ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー

MIRICO

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29 ー怪異ー

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「君も知っての通り仲間達が襲われてね。まさかセウまであんな怪我するとは予定外なんだよ。マルディンの周囲を探らせてたんだけどねえ。セウであの怪我負ったくらいだから、相当面倒な怪異を放ったんだよ」
 ティオはため息を大きくついた。
 このため息の仕方ですら嘘くさい。仕草一つ一つが全く信用できないというのもある意味すごいことだと、話を聞きながら思った。
「シェインが帰ってきたと噂を流した途端に、無差別に襲われる事件がここ数日で増えちゃって、もー、大変なのよ。今人手がなくなるのも困るから、草々に手を打ちたいんだよね」

 母親を殺すために追っ手を出したマルディンは、ロンにとっては仇になる。
 顔も知らない男だが、それは確かな事実だった。
 マルディンの名は彼らが口にしていたから知っている程度だが、父親を幽閉しているならばティオの助けをするのは正解なのだろう。
 セウの怪我があれ程ひどかったのを考えれば、薬師であるロンが狙われた方が対処が早い。シェインがいれば、騎士に襲われても彼が対処してくれる。手伝うことに迷いはなかった。
「君達が囮になっている間にマルディンの周りを固めたいんだ。あとちょっとなんだよ。どうかな。ロンちゃん」
 ティオのこの笑い顔を見る度に、うさん臭い人だと思うのはロンだけではないはずだ。個人的ならまず信じない。策士なのかそういう顔なのか、それは前者だろう。
 ただ、この男にセウもシェインも繋がっているのを考えると、ティオを信じる気に少しはなるのだが。
 ロンが少し考え倦んでいると、ティオはもう一度にこりと笑った。

「もう噂は流しちゃったからよろしくね」

 開いた口が塞がらなかったのは、言うまでもない。


「あり得ない…。流しちゃったって何。流しちゃったって!」
 話が終わると、ティオは早速餌になってこいとシェインとロンを家から追い出した。ティオはにこやかに二人を見送り、勢い良く扉を閉めてくれたのだ。
 まるで返事を聞く必要がないだろうが。
 何がよろしくねだ。
 セウがいる手前断れないと分かっているのが更に腹が立つ。
「部屋にいていいんだぞ。わざわざお前が囮になる必要はない」
 気が乗らないのだと言わんばかりにシェインは難色を示して、瞳を地面におとした。
 フードの中は薄暗い部屋みたいだ。落ち込んでいるようにも見えて、ロンはそのフードの中を覗いた。
「反対なの?」
「反対だ。お前が囮になる必要なんてない。セウだって反対する。アリアの名前を出してお前を囮にするってことは…」
「ことは?」
 シェインは言葉を止めた。曇らせた顔は何か考えているようで、ロンにはその続きがよめなかった。
「シェイン?」
「今からセウの所へ戻って、二人で大人しくしてろ。まだそんなに時間も経っていないから、セウもあの店にいるだろう」
「そうするとシェインが大変でしょ」
「そんなことない…」
 再び言葉を止めてシェインは一瞬で後ろに振り返った。建物の影で何かが姿を隠したのが見えて、ロンもすぐに鞄へ手を入れた。
「やっぱり、もう無理みたいだね」

 高級住宅街に近い通り、ティオに呼ばれた家を出てすぐの所。辺りに住民らしき人が数人通っているが彼等はこちらを見ていない。広い道と沿道の木で目に入らないのだろう。
 シェインが剣を出して備えたが、後方でちらりと顔を覗かせた影は建物に隠れて動かない。
 一瞬だったので、人かどうかも分からなかった。ただ影がさっと建物に逃げたのだ。

 シェインはロンを連れたまま人通りの少ない小道へ入った。するとザザザと地面をする音が耳に届いて、シェインとロンは咄嗟に音の方へ振り向いた。
 石畳の石の隙間から液体が溢れだしている。波がよせるように近くへ流れてくると、それは段々集まり一固まりになった。
 おどろおどろしい呻き声と吐き出す息。べたり、と地面に手をつき、さなぎが繭から抜け出るようにのたくると、地面から緑の人間が現れた。
 否、人の形をした何かが現れたのだ。
 髪の毛のないその固まりは、粘土細工のごとく目と口のくぼみが飾り程度についている。ヘラでえぐり取ったみたいに適当な形だった。
 吐き気がしたのはその腐臭。下水にたまったヘドロを思い出させるその匂い。足が動くと、べちゃりと地面を濡らし、その匂いを振りまいた。

「趣味悪いな」
「冗談言ってる場合じゃ」
 ない。
 口にする真際、伸びてきたのは緑の槍。
 叫ぶ間もなくシェインがそれを剣で受け止めた。
 泥人形から伸びた腕は槍に変化し、いきなり攻撃をしてきたのだ。
 泥人形は槍をはじかれた腕をぐにゃりと曲げると、大きな鎌に変えてそれを振り回した。
 シェインはロンを引いて背に隠すと、その鎌を剣で逸らす。小道で振り回した鎌の先はそのまま家の壁にめり込んだ。
 ごすり、と音がして、ロンは寒気がした。その泥人形の鎌は突き刺さったままとろけると、そこからもう一匹泥人形が現れたのだ。
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