パーティーを追放されたら天使に出会いました

梅雨野十

文字の大きさ
3 / 4

しおりを挟む
「そろそろ起きたらどうだい、旅人くん?」

女の声が聞こえた。

「う…」

シエンはゆっくりと目を開いた。

どうやら自分は床に倒れていたようだ。

「おはよう、気分はどうだい?」

「さっきから誰だ…? ここは…?」

シエンはゆっくりと身体を起こしあたりを確認した。同時に自分の身に何が起こったのかを思い出す。

エドワードに突然の解雇宣告をされ、突然トラップが発動し落下。

天井を見上げると、そこには真っ暗な空洞がぽっかりと空いていた。じっと見ていると吸い込まれるような錯覚を覚え視線を逸らした。

しかし、逸らした先でシエンはさらに驚くことになる。

「…! あんた、は…?」

「やあ。まさかここに人がやってくるとはね」

そこにはボロボロの布服をまとっただけの、水色の髪の少女が立っていた。本来、端正な顔立ちなのだろうが、ずいぶんと痩せている。

何より異様なのは、首、手首、足首に、虹色に輝く輪と鎖がつながれていたことだ。その鎖は同じく虹色の大きな楔で壁と床に固定されていた。

「驚くのも無理はないよ。気絶から目が覚めたらこんな状態の私がにこやかに佇んでいるんだから」

「えっと、あんたは…」

「私はルーファ。よろしくね。君の名前は?」

「俺は、シエン」

「シエン、ずいぶん高いところから落ちてきたんだね。咄嗟に受け止めたけど、もしかして自殺志願者だったりする? 飛び降りを邪魔してしまったのなら謝るよ」

「受け止め…?」

「ああ。突然崩れ始めた天井と、ドカドカと落ちてくる岩、そして君。岩は弾いて砕いたし、砂埃はもっと巻き上げて散らした。で、君はふんわりと床に置いた」

「それはどうも…」

さっきから何を言っているんだろう、この子は。理解が追い付かず、シエンはずっと顔をしかめたままだ。

対してルーファはやんわりと浮かべた笑顔を崩さない。

「で、君はこんなとこで何してるの?」

「いや、それはこっちのセリフだ」

意識がはっきりとして状況がわかってきたところで、シエンにだんだんと怒りの感情が湧いてきた。

そうだ、自分は裏切られたのだ。エドワード達に裏切られたのだ。

「くそっ!エドワードのやつ…!カタリナも、ガリオンも、結局俺を使い捨てに…!」

「おやおや、あまり穏やかじゃないね。よければ事情を話してよ。聞き役くらいにはなれるからさ」

ルーファの一言に促されるように、シエンはどうしてこうなったのかを一気にまくし立てた。

話しているうちに悔し涙が溢れてくる。
同じ仲間だと思っていたのに。これから冒険が続くと思っていたのに。
まさかあんな形でクビを宣告されるなんて。

「そうかそうか。なるほど、よくわかったよ。話してくれてありがとうね、今はまだ混乱していてもおかしくないのに」

ルーファはふふっと小さく笑って続ける。

「でもよかったよ。トラップ発動で落下して死亡だなんて、いったい何のために冒険を続けてきたのかわからなくなる。もちろん、そういった人生の人間もたくさんいたし、これからもたくさんいるだろうけどね。君は私と出会ったことで、そんな終わりは回避できたわけだ。ふふふっ、幸運だ」

「あ、ああ。すまん、ギャーギャーしゃべっちまって。助けてくれたんだよな、ありがとう」

「どういたしまして。私は私で、130年ぶりに会話ができて嬉しいよ」

「…。なあ、やっぱあんたはふつうの人でも、魔女でもないんだよな?」

「そうだよ。私は天使。天界で好き勝手やっていたら捕まってしまってね。牢に250年入れられるという罰を受けているんだ」

「なんだよその気の遠くなる話…」

「あはは、人間にとってはわけがわからないよね。君、天使の友達とか、いないかい? 私たちは1個体がだいたい1000年から1200年存在するんだけど、それでも人生の2割以上の時間、ずっと罰を受け続けるのは、なんというか…非常に退屈」

「退屈って、そんな問題かよ」

「退屈なだけだよ。こんなところに幽閉されて早130年。まあ、半分は終わったかーと思うとこのままいけそうだけどね」

「なんかよくわかんねえけど、ルーファはまだここにいるんだよな?」

「出ていきたくても、この鎖が外れないからね」

「出たいのか? やっぱり」

「そうだね、うん、そう。やっぱり130年は長かったし、ここから120年も長い。うんざりしてる。それに…」

「それに?」

「さっき魔力をほとんど使いきっちゃったから、120年経つまでに死んじゃうんじゃないかな、私」

「ええっ!?」

さらりと言ってのけるルーファに、シエンは大慌てで近寄った。

「それってつまり、俺を助けたせいであんたが死ぬってことだろ!?」

「そんなこと思ってないよ。岩や埃が…って言ったでしょ?そこに偶然君が紛れてただけで、君のせいじゃない」

「それだって俺たちの探索が招いたトラップ発動だ。くそ、マジかよ…うん?」

「え?」

「…。それ、外せるぞ。多分」

「ええっ?」

初めてルーファの表情が変わった。

シエンはルーファのもとに歩み寄り、おもむろに彼女の手首に取り付けられた輪をつかんだ。

「ちょっとちょっと、大丈夫かい!? これ、触るのけっこう危ないはずなんだけど」

「全然平気!それより、俺のスキル・アンロックなら…これ…ほら、ここに魔法陣があるから、えーと…」

シエンは瞬きを止め、右手の人差し指を中空にゆっくりと突き刺すように動かした。

「ここと…ここ…最後に、ここ」

次の瞬間、パキンと甲高い金属音が響き、ルーファの右手首を拘束していた輪が外れた。

「うそぉっ!?」

思わず大きな声を上げるルーファだったが、シエンはまったく集中を切らさない。
ただ拘束の輪だけを見つめ、埋め込まれた魔法陣を見つけ出し、同じように人差し指で空をなぞる。

5分も経たないうちに、すべての拘束が外された。

「ふう…! よかった、上手くいった!」

「なんてこと…」

「俺の命の恩人を、こんなところで死なせるわけにはいかねえよ。天使の魔力回復ってどうやるんだ?飯食ったら戻るのか?」

「え? えーと、基本的にはお日様の光とか、森の大気とか、大海を口にすれば…」

「大海って、海のこと!? 俺見たことないけど、あれってめちゃくちゃしょっぱいんだろ? 天使はそんなの飲むのか」

「いや、そんなことより!!」

飄々としていたルーファだったが、先ほどから驚きの表情を浮かべたままだ。自由になった手足を交互に確認してから、シエンに顔を向ける。

「シエン、君、すごいよ! こんなの…! これは、アンロックなんかじゃない!」

「え? 違うのか?」

「これは、神の呪いを解除する、ディバインクラッシュ…! 信じられない…魔人貴族の血統ならともかく、人間がこんなスキルを持ち合わせているなんて…!」

ルーファは小さく首を振り、ゆっくりと両手の指を動かし、ふふっと笑った。
そしてシエンにぐっと顔を寄せ、両手をがっしりと掴んだ。

「シエン、力を貸してほしい。お礼に、私の力をあげる。一緒に神様の呪いを解きに行こう!」

「え? え?」

がっしりと両手を掴まれたシエンは、ただルーファのキラキラした瞳から目を逸らすことができないのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...