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第5話 ギルドの騒然
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目の前の記録水晶に表示され続ける、意味不明な文字列の羅列。
そして、懐に突如として現れた一枚の銀貨。
僕の脳は、完全にキャパシティオーバーを起こしていた。
≪銀貨ナイスパ!≫
≪俺もご祝儀投げとくぜ! 頑張れよ!≫
チャリン、チャリン。
無情にも、僕の革袋に硬貨が増えていく音がする。
投げ銭、というらしい。応援の証なのだろうか。嬉しい、という気持ちよりも、今はただただ恐怖と混乱が勝っていた。
「と、とにかく、ギルドに戻らないと……」
これ以上この森にいても、状況は何も変わらない。
僕は震える手で依頼品の月見草が入った袋を握りしめ、逃げるようにして迷いの森を後にした。背後では、あの黒い水晶が何も言わずに僕についてくる。今はもう、気味の悪いストーカーにしか見えなかった。
街に戻り、冒険者ギルドの扉の前に立つ。
いつもなら何も考えずに開けていた扉が、今は鉛のように重く感じられた。
この扉の向こうに、僕の行動を監視していた人たちが大勢いる。一体、どんな顔をして入ればいいんだ。
それでも、依頼を完了させなければ報酬はもらえない。
僕は意を決して、ギルドの扉を押し開けた。
その瞬間。
ガヤガヤとしていたギルドの中が、水を打ったように静まり返った。
まるで、時間が止まったかのように。
そして、今まで経験したことのない数の視線が、一斉に僕という一点に突き刺さる。
酒場のテーブルにいた屈強な戦士も、カウンターで談笑していた軽装の盗賊も、壁際で装備の手入れをしていた魔法使いも、全員が、全員、僕を見ていた。
彼らの視線は、僕と、僕の後ろを漂う記録水晶、そしてギルドの中央に設置された巨大な魔道具――情報掲示板――とを行ったり来たりしている。
情報掲示板には、見覚えのある森の景色と、呆然と立ち尽くす僕の姿がでかでかと映し出されていた。
ああ、やっぱり。
僕の最悪の予想は、見事に的中していた。
「あ、アルクさんっ!」
静寂を破ったのは、甲高い女性の声だった。
見ると、受付カウンターから、栗色のポニーテールを揺らしながらエリアナさんが血相を変えて飛び出してくる。その手には、僕が譲り受けた記録水晶の取扱説明書らしき羊皮紙が握られていた。
「あなた、一体何をしたんですか!? その記録水晶、ギルドの掲示板に直結するライブ配信モードになってますよ!?」
ライブ配信モード。
そんな恐ろしい機能が搭載されていたのか。ガラクタじゃなかったのか。
僕が青ざめていると、今度はギルドの奥から、恰幅のいい中年男性が姿を現した。このギルドの責任者、ギルドマスターのバランさんだ。
「君がアルク君か!」
バランさんは、その巨体に見合わぬ素早さで僕の目の前にやってくると、僕の肩をガシッと掴んだ。その力は、熊に捕まったかのようだった。
「君のスキルは、本当に『最適化』で間違いないのかね!? あんな神業、この道40年のワシでも聞いたことがないぞ! 薬草の最適個体を瞬時に見抜き、最短ルートで採取するなど、まるで伝説級の鑑定スキルと探索スキルを同時に発動させているかのようだった!」
ギルドマスターの興奮した声が、ギルドホール全体に響き渡る。
周囲の冒険者たちも、そうだそうだとばかりに頷いていた。
「お、僕は、ただ、スキルを使っただけで……」
僕にできるのは、か細い声でそう答えることだけだった。
ただスキルを使っただけで、こんな大騒ぎになっている。
今まで無能だと虐げられてきた僕と、今ここで神業だと絶賛されている僕。
その、あまりにも大きな認識のズレに、頭がクラクラしてきた。
僕の戸惑う様子は、もちろん巨大な掲示板にもリアルタイムで映し出されている。
すると、掲示板の隅に表示されていたコメント欄が、再び猛烈な勢いで流れ始めた。
≪無自覚キタ――(゚∀゚)――!!≫
≪本人は凄さが分かってないパターンかw 最高だな!≫
≪ギルマスもベタ褒めじゃねえかw≫
≪勇者レオニール、今頃どんな顔してんだろうなwww≫
レオニールの名前が出た瞬間、ギルド内の空気が少し変わった。
同情、好奇心、そして、かすかな嘲笑。
僕に向けられる視線の種類が、明らかに先ほどまでとは違っていた。
僕は、自分がとんでもない渦の中心に放り込まれてしまったことを、ようやく自覚した。
これは、夢じゃない。
