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水の精霊編
明らかに食べている人の体積より食べたものの体積が上回っている!
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「小柄なわりにはたくさん食べるのじゃな」
と声を掛けられたのはBBQを楽しみみんな満腹になってきたところだった。
せめて焼いてしまっている肉はちゃんと食べておこうと思いながらも満腹になってきた為食べるスピードが落ちて来たところに声を掛けられた。
とはいえ、目の前には湖、焼き台を挟んで後ろにはコモドリザードの山。尻尾や魔石は全部回収したとはいえ、素材や肉は全部持ち帰れないためどうしたものかと考えつつもまずは食べれるだけ肉を食べようとBBQを開始したのだ。
そんな場所なので人がおいそれと近寄れるような場所ではないし魔物の類は落雷魔法を使って以降この周辺には一匹たりともいなくなっていた。それは【索敵】でも確認したし、レンの感覚でもそうだった。ということは誰かに声を掛けれるような環境ではない。
にも拘わらず声を掛けて来たという事は俺達の認識外にいた何者か、という事になる。
声のしたほうに目を向けると上空にバッサバッサと翼をはためかせながらこちらを見ている竜の姿があった。
羽は確かにバッサバッサと動いているが、それはイメージの擬音で実際には音は鳴っていない。
それに上空でそんなにバッサバッサされると真下にいる俺達の所にはその風が届きそうなものだけど実際にはその存在に気付かなかったようにまったく風は届いてこない。
これでどうやって飛んでるんだって話だ。
ファンタジーの不思議パワーである魔力でどうにかなってるんだろうなぁ、などと考えていたが話しかけられた内容の返答へと考えを移行。
そこまで大食いだろうかと考えた。が、竜の視線は俺達が焼いている肉だけではなくその横にある大量のコモドリザードの死体が山のようになっているところを見ているのに気付いた。
「これを全部食べるわけじゃないよ。俺達は一匹分も食べきれなかったくらいだしね。そういえばさっきは情報をくれてありがとう。おかげでまとめていっぱい狩ることができたよ」
竜のおかげで見つけることが出来た、というわけではないけども情報通りの場所で目標を発見できたので一応は礼を言っておく。
「ほんの気まぐれじゃから気にするな。それよりも人族の食事は焼いてから食べるのであったな。そのままかぶりつけばいいものを面倒な事をするのじゃな」
そりゃまぁ、生で食べるのは衛生上よくないじゃん。なんか寄生虫とかいても嫌だし。
確かに前世日本であれば生で食べられるものはたくさんあったけど、それでも日本くらいなものだ。海外だと怖くて生食は無理だ。中には野菜ですら洗剤でしっかり洗わないとまともに食べることが出来ない、なんて話のある国もあるくらいだ。
それはおいといても、異世界ファンタジー世界に前世日本を上回るだけの衛生概念があるわけでもなく、前世にはなかったものを食べるんだから最低でも火は通しておきたい。それに調理したほうが美味しいのも確かだしね。
「このほうが美味しいんだよ、知らなかった? なんなら、少し食べてみる?」
調理といっても味付けは塩胡椒くらいしかしていないけど。
そう聞いてみると竜は嬉しそうな顔をしたかと思うと、コモドリザードの横の岩場に着地した。
「それならば一度試してみてやろうかの」
