39 / 50
39 ー彼の言葉ー
しおりを挟む
「リングに何を聞いた。お前を利用するつもりなんて、解読させるつもりなんてない!」
「あなたがパンドラを持っているのに?」
自嘲気味な笑いはロンの顔を歪ませた。
まだ嘘をつくつもりなのか?いつまでごまかすつもりなのか?そんな思いがあふれた表情だ。
「…お前に助けられて、ただ去るにはいかなかった。俺を追う相手が来る。助けたと分かれば素性も調べられるだろう。お前が誰の娘か気付かれれば、お前が危険にさらされる。ならば、連れ帰るしかなかった」
「全て話せば良かったのに!」
「全て話せば俺を信じてついてきたか?お前なら一人でセウに真実を確かめに行ったはずだ。追われている俺を、お前が信じるとは思わなかった。だから、お前を脅してでも連れてきたんだ」
シェインはティオの命令で南に逃げて傷を負った。南に何があるかくらい知っていたはずだ。それを偶然として片付けるなんて都合が良すぎる。
かたくなな心は動かされなかった。顔を背けてシェインの腕から抜け出したいだけだ。
もう何も聞きたくない。
「俺は、パンドラを盗んでいない」
はっきりとした物言いに、ロンは耳を疑った。
「盗んだふりをして逃げ回っていただけだ。俺が持って逃げ回るには、危険が多すぎるから」
シェインは苦渋を見せた。
ロンの腕を握ったまま、捕らえて離さずそこに力を入れる。
「じゃあ、パンドラはどこに」
「安全な場所に保管されている。俺が戻るまでにティオが終わらせるはずだった。お前の所に行かなければ、もう少し逃げ回っている予定だったんだ。俺が、お前を巻き込んでしまった」
「…信じられない」
にわかに信じろなんてもう無理だ。今更後付けのように真実を伝えて、簡単に納得できるわけがなかろう。巻き込むのならば全て話すべきだったのだ。
「リングは信じても、俺の言葉は信じない?」
そんなあざとい言い方で、哀しげに見つめても駄目だ。
結局何も知らされず、自分はここにいる。それが事実だ。リングは真実だけを教えてくれた。
「リングは嘘を言っていない」
「俺も言っていない!」
「知らない。放せっ。シェインなんて嫌いだっ!」
会ってからずっと振り回されてきた。シェインはいつだってロンを振り回す。
けれど、振り払う力も封じて、シェインはロンを腕ごと抱き締めると耳元で囁いた。
「俺は好きだ。ロンに会えて良かった」
こんな時に、そう言う言葉を使うのは卑怯だ。
そんなことでほだされて、簡単に許しを乞うなんてするわけがない。
シェインの腕の中でもがいて突き放そうとすると、その力を更に強めてくる。
腹が立って仕方がなかった。シェインはずっとそうやってロンをなだめてきたのだから。
「ロン、簡単に信じろなんて言わない。けれど、これだけは分かってほしい。セウも俺もお前に犠牲になってほしくない。俺達はお前をアリアの娘として囮にしたが、パンドラを使わせるために一緒にいるわけじゃないんだ。ティオが何と言おうとお前にそんな真似はさせない。それはセウも同じ意見だ。パンドラを使わせたりしない」
涙でぐちゃぐちゃになった顔をシェインは優しくなでた。拭っても拭ってもこぼれる涙をただひたすら拭ってくる。抱きしめられて濡れたシェインの服を更に濡らして、ロンはその涙をあふれさせた。
「セウはずっと気にしていた。お前がここにいれば、いつか気づいてしまうんじゃないかって」
柔らかな声に、ロンは耳を傾けた。
シェインは壊れ物を扱うように、ロンの涙をそろりと拭う。
「できれば、事実は隠しておきたい。パンドラを見ればきっとロンは思い出してしまう。だからロンには絶対にパンドラを見せないでほしいと、セウはずっと言っていたんだ」
セウはずっと黙っていた。ロンがパンドラを解読したせいで、母親が殺されたことを。
これからも、それを黙っているつもりだったのだ。
ロンが全てを思い出して、苦しまないように。
「でも、私がやったのに、忘れたままになんてできない」
「それでも、黙っていたかったんだろ。セウはこの件が終わってからお前を王都に呼ぶ気だったんだ。お前の父親に会わせればそれで終わりにできると。お前が哀しむ姿なんて見たくないんだ」
けれど、それではずっとセウが辛い思いをする。
真実をロンに伝えず、ずっと黙っていなければならない。
十年も彼を拘束して、なおかつ彼に重荷を背負わせることになっていたのだ。
「セウは、いつもお前のことばかりだよ」
ロンの気持ちを打ち消すかのように、シェインはささやく。
深い森のような緑の瞳はロンを映し、柔らかく笑んだ。
「お前が無事であれば、セウは何でもいいんだ」
俺もだよ。
小さな声は、静かに耳元に届いた。
「あなたがパンドラを持っているのに?」
自嘲気味な笑いはロンの顔を歪ませた。
まだ嘘をつくつもりなのか?いつまでごまかすつもりなのか?そんな思いがあふれた表情だ。
「…お前に助けられて、ただ去るにはいかなかった。俺を追う相手が来る。助けたと分かれば素性も調べられるだろう。お前が誰の娘か気付かれれば、お前が危険にさらされる。ならば、連れ帰るしかなかった」
「全て話せば良かったのに!」
「全て話せば俺を信じてついてきたか?お前なら一人でセウに真実を確かめに行ったはずだ。追われている俺を、お前が信じるとは思わなかった。だから、お前を脅してでも連れてきたんだ」
シェインはティオの命令で南に逃げて傷を負った。南に何があるかくらい知っていたはずだ。それを偶然として片付けるなんて都合が良すぎる。
かたくなな心は動かされなかった。顔を背けてシェインの腕から抜け出したいだけだ。
もう何も聞きたくない。
「俺は、パンドラを盗んでいない」
はっきりとした物言いに、ロンは耳を疑った。
「盗んだふりをして逃げ回っていただけだ。俺が持って逃げ回るには、危険が多すぎるから」
シェインは苦渋を見せた。
ロンの腕を握ったまま、捕らえて離さずそこに力を入れる。
「じゃあ、パンドラはどこに」
「安全な場所に保管されている。俺が戻るまでにティオが終わらせるはずだった。お前の所に行かなければ、もう少し逃げ回っている予定だったんだ。俺が、お前を巻き込んでしまった」
「…信じられない」
にわかに信じろなんてもう無理だ。今更後付けのように真実を伝えて、簡単に納得できるわけがなかろう。巻き込むのならば全て話すべきだったのだ。
