転生したらなぜか双子になってたけどそれはそれで便利だし気にせずこの素晴らしき世界を楽しみます

気まぐれ八咫烏

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水の精霊編

幽霊船だってさ

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 その後、仮眠したり交代で見張りしたり、合間に食事をしながら一日が過ぎ翌日の夜の事だ。





カーン!カーン!カーン!カーン!

「幽霊船がでた!来てくれ!!」



 あれ?デジャブかな?

つい最近も似たようなことがあったよーな。



 いや、違う!

 起きなきゃ!



 俺は慌てて甲板に出て操舵室へ向かった。



「どういう状況です?」



「昨日の幽霊船がまたついてきている!追い払ってくれ」



「分かりました」



 俺は左舷側、昨日と同じ場所へ向かった。



 すでにユイとリンダとレンがいた。

 海を見るとサーチライトに照らされた幽霊船が来ていた。

 まだ距離はあるが昨日よりも接近されているような気がする。



 船が動いてもサーチライトがちゃんと追いかけてくれるのでどうやら見張り台にはジーナとライカがいるのかな。



「さってと、昨日と同じように追い払うか」



「だね」



 俺は幽霊船に手を差し伸べると、



「【上級濁流渦潮メイルシュトローム】」

 魔力が一気に解放され魔法となって幽霊船周囲に巨大な渦が出来上がる。



 幽霊船は渦に巻き込まれて追いかけてくることが出来なくなった。



「よっし、任務完了!」



「それにしてもまた追いかけてくるなんてなかなかしつこいヤツだね」



「まずは報告しに操舵室に行こう」



 俺達は操舵室へ移動した。



「サーシェさん、昨日同様航行不能にしておきました」



「よくやった、ありがとう。しかし、昨日に引き続き今日も出てくるとはついてないな」



「しかし撃沈したわけではありません。昨日に引き続き今日も出てくるというのは偶然ではない気がします」



「確かにそうだ。かといってこの船の積み荷は聖水が多い。幽霊船が聖水を欲しがるとは考え難い。積み荷が欲しくてきている訳ではないとすると一度発見した獲物はどこまで追いかけてくるという事なのかもしれないな」



「もしそうだとすると、乗組員全員をあの世まで引っ張り込むまでついてくるということでしょうか」



「考えたくはないな。ただ、明日も現れるようであれば今度は撃退ではなく撃沈を目指さなくてはならない。できるか?」



「どうでしょうか。遠距離攻撃で効きそうな火の魔法を昨日は一度使いました。しかし燃えるには燃えていましたが航行は可能のようでした。ですので今度は幽霊船に乗り込んで内部から破壊していくか・・・ということになります」



「できればもう二度と会敵しなければいいのだが、もし明日も出てくるようだったらそういう対応を頼む」



「わかりました。では明日は我々のパーティーは乗り込んで内部の様子を見たうえで可能な限り破壊活動を行います。その間、この船の防衛力は下がりますが大丈夫ですか?」



「そうだな。できれば剣士二人は置いて行ってくれないか?代わりにレンを同行させる。あいつはこういう時連れて行くと役に立つはずだ。逆に相手が幽霊の場合剣士を連れて行っても戦力にならない可能性が高いと思うんだが、どうかな?」



「それは構いませんが、こちらの船が物理特化になりませんか?」



「問題ない。幽霊船が出ている最中にほかの魔物が出てくるとも考えずらいし、小物であればオーベルでなんとかなる」



「オーベルさんも戦力なんですか?」



「ああ、彼女はエルフだからな。それなり以上に魔法も使えるのだよ。君たちが使った上級魔法までは使えないがね」



「そうだったんですね」



 ありゃ、エロいからそういう目でしか見てなかったなんて言えない。

 ん?そういえばオーベルさんはエルフなのに胸がボンッ!ってあったぞ?あれ?エルフはヒンニューじゃなかったっけ?

