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カヲル

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 久々にゲームで完徹しました来年三十歳です。ゴブリンやスライムに投石し続けること一晩。最高にハイになりながらスナップを生かしたサイドスローで敵からの反撃が来る前に連射して結構な数の魔物を倒した。

 name :マサトシ
Lv       :6
job     :投擲師 
a-skill:投擲+2、歌唱+1
p-skill:スタミナタンク、コンダクター
ステータス
HP:21
MP:13
AT:26
DF:16
DX:25
SP:11

一晩戦い続けてレベルが四上がった。いや、四しか上がらなかったと言うべきか。流石に最下級の魔物だけだとそんなものかな。その甲斐あって最初の目標にしていた鎖帷子の長籠手を購入することができ、ATは26、DFが16に上がった。見た目もしっかり鎖を編んだ籠手に変化してるし満足だ。

「ねえ、ちょっといいかしら?」

 休憩スペースでステータス確認をしながらニヤニヤしていると目の前の席にプレイヤーが腰掛けながら声をかけてきた。鈍色の鎧を身に纏い、腰には剣を下げているから前衛の戦士系で間違いない。黒髪をポニーテールにしたちょんまげスタイルで、三頭身でもわかるくらいの美形だ。

「急に悪いわね」

「いや、構わないよ。それで?」

「アタシはカヲル。第二陣プレイヤーで職業 
騎士よ」

 騎士。あらゆるRPGでお馴染み、トップクラスの汎用性を誇るメジャー職業。剣盾鎧と装備品に隙がなく、ステータスも尖ったところがない。面白みがないといえばないけど、抜群の安定感を誇る花形だ。

「マサトシだ。同じく第二陣プレイヤーで職業は投擲師。楽しくマイナー職やってるよ」

 差し出された手を握り返すと、ニヤリと男臭い笑みを浮かべるカヲル。

「投擲師なのは知ってるわよ。さっきまでアタシも雑魚モンスター退治してたし。アタシが必死にインファイトしてる側で、石投げて魔物討伐してるんだから驚いたわ」

 どうやら俺同様完徹組らしい。とりあえず好きで石ばっかり投げてるわけじゃないことを説明しておく。一応投げようと思えば剣や槍も投げることはできる、らしい。勿論石とは比べ物にならない効果があるはずだが、値の張る装備品を投げられるほど懐に余裕はない。

「耐久値なんか設定されてないくせに投げたら消耗品扱いなんてひどい設定よね」

「全くだ。投擲師としてはせめて武器を投げたら拾えるようにしてほしい。まあ、そうするとゲームバランスがおかしくなるんだろうけどさ」

「そうねえ。投石だけでゴブリン倒せるんだもの。ショートソードやらアイアンスピアやらを無制限で投げられたら一躍花形に躍り出るわ。と、そんな話をしたいわけじゃないのよ」

 騎士カヲルからの申し出内容は、パーティーを組んで見ないかというお誘いだった。後衛を求めるなら、さっき俺がレベル上げをしていたフィールドには、魔術師っぽいプレイヤーや弓使いが複数いた。その中から敢えて投擲師なんていう微妙な職業である俺を選んだ理由。

「普通じゃないって、それだけで魅力じゃない?」

 だそうだ。まあオネエ言葉のこいつもなかなか普通じゃなさそうだけど、面白そうなのでパーティーを組んでみることにした。

「自分で言うのもなんだけど、アタシの喋り方に一切突っ込まないのね。普通いの一番に反応されるんだけど」

「本物のオネエなのかロールプレイなのかは知らないけど、どっちにしてもゲームの世界だから構わんよ。それに、オネエキャラは強キャラってのが鉄則だろう? 」

 俺の回答に肩をすくめるカヲル。見た目がいいだけに三頭身とはいえ一つ一つの仕草が絵になる。THFは現実の顔を基にしたアバターだから相当モテるとみた。イケメン撲滅!

「なんだか急に嫌な波動を感じるんだけど。まあいいわ。それじゃ早速依頼を受けに行きましょ。どれがいいかしらねえ」

「適正範囲ならどれでも。どう転んでも俺が後ろでカヲルが前だろ。まあ一人でも楽勝なゴブリンなんかは避けたいよな」

 「それじゃあこれなんかどうかしら。『巨大暴れ牛討伐』。第一陣の情報だとルーキーのための登龍門的な依頼ってとこね。ターゲットはヒュージバイソン。ま、名前でかいバイソンよ。推奨レベル5~8。推奨人数4~6人。どう?」

推奨人数の半分な点が気になるけどまあいいだろう。多少縛りがある方がやり甲斐があるってものだ。レベル上げは好きだけど、ボスは少しレベルが足りないくらいで挑むのがいい。ボス戦が楽勝で終わることに昔から違和感があるんだよな。敢えてギリギリの戦いを自作自演するのが幼い頃の俺ルールだった。

 THFでは一人=ソロ、二人組=デュオ、三人組=トリオ、四人組=カルテット、五人組=クインテット、そして最大数の六人組=セクステットと呼ばれる。カヲルからのデュオ結成申請を承諾すると、カヲルのステータスが開示された。

name :カヲル
Lv       :8
job     :騎士
a-skill:パワースラッシュ、盾撃
p-skill:※※※
HP:35
MP:11
AT:29
DF:31
DX:15
SP:7

プレイスタイルの肝になるp-skillは伏字になっている。別に教えてもいいんだけど、野良パーティー組んだときのための対策なんだろう。

「意外。投擲師ってバランス系なのね。マイナー職だから尖りに尖ったステータス構成なのかと思ってたわ」

「騎士なんてバランス型の最たるものだろ。まあSPの低さは仕方ない。なんならパッシブスキルも教えてやろうか?」

 俺の提案に一瞬考える表情を見せたカヲルだったが、すぐに首を横に振り、信頼関係を構築できないうちにお互いそれを教え合うべきではないと言い切った。カッコイイオネエだなこいつ。顔も中身もイケメンとか天然記念物か。


 

 
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