詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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あなたのことを

雨の日に

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「また、雨か………」


この街は、よく雨が降る。



時に激しく、時に優しく。



友人たちは嫌がっていたけれど、
僕は、雨は嫌いじゃない。


雨が降った日には決まって、
あの場所へ向かう。


学校を出て、
ひと一人分くらいの
細い路地裏を抜けたそこに、
それはある。



イチョウの木の並木道。



雨の日は、
イチョウの葉が幻想的に舞い落ちる。


水滴と共に押し花みたいに
地面に色鮮やかに彩られるその道は、
僕とあの人の大切な思い出の道。


あの人がよく、
雨の日に幼い僕を連れて
この道を通ったっけ。




『おいで。
    いいところに連れて行ってあげよう。』



僕は喜んでついて行った。




雨の日は、その道にひとけがない。


一番の狙い目は、夕方5時から夜にかけて。


オレンジ色の街灯に照らされた
落ち葉や木々が、
優しい風に踊らされて
くすぐったそうにざわめく。



僕はあの人の手を引いて、
あの人は片手に傘をさしていた。




『__________________』





不意に、子供の声が聞こえた気がした。


後ろを振り向いても、
傘を上げて前を見てみても、
子供の姿どころか、人の姿も見当たらない。



あの声は、一体なんだったのだろう。



その時、強い風が一瞬吹いて、
傘が飛ばされてしまった。


驚いて塞いだ目を開けると、
一瞬、大人と子供の影が見えた。


瞬きをすると、
その二つの影は
一瞬のうちに消えてしまったが。



なんとなく、伝わってきた。



安心感。



幼い頃の記憶を思い出すような、
そんな、
優しい雨に濡れるあたたかい気持ち。




あの人が僕に託してくれたもの。




今使ってるこの傘も、
実はあなたのものだったりする。


もう、どのくらいの月日が経ったのだろう。


僕がここまで大きくなるのに、
たくさんの時間がかかった。


きっとあの人にとっては、
刹那な時間なんだろう。



飛ばされた傘を拾い上げ、
頭の上に持って行った時にはもう、
雨はあがっていた。



それにもかかわらず傘をさして、
片手を下に繋いでる風にしてみたりして。




「…おいで。
   いいところに連れて行ってあげよう。」




なんてね。







『__________________』





また聞こえた子供の声と同時に、
指先があたたかくなったのを感じた。
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