 エリン先生もとびきり美人だったけど胸は薄かったのに。

 まぁ深く考えても分からないものは分からないか。



「では、明日は会敵しないことを祈りますがもし出会ったら撃退せずに接近させ、その後我々が幽霊船に移動し内部から攻撃という形で動きます」



「護衛以上の働きをしてくれた場合追加報酬も考えておくよ。だが、全滅されたら今後の護衛が不足する。十分気を付けてくれよ」



「分かりました」



 話がまとまったところで、俺達とレンはメインマストを登り監視台に来ていた。



「という訳で、明日もまた出てくるようなら今度はあっちの船に乗り移って内部から攻撃する方向になった」



「わ、私は幽霊なんて怖くないですけどこっちの防衛がんばる!」

ジーナ、実は怖かったのか。



「ジーナは昔から怖がりにゃ。好奇心旺盛なくせにこういうのだけはダメなんだにゃー」



「怖くなんてないって!ただ剣で切れない相手だとちょっと戸惑うというかなんというか……モニョモニョ」



「やっぱり怖いんだにゃ!」



「怖くないってば!リンダはいいわよ、聖銀のロングソードを持っているからアンデッド系も切れるんだから」



 ほほぅ、そんな武器だったのか。



「まぁまぁ、どちらにしてもジーナとリンダは護衛を頼むよ。ライカは大丈夫?」



「ボクは大丈夫だよ!アンデッドって言っても魔物であることには変わりないんだから魔法で燃やし尽くすね」

 こっちはこっちで過激ですこと。



「あ、ああ。がんばろうね」



「ところで、レンはアンデッド系に有効な手段があるの?」



「わたくしは精神のある相手には有効な召喚魔法が使えます。それに普通の火魔法も使えますよ。上級魔法は一度使うとかなり魔力を消費するので滅多に使えませんが、人族より魔力は多いので初級や中級の火魔法をどんどん使えますよ」



「レンは300歳を超える年齢だからもしかしてアンデッドの攻略法とか知ってる?」



「ゾンビ系やスケルトン系は火と聖なる光属性に弱いです。何度か戦ったこともありますが、だいたいは火で燃やし尽くせば再生しないみたいですね。他にも悪霊系だとわたしの精神攻撃が可能な召喚魔法で倒したこともあります。が、これは少々特殊なので参考にならないかもしれません。ケン様ユイ様ライカ様は光魔法は?」



「【照光シャイン】は得意だけど、攻撃系の魔法はないかも」



「いえ、悪霊系だとそれでもダメージが入ることもありますよ」



「そーなんだ!じゃああの船キラッキラに光輝く船に変えてやるってのもあり?」



「ありといえばありですが、眩しすぎて見えなくなると戦えませんよ?」



「そりゃそーだね」



「じゃあこんなのはどうかな?」



俺は剣を抜くと【照光シャイン】をかけた。



「らーいーとーせーばーあー!」



ブゥオン!って音はしないけど、光の剣ができあがった。



「おお、これはすごい。こんな光魔法の使い方は初めて見ました。この剣ならばダメージが入るアンデッドもいそうです」



「ほほぅ、そうなのか。じゃあ幽霊船に乗ったらこれを使おう」



俺は【照光シャイン】を消すと剣を鞘にしまった。



「他には【小回復ヒール】系統の魔法も使えるが、アンデッドに通用するかな?」



「どうでしょうか、それは試したことが無かったですので分かりません」



「そっか」

 有名なRPGゲームとかでは回復魔法でアンデッド系にダメージが入ったりしたんだが、この世界だと分からないか。

 ちなみにシリーズでアンデットとアンデッドと別枠なのがあったなぁ。あ、関係ないね。


「ところで、ケン様は人族ですよね?」



「ん? そうだけど?」



「魔族やハイエルフ並みに魔力を使いこなしていて、しかも独自の使い方に特化されているのでとても人族とは思えなくて」



「あー、たまたまね。赤ん坊のころからトレーニングしてたら結構魔力が上がってね。それに俺とユイは想像力豊かなんだ。いろんなイメージで魔法を使うからちょっと特殊かもね」

 前世日本のアニメマンガ文化をなめるなよ!



