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38 ー知らされた事実ー
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「ヴァル・ガルディも知っていたのだろう。誰がハテロを壊したのか」
リングの言葉は耳元で届き、それから声は外に発せられた。
「そうだな、ヴァル・ガルディ第一王子」
誰かに向けた言葉に、ロンは振り向いた。階段の上で誰かが立っている。
「ティオさん…」
口元を歪めて微かに目を眇めていたティオが、そこにはいた。
いるのはティオだけだ。他に人はいない。
リングが指す王子は一人しかいなかった。第一王子自ら名を偽り、城の外に出て指示をしていたのだ。
ロンは信じられない思いでティオを見つめた。彼は冷笑し、ただ大きく息を吐くだけだ。
「全く、表に出てこないくせに、何でそんなに情報通なんだい。リング・ヴェル?」
ティオはやれやれと首を振って近付いた。
「あいにく、私は植物から耳に入ることもある」
「天才薬師の名はだてじゃないねえ」
「あなたは何を考えている、ヴァル・ガルディ殿下。あなたは国が傾きかけても何もしない。オグニ様がマルディンに操られても何もせず、ふらふらと外に出たきり戻ろうとしなかった。なのに今更、国を奪う振る舞いか?」
「お前でもそういうこと言うんだねえ。あれだけマルディンの下で面白いものを作っといて」
「あなたが国を治める気があれば、マルディンはここまで落ちなかった。あなたは分かっていながらわざとマルディンを泳がせたのだろう」
「一掃するなら、丸ごと全部の方が楽でしょう?」
ティオはけらけら笑う。まるで楽しんでいるかのように。
「それで十年近く放置したわけか。あなたは弟の犠牲にも無頓着なようだな」
「だってお前がついてるでしょ。死ぬことはないと分かっているからね」
「あきれた方だな」
「根が不精なものでね。ーそろそろ、その腕にいる子返してもらえる?うちの子が怒るからさ」
ティオの言葉にリングがロンを引き寄せた。
混乱に輪をかけて畳みかけられたようだ。二人の会話すら頭に入れるだけで精一杯で、何から整理すればいいのか分からない。
「おいでロンちゃん。シェインが嘆く。その図は尚更さ」
「知ってたの?私が…」
言わずともティオは分かっていた。
動揺も見せずに平然と、ただ平然と口許を歪めて微笑んだ。
「私はね、セウの上役なんだよ。アンヘルを助けたのは、セウが君を連れて戻ってくると信じていたからだ。セウは君を巻き込む必要はないと突っぱねたがね」
「シェインも?」
「…聞きなさいよ、ロンガニア。君がここに来たのは偶然だ。私は君を連れてこいとは命令していない」
涙がほとほとと溢れてくる。自分は一体何を信じてここまで来たのだろう。
ティオの言葉など信じられるわけがなかった。ただの最初からずっと、疑いの気持ちでいっぱいだった。セウとシェインがいたから従っていただけだ。
ただそれだけで、ティオ自身を信用していたわけではない。
「ロンガニア。君をここに呼ぶ予定はなかった。戦いに長けているかも分からない薬師を呼んでも、足手まといにしかならないからね。君の実力は薬という形でしか知らないよ。セウはそれしか私に伝えなかったから」
足手まとい。例えそうだとして、ティオは気にしたりするものなのか。そんなことも気にもせず、アリアの娘、ひいてはパンドラを使用した者として、利用するのではないのか。
そちらの方が余程納得がいった。
今ここで、全てを知っていながら自分に伝えもせず、呼ぶ予定はなかったなどと、信じられるわけがない。
「偶然だ。ロンガニア」
「そんな偶然、信じない」
もう何も信じられない。信じられるわけがない。
「ロンガニア!」
リングの腕から離れて、ティオに呼ばれてもその足を止めなかった。
涙があとから溢れて視界さえおぼつかないのに、それでも階段を駆け下りた。
いつか真実を話してくれると思いながらシェインについてきた。王都を見たかったのとセウが王都にいるのとで興味があったのもある。
けれど、シェインが何をしたいのか、何かしているなら力になれればと思った。何も知らずについてきて、単純に役に立てればと思った。
「ロン!」
その声ですら、今は憎らしい。
「リングはマルディンの配下だと言ったのに、何故奴の呼び出しに応じ…ロン、どうした?」
走りよって鋭く睨み付けてきたシェインは、ロンの真っ赤な瞳に逆に睨まれて問いに変えた。
ひどく自棄な態度でロンは無造作に手で頬をこすり、シェインの脇を過ぎ去ろうとする。
シェインは咄嗟にロンの腕を掴んだが、怒りに満ちた表情をされて何事かと動揺した。
「放して」
「ロン、どうした?何があった?」
何も分からないとシェインは腕に力を入れる。
振り払おうとするロンはシェインを押しやった。それでも放すまいとシェインは無理に自分に顔を向けさせた。あとから溢れる涙は尋常ではない。
「一体、何が…」
「知っていたの?知っていて、私を連れてきたの?私を利用するつもりだった?パンドラを私に解読させるつもりだったのっ?」
矢継ぎ早に言われた言葉と悲痛な叫びは、シェインの顔色を変えさせた。
言葉を失ったのはシェインも同じだ。何かを言おうとして言葉を止めた。ロンはそれを見て、とられた腕を何とか振り払おうとする。
シェインは知っていた。
初めから自分が誰なのか、何をしてあの家にいたのか、全てを知っていた。
知らなかったのは自分だけだ。
何も知らず、ただうろんに力を貸そうなんて馬鹿なことを思っていたのだ。
