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34 ー不思議な植物ー
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数日の間、シェインは動かなかった。
連絡用の小鳥が家に訪れ、シェインは返事を書いてそれを外へ放つ。何の連絡をとっているやら、尋ねてもだんまりだ。
そうしていつの間にか、窓の外は花祭りの準備が始まっていた。
人々は大忙しで、道に花びらの入った木箱を置いていく。水はまだ入っていないのか、風が吹くと花びらが空へ舞った。飾り付けも他の町で見たのよりずっと豪華で、ベランダにはブーケが並べて結ばれている。
幾種類もの花や薬草が飾られて、王都は花の匂いでむせ返るようだった。
それから時折花の匂いに混じって、ティオ達が訪れた。
人をしめ出して何かと相談だ。
シェインは不機嫌なままロンを奥の部屋へ追いやる。
「ごめんね、ロンちゃん。ちょっと今日は秘密の話なの。仲間はずれで悪いね」
ティオも容赦なくロンを奥の部屋に閉じ込めた。かちりと鍵までかけて、念入りだった。
こんな真似しなくとも、盗み聞きするくらいならどんな手でもあるのだが、そんな真似をするのも面倒で、ベッドへうつ伏した。
シェインの不機嫌が当分戻らないだろうと思うと、ため息が沢山出る。
この息苦しさは窓から叫びだしたい気分だった。
あと何日か経てば実際にやるところだった。その寸前だった。
「何ですか?」
明らかな不精面、しかも嫌悪丸出し、でロンはティオを迎えた。後ろのお付き三人とも同時に吹き出した。
怪異に襲わせた恨みは忘れていない。今日はロンに用があるとやって来たわけだが、にこやかに、極めて柔らかく、笑んだティオに、ロンは無言で睨み付けた。
シェインは知らん顔で頭をかいている。今まで虐められた分を精算しろとでも言わんばかりだ。
「あの、そう目くじらたてないで…」
「水、でいいですよね!」
どかん、と机に置かれたカップいっぱいなみなみの水を見て、ティオはさめざめ嘘泣きをした。知ったことかと他の三人にはまともなハーブティーを出す。
三人とも遠慮なしに飲みはじめたので、気にしないで正解だ。
ティオはさめざめを続けていたが、シェインと他の三人が話しはじめてしまい、仕方なく嘘泣きをやめた。頬杖をついてさみしそうにカップをつついている。
お付きの男は、油紙の包みをだすとロンに中身を見せた。
「これが何なのか教えてほしいんです。内密の物なので薬師に見せられません。あなたなら分かるだろうと持ってきました」
開いた袋の中は紫色のとげの付いた球体が入っていた。どぎつい色のそれは逆立ったとげが緑色をしている。大きさは拳大だ。
「珍しいですね。ディオンデの種だ。この国には生えないはずですけど。これは除草剤に使います。水を吸い取って他の根を枯らすんですけど、水を確保する時にも使いますよ。水の少ない国の植物ですから」
「それ、かなり多く植えたらどうなるの?」
いじけるのはやめたのか、ティオが口を出してきた。
「許容量が決まっているから水を枯らす程にはならないけど、一定時期になると実に溜めた水と種を地面に落とす」
少ない水で次の時代の糧を少しの間だけ助け、そうやって種の保存を続けていく植物だ。水袋としても役立ち、実の中に溜まった水も飲めた。
「水を落とす…ねえ。多いと洪水になったりとか?」
「そんな大量には含まないから、さすがにそこまでは。けど、周りが乾いて他の草は水分取られてしまい、枯れちゃうよ。その習性を使って除草剤にするので」
除草剤と言っても、実をつけて落ちる前にその草自体を根から掘り出さないと、増殖の早いディオンデはどんどん増えてしまう。
使い勝手が悪いとあまり使用されなくなった品種だ。
「実を落として薬草を枯らす長年計画?ばらまいて埋めるのも一苦労だと思うけど」
ティオはため息まじりにディオンデの種をつついた。
「でもそれ、ただの植物じゃなくて。水の匂いを感じ取ると根が動いて歩くから」
「どゆこと?」
ロンは説明が悪かったと笑いをこらえた。
桶に土を入れてそこへディオンデの種をおいた。何が始まるのかと皆が注目する。
ロンは種から少し離れたところへ水を垂らした。すると種がゆらゆら揺れはじめ、とげだと思っていた緑色のそれが昆虫の足のように広がると、カサコソ動きはじめたのだ。
「うわっ。そうくるの…?」