「ちょっとどころの話ではなさそうです」



「ははは」

 あまり詳しくは説明できないので苦笑いで流す



「ああ!事情がおありのところ無理にお聞きしてしまい申し訳ございませんでした。二度とこのようなことが無いようお仕置き頂ければ幸いです」



「いやいや、お仕置きだなんて。気にしないで」



「寛大なお言葉、有難き幸せです」



 言葉と裏腹にちょっと残念そうな顔してんじゃねーよぅ。

 こいつ、どんだけマゾなんだ。



「それはともかく、これからの見張りはどうするにゃ?」



「幽霊船が出て来たときはジーナとライカが見張りだったよね?だったら、ジーナは休憩に入って、俺とライカの番で再開しようか」



「オーケー」



 というわけで、俺とライカは見張り台に残り他の3人は降りて行った。



 俺は後方をサーチライトで照らしながら追撃が無いか確認していた。

 ライカは前方をサーチライトで照らして魔物が襲って来ないか確認している。



「さっきはああ言ったけど、ホントは幽霊とかちょっと怖いんだ……」



 ライカが突然呟いた。



「そうだよね。それでも燃やし尽くすなんて強気な発言が出来るあたりライカは強いよ」



「そう、なのかな?」



「ジーナなんて怖くないって虚勢を張るのが精いっぱいだったろ?」



「クスッ!あれは見てて嘘だってすぐ分かったよね」



「うんうん。ジーナには物理攻撃はめっぽう強いけど魔法の類はからっきしだからね。俺達だって魔法を使えなかったらもっと怖いと思ったかもしれないよ」



「確かにそうかもね。うん、そうだね。ボクたちには魔法がある!しかも火と光の2つもの属性が有効だと分かっている。だったら怖がっちゃいけないよね!」



「そうだよ!俺達がやれるだけのことをしてそれでもダメだったらみんなで逃げたらいい!」



「フフッそうだね。ケン、ありがとう」



「いいえの」



そんな話をしていてしばらくするとリンダがやってきた



「ライカ、交代するにゃ」



「うん、じゃあよろしくね」



 そういうとライカは見張り台から降りて行った。



「リンダは幽霊船とか怖くないの?」



「んー、そうだにゃ……別に怖くないにゃ!」



「それはやっぱり武器がそれだから?」



「まぁそれもあるにゃ。でも幽霊船にはお魚がいっぱいあるかもしれないと思ったら怖くないにゃ!」



 幽霊船にお魚がいっぱいなんて、聞いたこともない。

 けど、好きなものを考えることで不必要に怖がらなくなっているのはいいことか。



「お魚の幽霊だったりして!?」



「幽霊でも食べれるかにゃ?」



「ははは、さすがにそれは食べれないんじゃないかな」



「残念にゃー!」



「じゃあさっさと幽霊船を退治してこの依頼を終わらせて、お魚食べにいかなきゃね」



「さんせーーーいにゃ!」



 リンダの行動原理は8割「お魚食べたい」で占められてるんだろうな(笑)

 そんな話をしているとあっという間に時間が経ち、ユイがやってきた。



「交代の時間だよー」



「おう、ありがとー。んじゃあとよろしくねー」



 俺は見張り台から降りた。



 そして寝室に向かい、仮眠するのであった。



 翌日、昼間は食材提供(主にリンダのための魚)のため銛でキラーフィッシュを取っていた。

 するとキラーフィッシュに絡みつくようにクレセントオクトパスがくっついて獲れた。



 ちなみにクレセントオクトパスってのは体長50センチほどで大きな口があるタコだ。頭部が丸くなくいびつな形をしている。

 ぎりぎり三日月に見えなくもなくもなくもなくもないからそんな名前らしい。強引な気もするが。

 ちなみに、これでも魔物だそうだ。



 とはいえ、見た目的には普通のタコと大差ないように見えるから食べれるのでは?と聞いてみたところ、毒は無いらしいが、普通のタコですら食べたりはしないんだそうだ。

 前世日本では普通に食べてたけど、そういえばヨーロッパのほうでは全然食べないみたいだしそういう差があるのかな。

 見た目グロいから仕方ない。



 キラーフィッシュはいつものように捌いてレンに渡した。

 タコの捌き方はレンには分からないというので自分ですることにした。



 タコのぶつ切りを刺身醤油で……ってのもいいけど、この世界で生ものは怖い。

 という訳で、茹でる方向に考えを変える。



 まずは頭を鷲掴みにしてこいつの攻撃手段である大きな口に気を付けながら頭部の付け根をめくる。

 んで筋があるからそこをナイフで切り、ワタと墨袋を切り取る。

 手に絡みついてくる触手がうっとおしいのを我慢しつつ、大きな口がそのままだと危険なので口を切り落とし、目も切り落とす。

 そのあと、足の付け根に沿ってナイフで切り込みを入れ、カラストンビを取り去ると、その中から魔石が出て来た。

 一度水洗いして今度は塩を振りかけ揉みまくる。

 塩もみを十分にしたら水できれいに洗い流す。



 ちなみにここまでの作業、レンは興味深そうに見ていたがそれ以外の人は気持ち悪そうにしていた。

 そんな目で見るなら食べさせてやらないぞ!