なんだろう。相変わらず物言いは上からだけど、おやつを貰える子犬みたいな顔してる。
「じゃあちょっと待っててね」
そういうと俺とユイで肉を焼く。普通に塩胡椒でやくのと合わせて、そういえば味噌くらいなら持っていたことを思い出し、一部はみそ焼きにしてみた。
これは大きすぎるだろうと思われた焼き台だったが、竜のサイズを考えるとこれでも小さいくらいで焼き台全面を使ってガンガン焼いた。
ちなみにスピカはさっきから微動だにしていない。あぁ、気絶しているのか。
かわいそうだからそっとしておいてあげよう。
レンは驚いてはいたものの、俺達のやりとりを見て焼くのを一緒に手伝ってくれた。
「ゆっくり焼くと香ばしいいい匂いがするんじゃな」
俺達の作業を興味深そうに見ていた竜がなんとなく呟いた。
ゆっくり焼いているつもりはないけど、よく考えたら竜が肉を焼く姿ってどう考えても火属性のブレスかなんかで消し炭にするイメージしか出てこない。それだと匂いも何もないだろうな。
「そうだね、火力が強すぎると中まで火が通らいまま外は焦げちゃうし、弱すぎると火が通り過ぎてだんだん硬くなる。焼き加減って意外と難しいんだよ?」
こんな説明をして竜が理解するのかということもあったけど、一応焼きながら説明してみた。
そろそろいい焼き具合になってきたな、そう思ったけどよく考えたらどうやって食べさせればいいのだろう。
「ねぇ、だいぶ出来上がってきたんだけどどうやって食べさせればいいのかな?」
「そうじゃな。これでどうじゃ?」
と言い終わる前に竜の体全体が発光するとだんだん光が小さくなり俺達と変わらないサイズになったら光が収まった。
そこに現れたのは蒼い瞳の男の子。
だけど頭には小さなツノが生えてるし、首元から鱗っぽいものが見えるし背中には羽、お尻には尻尾。
白い薄手の布を羽織っているだけのような服装はどっから出て来たんだろう。
ちゃんと羽と尻尾のところには切れ込みがあるのか。
いろいろ謎現象、さすがファンタジーだ!
「ふむ、人族に化けるのは初めてじゃが、どうじゃ?」
変身したのか。
「うーん、人族はツノとか羽とか尻尾はないんだけど。まぁご飯食べるだけだから問題ないか」
「ん? そういわれて見ればお主には無いのぉ。人族にはなかったのか、失敗した」
「そんな事より、お肉焼けたよ? 食べてごらんよ」
「おお、そうじゃった。ではさっそく頂くとするかの」
そういうと人に変身した竜は俺達の焼いた肉を食べ始めた。
「旨い! これは旨いの! このトカゲは食べたことはあるが焼くとこんなに旨くなるとはな!」
言い終わる前にもう次の肉を口に含んでいる。
よっぽど気に入ったのかな。でも気に入ってもらえて作った甲斐があるってもんだ。
竜はどんどん焼けた肉を食べて行くのだった。
おかしい。
絶対におかしい。
異世界に転生してから以前の世界には無いものをいろいろ見て来た。
それは魔物であったり魔法であったり。でもそれは、この世界にはあり得るものなんだと思えば納得できなくもなかったし、ものによっては感動したりもした。
しかし、今見ている光景はそれらとは違う。
焼いた肉は体長3メートル位はあるコモドリザードだ。それも解体して食用の肉としてとれた分だけでもかなりの量がある。
それなのに目の前で食べている竜は人型に変身して身長だって俺と同じ位のサイズなのに、コモドリザード肉をもう3匹分は平らげている。
明らかに食べている人の体積より食べたものの体積が上回っている!!!
いくら異世界とはいえ物理法則無視しすぎだろ!!