それが何よりも悔しい。
「…お前に会ったのは偶然だ…」
「信じない!」
リングの言葉は耳元で届き、それから声は外に発せられた。
「そうだな、ヴァル・ガルディ第一王子」
誰かに向けた言葉に、ロンは振り向いた。階段の上で誰かが立っている。
「ティオさん…」
口元を歪めて微かに目を眇めていたティオが、そこにはいた。
いるのはティオだけだ。他に人はいない。
リングが指す王子は一人しかいなかった。第一王子自ら名を偽り、城の外に出て指示をしていたのだ。
ロンは信じられない思いでティオを見つめた。彼は冷笑し、ただ大きく息を吐くだけだ。
「全く、表に出てこないくせに、何でそんなに情報通なんだい。リング・ヴェル?」
ティオはやれやれと首を振って近付いた。
「あいにく、私は植物から耳に入ることもある」
「天才薬師の名はだてじゃないねえ」
「あなたは何を考えている、ヴァル・ガルディ殿下。あなたは国が傾きかけても何もしない。オグニ様がマルディンに操られても何もせず、ふらふらと外に出たきり戻ろうとしなかった。なのに今更、国を奪う振る舞いか?」
「お前でもそういうこと言うんだねえ。あれだけマルディンの下で面白いものを作っといて」
「あなたが国を治める気があれば、マルディンはここまで落ちなかった。あなたは分かっていながらわざとマルディンを泳がせたのだろう」
「一掃するなら、丸ごと全部の方が楽でしょう?」
ティオはけらけら笑う。まるで楽しんでいるかのように。
「それで十年近く放置したわけか。あなたは弟の犠牲にも無頓着なようだな」
「だってお前がついてるでしょ。死ぬことはないと分かっているからね」
「あきれた方だな」
「根が不精なものでね。ーそろそろ、その腕にいる子返してもらえる?うちの子が怒るからさ」
ティオの言葉にリングがロンを引き寄せた。
混乱に輪をかけて畳みかけられたようだ。二人の会話すら頭に入れるだけで精一杯で、何から整理すればいいのか分からない。
「おいでロンちゃん。シェインが嘆く。その図は尚更さ」
「知ってたの?私が…」
言わずともティオは分かっていた。
動揺も見せずに平然と、ただ平然と口許を歪めて微笑んだ。
「私はね、セウの上役なんだよ。アンヘルを助けたのは、セウが君を連れて戻ってくると信じていたからだ。セウは君を巻き込む必要はないと突っぱねたがね」
「シェインも?」
「…聞きなさいよ、ロンガニア。君がここに来たのは偶然だ。私は君を連れてこいとは命令していない」
涙がほとほとと溢れてくる。自分は一体何を信じてここまで来たのだろう。
ティオの言葉など信じられるわけがなかった。ただの最初からずっと、疑いの気持ちでいっぱいだった。セウとシェインがいたから従っていただけだ。
ただそれだけで、ティオ自身を信用していたわけではない。
「ロンガニア。君をここに呼ぶ予定はなかった。戦いに長けているかも分からない薬師を呼んでも、足手まといにしかならないからね。君の実力は薬という形でしか知らないよ。セウはそれしか私に伝えなかったから」
足手まとい。例えそうだとして、ティオは気にしたりするものなのか。そんなことも気にもせず、アリアの娘、ひいてはパンドラを使用した者として、利用するのではないのか。
そちらの方が余程納得がいった。
今ここで、全てを知っていながら自分に伝えもせず、呼ぶ予定はなかったなどと、信じられるわけがない。
「偶然だ。ロンガニア」
「そんな偶然、信じない」
もう何も信じられない。信じられるわけがない。
「ロンガニア!」
リングの腕から離れて、ティオに呼ばれてもその足を止めなかった。
涙があとから溢れて視界さえおぼつかないのに、それでも階段を駆け下りた。
いつか真実を話してくれると思いながらシェインについてきた。王都を見たかったのとセウが王都にいるのとで興味があったのもある。
けれど、シェインが何をしたいのか、何かしているなら力になれればと思った。何も知らずについてきて、単純に役に立てればと思った。
「ロン!」
その声ですら、今は憎らしい。
「リングはマルディンの配下だと言ったのに、何故奴の呼び出しに応じ…ロン、どうした?」
走りよって鋭く睨み付けてきたシェインは、ロンの真っ赤な瞳に逆に睨まれて問いに変えた。
ひどく自棄な態度でロンは無造作に手で頬をこすり、シェインの脇を過ぎ去ろうとする。
シェインは咄嗟にロンの腕を掴んだが、怒りに満ちた表情をされて何事かと動揺した。
「放して」
「ロン、どうした?何があった?」
何も分からないとシェインは腕に力を入れる。
振り払おうとするロンはシェインを押しやった。それでも放すまいとシェインは無理に自分に顔を向けさせた。あとから溢れる涙は尋常ではない。
「一体、何が…」
「知っていたの?知っていて、私を連れてきたの?私を利用するつもりだった?パンドラを私に解読させるつもりだったのっ?」
矢継ぎ早に言われた言葉と悲痛な叫びは、シェインの顔色を変えさせた。
言葉を失ったのはシェインも同じだ。何かを言おうとして言葉を止めた。ロンはそれを見て、とられた腕を何とか振り払おうとする。
シェインは知っていた。
初めから自分が誰なのか、何をしてあの家にいたのか、全てを知っていた。
知らなかったのは自分だけだ。
何も知らず、ただうろんに力を貸そうなんて馬鹿なことを思っていたのだ。
それが何よりも悔しい。
「…お前に会ったのは偶然だ…」
「信じない!」
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