霊体になったので嫌いな女のヒミツを覗いてみた。

悠生ゆう

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こんなにも嫌いな女を好きな理由(ワケ)。

26歳 再々会

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 就職して三年が経ち、私に異動の辞令が出た。
 新卒からの三年、私は仕事に集中して自分なりに努力をしてきたつもりだ。それでも失敗したことはある。上手くいったことも先輩方のフォローがあったからできたことだと分かっている。
 それでも本社管理部から物流センターに異動になる理由が分からない。
 考えたくはないが左遷なのかもしれない。業務はどれも重要でそれぞれに役割があることは理解している。本社勤務でないことがイコール左遷という訳ではない。しかし唐突に畑違いの部署への異動を命じられたとなれば話は別だ。
 大きなミスをした記憶はない。
 学生時代にはとりあえず気が向いた相手と付き合って来たが、最近それも煩わしくなって、小さな一粒ダイヤついたホワイトゴールドのリングを左手の薬指に着けるようにしている。そのお守りのおかげか恋愛のトラブルを仕事に持ち込んだことも無い。
 それにようやく仕事の面白さが分かってきて、さらに積極的に仕事に取り組むようになっていたところだった。
「課長、異動の理由をお伺いしてもよろしいですか?」
 私は意を決して三浦課長に質問をした。もしも左遷だったとしても、はっきりとそう告げられることはないだろう。それでも何かしらの理由を知った方が、モヤモヤした気持ちのまま異動するよりはずっといい。それにもしも反省すべき点を指摘されたのならば、それを次に活かせばいいのだ。
「ああ、森内さん。私だって本心では異動させたくないのよ」
 三浦課長はかけていたメガネを外して私を見た。第一線で活躍している女性課長で、私が目標としている人だ。
「少し前に提出してくれた業務の効率化に関する提案書があったでしょう?」
「はい。でもあれは却下されましたよね?」
「そうね。でもそれは現時点での実現が難しいと判断したからよ。着眼点や発想は高く評価されたの」
「……ありがとうございます」
「それで、森内さんは現場での経験を積んだ方が、その力を発揮できるようになるんじゃないかって話になったの」
「現場経験ですか?」
「そう。今の段階ではジョブローテーションでの経験を元に企画をしていることが多いでしょう?」
「はい。ジョブローテーションで感じたことをベースにして、聞き取りをして改善計画を立てています」
「だから現場でもっと経験を積むことで、もっと豊かな発想ができるようになるんじゃないかっていう話になったの。正直、ここから出すのも惜しいと思ってる。だけど現場を経験することで森内さんがどんな風に成長するのかにも興味があるのよ」
 三浦課長は真っすぐに私の目を見て言った。
「ありがとうございます。わかりました。お時間を取らせてすみません。ご期待に添えるように頑張ります」
「ええ。でも、あんまり頑張り過ぎないでね」
「え?」
「森内さんはちょっと頑張り過ぎだから。現場では息の抜き方も覚えてきてね」
 三浦課長そう言うとにっこりと笑った。
 私は頭を下げて自席に戻る。三浦課長に「どうして物流センターなんですか?」と聞く必要もなかった。先ほどの話の中にそのヒントがあったからだ。
 三浦課長の話を信じるならば、これまで管理部で立案した企画はある程度評価されているということになる。そんな私の企画の半数以上が物流に関するものだからだ。
 物流に特別な思い入れがあるわけではない。だが、ナナとのことがあったため、ジョブローテーションで回った四カ所の中で、最も印象深く記憶に残っていた。それに、どちらかといえば裏方ともいえる部署だからか、他の部署に比べて改善の余地が多いと感じたからだ。
 それならば、物流センターでも私の仕事に対する姿勢はこれまで通りで良いということになる。
 新しい環境で得ることもあるはずだ。ともかく前向きに捉えて、これまで以上に頑張るしかない。
 私はそう心を決めた。