「なんじゃ? お主も食べたくなったのか? モグモグ」
たくさん焼いたはずの肉がこの体のどこに収まっているのかさっぱり分からずジロジロ見ていたら聞かれた。
「いや、よく食べるなぁと思って」
正直な感想だ。
「もとがアレだし深く考えないほういいよ」
後ろからそっと小声で声を掛けて来たユイに同意。
「ふぅ。なかなかの美味じゃった。人族はいつもこんな旨いものを食べておったとは知らなんだの」
「ところで、君は竜なんだよね?」
「なんじゃ?あたりまえじゃろうに。それがどうした?」
「竜って人化とかできるんだね」
「どうじゃろうな。皆ができるとは思わんがの」
「そうなんだ。ところで、これからどうするの?」
「どうしようかの。おぬし達がトカゲ相手に力尽きていたら食ってやろうかと思って来てみただけじゃからのぉ」
その言葉を聞いてスピカの表情が青ざめた。
「じゃがまさかこの短時間に無傷で全滅させているというのは些か驚いたのぉ」
「コモドリザードの上位種でも倒せるって言ってくれたじゃない?」
「まぁ、相手が一匹じゃったらの。しかしこの辺にはうじゃうじゃいたはずじゃから無事ではないだろうと思っていたのじゃよ」
こんのショタジジイめ。
こいつも退治してやろうか。
そんな俺の気分を察したレンが俺の袖をつかみ首を横に振った。
「まぁ殲滅魔法は得意だから相手の数が多くいるのは問題なかったよ。それで、俺達を食べるのはどうする? もちろん全力で抵抗させてもらうよ?」
「いやいや、旨い飯を食わせてもらったお主達を食う程恩知らずではないぞ。まぁ食われたいというならば食ってやってもよいがな。実は人族や魔族はまだ食べたことがないのじゃ」
「食べられたくはないからそれはなしね。で、おうちに帰るの?」
「おうち? ああ、巣のことか。ワシはもう一人前じゃから巣からは飛び出ておる。適当に興味を魅かれたものを見て、食って、力を付ける以外にはすることがないのじゃ」
まぁ、竜ってそんなもんなのかな?
「じゃあ俺達と一緒に来る? 俺達は今世界中にある精霊の神殿を回っているんだ。まだ水の神殿しか行けてないけどこれから他の神殿を回っていくよ。一緒に行けば珍しいものとかも見れるかもしれないよ?」
「……いく」
決断早っ!
俺の提案に何言ってるんだ?みたいな顔のスピカが竜の返答を聞いてさらに驚いていた。
スピカ、そろそろ顔芸で食っていけるかも。
「ただし、人にはルールがあるから守ってもらうことにはなる。それでもいい?」
「構わぬぞ。人族の暮らしとやらにも興味はあったのでな」
「分かった。じゃあこれからよろしくね。俺はケン。こっちがユイ。そっちで座り込んでいるのがスピカ。こっちの魔族はレンだよ」
顔芸人は座り込んでいるというより、腰を抜かしているのだがそこは敢えて触れない。
「ワシは風水竜じゃ。その名の通り風と水を司る竜の因子を持っておる」
「なるほど、で名前は?」
「名前は特にないの。竜同士だと念話のパスがあるから呼び合うこともなかったしの」
「じゃあつけてあげる!うーんと、……ドラちゃん!」
というと、なぜかレンとスピカは、え?って表情になる。
「まぁなんでもええんじゃが、どうやらあっちの童たちの反応をみるとあまりよくなさそうじゃの」
「ご主人様、いくらなんでもそれはちょっと……」
「えー? ドラゴンの名前って言ったらドラちゃんだろ。他にはドランとかドランゴとか。あ!いっそドラエモンってのはどお?」
ほら、エモンもちゃんとカタカナ表記だから著作権とか大丈夫だろ。
「センスなさすぎー」
スピカまで抗議の声を上げる
「だったら……ジャスパ。どう?」
「あれ? 普通だ。どうしたのご主人様」
普通とは何事か!