 泥なんかもキレイに洗い流したので、今度は塩ゆでにする。

 足だけつけて戻して、足だけつけて戻してって数回すると足が丸くなっていくので、そうなったら全部をつけてそのまま茹でる。

 ある程度茹でたらひっくり返してさらに茹でる。



 十分茹で上がったら鍋からだして氷水に着ける。

 一気に冷やすことで茹で上がった赤い色がきれいになるからね。

 そのあと頭の皮を剥いで、適当に全部をぶつ切りにする。

 足は吸盤の横についている水かきを切り落としてぶつ切りにする。



 半分は酒と醤油と砂糖を入れて煮つけに、残りの半分はそのまま醤油で頂きます。



 料理しているところから見ていた人たちはちょっと引き気味でいたが、俺達は気にしない。

 久々のタコ料理に舌鼓を打った。



 そこへサーシェさんがやってきた。



「お、変わった料理だね。ひとつ頂いてもいいかい?」



「もちろんです。どうぞ」



「俺は煮つけを差し出した」



「お、こりゃなんとも旨い!少し甘辛い味付けに独特の歯ごたえと食感。なんともいえない風味と合わさって絶品だね!」



 なんて言うのを聞いた途端、他の引いていた人達まで一つ下さいとか言ってるの。

 まぁいいけど。



 結局、大物のタコだったのにすぐにみんなの口に入って無くなってしまった。

 丁度この時見張り当番だったユイとジーナに後で怒られてしまったが。



「タコの魔物がこんなにうまいとは思わなった。これは新しい商売の匂いがする!」

 なんてことをサーシェさんは言っていた。そういう発想をすること自体、やっぱり商人なんだなと思うけど、それは置いといてこの世界にもタコ料理が広まるといいな。



 今日も昼間は何事もなかった。

 食材を取ったりしつつもちゃんと見張りもして、あっという間に夜になった。



 夕食後の見張りはリンダと一緒だった。



「今日もいっぱいお魚食べれて満腹にゃー!」



「昼も夜も魚だったもんな。タコはどうだった?」



「あれも美味しかったにゃ!でも、お魚のほうが好きにゃ!」



「リンダにとってお魚以上はなさそうだな」



「にゃははは」



 笑ってごまかしているということは、図星なんだろな。





「ところで、前から少し気ににゃっていたんだけど」



「ん?なに?」



「ケンとユイがしているその首輪、たまに光ってるにょはなんでにゃ?」



「首輪って、このチョーカーのこと?」



「そうにゃ。その飾りのところがたまに光っていたにゃ。今は光ってにゃいけど」



 ウンディーネの水印が光る……?



 なんか思い出してきた。



 合図を送るからそのタイミングで魔力を送れとかなんとか。



 合図って光るのがそうだったのか。



 てか、自分で見えないところを光らせて合図になるかって話よ。本当。



 あー、次呼び出したらなんか言われそうだわー



 どうしよっかなぁ……



 ん?そういやあいつ、聖水を作り出せたんだっけ。

 アンデッド系には聖水が効くってのはもはや常識だよな。



 この辺の海域一帯全部を聖水にしてしまえば幽霊船なんて来ないんじゃないか?



 とすれば、一度呼び出して上手に言いくるめて聖水を出してもらおう!