 物流センターへの着任した私の役割は一つの物流チームの管理だった。正社員からアルバイトまでのスタッフのシフトから、業務進捗の管理、イレギュラーの対応、物流センター管理の在庫調整などが主な仕事だ。
 私が管理する物流チームの面子にはナナの姿もあった。三年前の私ならば、運命だと心踊っていたかもしれない。朝礼であいさつをしたとき、ナナは相変わらず私を見ようとはしなかったが、それでも私の心は凪いでいた。ナナのことを本当に過去にすることができていたのだと実感し、少し安堵した。
 私の仕事は物流センターの事務方の中でも現場スタッフとの窓口となる立場だ。そのため着任初日、午前の入出荷業務を終えた後、管理するチームの班長を集めてミーティングを行うことにした。
 五人の班長の中にはナナの姿もある。どうやらナナもこの三年間で随分頑張ってきたようだ。
 五人の班長から現状の仕事の状況などの聞き取りをおえると雑談タイムに入った。本当はこの雑談の方が主な目的だ。現状など報告書や日報を見返せばある程度理解はできる。だが現場スタッフとのコミュニケーションが成り立たなければ、円滑に仕事を進められない。
「そういえば、昨年導入された新しい検品システムを考えたのって森内さんですよね? あれのおかげで業務効率がかなり上がりましたよ」
 五人の中で最年長の山本班長が言う。班長の中でもリーダー的役割を担っている。
「私は原案を出しただけで、実際には他のスタッフの力ですよ」
 これは謙遜ではなく事実だ。私の出した案は今思えばかなり稚拙なものだったと思う。それを拾い上げ、精査し、精度を高めて実現へと導いたのは、プロジェクトチームの面々の力によるものだと思っている。
「いやいや、その原案があってこそですよ」
 山本班長はニコニコと笑って言う。
「ありがとうございます。でもそれを言うなら、テスト導入をしたときのレポートがあったからこそですよ。私たちが見落としていた部分や計画と実務で起こる差異も細かく記してくれていましたから」
 私が言うと坊主頭が特徴的な内田班長が「やったな、塩原」と言ってナナの肩をガシっと抱いた。ナナは面倒臭そうにその腕を払いのける。
 私が首をかしげて内田班長を見た。
「あのレポート、塩原が作ったんですよ」
「仕事だから仕方なくやったんだ」
 ナナはそっぽを向いて吐き捨てるように言う。
「またまた謙遜するなよ、最初は面倒臭そうにしてたくせに、急にやる気出してたじゃないか」
「一番年下だから、仕方なく受けただけだよ」
 ナナは内田班長に噛みつくような勢いで言った。だが内田班長は気にする様子もなくニコニコと笑っている。他の班長たちも「照れるなよ」とか「やったじゃないか」などと言いながらナナ小突いている。ナナは班長たちの中で唯一の女性であり最年少だが、他の班長たちに随分かわいがられているようだ。
 その様子に少しモヤモヤした気持ちになるのは、学生時代ならばナナの横でそうしていたのが私だったはずだという気持ちがあるからだろう。今この部屋の中で私が一番遠い場所にいる。
「森内さんはジョブローテーションでここに来ていたそうですね。塩原、森内さんの企画だと知って『あいつも頑張ってるな』なんて偉そうに言ってたんですよ」
 内田班長を引き継ぐように言ったのは山本班長だ。
「ばっ、何言ってるんだよ! そんなこと言ってないし!」
 ナナは顔を真っ赤にして、怒っているのか照れているのか分からない表情で山本班長を睨みつけた。
「つか、あれのせいで新しい仕事が増えたからありがたくもないだろう!」
 ナナが憮然として言う。
「それはどういうことですか?」
 私の問いに答えたのは山本班長だった。
「あのシステムで業務効率が良くなったのは確かです。ただ、その分一日で処理する物流量が増えてたんですよ」
 山本班長は頭を掻きながら笑って続けた。
「塩原は口も悪いですし、素直じゃないですけど、仕事は真面目にやるヤツなので、どうかよろしくお願いします」
 ナナを見ると子どものように口を尖らせて天井を見上げていた。
 ナナが喧嘩腰なのはやっぱり私のことを嫌っているからだろうか。だが私の企画を気にしてくれていたともいう。ナナの気持ちがよく分からなくなった。
 私は気持ちを切り替えてナナに向かって言う。
「私は気にしませんけど、他の人に対しては少し気を付けた方がいいかもしれませんね」
 そしてひとつ息を付いて続けた。
「でもテスト導入のレポートはありがとうございました。本当にいいレポートでとても助かりました」
 するとナナはプイっと横を向いてしまう。
「素直じゃないんです。照れてるんですよ、すみません」
 そう謝ったのは、やはり山本班長だった。
 班長たちが解散した後、私は一人ミーティングルームに残って先程のやり取りを思い出していた。
 今日のやりとりですっかりナナのことが分からなくなってしまった。
 ナナに対してもう特別な想いは抱いていない。
 それでも高校生の頃のように気兼ねなく話せるようにはなりたいと思っている。友だちに戻れるチャンスは残っているのだろうか。
 私はナナがそうしていたようにぼんやりと天井を眺めた。
 だが、それからも私とナナが友だちに戻れる兆しは見えなかった。
 基本的に朝礼時と終業後、毎日二回顔を合わせている。ナナの言葉はとても業務的だったし、私も上司として話をするだけだった。
 三年前と違っているのは、ナナがなぜか少し喧嘩腰だということかもしれない。新人だった私には丁寧に仕事を教えてくれていたのに、上司となった私へは風当たりが強い。
 そんなナナの態度を見かねたのか。山本班長がそっと耳打ちした。
「森内さんが同年代だから、妙に意識しちゃってるのかもしれませんね。ちょっとした反抗期みたいなものだと思ってくれませんか。ちゃんと言ってきかせますから」
 その言葉に私は黙って頷いた。
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