「ほら、風水竜っていってたろ?水は青で風は緑だとすると青緑ってジャスパーグリーンかなって。そこからとったんだけどどうかな?瞳の色も青緑っぽいしね」
「ふむ、ではそう呼ぶがよい。して、これからどうするのじゃ?」
「お腹もいっぱいになったことだし、そろそろ町に戻ろうかと思っていたんだけどね」
「なんじゃ、何か問題でもあるのか?」
俺達の視線がコモドドラゴンの山へと向く。
「これがなんじゃ??」
「これ、どうしようか決めてなくてさ。とりあえずクエスト確認用の尻尾と売れる魔石は取ったんだけど、肉は食用に、皮は素材になるから売れるんだよね。だけど持ちきれなくてどうしたものかと考えていたんだ。とりあえず食べれるだけ食べたけどね」
「なんじゃそんなことか。ちと待っておれ」
そういうと、ジャスパは竜化するとコモドリザードをどんどん丸飲みにしていった。
うん、まぁ持ち帰れないから食べてもらってもいいんだけど、さ。
さっきの話聞いて解決策は自分が全部食べるってことかい。
おかしい。
あきらかに丸飲みにしたジェスパよりもコモドリザードのほうが体積が大きい。
こいつの消化器官はどうなってるんだ。
しかし体長3メートルから大きいもので5メートル近くもあるコモドリザードを竜が丸飲みにしていく様はすごい迫力だった。
なぜ過去形なのかというと、その様子を呆気に取られて見ているうちに全部終わりそのあと再度人化していたからだ。
「終わったぞ? 行かぬのか?」
「あ、ああ。じゃあ出発しようか。スピカこっちにおいで。【認識疎外】。んじゃ行くとしよう。帰りは魔物を見つけたら適当に狩りながらね」
そう言って出発したが町に戻るまで一匹の魔物とも遭遇しなかった。
不思議に思っていると、ジェスパから驚きの真相が聞けた。
魔物は竜を恐れて近づかない。
らしい。
もちろん、竜の力を感じ取ることのできない鈍感な魔物には効果が無いし、相手の力なんか関係なしで襲ってくる魔物も存在する。それに竜よりも大きな力を持つ魔物だって存在するらしい。
もしかして魔物エンカウント0のチートを手に入れたかと思ったけどそうではないらしい。
ただ、連れて歩くとエンカウント減少にはなるらしいのは確かだ。
もっとも、それはジェスパが普通にしている状態であって気配を殺せばそれに気付かず魔物は襲ってくるそうなので特定の魔物をハントする時には邪魔になったりしないらしい。
いやはや、竜ってのは便利なんだな。
こうして町に着いたのだが、町には入らず俺達の拠点である船へとたどり着いたのは陽が暮れてからのことだった。
と声を掛けられたのはBBQを楽しみみんな満腹になってきたところだった。
せめて焼いてしまっている肉はちゃんと食べておこうと思いながらも満腹になってきた為食べるスピードが落ちて来たところに声を掛けられた。
とはいえ、目の前には湖、焼き台を挟んで後ろにはコモドリザードの山。尻尾や魔石は全部回収したとはいえ、素材や肉は全部持ち帰れないためどうしたものかと考えつつもまずは食べれるだけ肉を食べようとBBQを開始したのだ。
そんな場所なので人がおいそれと近寄れるような場所ではないし魔物の類は落雷魔法を使って以降この周辺には一匹たりともいなくなっていた。それは【索敵】でも確認したし、レンの感覚でもそうだった。ということは誰かに声を掛けれるような環境ではない。
にも拘わらず声を掛けて来たという事は俺達の認識外にいた何者か、という事になる。
声のしたほうに目を向けると上空にバッサバッサと翼をはためかせながらこちらを見ている竜の姿があった。
羽は確かにバッサバッサと動いているが、それはイメージの擬音で実際には音は鳴っていない。
それに上空でそんなにバッサバッサされると真下にいる俺達の所にはその風が届きそうなものだけど実際にはその存在に気付かなかったようにまったく風は届いてこない。