 まずはリンダにも説明しとくか。



「そういえばリンダには話してなかったかな?このショーカーの印は水の精霊の印なんだよね」



「水の精霊様の印にゃ?」



「そうなんだよ。これに俺が魔力を込めると水の精霊を呼び出すことが出来る。ただし、俺以外には見えないらしいんだけどね」



「すごいにゃ!精霊様を呼び出せるにゃんて世界に誰もいにゃい能力にゃ!」



「そう……なのかな? まぁ召喚魔法自体魔族の専売特許みたいだし、珍しいのはそうかもね。んで、これからちょっと呼び出して幽霊船相手に何かできないか交渉してみる。俺が独り言を言っているように見えるかもしれないけど、精霊と話しているからね」



「わかったにゃ!」



 俺は先にリンダに対して釘を刺しておいた。

 そして手でチョーカーの水印を触り魔力をかるーく送る



 水印が光そして少しずつ大きくなると人の形を取りはじめ、そしてウンディーネが現れた。



『なによ?』



「ありゃ、やっぱり怒ってる?」



『何の事かしら?』



「いや、合図で魔力を送るって話のことだけど」



『べつに!』


うわぁ、案の定かなりご立腹の様子。



「いやさ、送ってくる合図が光るだけってのは分かりずらくてさ、さっきリンダに教わって初めて合図だって気づいたわけで」



『はぁ?』



「いや、悪かったよ。謝るよ。だからそんなに睨むなって」



『あんたね!私が苦労して苦労して苦労して書き上げたプログラムを、いざ起動しようとした時に無視しといて何よその態度!』



 俺はウンディーネを召喚したことを後悔した。

 せめてユイがいるときにすれば、被害1/2だったのにと。



「はい、おっしゃる通りでございます」



『なにがおっしゃる通りよ!あんたなんかね!!……!…………!!』



 その後誹謗中傷がひたすら受け続け、俺のHPが0になった時、交代のためにユイがやってきた。

 が、俺とウンディーネの間には入らないようにそっとリンダに話しかけた。



「交代にきたよ」(小声)



「にゃんかケンが水の精霊様と交渉するって話だったのに、どんどんケンが弱っていくにゃ。どうすればいいにゃ?」(小声)



「ああ、水の精霊との約束が守れずに怒られてるんだ。しばらく続きそうだからあとは引き受けるよ。リンダは休んでて」(小声)



「わかったにゃ。頑張るにゃ!」(小声)



「うん、ありがと」(小声)



 そんなやり取りのあと、リンダは見張り台から降りて行った。



 罵声を浴びせ続けるウンディーネに対し、ユイは一切関知せずと言った感じでまったく間に入ってこなかった。

 ユイの薄情者ぉ。



 その後15分ほど続いたウンディーネからの罵声の嵐はふとしたことで方向を変える。



『だからあんたは、ん? あんたもいたのね!そもそも二人もいるのに』

 ユイが見つかった。ってか今まで見つかってないほうが不思議なこの狭い空間。

 ユイを見つけるとウンディーネはさっきまでの勢いのままさらに二人に対して罵声を言い続けた



 だいたい俺とユイはこの世界に来てゆったりまったりした人生を送りたかったんだ。

 もちろん異世界ファンタジーは楽しもうと思っていたし、そのためには努力してきたこともある。



 ただ、それらはこうして水の精霊に怒られるためではない!



 と、声を大にして言いたい!

 言いたいけど言ったら終わらなさそうなので黙っている。



 それからしばらくは言いたい放題にさせていたけど、ウンディーネが言いたいだけ言ってワントーン下がった瞬間を俺達は見逃さなかった。



「「分かりました!お詫びに魔力を送らせて頂きます!」」



 と言った瞬間ユイが水印に触り、魔力をそーっと送った。



『ひゃっ!!』



「「足りませんでしたか?申し訳ありません!今度は美しいウンディーネ様の役に立てるようもう一度ちゃんと送らせて頂きます!」」



 と言いながらユイが水印に触り、魔力をそーっと送った。



『あぁ、ちょ……ああ!』



「「え? なんですって? こんなどうしようもない俺達を許してくださるのですか?」」



と言いながらユイが水印に触り、魔力をそーっと送った。



『許さな……ああっぁっぁ!』



 なんだこいつ。魔力を送るとエロい声だしやがる。おもしれー。



「「申し訳ありません!聞き取れませんでした。もう一度お聞かせいただけますか?」」



 と言いながらユイが魔力を送る。



『ゆ、ゆ、あああああぁぁぁあぅあぅあぅ』



 悶絶してんじゃねーよ。

 なんか見てると一度HPが0になった俺の精神力が回復しているような気がする(笑)