「リングは信じても、俺の言葉は信じない?」
そんなあざとい言い方で、哀しげに見つめても駄目だ。
結局何も知らされず、自分はここにいる。それが事実だ。リングは真実だけを教えてくれた。
「リングは嘘を言っていない」
「俺も言っていない!」
「知らない。放せっ。シェインなんて嫌いだっ!」
会ってからずっと振り回されてきた。シェインはいつだってロンを振り回す。
けれど、振り払う力も封じて、シェインはロンを腕ごと抱き締めると耳元で囁いた。
「俺は好きだ。ロンに会えて良かった」
こんな時に、そう言う言葉を使うのは卑怯だ。
そんなことでほだされて、簡単に許しを乞うなんてするわけがない。
シェインの腕の中でもがいて突き放そうとすると、その力を更に強めてくる。
腹が立って仕方がなかった。シェインはずっとそうやってロンをなだめてきたのだから。
「ロン、簡単に信じろなんて言わない。けれど、これだけは分かってほしい。セウも俺もお前に犠牲になってほしくない。俺達はお前をアリアの娘として囮にしたが、パンドラを使わせるために一緒にいるわけじゃないんだ。ティオが何と言おうとお前にそんな真似はさせない。それはセウも同じ意見だ。パンドラを使わせたりしない」
涙でぐちゃぐちゃになった顔をシェインは優しくなでた。拭っても拭ってもこぼれる涙をただひたすら拭ってくる。抱きしめられて濡れたシェインの服を更に濡らして、ロンはその涙をあふれさせた。
「セウはずっと気にしていた。お前がここにいれば、いつか気づいてしまうんじゃないかって」
柔らかな声に、ロンは耳を傾けた。
シェインは壊れ物を扱うように、ロンの涙をそろりと拭う。
「できれば、事実は隠しておきたい。パンドラを見ればきっとロンは思い出してしまう。だからロンには絶対にパンドラを見せないでほしいと、セウはずっと言っていたんだ」
セウはずっと黙っていた。ロンがパンドラを解読したせいで、母親が殺されたことを。
これからも、それを黙っているつもりだったのだ。
ロンが全てを思い出して、苦しまないように。
「でも、私がやったのに、忘れたままになんてできない」
「それでも、黙っていたかったんだろ。セウはこの件が終わってからお前を王都に呼ぶ気だったんだ。お前の父親に会わせればそれで終わりにできると。お前が哀しむ姿なんて見たくないんだ」
けれど、それではずっとセウが辛い思いをする。
真実をロンに伝えず、ずっと黙っていなければならない。
十年も彼を拘束して、なおかつ彼に重荷を背負わせることになっていたのだ。
「セウは、いつもお前のことばかりだよ」
ロンの気持ちを打ち消すかのように、シェインはささやく。
深い森のような緑の瞳はロンを映し、柔らかく笑んだ。
「お前が無事であれば、セウは何でもいいんだ」
俺もだよ。
小さな声は、静かに耳元に届いた。
10
あなたにおすすめの小説
拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう
花虎
恋愛
「はぁ?嫁に逃げられたぁ!?」
世界を救った召喚聖女リナリアと彼女を守り抜いた聖騎士フィグルドは世界に祝福されて結婚した。その一年後、突然リナリアは離縁状を置いてフィグルドの元を去った。
両想いで幸せだと思っていたフィグルドは行方不明になった妻を探し出すが、再会した彼女は、自分に関する記憶を全て、失っていた。
記憶を取り戻させたいフィグルドに対して、リナリアは困惑する。
「……でも、私は貴方のことを忘れたくて忘れたのかもしれないですよ?」
「もし君が、俺のことを忘れたくて忘れたとしても……、記憶を取り戻せなくても……俺は君に心を捧げている」
再び愛する彼女と共に生きるため、記憶の試練が始まる――――。
夫のことだけ記憶を失った妻の聖女リナリア(21)×両想いだと思い込んでいた夫の聖騎士フィグルド(24)のすれ違い追いかけっこラブコメ
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜
禅
恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。
だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。
自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。
しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で……
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています
※完結まで毎日投稿します
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜
ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して──
大商会の娘サーシャ。
子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。
華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。
そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。
けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。
サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。
新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。
一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき──
夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。
※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。
※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる