ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー

MIRICO

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39 ー彼の言葉ー

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「リングに何を聞いた。お前を利用するつもりなんて、解読させるつもりなんてない!」
「あなたがパンドラを持っているのに?」
 自嘲気味な笑いはロンの顔を歪ませた。
 まだ嘘をつくつもりなのか?いつまでごまかすつもりなのか?そんな思いがあふれた表情だ。

「…お前に助けられて、ただ去るにはいかなかった。俺を追う相手が来る。助けたと分かれば素性も調べられるだろう。お前が誰の娘か気付かれれば、お前が危険にさらされる。ならば、連れ帰るしかなかった」
「全て話せば良かったのに!」
「全て話せば俺を信じてついてきたか?お前なら一人でセウに真実を確かめに行ったはずだ。追われている俺を、お前が信じるとは思わなかった。だから、お前を脅してでも連れてきたんだ」
 シェインはティオの命令で南に逃げて傷を負った。南に何があるかくらい知っていたはずだ。それを偶然として片付けるなんて都合が良すぎる。
 かたくなな心は動かされなかった。顔を背けてシェインの腕から抜け出したいだけだ。

 もう何も聞きたくない。

「俺は、パンドラを盗んでいない」
 はっきりとした物言いに、ロンは耳を疑った。
「盗んだふりをして逃げ回っていただけだ。俺が持って逃げ回るには、危険が多すぎるから」
 シェインは苦渋を見せた。
 ロンの腕を握ったまま、捕らえて離さずそこに力を入れる。
「じゃあ、パンドラはどこに」
「安全な場所に保管されている。俺が戻るまでにティオが終わらせるはずだった。お前の所に行かなければ、もう少し逃げ回っている予定だったんだ。俺が、お前を巻き込んでしまった」
「…信じられない」
 にわかに信じろなんてもう無理だ。今更後付けのように真実を伝えて、簡単に納得できるわけがなかろう。巻き込むのならば全て話すべきだったのだ。

「リングは信じても、俺の言葉は信じない?」
 そんなあざとい言い方で、哀しげに見つめても駄目だ。
 結局何も知らされず、自分はここにいる。それが事実だ。リングは真実だけを教えてくれた。
「リングは嘘を言っていない」
「俺も言っていない!」
「知らない。放せっ。シェインなんて嫌いだっ!」
 会ってからずっと振り回されてきた。シェインはいつだってロンを振り回す。
 けれど、振り払う力も封じて、シェインはロンを腕ごと抱き締めると耳元で囁いた。

「俺は好きだ。ロンに会えて良かった」

 こんな時に、そう言う言葉を使うのは卑怯だ。
 そんなことでほだされて、簡単に許しを乞うなんてするわけがない。
 シェインの腕の中でもがいて突き放そうとすると、その力を更に強めてくる。
 腹が立って仕方がなかった。シェインはずっとそうやってロンをなだめてきたのだから。

「ロン、簡単に信じろなんて言わない。けれど、これだけは分かってほしい。セウも俺もお前に犠牲になってほしくない。俺達はお前をアリアの娘として囮にしたが、パンドラを使わせるために一緒にいるわけじゃないんだ。ティオが何と言おうとお前にそんな真似はさせない。それはセウも同じ意見だ。パンドラを使わせたりしない」
 涙でぐちゃぐちゃになった顔をシェインは優しくなでた。拭っても拭ってもこぼれる涙をただひたすら拭ってくる。抱きしめられて濡れたシェインの服を更に濡らして、ロンはその涙をあふれさせた。
「セウはずっと気にしていた。お前がここにいれば、いつか気づいてしまうんじゃないかって」
 柔らかな声に、ロンは耳を傾けた。
 シェインは壊れ物を扱うように、ロンの涙をそろりと拭う。
「できれば、事実は隠しておきたい。パンドラを見ればきっとロンは思い出してしまう。だからロンには絶対にパンドラを見せないでほしいと、セウはずっと言っていたんだ」
 セウはずっと黙っていた。ロンがパンドラを解読したせいで、母親が殺されたことを。
 これからも、それを黙っているつもりだったのだ。

 ロンが全てを思い出して、苦しまないように。

「でも、私がやったのに、忘れたままになんてできない」
「それでも、黙っていたかったんだろ。セウはこの件が終わってからお前を王都に呼ぶ気だったんだ。お前の父親に会わせればそれで終わりにできると。お前が哀しむ姿なんて見たくないんだ」
 けれど、それではずっとセウが辛い思いをする。
 真実をロンに伝えず、ずっと黙っていなければならない。
 十年も彼を拘束して、なおかつ彼に重荷を背負わせることになっていたのだ。

「セウは、いつもお前のことばかりだよ」
 ロンの気持ちを打ち消すかのように、シェインはささやく。
 深い森のような緑の瞳はロンを映し、柔らかく笑んだ。

「お前が無事であれば、セウは何でもいいんだ」

 俺もだよ。

 小さな声は、静かに耳元に届いた。
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