「「なんとおっしゃっているのですか?」」



 と言いながらユイが魔力を送る



『まっ……まって……あぁあぁああああああああ』



 俺の受けた精神的ダメージはこんなもんじゃないけど、流石にこれを続けるのは申し訳なくなってきた。

 という訳でいったん止める。



「「許していただけるのですね!?」」



 ユイが手を水印に持って行くのを目で追うウンディーネ



『まった!まった!!許す!許すからとめてーーー!』



「「とめて? 止めてください、でしょ?」」



 ユイが魔力を送る。



『あ、とめて……くだぁああああぁぁあぅあぅ』


「「いろいろひどいことをいってごめんなさいは?」」



 ぐったりし始めたウンディーネだけど、ユイが手を水印に持って行くのは目で追っている。



『ごっ、ごめん……なさい……』



「「そっか、じゃあ許してあげるよ」」

 といいつつ、満面のスマイルを送る。



『あ……あんた……たち……あk……ま……』

 それだけ言うと、ウンディーネは光輝きはじめ、逃げるように俺のチョーカーの水印へと戻った。



「このままでも大丈夫かな?」



「どうかなぁ……今の内に恨みつらみは無しって事で言質とっとく?」



「そのほうがいいかも」



 俺達は独り言をつぶやく。
 


 再度召喚なう。



 ユイが今度は召喚目当てで水印に魔力を送る。

 水印が光そして少しずつ大きくなると人の形を取りはじめ、そしてウンディーネが現れた。



『ぎゃーーー!もう許してーーーー!!』



「「まぁ、落ち着けって」」



『……ひどいこと……しない?』

 ウンディーネが涙目になりながら聞いてくる。



「しないよ。まぁお互いちょっとしたすれ違いがあって傷つけあってしまったけど、水に流そうって話じゃないか」



『そ、そうなの?』



「そうだろう。だからこれからはまた仲良くやろうぜ。友達だろ?」

 いつから友達になったのかは分からないが、その言葉を聞いてほっとした表情のウンディーネさん。



『そうよね!私達友達だもんね!あなた達の魔力を利用しようとした私が悪かったわ。でもこれからは無理しない程度にお願いすることにするわ』

 意外にも純粋な笑顔を見せるウンディーネ。

 こういう一面もあったのか。まぁ、次に会った時にはいつも通りに戻ってそうだけど。



「ところでさ、俺達今幽霊船に狙われててさ」



『ゆ……幽霊船??』

あれ?急にキョドりはじめた。



「そうなんだよ。幽霊船を撃退しなきゃいけないんだがなんかアドバイスとかない?」



『近寄らない』



「そうじゃなくて。向こうから近づいてくるんだよね」



『逃げる』



「うん、今逃げてるんだ。けどずっと追いかけてくるならもう倒しちゃおうって話よ」



『わ……私は何もできないわよ!』



「ああ、そうか。世界に7体しかいない精霊のそれも水を司るウンディーネ様は幽霊が怖いのか」



『怖いわけないでしょ!!私の周りには絶対近寄れないし!』



「じゃあ幽霊船の中で召喚したらどうなるの?」



『ダメーーーー!!!ぜっっったいに!!!ダメだからね!!!!』



 ああ、本気で怖がってる。さすがにこれはできないか。

 いざ幽霊船で何かあったらウンディーネを召喚して聖水でなんとかならないかなーと思っていたけど、ここまで嫌がるのに無理やりはまずいか。



「わかった、わかったよ。じゃあせめてここに聖水を入れて行ってくれないか?俺達が幽霊船に突入するときに振りかけてから行くから」

 俺は魔法で壺をつくり指さした。



『まぁそのくらいだったら』

 そういうとウンディーネが壺に触れるといつの間にか壺には水がいっぱいになっていた。



「うん、ありがとう」



『いいえ、このくらいならお安い御用よ。じゃあ私はそろそろ戻らないといけないから。じゃあね!』

 そういうとウンディーネは光輝きはじめチョーカーの飾りへと戻っていった。



 俺は壺のフタをすると鞄にしまった。

 するとジーナがやってきた。



「そろそろ交代の時間だけど……あれ?」



「ああ、ちょっといろいろあってリンダに代わって俺が今までいたんだ。交代してくれる?」

 そうなのだ。ウンディーネの罵詈雑言の最中だったから交代できなかったのだ。



「そっか、じゃあ交代するね」

 そういって俺はジーナと交代して休憩しようとメインマストを降りた。


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