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44 ーパンドラー
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「城にはお父さんのいる塔がある。リングの薬、毒の中和剤。リングは、マルディンが何をやろうとするのか分かってたんだわ」
毒を吸っても危険がないように、リングは父親へ毒の中和剤を渡していた。いつもよりひどい目眩が起きれば飲むようにと。いつもと違う目眩が起きればと。
リングはマルディンが何をやるのか知った上で、父親へ薬を渡していた。
何故、彼は知っていながらそれを止めないのだろう。
分かっていたならば止められるはずだ。けれど起きることを承知で、父親にだけ薬を渡していたのだろうか。
マルディンが為して被害が出ることを、リングは放置する気だったのだ。
人込みをぬうように雑踏を走り抜けて、城へ向かった。
花祭りの最後は城の周りに皆が集まり、花びらが舞うのを見るのだ。
花びらの入った水をかけられながら、城の屋上から地面が埋まる程の花びらが空を飛んでいくのを眺め、その中で踊り子達の踊りや音楽を聞いて祭りを楽しむ。
大人達は酒を飲み、子供達はお菓子を食べて、この国の花と草と水に感謝を込めた。
城に近付く程人が増えて、歩みも遅くなった。
急いた気持ちにも人々の多さはどうしようもない。横道に逸れてもやはり行き着く方向は城だ。人々が同じ方へ進むのに、そこから抜け出ることはできなかった。
「ロン、お前はあとから来いっ」
シェインは言うと同時に豹の姿になり、あっという間に人の足元を駆け抜けていった。止める暇もなく、一瞬で行ってしまったのだ。
遠くで悲鳴も聞こえたが、あの速さにこの混雑で追いかけるのも無理だ。
シェインは二人で進むよりずっと早く城につけるだろう。それでティオに知らせられればいい。あとはもしも毒が回ってしまった時の対処だ。
ロンはおもむろに方向を変えると、人込みから脱して別方向へ走り出した。
混雑した場所から広い場所へ。
祭りで警備も手薄な庭園へ、既に走り出していたのだ。
城のどこかの部屋にでもディオンデの種をおいておけば、水の匂いに誘われてひとりでに歩きだす。壁に含まれた水分ですらディオンデは吸い込むのだ。祭りであちこちにかけられた水でディオンデは信じられない早さで成長し、その数を増やしていく。
気付いた時には、どこかしこもディオンデの種だらけだ。
ティオの部屋のコメドキアはまだ除草作業が終わっていない。もう花も咲かせている頃で、それで水を奪えば毒性が高まるのは必至だ。
毒の強まった気体を吸い込めば、吐き気どころか脳神経に支障をきたす。
それがティオの部屋だけでなく、城のあちこちにはびこっているのだとしたら、城に集まってきている多くの人々が被害に遭ってしまう。
城内にいる者だけでなく、その周囲にいる者にも毒が及ぶだろう。祭りで集っている兵士達や祭りの関係者も民衆も、例外ではないのだ。
闇に溶けた月の中、祭りは花の香りと共にゆっくりと城へ近付いている。
ざわめきも民衆の入れない庭園に入ってしまえば静まったが、人の流れを止めることはできない。
庭園の中に兵士はいなかったが、リングの姿もなかった。
ロンは父親から預かったパンドラを鞄から取り出すと、その球体の半球を上下左右動かして、模様をずらした。
途端、溢れる光がロンの身体を包むように現れた。
光の文字だ。
まばゆい光で目も眩みそうなのに、ロンにはその文字がはっきりと見て取れる。
幼い頃に見た光は、まるでまばゆい妖精の光のようだった。その幾つかの内一つの文字に触れた時、たちまち知識が頭に入り込んだのだ。
今思い起こせば、この光の文字が何なのか分かる。
目次の文字が羅列した。
この文字自体がパンドラの知識だと誤解する者もいるだろう。力のない者がこれに触れても何も起きないからだ。この文字自体はパンドラの知識ではない。故にこの文字を解読しようとしても無駄なのだ。
この目次に触れれば、途端に頭の中に知識が入り込む。それを理解して術を発動させるのだ。
リングはそれを分かっている。
たった一つでも理解できるのなら、それ以外も解読できるはずだ。
だが彼は力を恐れて、それ以上手を出さなかった。
だからこそ、パンドラを見る資格があるのかもしれない。