これでどうやって飛んでるんだって話だ。
ファンタジーの不思議パワーである魔力でどうにかなってるんだろうなぁ、などと考えていたが話しかけられた内容の返答へと考えを移行。
そこまで大食いだろうかと考えた。が、竜の視線は俺達が焼いている肉だけではなくその横にある大量のコモドリザードの死体が山のようになっているところを見ているのに気付いた。
「これを全部食べるわけじゃないよ。俺達は一匹分も食べきれなかったくらいだしね。そういえばさっきは情報をくれてありがとう。おかげでまとめていっぱい狩ることができたよ」
竜のおかげで見つけることが出来た、というわけではないけども情報通りの場所で目標を発見できたので一応は礼を言っておく。
「ほんの気まぐれじゃから気にするな。それよりも人族の食事は焼いてから食べるのであったな。そのままかぶりつけばいいものを面倒な事をするのじゃな」
そりゃまぁ、生で食べるのは衛生上よくないじゃん。なんか寄生虫とかいても嫌だし。
確かに前世日本であれば生で食べられるものはたくさんあったけど、それでも日本くらいなものだ。海外だと怖くて生食は無理だ。中には野菜ですら洗剤でしっかり洗わないとまともに食べることが出来ない、なんて話のある国もあるくらいだ。
それはおいといても、異世界ファンタジー世界に前世日本を上回るだけの衛生概念があるわけでもなく、前世にはなかったものを食べるんだから最低でも火は通しておきたい。それに調理したほうが美味しいのも確かだしね。
「このほうが美味しいんだよ、知らなかった? なんなら、少し食べてみる?」
調理といっても味付けは塩胡椒くらいしかしていないけど。
そう聞いてみると竜は嬉しそうな顔をしたかと思うと、コモドリザードの横の岩場に着地した。
「それならば一度試してみてやろうかの」
なんだろう。相変わらず物言いは上からだけど、おやつを貰える子犬みたいな顔してる。
「じゃあちょっと待っててね」
そういうと俺とユイで肉を焼く。普通に塩胡椒でやくのと合わせて、そういえば味噌くらいなら持っていたことを思い出し、一部はみそ焼きにしてみた。
これは大きすぎるだろうと思われた焼き台だったが、竜のサイズを考えるとこれでも小さいくらいで焼き台全面を使ってガンガン焼いた。
ちなみにスピカはさっきから微動だにしていない。あぁ、気絶しているのか。
かわいそうだからそっとしておいてあげよう。
レンは驚いてはいたものの、俺達のやりとりを見て焼くのを一緒に手伝ってくれた。
「ゆっくり焼くと香ばしいいい匂いがするんじゃな」
俺達の作業を興味深そうに見ていた竜がなんとなく呟いた。
ゆっくり焼いているつもりはないけど、よく考えたら竜が肉を焼く姿ってどう考えても火属性のブレスかなんかで消し炭にするイメージしか出てこない。それだと匂いも何もないだろうな。
「そうだね、火力が強すぎると中まで火が通らいまま外は焦げちゃうし、弱すぎると火が通り過ぎてだんだん硬くなる。焼き加減って意外と難しいんだよ?」
こんな説明をして竜が理解するのかということもあったけど、一応焼きながら説明してみた。
そろそろいい焼き具合になってきたな、そう思ったけどよく考えたらどうやって食べさせればいいのだろう。
「ねぇ、だいぶ出来上がってきたんだけどどうやって食べさせればいいのかな?」
「そうじゃな。これでどうじゃ?」
と言い終わる前に竜の体全体が発光するとだんだん光が小さくなり俺達と変わらないサイズになったら光が収まった。
そこに現れたのは蒼い瞳の男の子。
だけど頭には小さなツノが生えてるし、首元から鱗っぽいものが見えるし背中には羽、お尻には尻尾。
白い薄手の布を羽織っているだけのような服装はどっから出て来たんだろう。
ちゃんと羽と尻尾のところには切れ込みがあるのか。
いろいろ謎現象、さすがファンタジーだ!
