夏祭りで迷子になったら、将来の嫁を見つけたかもしれない

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夏祭りで迷子になったら、将来の嫁を見つけたかもしれない(オリジナル)

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一年に一度の夏祭り

わいわいと賑わう神社の境内

立ち並ぶ沢山の屋台

色とりどりの浴衣を纏った人達

金魚すくいに興じる人

射的で目当ての景品を落とそうとする人

食べ歩きをする人

沢山の人が、年に一度の夏祭りを楽しんでいた



 ねぇ、おかあさん。あれがたべたい!!

そう言って真っ赤なリンゴ飴を指差す、幼いこども

母親に買って貰ったリンゴ飴を舐め、にっこりと笑う

 甘くておいしいね!

にこにことしながらリンゴ飴を頬張るこどもは、いつの間にか母親と外はぐれてしまっていた



一直線に立ち並ぶ、沢山の真っ赤な鳥居

その両脇には光々と輝く屋台の光

紗のかかったような、何処か遠い場所に居るようにも見える、色とりどりの浴衣を纏ったモノ達

揺らめきながら押し合っている



リンゴ飴を舐めるこども

掴んでいたはずの母の浴衣の裾は何処にも見当たらない

 おかぁさん……?どこ……?

辺りを見回しても、母親の姿は見えなくて

こどもに気付いたモノ達が押し寄せてくる

 こっち!

そう、澄んだ声が聞こえ、こどもの腕を誰かが掴んだ

連れられるままに走り出す

ヒトゴミを抜けるとそこは静かな境内で

 だいじょうぶ?

そう聞かれて顔を上げると、真っ白なキツネのお面を被った女の子がいた

斜めに被ったお面の下から覗く、弧を描いた小さな口元

リンゴ飴みたいに真っ赤な浴衣

 彼方あっちから来た子でしょう?長く此方こっちにいちゃダメだよ。戻れなくなっちゃう。……あ。此処からなら戻れるよ

 ありがとう!キツネのおねぇちゃん!

こどもから返ってきた言葉に、女の子はポカンと小さく口を開け、そして大きな弧を描いた

 キツネのおねぇちゃん、か。ふふっ、そんな呼ばれ方したのは初めて

そうして少し弾んだ声で笑う

 ほら、お行き

女の子はこどもの背をそっと押した

 振り返っちゃダメだよ?振り返らないで、まっすぐに進んで。そうすれば還れるから!

そう、こどもの後ろから優しく声をかける

 またね、キツネのおねぇちゃん!

そんな言葉を残して、こどもは還っていった

 ……またね、かぁ。「また」が来ることないと思うけどな。あったら、その時はよろしくね、童男おぐな

呟かれた言葉がこどもに届くことはなく、優しく吹いた風だけがそれを聴いていた



***



10年前、この夏祭りに来たとき母親とはぐれて迷子になったなぁ、と昔を思い起こしながら彼は屋台の間を進む。いつの間にか、あのときと同じ、沢山の真っ赤な鳥居とその両脇に屋台が並ぶ不思議な場所に来ていた

 あれ?また迷子になったのかい?

あのときと同じ、澄んだ声が聞こえた

振り向けば、そこには白いキツネ面を斜めに被った、リンゴ飴みたいな赤い浴衣を着た女性

お面の下から覗く小さな口元は弧を描いている

 仕方のない子だね。戻る路みちは此方こっちだよ

そう言って女性は彼の手を引く

前と違うところをあげるなら、それは、彼が女性よりも背が高くなったことだろうか

 ほら、此処から戻れるよ。もう迷子にならないようにね!

彼女はそっと彼の背を押そうとした

彼はそれよりも早く振り向いて、キツネ面に手をかけた

カラン、と滑り落ちたお面の下から現れた、驚きを隠しきれないまぁるい紅の瞳。そして、美しい漆黒の髪

彼は右手を差し出しながら笑みを浮かべ言った

 君も一緒に行こう?



果たして彼女はその手を取ったのか?それは彼等の物語。また、別のお話ーーー



******



 もう、20年近く前のこと。母に連れられ初めて地元の夏祭りに参加したんだ。そこで俺は迷子になった。今では良い思い出だし、迷子になったから「今」がある。

 隣には白いキツネのお面を斜めに被り、弧を描く口元だけをみせている妻、そして母親に少しだけ似た赤みがかって見える黒い大きな瞳の7才になる娘。共に夏祭りを楽しみながら、彼は当時に思いを馳せた。

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