近くで足音がして、それはそこで止まった。
「ロンガニア…?」
届いた声に振り向いたりしなかった。
毒を吸っても危険がないように、リングは父親へ毒の中和剤を渡していた。いつもよりひどい目眩が起きれば飲むようにと。いつもと違う目眩が起きればと。
リングはマルディンが何をやるのか知った上で、父親へ薬を渡していた。
何故、彼は知っていながらそれを止めないのだろう。
分かっていたならば止められるはずだ。けれど起きることを承知で、父親にだけ薬を渡していたのだろうか。
マルディンが為して被害が出ることを、リングは放置する気だったのだ。
人込みをぬうように雑踏を走り抜けて、城へ向かった。
花祭りの最後は城の周りに皆が集まり、花びらが舞うのを見るのだ。
花びらの入った水をかけられながら、城の屋上から地面が埋まる程の花びらが空を飛んでいくのを眺め、その中で踊り子達の踊りや音楽を聞いて祭りを楽しむ。
大人達は酒を飲み、子供達はお菓子を食べて、この国の花と草と水に感謝を込めた。
城に近付く程人が増えて、歩みも遅くなった。
急いた気持ちにも人々の多さはどうしようもない。横道に逸れてもやはり行き着く方向は城だ。人々が同じ方へ進むのに、そこから抜け出ることはできなかった。
「ロン、お前はあとから来いっ」
シェインは言うと同時に豹の姿になり、あっという間に人の足元を駆け抜けていった。止める暇もなく、一瞬で行ってしまったのだ。
遠くで悲鳴も聞こえたが、あの速さにこの混雑で追いかけるのも無理だ。
シェインは二人で進むよりずっと早く城につけるだろう。それでティオに知らせられればいい。あとはもしも毒が回ってしまった時の対処だ。
ロンはおもむろに方向を変えると、人込みから脱して別方向へ走り出した。
混雑した場所から広い場所へ。
祭りで警備も手薄な庭園へ、既に走り出していたのだ。
城のどこかの部屋にでもディオンデの種をおいておけば、水の匂いに誘われてひとりでに歩きだす。壁に含まれた水分ですらディオンデは吸い込むのだ。祭りであちこちにかけられた水でディオンデは信じられない早さで成長し、その数を増やしていく。
気付いた時には、どこかしこもディオンデの種だらけだ。
ティオの部屋のコメドキアはまだ除草作業が終わっていない。もう花も咲かせている頃で、それで水を奪えば毒性が高まるのは必至だ。
毒の強まった気体を吸い込めば、吐き気どころか脳神経に支障をきたす。
それがティオの部屋だけでなく、城のあちこちにはびこっているのだとしたら、城に集まってきている多くの人々が被害に遭ってしまう。
城内にいる者だけでなく、その周囲にいる者にも毒が及ぶだろう。祭りで集っている兵士達や祭りの関係者も民衆も、例外ではないのだ。
闇に溶けた月の中、祭りは花の香りと共にゆっくりと城へ近付いている。
ざわめきも民衆の入れない庭園に入ってしまえば静まったが、人の流れを止めることはできない。
庭園の中に兵士はいなかったが、リングの姿もなかった。
ロンは父親から預かったパンドラを鞄から取り出すと、その球体の半球を上下左右動かして、模様をずらした。
途端、溢れる光がロンの身体を包むように現れた。
光の文字だ。
まばゆい光で目も眩みそうなのに、ロンにはその文字がはっきりと見て取れる。
幼い頃に見た光は、まるでまばゆい妖精の光のようだった。その幾つかの内一つの文字に触れた時、たちまち知識が頭に入り込んだのだ。
今思い起こせば、この光の文字が何なのか分かる。
目次の文字が羅列した。
この文字自体がパンドラの知識だと誤解する者もいるだろう。力のない者がこれに触れても何も起きないからだ。この文字自体はパンドラの知識ではない。故にこの文字を解読しようとしても無駄なのだ。
この目次に触れれば、途端に頭の中に知識が入り込む。それを理解して術を発動させるのだ。
リングはそれを分かっている。
たった一つでも理解できるのなら、それ以外も解読できるはずだ。
だが彼は力を恐れて、それ以上手を出さなかった。
だからこそ、パンドラを見る資格があるのかもしれない。
近くで足音がして、それはそこで止まった。
「ロンガニア…?」
届いた声に振り向いたりしなかった。
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