僕の人生は、この記録水晶を手にした瞬間から、僕の意思とは関係なく、とんでもない方向へと転がり始めていたのだ。
そして、懐に突如として現れた一枚の銀貨。
僕の脳は、完全にキャパシティオーバーを起こしていた。
≪銀貨ナイスパ!≫
≪俺もご祝儀投げとくぜ! 頑張れよ!≫
チャリン、チャリン。
無情にも、僕の革袋に硬貨が増えていく音がする。
投げ銭、というらしい。応援の証なのだろうか。嬉しい、という気持ちよりも、今はただただ恐怖と混乱が勝っていた。
「と、とにかく、ギルドに戻らないと……」
これ以上この森にいても、状況は何も変わらない。
僕は震える手で依頼品の月見草が入った袋を握りしめ、逃げるようにして迷いの森を後にした。背後では、あの黒い水晶が何も言わずに僕についてくる。今はもう、気味の悪いストーカーにしか見えなかった。
街に戻り、冒険者ギルドの扉の前に立つ。
いつもなら何も考えずに開けていた扉が、今は鉛のように重く感じられた。
この扉の向こうに、僕の行動を監視していた人たちが大勢いる。一体、どんな顔をして入ればいいんだ。
それでも、依頼を完了させなければ報酬はもらえない。
僕は意を決して、ギルドの扉を押し開けた。
その瞬間。
ガヤガヤとしていたギルドの中が、水を打ったように静まり返った。
まるで、時間が止まったかのように。
そして、今まで経験したことのない数の視線が、一斉に僕という一点に突き刺さる。
酒場のテーブルにいた屈強な戦士も、カウンターで談笑していた軽装の盗賊も、壁際で装備の手入れをしていた魔法使いも、全員が、全員、僕を見ていた。
彼らの視線は、僕と、僕の後ろを漂う記録水晶、そしてギルドの中央に設置された巨大な魔道具――情報掲示板――とを行ったり来たりしている。
情報掲示板には、見覚えのある森の景色と、呆然と立ち尽くす僕の姿がでかでかと映し出されていた。
ああ、やっぱり。
僕の最悪の予想は、見事に的中していた。
「あ、アルクさんっ!」
静寂を破ったのは、甲高い女性の声だった。
見ると、受付カウンターから、栗色のポニーテールを揺らしながらエリアナさんが血相を変えて飛び出してくる。その手には、僕が譲り受けた記録水晶の取扱説明書らしき羊皮紙が握られていた。
「あなた、一体何をしたんですか!? その記録水晶、ギルドの掲示板に直結するライブ配信モードになってますよ!?」
ライブ配信モード。
そんな恐ろしい機能が搭載されていたのか。ガラクタじゃなかったのか。
僕が青ざめていると、今度はギルドの奥から、恰幅のいい中年男性が姿を現した。このギルドの責任者、ギルドマスターのバランさんだ。
「君がアルク君か!」
バランさんは、その巨体に見合わぬ素早さで僕の目の前にやってくると、僕の肩をガシッと掴んだ。その力は、熊に捕まったかのようだった。
「君のスキルは、本当に『最適化』で間違いないのかね!? あんな神業、この道40年のワシでも聞いたことがないぞ! 薬草の最適個体を瞬時に見抜き、最短ルートで採取するなど、まるで伝説級の鑑定スキルと探索スキルを同時に発動させているかのようだった!」
ギルドマスターの興奮した声が、ギルドホール全体に響き渡る。
周囲の冒険者たちも、そうだそうだとばかりに頷いていた。
「お、僕は、ただ、スキルを使っただけで……」
僕にできるのは、か細い声でそう答えることだけだった。
ただスキルを使っただけで、こんな大騒ぎになっている。
今まで無能だと虐げられてきた僕と、今ここで神業だと絶賛されている僕。
その、あまりにも大きな認識のズレに、頭がクラクラしてきた。
僕の戸惑う様子は、もちろん巨大な掲示板にもリアルタイムで映し出されている。
すると、掲示板の隅に表示されていたコメント欄が、再び猛烈な勢いで流れ始めた。
≪無自覚キタ――(゚∀゚)――!!≫
≪本人は凄さが分かってないパターンかw 最高だな!≫
≪ギルマスもベタ褒めじゃねえかw≫
≪勇者レオニール、今頃どんな顔してんだろうなwww≫
レオニールの名前が出た瞬間、ギルド内の空気が少し変わった。
同情、好奇心、そして、かすかな嘲笑。
僕に向けられる視線の種類が、明らかに先ほどまでとは違っていた。
僕は、自分がとんでもない渦の中心に放り込まれてしまったことを、ようやく自覚した。
これは、夢じゃない。
僕の人生は、この記録水晶を手にした瞬間から、僕の意思とは関係なく、とんでもない方向へと転がり始めていたのだ。
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