「ふむ、人族に化けるのは初めてじゃが、どうじゃ?」
変身したのか。
「うーん、人族はツノとか羽とか尻尾はないんだけど。まぁご飯食べるだけだから問題ないか」
「ん? そういわれて見ればお主には無いのぉ。人族にはなかったのか、失敗した」
「そんな事より、お肉焼けたよ? 食べてごらんよ」
「おお、そうじゃった。ではさっそく頂くとするかの」
そういうと人に変身した竜は俺達の焼いた肉を食べ始めた。
「旨い! これは旨いの! このトカゲは食べたことはあるが焼くとこんなに旨くなるとはな!」
言い終わる前にもう次の肉を口に含んでいる。
よっぽど気に入ったのかな。でも気に入ってもらえて作った甲斐があるってもんだ。
竜はどんどん焼けた肉を食べて行くのだった。
おかしい。
絶対におかしい。
異世界に転生してから以前の世界には無いものをいろいろ見て来た。
それは魔物であったり魔法であったり。でもそれは、この世界にはあり得るものなんだと思えば納得できなくもなかったし、ものによっては感動したりもした。
しかし、今見ている光景はそれらとは違う。
焼いた肉は体長3メートル位はあるコモドリザードだ。それも解体して食用の肉としてとれた分だけでもかなりの量がある。
それなのに目の前で食べている竜は人型に変身して身長だって俺と同じ位のサイズなのに、コモドリザード肉をもう3匹分は平らげている。
明らかに食べている人の体積より食べたものの体積が上回っている!!!
いくら異世界とはいえ物理法則無視しすぎだろ!!
「なんじゃ? お主も食べたくなったのか? モグモグ」
たくさん焼いたはずの肉がこの体のどこに収まっているのかさっぱり分からずジロジロ見ていたら聞かれた。
「いや、よく食べるなぁと思って」
正直な感想だ。
「もとがアレだし深く考えないほういいよ」
後ろからそっと小声で声を掛けて来たユイに同意。
「ふぅ。なかなかの美味じゃった。人族はいつもこんな旨いものを食べておったとは知らなんだの」
「ところで、君は竜なんだよね?」
「なんじゃ?あたりまえじゃろうに。それがどうした?」
「竜って人化とかできるんだね」
「どうじゃろうな。皆ができるとは思わんがの」
「そうなんだ。ところで、これからどうするの?」
「どうしようかの。おぬし達がトカゲ相手に力尽きていたら食ってやろうかと思って来てみただけじゃからのぉ」
その言葉を聞いてスピカの表情が青ざめた。
「じゃがまさかこの短時間に無傷で全滅させているというのは些か驚いたのぉ」
「コモドリザードの上位種でも倒せるって言ってくれたじゃない?」
「まぁ、相手が一匹じゃったらの。しかしこの辺にはうじゃうじゃいたはずじゃから無事ではないだろうと思っていたのじゃよ」
こんのショタジジイめ。
こいつも退治してやろうか。
そんな俺の気分を察したレンが俺の袖をつかみ首を横に振った。
「まぁ殲滅魔法は得意だから相手の数が多くいるのは問題なかったよ。それで、俺達を食べるのはどうする? もちろん全力で抵抗させてもらうよ?」
「いやいや、旨い飯を食わせてもらったお主達を食う程恩知らずではないぞ。まぁ食われたいというならば食ってやってもよいがな。実は人族や魔族はまだ食べたことがないのじゃ」
「食べられたくはないからそれはなしね。で、おうちに帰るの?」
「おうち? ああ、巣のことか。ワシはもう一人前じゃから巣からは飛び出ておる。適当に興味を魅かれたものを見て、食って、力を付ける以外にはすることがないのじゃ」
まぁ、竜ってそんなもんなのかな?
「じゃあ俺達と一緒に来る? 俺達は今世界中にある精霊の神殿を回っているんだ。まだ水の神殿しか行けてないけどこれから他の神殿を回っていくよ。一緒に行けば珍しいものとかも見れるかもしれないよ?」
「……いく」
決断早っ!
