなくなったらしい。
 このままでは客を危険に晒すことになる。いくらアイテムロストしないとはいえ、客はいい思いをしないだろう。

「みんなー。安心してー。全員僕の後ろに下がって。落ち着いて行動してー。大丈夫。大丈夫だから。ここが全て僕が引き受けるから心配しないでねー」
「Vさん本気ですか?」
「うん。本気だよ。えーと、ケイ。敵の数はどれくらい?」
「約50万から100万体です。けどこんな数を1人でどうする気で……」
「1人じゃないよ。もちろんケイとカケルにも協力してもらうからね」

(俺まで巻き込まないでくれよ……)

 俺と言えばストロングブレイクという強攻撃があるが相変わらずクールタイムが長い。そんな俺を戦力の1人にするなんて頭おかしいんじゃないか? と思ったけど、スキルは何度jも使えばスキルレベルが上がりクールタイムも短くできる。
 これは大チャンスかもしれない。俺は新しく手に入れた武器のアイアンクローを装備する。この武器は斬撃属性と打撃攻撃が同時に出せるということが、ネット記事で出ていたらしい。
 そのことはちょこっとだけケイから教わっていた。さらには、戦闘のコツまでさらに教えてもらった。これで俺の準備は完了。まもなく敵の群れがやってくる。Vさんはというと、いつの間にか剣の数が増加していた。これが本来の戦闘スタイル……。っていうか実際亀って剣を装備できるのだろうか?

「装備できないね。基本はカケルと同じ拳戦闘だよ。まあ僕のは運営が特別に設定してもらった特別アバターだから許しが出ているだけ。でも、個人的には今の方が戦いやすいからね。ノーマルアカウントだっけ? そっちにする気はないよ」
「そうなんですね……」
「さ。敵が見えてきたよ。ギルドアーサーラウンダー! 戦闘開始!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...