絶望のフェリス

笠市 莉子

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C級の絶望(1-22)

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「痛っ…」

痛みで目を覚ますとそこはカーテンで囲われたベッドの上だった。

清潔な白い張りのあるシーツに、医師の治療を受けられたのだと安心感を覚え、ランスは寝返りを打った。

…まずはしっかり体を休めて回復しないとな…

そんな言い訳をしながら、微睡の中に留まろうとするランスだったが、強烈な違和感を覚え飛び起きた。

下半身から管が繋がっており、排泄した液体がベッドの横の容器の中へと流れるようになっていた。

管ごと丁寧に包帯で包まれた自分の物に猛烈な不安を覚え、ランスは呼び出しのベルを何度も鳴らす。

すぐに研修中の医学生が飛んできて

「あっ!ランスロットさん。お目覚めになられたんですね。では医師を呼んでまいります。」

飛び出して言った。



医学生「おい!例のヤツが目を覚ましたってよ!」

医学生「えっ?マジかよ!」

医学生「死刑宣告見に行こーぜ。」
 
遠くでそんな声が響いていた。






暫くして、医師が姿を現し、施した手術の内容を語った。

ランス「えっ?」

医師「ですから、再建手術は成功しています。」

ランス「いや…?えっ?切除…?」

ランスは頭が真っ白になっていた。

医師「ああ。はい。この医学院に到着した時には3分の1は壊死しておりましたので、壊死した部分を切除し、その後、先の部分を再建する手術を行いました。長さはおよそ半分程の6センチ位かと…。今は術後で腫れておりますので、腫れが引くともう少しサイズダウンするかも知れませんが…。」

ランス「…」

ランスは余りのショックに言葉も出なかった。

医師「事後報告になってしまって申し訳ないのですが、今回の手術は大変貴重な症例でしたので、外科志望の学生達が私の執刀の見学をしております。それと、今後の技術発展のため魔導録画機で撮らせて頂いております。」

ランス「そんな…」

ショックが大きく、血の気がどんどんとひいていき、体が震える。
眼の前が徐々に真っ黒になり、医師の声もどんどん遠くなって、意識を手放した。
 

医学生「うわっ。悲惨~。」

医学生「ショックで気絶って、本当にあるんだな。」

医学生「6センチだってさ。子供にも負けるんじゃね?」

医学生「そりゃ、気失いたくもなるよな~。」

廊下に響く笑い声は暫く止まなかった。





ユージーン「おーい!生きてるか?」


ユージーンが眼の前で指を鳴らしたり、手を振ったりして、ランスの意識を確認している。


ランス「ユージーン!?良かった。夢だったのか…。」

ランスは眼の前にあるかつてのパーティメンバーの顔に安堵した。

ユージーン「夢?どんな?」

ランス「それが、散々だったよ。"絶望のフェリス"にボコボコにされるわ。貴族令嬢が俺のチン◯をスナッピングタートルに咬ませて、壊死して半分のサイズになるわ…医学生に晒されるわ…魔導録画されるわ…」

起き上がり、夢の内容をユージーンに語るうちに、どんどんと頭が覚醒していき、シーツや管が目に入り、動くと痛みを感じ、現実だと理解する。

ランス「夢じゃなっ……?」

ランスは泣きそうになった。

ユージーン「あー。そう落ち込むなよ。半分ありゃ出来ない訳じゃねぇし。それにお前さんはそこらの男よりか、遥かに経験してるじゃねぇか。この前の嬢ちゃんで、記念すべき777人目だったんだろ?これを期に女遊びやめちまってもいいんじゃねえか?」

ランス「…未遂なんだ。」

ユージーン「あー。それはなんだ。ご愁傷さま。」

ランス「…」

ユージーン「他に怪我は?」

ランス「擦り傷や打撲はポーションで治ってるみたいだな…。骨や歯の再生までは出来なかったみたいだ。」

ユージーン「俺も足やった時に言われたよ。中級ポーションでも肉をくっつけたりまでだって。骨までは上級ポーション以上。欠損に至ってはエリクサーか聖女様の祝福しかないってよ。」

ランス「!!!」

はっとランスは顔をあげた。
死にそうだったランスの顔色に赤みが戻っていた。

ユージーン「エリクサーはA級以上のダンジョンのドロップ品だぞ?」

ランス「聖女様の祝福の方だよ。」

ユージーン「聖都まで行くのか?」

ランス「ああ。肋骨がくっつけば出発する。今の状態じゃ長時間馬車に乗るのも難しいからな。」

ユージーン「治療費どうするんだ?」

ランス「ギルドで借金するさ。治療さえ済めば、お貴族様の愛人でもなんでも稼ぐ方法はあるさ。」

ユージーン「イケメンはいいねぇ。」

ランス「すまないな。今後は助けてやれそうにない。」

ユージーン「まぁ。俺も何か考えるさ。」

ランス「元気でな。」

ユージーン「お前こそ。」


ユージーンが帰って暫くすると夕食が運ばれてきた。

…しっかり体力つけないとな。

苦しくなるほど目一杯食べたら、心まで満たされたのか、廊下の方から聴こえる「今度はヤケ食いがはじまったぞ!」やら学生の笑い声も気にならなくなっていた。


 

ユージーン「クソがっ!」

医学院を出てしばらくすると、ユージーンは道端に落ちていた石を蹴飛ばした。

…あいつあのお嬢ちゃんを殺そうとしたこと、何にも言おうとしねぇ。

俺はあいつのせいで家族ごと死刑に合うかも知れないってのに、あいつは怪我を綺麗に治して、貴族様に可愛がってもらうだと!?

あのお嬢ちゃんを殺そうとした罪も、より高位の人間に泣きついて助けてもらうつもりか?

何が俺を助けてやれない?

お前が家族ごと巻き込みやがったクセに!

絶対許さねぇ。


ユージーンは腕輪の飾り文字をなぞった。

    
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