俺の提案に何言ってるんだ?みたいな顔のスピカが竜の返答を聞いてさらに驚いていた。
スピカ、そろそろ顔芸で食っていけるかも。
「ただし、人にはルールがあるから守ってもらうことにはなる。それでもいい?」
「構わぬぞ。人族の暮らしとやらにも興味はあったのでな」
「分かった。じゃあこれからよろしくね。俺はケン。こっちがユイ。そっちで座り込んでいるのがスピカ。こっちの魔族はレンだよ」
顔芸人は座り込んでいるというより、腰を抜かしているのだがそこは敢えて触れない。
「ワシは風水竜じゃ。その名の通り風と水を司る竜の因子を持っておる」
「なるほど、で名前は?」
「名前は特にないの。竜同士だと念話のパスがあるから呼び合うこともなかったしの」
「じゃあつけてあげる!うーんと、……ドラちゃん!」
というと、なぜかレンとスピカは、え?って表情になる。
「まぁなんでもええんじゃが、どうやらあっちの童たちの反応をみるとあまりよくなさそうじゃの」
「ご主人様、いくらなんでもそれはちょっと……」
「えー? ドラゴンの名前って言ったらドラちゃんだろ。他にはドランとかドランゴとか。あ!いっそドラエモンってのはどお?」
ほら、エモンもちゃんとカタカナ表記だから著作権とか大丈夫だろ。
「センスなさすぎー」
スピカまで抗議の声を上げる
「だったら……ジャスパ。どう?」
「あれ? 普通だ。どうしたのご主人様」
普通とは何事か!
「ほら、風水竜っていってたろ?水は青で風は緑だとすると青緑ってジャスパーグリーンかなって。そこからとったんだけどどうかな?瞳の色も青緑っぽいしね」
「ふむ、ではそう呼ぶがよい。して、これからどうするのじゃ?」
「お腹もいっぱいになったことだし、そろそろ町に戻ろうかと思っていたんだけどね」
「なんじゃ、何か問題でもあるのか?」
俺達の視線がコモドドラゴンの山へと向く。
「これがなんじゃ??」
「これ、どうしようか決めてなくてさ。とりあえずクエスト確認用の尻尾と売れる魔石は取ったんだけど、肉は食用に、皮は素材になるから売れるんだよね。だけど持ちきれなくてどうしたものかと考えていたんだ。とりあえず食べれるだけ食べたけどね」
「なんじゃそんなことか。ちと待っておれ」
そういうと、ジャスパは竜化するとコモドリザードをどんどん丸飲みにしていった。
うん、まぁ持ち帰れないから食べてもらってもいいんだけど、さ。
さっきの話聞いて解決策は自分が全部食べるってことかい。
おかしい。
あきらかに丸飲みにしたジェスパよりもコモドリザードのほうが体積が大きい。
こいつの消化器官はどうなってるんだ。
しかし体長3メートルから大きいもので5メートル近くもあるコモドリザードを竜が丸飲みにしていく様はすごい迫力だった。
なぜ過去形なのかというと、その様子を呆気に取られて見ているうちに全部終わりそのあと再度人化していたからだ。
「終わったぞ? 行かぬのか?」
「あ、ああ。じゃあ出発しようか。スピカこっちにおいで。【認識疎外】。んじゃ行くとしよう。帰りは魔物を見つけたら適当に狩りながらね」
そう言って出発したが町に戻るまで一匹の魔物とも遭遇しなかった。
不思議に思っていると、ジェスパから驚きの真相が聞けた。
魔物は竜を恐れて近づかない。
らしい。
もちろん、竜の力を感じ取ることのできない鈍感な魔物には効果が無いし、相手の力なんか関係なしで襲ってくる魔物も存在する。それに竜よりも大きな力を持つ魔物だって存在するらしい。
もしかして魔物エンカウント0のチートを手に入れたかと思ったけどそうではないらしい。
ただ、連れて歩くとエンカウント減少にはなるらしいのは確かだ。
もっとも、それはジェスパが普通にしている状態であって気配を殺せばそれに気付かず魔物は襲ってくるそうなので特定の魔物をハントする時には邪魔になったりしないらしい。
いやはや、竜ってのは便利なんだな。
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