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愛を育む
君の全てを僕に下さい
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付き合っている彼女の左腕に、
古い火傷のような跡を見つけた。
「…どうしたの?これ。」
「これは…。」
付き合ってもう結構経つけれど、
こんな跡があるなんて知らなかったし、
そんな話も、聞いたことがなかった。
その傷は、彼女が小さい頃に
お姉さんを庇ってできたものだと言う。
三人姉妹の次女である彼女は、
今となっては、
次女らしくお姉さんに甘えることがあるようだが、
昔は明るく元気なお姉さんに比べて、
静かで大人しく、我儘も満足に言えないような子供だったらしい。
ある日、お母さんがアイロンがけをしている近くでお姉さんと遊んでいた時のこと、
母親が作業をしていた机にぶつかり、熱くなったアイロンがお姉さんに落ちてきたのだ。
その時咄嗟にお姉さんを庇い、左腕一面に大火傷を負った。
直ぐ病院へ行ったが、それは消えることのないであろう傷として残った。
成長と共に小さくなってきているとはいえ、それはなかなかに痛々しく、考えただけでも自分の腕が痛くなる。
付き合う前から、ずっと気になっていた。
真夏にも長袖を着ている彼女のことを。
暑がりなくせに、どうしてそうも頑なに、長袖を貫き通していたのか。
彼女は別に傷のことは気にしているわけではないらしいが、彼女のお姉さんが、その傷を見るたびに、悲しそうな表情を見せるらしいので、彼女はそれを気にして、傷を隠し続けていた。
僕も、初めて見たが、それは彼女の優しさと勇敢さの証だと思った。
僕は彼女の左腕の傷に口付けてから、頬にそっと手を添えて、唇に深いキスをした。
「…綺麗だよ。」
初めて彼女とことに及ぼうとする夜に、
もっと彼女のことを好きになれた。
狂おしいほど愛おしい。
さっき上着を脱ぎたがらなかったのは、少しだけ、その傷を後ろめたく感じでしまっていたからだったのか。
「…これで嫌われたら、どうしようかと思った。」
そう言って、頬を僕の手にすり寄せて、微笑みつつも、涙を流した。
彼女の全てが愛おしいと思う。
その傷も、その心も、何もかもが綺麗で、
愛せずにはいられない感情が押し寄せる。
「…好きだよ。」
耳元でそう呟くと、
彼女の両手が、僕の背中へと伸びる。
彼女の一つ一つの行動がとてもいじらしくて、少し、もどかしくて。
僕は彼女を抱き寄せ、ゆっくり、ゆっくりと、幸福を噛み締めていた。
もう絶対に、離したくない。
君の全てが欲しい。
僕のものにしたい。
そして、僕の全てを、君に。
「…ねぇ、結婚しよう。」
「…え?」
休日の穏やかな朝、
僕の隣で目を覚ました君は、
僕の言葉に少し驚いた顔をしてから、
「はい」と、小さな声で答えてくれた。
古い火傷のような跡を見つけた。
「…どうしたの?これ。」
「これは…。」
付き合ってもう結構経つけれど、
こんな跡があるなんて知らなかったし、
そんな話も、聞いたことがなかった。
その傷は、彼女が小さい頃に
お姉さんを庇ってできたものだと言う。
三人姉妹の次女である彼女は、
今となっては、
次女らしくお姉さんに甘えることがあるようだが、
昔は明るく元気なお姉さんに比べて、
静かで大人しく、我儘も満足に言えないような子供だったらしい。
ある日、お母さんがアイロンがけをしている近くでお姉さんと遊んでいた時のこと、
母親が作業をしていた机にぶつかり、熱くなったアイロンがお姉さんに落ちてきたのだ。
その時咄嗟にお姉さんを庇い、左腕一面に大火傷を負った。
直ぐ病院へ行ったが、それは消えることのないであろう傷として残った。
成長と共に小さくなってきているとはいえ、それはなかなかに痛々しく、考えただけでも自分の腕が痛くなる。
付き合う前から、ずっと気になっていた。
真夏にも長袖を着ている彼女のことを。
暑がりなくせに、どうしてそうも頑なに、長袖を貫き通していたのか。
彼女は別に傷のことは気にしているわけではないらしいが、彼女のお姉さんが、その傷を見るたびに、悲しそうな表情を見せるらしいので、彼女はそれを気にして、傷を隠し続けていた。
僕も、初めて見たが、それは彼女の優しさと勇敢さの証だと思った。
僕は彼女の左腕の傷に口付けてから、頬にそっと手を添えて、唇に深いキスをした。
「…綺麗だよ。」
初めて彼女とことに及ぼうとする夜に、
もっと彼女のことを好きになれた。
狂おしいほど愛おしい。
さっき上着を脱ぎたがらなかったのは、少しだけ、その傷を後ろめたく感じでしまっていたからだったのか。
「…これで嫌われたら、どうしようかと思った。」
そう言って、頬を僕の手にすり寄せて、微笑みつつも、涙を流した。
彼女の全てが愛おしいと思う。
その傷も、その心も、何もかもが綺麗で、
愛せずにはいられない感情が押し寄せる。
「…好きだよ。」
耳元でそう呟くと、
彼女の両手が、僕の背中へと伸びる。
彼女の一つ一つの行動がとてもいじらしくて、少し、もどかしくて。
僕は彼女を抱き寄せ、ゆっくり、ゆっくりと、幸福を噛み締めていた。
もう絶対に、離したくない。
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そして、僕の全てを、君に。
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「…え?」
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