パーティーを追放されたら天使に出会いました

梅雨野十

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ニコニコと笑みを浮かべるルーファの様子にシエンは驚いていた。
捕らえられている時は達観した表情をしていたというのに、いざ鎖から解放された彼女は少女のような振舞いを見せている。

知り合ってわずか十数分の間柄だが、その表情の変化のふり幅から、ルーファがどんな人物なのか、シエンはますます掴めなくなってしまった。

同時に、彼女の言った言葉が再び浮かんでくる。

「神様の、呪い…?」

「そうだよ。呪い」

「なんだよそれ…」

詳しく説明してもらおうとしたその時だった。
ゴゴゴゴ…と低い音が響き、床が小刻みに振動し始めた。

「なんだ!? トラップか!?」

シエンは天地左右、方々に目を凝らしたが、トラップを起動したらしき魔法陣は見つからない。

「おやあ? この部屋が揺れ始めたのかな? もしかして、私が脱走しそうになったら部屋が壊れる仕掛けだったりして」

「マジかよ!だとしたら、すぐに脱出しないと!」

「ねえねえ、トラップスルーってどうやるの?」

「え?」

「さっきのアンロックとは別のスキルでしょ?」

「どうやるも何も、トラップスルーは「事前回避」なんだよ! トラップに近づくとその存在に気付いて回避するってのがほとんど!」

「ああ、なるほど。トラップ発動のために仕込まれた微量な魔力を感知するのか。君、器用なことするんだねえ」

何故かニヤニヤと悪だくみをするような表情になったルーファだが、シエンにとってはそれどころではない状況だ。

「くそっ、揺れがおさまらない! 本当にトラップが発動したとしたら…!」

「多分ここで生き埋めじゃないかなー」

「そんな気楽にいうなよ!」

頭を押さえながら必死にトラップの起動箇所を探すシエンだったが、ふと別のことを閃き、ズボンのポケットを探る。

「あった、これ…!」

取りだしたのはエドワードに押し付けられたエスケープジェムだった。親指大の、くすんだ赤色の鉱石で、これに魔力を込めれば魔法陣が起動し、冒険者ギルドのあるモアナの街に戻ることができる。

「これで街に戻るぞ!」

「何それ何それ、きれいな鉱石じゃん」

「いいから!」

何故か呑気なルーファの肩に腕を回し、シエンはエスケープジェムを握りしめる。

「エスケープジェムは一人用だってギルドで習ったけど、前にデカい熊型の魔獣を抱えた騎士がジェムの力で戻ってきたところを見たことがある!もしかしたらいけるんじゃ…」

「理解したよ、私は熊役ね。ほれ抱えて抱えて」

「密着してれば大丈夫だよきっと! あとは魔力を…くぉ、うまく集中できない…!」

「ふふっ、そりゃ慌てるよね。じゃあお手伝いしよう」

そう言ってルーファがシエンの手に自分の手を重ねると、同時にうっすらとその手が輝きだした。

「あんた、もう魔力があんまり無いんだろ!?やめてくれ!」

「いけるいけるー。もちろん君も魔力を込めてね」

輝きがだんだんと強まると同時、ジェムも光を放ちはじめる。

「ね、これ詠唱要るタイプの道具?」

「要る! 行くぞ! リド・ダル・リド!」

シエンが唱えると同時、ジェムの光が一気に強まり2人の全身を包んだかと思うと、そのまま球体状になり天井に向かって跳ね上がった。

「………!!」

シエンは声にならない声を上げ、しかしルーファを離すまいと、腕に思い切り力を込めたのだった。



時間にして14秒。

2人を包んだ光の球は天井を昇り、通路を駆け抜け地表に飛び出し、そのままモアナの街の外壁門付近に到着した。
そして、シエンが握りしめていたエスケープジェムが砕け散り、光を失った。

「うお…っ! 落ち…っ」

中空から落下するかのように放り出される。
外壁の周りは未舗装の草むらばかりだ。シエンはごろごろと雑草の上を転がる形になった。

「いってえ…。くそ、一人で使った時はちゃんと立ってられたのに」

上体を起こし、すぐに周りを見回す。
高5メートルほどの見慣れた外壁。大きな岩をいくつも積み上げたデコボコの外観で、レンガ造りのような優雅さは無い。しかし街を守るという機能はじゅうぶんに果たしている。

「帰ってこれたな…。あれ、ルーファ?」

掴んでいたはずのルーファがいない。改めて見回すと、草むらに大の字で仰向けになっているルーファを発見した。
微動だにせず、彼女はまっすぐに空を見つめている。空はとても晴れ渡っていた。

「ルーファ、大丈夫か!?」

シエンが駆け寄ると、ルーファは視線だけをシエンに寄越し、大丈夫だよと一言告げてから再び空を見上げた。

「あー、気持ち良い。魔力が回復していくよ」

「そうか、良かった」

「ふふふっ、心配してくれたんだね。ありがとう」

「命の恩人だからな」

「これであおいこだよ」

ルーファは再びふふっと笑い、そして表情を引っ込め、言葉を続けた。

「空だ…。130年ぶりの、空。130年ぶりの…日差しが、大気が、風が、草木が、ああ…嬉しいな…」

ルーファはゆっくりと両手を空に向かって伸ばし、一筋の涙を流したのだった。
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