パーティーを追放されたら天使に出会いました

梅雨野十

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「シエン、君との冒険はここまでだ」

「え?」

勇者エドワードの突然の言葉を受け、シエンは間抜けな声をあげた。

何を言われたのかわからなかったが、エドワードの真剣な眼差しが否応なく言葉の理解を迫ってくる。

それは仲間であるはずの魔女カタリナ、ドワーフの戦士ガリオンについても同様だった。
彼らは沈黙を持ってエルネストに賛同している。

白銀の甲冑を身にまとった金髪・碧眼の美男子であるエドワード。

藍色のドレスに、同じく長く美しい藍色の髪をなびかせるカタリナ。

強固な白い鱗を持つ大蛇種の皮をもとに作られたツナギとともに、鎧とも言えそうな屈強な肉体を持つ赤髪のガリオン。

そして、黒づくめのチュニックとズボンに黒髪のシエン。

冒険者に憧れ、4カ月前にようやく結成できたパーティーが、まさかこんなダンジョンの奥地で解散の危機を迎えるとは、シエンは夢にも思っていなかった。

クロナダ地方最大と言われるダンジョン・天使の籠。

山一つがすべて迷路の様相を呈しており、石造りの建造物の残骸が続く地表だけでなく、入り組んだ洞窟と人工的に造られたいくつもの地下通路や部屋で形成されたその場所は、内部調査やお宝探しに向かう冒険者パーティーや騎士団など今も多くの人間が足を踏み入れる。

いつごろから天使の籠と呼ばれるようになったのかは定かではないが、最奥には天使のもたらした神聖鉱石や道具が数多く残っているという。

勇者エドワード一行がこのダンジョン攻略に挑んで5日目。
彼らはギルドの情報共有でも難所と言われてきた通称・顎の間の奥にいた。

松明の光と魔女カタリナが灯した光球があたりを照らし出している。
壁や床はヒビだらけだが、壁際には傷一つない長細い石棺が5つ、均等に置かれていた。

「どうしてだよっ!? ここまで一緒に戦ってきたじゃねえか!!」

シエンが声をあげるが、3人はそれぞれの表情を浮かべ視線を返すばかりだ。

「戦ってきた…?」

続いて口を開いたのはカタリナだ。

「あなたはいつも陰に隠れて、自分の身の安全ばかり優先して…! その間、エドワード様がどれだけ危険な目にあってきたか、その目で見てきたでしょう!?」

「そ、そんな…。だって、カタリナ、いつも「下がっていて」「守ってみせます」って…。俺が非力なの、知ってるから守ってくれたんだろ…?」

「それはあなたを守るためじゃない!」

「いいんだカタリナ。シエン、僕たちは友達ではない。この天使の籠を攻略するために集まった同志だ。パーティーを組んで4カ月、この顎の間までたどり着くことは、誰一人欠けても不可能だっただろう。シエン、君のスキルであるトラップスルーとアンロックによって隠し部屋をいくつも突破できたからこそだ。本当にありがとう」

エドワードは優しく、しかしどこか寂しそうに笑い、シエンの肩に手を置いた。

「いくつかの文献や探索記録のとおりだった。この部屋の天使の棺に辿り着けた。部屋の入口から目にすることはできても、侵入者を拒むトラップにより触れることは叶わないと書かれていたが…君の持つ重要なスキルであるトラップスルーが発動しなかった。まさか、噂に名高い天井落ちのトラップが壊れているとはね」

エドワードの言う通りだった。

この顎の間は、どういう仕組みかは不明だが天井が落下し侵入者を拒むと言われてきた。実際にダメージを受けてギルドに命からがら戻った冒険者も少なくない。
どのような魔力と魔法陣構成になっているかは不明だが、その仕掛けを解除することがシエンの最大の使命だ。

しかし、その挑戦は行われることなく、一行は部屋の奥、天使の棺の前にたどり着くことができたのだった。

「ここまで我々が其方を守ってきたのは、天井落ちを無事に突破するため。天使の棺の報酬は、触れたもの全員に何かしらの力が授けられるという。今まで触れられてこなかったこの部屋の石棺から得られるのはどのような力か…。いずれにしろ、其方には不要なものだ」

ガリオンはそう言うと、天使の棺の蓋に手をかけ、動かし始めた。
その体躯から発せられる力は、見るからに重厚そうな石の塊をゆっくりと、しかし確実に動かした。

「私たちはこれから、魔族との争いに挑む日々が始まるのです。そこにあなたのような非力な人は要らないの」

カタリナの視線は冷たく、また意志が明確だ。残酷なほどに。

「僕は君を否定したりはしない。ただ、もう必要じゃない。それだけなんだよシエン。さあ、これを」

シエンが渡されたのはエスケープジェムだった。
簡単な呪文を唱えるだけで、対となるジェムを保管している冒険者ギルドに立ちどころに移動できる貴重な石だ。

「この部屋に入ってから、君のトラップ感知能力は一切機能していないよね。この石棺も問題ないということを、君が証明してくれた。本当にありがとう」

「……」

ダメだ。何も言い返す気にならない。
シエンは言葉を失い、ただジェムを受け取った。

エドワードは本気だ。本心で、感謝と別れを告げているのだ。

「…ここまで来て? こんな場所で?」

シエンがうわごとのように呟く。

「なあ、エドワード、こんな終わり方…っ」

そう声を振り絞ったその時だった。

シエンの視界がまばゆく光ったかと思うと、一つの思考が一瞬で浮かび上がった。

「ガリオン! ダメだ、危ない!!」

シエンが叫ぶと同時、棺からゆらゆらと揺れる人影が現れ、部屋がガタガタと揺れ始めた。

次の瞬間、シエンの足元が崩れ落ち、その体が暗闇に飲まれていった。

「う、うあああああ……っっっ!!」

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