ティオ共々皆が眉を潜めて、声をあげた。
水を垂らした場所に移動するとそこに留まり、とげを元の形に戻したのだ。
「六日くらいで花が咲いて、実を作る。乾燥地帯で使うと水を集めてくれるよ。だから大量にばらまかれたりすると、結構な植物が枯れちゃう」
ロンの言葉にティオは大仰にため息をついた。面倒臭いと言わんばかりに顔をしかめ、自分に出された水をディオンデにかけた。
「それで、これが何なんだ?」
そろそろまともな話が聞きたいところだ。
この種が一体どのように内密なのか。シェインはティオからカップを奪って話を切り替えろと睨み付けた。
「外国から秘密裏に運ばれた植物の一つです。隣国は薬師の力を軍備だと批判しており、その外相とマルディンが手を組んだ可能性があります。この植物をマルディンが確保していることは調査済みですから」
「パンドラの話も隣国には入ってるだろうからね。マルディンが国を売ったか、もしくは隣国と手を組んで自分のものにするか。ま、碌なことじゃないでしょ。数が半端じゃないから、何をやりたいのか知りたいんだよね」
尻尾は掴みそうでも完璧な証拠がない限り、マルディンを拘束できないのが現状か。仲間が怪我だらけで、ティオも思う通りにいかないのだろう。
囮作戦でマルディンも動いてきたが、植物の輸入の意味はまだ分かっていないのだ。
「そんなのが散らばったら、六日以内に全員で畑仕事かなあ。ねえ、ロンちゃん」
薬草は専門外。何が起きるのか予想もできません、とティオは白旗を上げている。
「しかもねー、今大変なんだよ。城の中に草がうねうね。蕾をもって花咲きそうで、薬師は何とかし終えるまで避難してろって。朝からてんてこ舞い」
大変なの。と言っている割に楽しそうだ。
これにはお付きの人達は困っているらしい、三人は肩を竦めて顔を見合わせた。
「コメドキアと言う植物が第一王子の部屋のある建物を囲むように生えまして、城の中にも入り込んでいるんです。壁に這っているものですから、除草作業が難航してしまって」
コメドキアは毒性のある植物だ。花粉に毒があり、開花と同時に毒を吹き出す。それを吸い込むと吐き気をもよおすのだ。
ひどくはならないが、花を咲かせるのがとても早い。その上花の量も多いので、放っておくと大変なことになる。
第一王子の部屋を狙ったのだから嫌がらせとは思えない。
連絡用の小鳥が家に訪れ、シェインは返事を書いてそれを外へ放つ。何の連絡をとっているやら、尋ねてもだんまりだ。
そうしていつの間にか、窓の外は花祭りの準備が始まっていた。
人々は大忙しで、道に花びらの入った木箱を置いていく。水はまだ入っていないのか、風が吹くと花びらが空へ舞った。飾り付けも他の町で見たのよりずっと豪華で、ベランダにはブーケが並べて結ばれている。
幾種類もの花や薬草が飾られて、王都は花の匂いでむせ返るようだった。
それから時折花の匂いに混じって、ティオ達が訪れた。
人をしめ出して何かと相談だ。
シェインは不機嫌なままロンを奥の部屋へ追いやる。
「ごめんね、ロンちゃん。ちょっと今日は秘密の話なの。仲間はずれで悪いね」
ティオも容赦なくロンを奥の部屋に閉じ込めた。かちりと鍵までかけて、念入りだった。
こんな真似しなくとも、盗み聞きするくらいならどんな手でもあるのだが、そんな真似をするのも面倒で、ベッドへうつ伏した。
シェインの不機嫌が当分戻らないだろうと思うと、ため息が沢山出る。
この息苦しさは窓から叫びだしたい気分だった。
あと何日か経てば実際にやるところだった。その寸前だった。
「何ですか?」
明らかな不精面、しかも嫌悪丸出し、でロンはティオを迎えた。後ろのお付き三人とも同時に吹き出した。
怪異に襲わせた恨みは忘れていない。今日はロンに用があるとやって来たわけだが、にこやかに、極めて柔らかく、笑んだティオに、ロンは無言で睨み付けた。
シェインは知らん顔で頭をかいている。今まで虐められた分を精算しろとでも言わんばかりだ。
「あの、そう目くじらたてないで…」
「水、でいいですよね!」
どかん、と机に置かれたカップいっぱいなみなみの水を見て、ティオはさめざめ嘘泣きをした。知ったことかと他の三人にはまともなハーブティーを出す。
三人とも遠慮なしに飲みはじめたので、気にしないで正解だ。
ティオはさめざめを続けていたが、シェインと他の三人が話しはじめてしまい、仕方なく嘘泣きをやめた。頬杖をついてさみしそうにカップをつついている。
