詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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愛を育む

近距離で遠距離

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君は今、何をしているだろう。


この受話器の向こうで、
君はどんな顔をしているんだろう。


今の時代、
昔みたいに声も聞けない
手紙だけのやりとりは
無くなったけれど…。

その分君との距離が
近くなった錯覚が、
僕をより一層苦しめる。



声を聞いているのに。


君の声は、
こんなにも近くにあるのに。



こんなにも遠い。



電話は、手紙の時よりも、
辛くなる。


君の顔が見たい。


君に触れたい。


君を抱きしめたい。



声だけじゃ…足りないよ。



早く、本物の声を聞きたい。


早く、本物の声を聞かせてあげたい。



こうして毎日、
どちらかが眠りにつくまでずっと
話しているのにまだ足りなくて。


それでも会いに行けない距離が
僕達を切り離す。



こんなに、君のことが好きなのに。



会いたい。


君に会いたい。



衝動のままに動くには
抱えたものが多すぎて。


自由に飛び回るには
まだ未熟すぎて。




こんなに辛いなら一層の事…と、
考えたこともあった。


そのことで喧嘩をして、
何日も連絡をしないこともあった。




でも、どうしても、
君を忘れることなんて出来なくて。



君を嫌いになることが出来なくて。




僕からかけた電話に、
泣きそうな声で対応した君が
どうしようもなく恋しくて。



傍にいられたら…。



と、どれだけ苦しんだことか。


その後君は笑って許してくれて、
僕は安心するしかなかった。



いつも、欲しがるのは僕の方だ。



それがなんだか悔しくて、
少し意地の悪いことを言って
困らせてみたり。


それもちょっと、楽しかったりする。



君は本当に素直で、正直で、誠実だ。


きっとだから僕は、
離れていても手放したくない程、
君を好きになったんだろう。



____________________。






僕は大きな荷物を抱えて、
始発の電車に乗り込む。


ガタンゴトンと揺れる
車内のリズムに乗って、
僕の心臓も脈を打っていた。


電車を乗り継いで約5時間、
僕は懐かしい空気に包まれた。


改札口を出てふと顔を上げると、
そこには…。



「………あ…。」



持っていた荷物を地面に落とし、
お互い同時に駆け出した。


ずっと求めていた愛しい陰を、
自分の両腕でしっかりと抱きとめた。



存在を確認し合うかのように
何度も何度も名前を呼び合った後…




「「会いたかった…!!」」





これからはずっと…



いつまでも……。
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