お付きの男は、油紙の包みをだすとロンに中身を見せた。
「これが何なのか教えてほしいんです。内密の物なので薬師に見せられません。あなたなら分かるだろうと持ってきました」
開いた袋の中は紫色のとげの付いた球体が入っていた。どぎつい色のそれは逆立ったとげが緑色をしている。大きさは拳大だ。
「珍しいですね。ディオンデの種だ。この国には生えないはずですけど。これは除草剤に使います。水を吸い取って他の根を枯らすんですけど、水を確保する時にも使いますよ。水の少ない国の植物ですから」
「それ、かなり多く植えたらどうなるの?」
いじけるのはやめたのか、ティオが口を出してきた。
「許容量が決まっているから水を枯らす程にはならないけど、一定時期になると実に溜めた水と種を地面に落とす」
少ない水で次の時代の糧を少しの間だけ助け、そうやって種の保存を続けていく植物だ。水袋としても役立ち、実の中に溜まった水も飲めた。
「水を落とす…ねえ。多いと洪水になったりとか?」
「そんな大量には含まないから、さすがにそこまでは。けど、周りが乾いて他の草は水分取られてしまい、枯れちゃうよ。その習性を使って除草剤にするので」
除草剤と言っても、実をつけて落ちる前にその草自体を根から掘り出さないと、増殖の早いディオンデはどんどん増えてしまう。
使い勝手が悪いとあまり使用されなくなった品種だ。
「実を落として薬草を枯らす長年計画?ばらまいて埋めるのも一苦労だと思うけど」
ティオはため息まじりにディオンデの種をつついた。
「でもそれ、ただの植物じゃなくて。水の匂いを感じ取ると根が動いて歩くから」
「どゆこと?」
ロンは説明が悪かったと笑いをこらえた。
桶に土を入れてそこへディオンデの種をおいた。何が始まるのかと皆が注目する。
ロンは種から少し離れたところへ水を垂らした。すると種がゆらゆら揺れはじめ、とげだと思っていた緑色のそれが昆虫の足のように広がると、カサコソ動きはじめたのだ。
「うわっ。そうくるの…?」
ティオ共々皆が眉を潜めて、声をあげた。
水を垂らした場所に移動するとそこに留まり、とげを元の形に戻したのだ。
「六日くらいで花が咲いて、実を作る。乾燥地帯で使うと水を集めてくれるよ。だから大量にばらまかれたりすると、結構な植物が枯れちゃう」
ロンの言葉にティオは大仰にため息をついた。面倒臭いと言わんばかりに顔をしかめ、自分に出された水をディオンデにかけた。
「それで、これが何なんだ?」
そろそろまともな話が聞きたいところだ。
この種が一体どのように内密なのか。シェインはティオからカップを奪って話を切り替えろと睨み付けた。
「外国から秘密裏に運ばれた植物の一つです。隣国は薬師の力を軍備だと批判しており、その外相とマルディンが手を組んだ可能性があります。この植物をマルディンが確保していることは調査済みですから」
「パンドラの話も隣国には入ってるだろうからね。マルディンが国を売ったか、もしくは隣国と手を組んで自分のものにするか。ま、碌なことじゃないでしょ。数が半端じゃないから、何をやりたいのか知りたいんだよね」
尻尾は掴みそうでも完璧な証拠がない限り、マルディンを拘束できないのが現状か。仲間が怪我だらけで、ティオも思う通りにいかないのだろう。
囮作戦でマルディンも動いてきたが、植物の輸入の意味はまだ分かっていないのだ。
「そんなのが散らばったら、六日以内に全員で畑仕事かなあ。ねえ、ロンちゃん」
薬草は専門外。何が起きるのか予想もできません、とティオは白旗を上げている。
「しかもねー、今大変なんだよ。城の中に草がうねうね。蕾をもって花咲きそうで、薬師は何とかし終えるまで避難してろって。朝からてんてこ舞い」
大変なの。と言っている割に楽しそうだ。
これにはお付きの人達は困っているらしい、三人は肩を竦めて顔を見合わせた。
「コメドキアと言う植物が第一王子の部屋のある建物を囲むように生えまして、城の中にも入り込んでいるんです。壁に這っているものですから、除草作業が難航してしまって」
コメドキアは毒性のある植物だ。花粉に毒があり、開花と同時に毒を吹き出す。それを吸い込むと吐き気をもよおすのだ。
ひどくはならないが、花を咲かせるのがとても早い。その上花の量も多いので、放っておくと大変なことになる。
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