目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
24 / 103

13 ー計画ー

しおりを挟む
 街に出て、フィオナは馬車の中からその街並みを眺めた。狩猟大会へ行くのに馬車は乗ったが、クラウディオが一緒だったためじっくり外を見る余裕がなかったからだ。

「おばーたま、あえ、かっこいーの!」

 アロイスがたまにフィオナをおばーたまと呼ぶのだが、可愛いのでつい目尻を下げる。おばさまと言いたいのだろうが、舌足らずなのではっきりと発音できないのだ。

 アロイスが指差しているのは広場の中心にある像だ。おそらく初代バラチア公爵だろう。周囲は高級そうな店が立ち並び、馬車が何台か停まっていた。服屋や宝石店が多いようだ。
 その広場を過ぎた先にあるお店に入ると、ふんわり香ばしい匂いがした。

「奥様、彼がこの店のパン職人です」
「は、初めまして。ウラドと申します!」

 ポールに紹介された男は二十台後半くらいで、フィオナを見るなり頭を下げた。緊張しているのか声が震えているが、卑屈な雰囲気のないはっきりとした明るい声をしている。

「初めまして。今回は私の話を受けてくれてありがとうございます」
「い、いえっ。あのお菓子を食べて、ぜひこちらで作らせていただきたいと!!」

 ウラドの店ではパンを主に作っている。彼にはポールに作ってもらったいくつかのお菓子を食べてもらい、この店で貴族相手にお菓子を販売すること提案していた。

 彼の店はあまり身分の高くない貴族向けのパン屋で、いくつかの貴族の店に商品を卸している。
 そこで貴族相手にお菓子を浸透させるために、試作品を配ってもらっているのだ。
 それの反応が良く既に販売依頼がきている。販路が増えそうなので専門店を作る予定だ。

「良かったわ。初めはどうかと思っていたのだけれど」
「依頼も多くなっていますし、専門店を作っても問題ないと思います。ぜひ働かせてください!」
「嬉しいわ。作り方が特別なので、契約をしてもらうことになるけれど、契約書は見てもらえたかしら?」
「もちろんです! こちらにサインもしておりますので、ご確認ください!」

 お菓子を作るには秘密保持の契約を行うことにしている。作り方が簡単なのですぐに真似できてしまうからだ。砂糖は高級だが売れることが分かれば真似する者は必ず出てくる。
 フィオナは契約書を確認して、店を見回した。高級パン店だけあって建物の装飾が豪華だ。お金がない領にある店とは思えない。フィオナがいた領土の方がよほど貧乏な気がする。

(それでも砂糖は高級なのね。ブルイエ家の近くでも砂糖の原料となる畑があったから、その違いかしら)

 お菓子の作り方はフィオナが直接教えても良かったのだが、職人が緊張して手際が悪くなるため、ポールが直接教えることになった。公爵家のシェフにそんな真似をさせて良いかと思ったのだが、ポールはセレスティーヌに全面的に協力してくれるようだ。
 フィオナが新しい料理の作り方を教える分、彼自身がフィオナを尊重してくれたからだろう。

 まずはお菓子を手際よく作れるようになってもらわなければならない。
 ポールがお菓子作りをウラドに教えている間、フィオナたちは物件を見に行くことにした。今後出すお店を購入するためだ。

 今回、このような行動に出たのは、お金の問題があったからである。
 セレスティーヌの薬や部屋の魔法陣を調査するには、結構なお金がかかる。
 公爵夫人に与えられたお金は高額だったが、自由に使ってもその用途をクラウディオが確認していた。そのため、事業を行い、捻出する金額を誤魔化そうという浅はかな考えで計画を考えたのだ。

 店舗の購入や材料費、人件費程度であれば大した金額ではない。その言葉にも驚くが、遊びみたいな程度の経費と聞いて目が回りそうになった。

(事業という名のお遊びと思われるっていうのも、驚いちゃうわ……)

 そのお遊びに夢中で、クラウディオに関わる暇がないとアピールできるという目論みもある。これ以上彼と話せばいい加減気付かれるだろう。その危険を回避するためにも外に出ることにしたのだ。
 店に使う細かな費用まではチェックされないはずだというリディの言葉を信じている。

 それが成功すればこちらに滞在することも視野に入れた。理由をつけて屋敷を出るより、拠点を得て動く方が楽だからだ。

(私の作るお菓子や料理は、他のシェフが知らないと教えてくれたからだけれど)

 フィオナの領土はこの公爵領に比べて豪華さは全くない農村中心の田舎だったが、そのおかげで多種類の農産物が手に入り、多くの料理やお菓子が開発されていた。
 農産物だけでいえば領土内で事足りるため、贅沢をしなければ問題なく生きていける。
 教育などのために都会に行くとなると話は違ったが、土地が豊かなため肉を得ることも事欠かない。それだけを言えばかなり良い町だったのだろう。

 公爵領は作物を育てる肥沃な場所がほとんどない。多くの食物を他領や他国から得る。輸入には税がかかりお金がかかった。

(食べ物に関しては豊かさのない土地だから、料理も単調な物ばかりなのよね)

 基本的に芋料理や保存の効く加工された物が多い。野菜だけでなく肉なども全て加工して保存するのは食料が少ないためである。食物の種類も少なそうだ。
 都が近くてもそれならば、国全体の問題なのかもしれない。

 それで自分の料理が珍しいと思われるとは考えなかったが。

「フィオナ様、あちらです」

 紹介された物件は思ったより大きなお屋敷だった。ブルイエ家とかわらないのではないだろうか。庭を入れればブルイエ家の方が広いかもしれないが、豪華さで言えばこちらの屋敷の方がよほど良い。

「これは、高いのではないの?」
「予算内ですよ。それに公爵家の奥様の事業の場としては小さい方だと思います」

 セレスティーヌには公爵夫人という大きな肩書きがある。それはあまり表に出さずに済ませたいのだが、気付かれた時に小さすぎるとそれはそれでクラウディオに迷惑が掛かるようだ。
 面倒だが致し方ない。フィオナは物件の中を見させてもらい、キッチンの広さや部屋の配置を確認した。

 アロイスが眠ってしまうまで他の物件を何件か確認したが、結局最初に見せてもらった屋敷に決めた。
 今回はウラドの店でポールがお菓子の作り方を教えたが、外に漏れることを考えて、次からは購入した屋敷で教えることにする。軌道に乗ればウラドを引き抜く予定だ。
 店が出せない間不良債権になってしまうが目を瞑るしかない。金銭感覚が狂いそうになる。

「疲れましたね。アロイスを連れてきて、可哀想なことをしちゃいました」
「たくさん走り回られていましたからね」

 それでも良い物件は手に入れられた。公爵夫人としていただいている金額がかなり高額なのは分かっているので、使うのにかなり度胸がいったが、ここも目を瞑ることにする。

「ウラドのお店でなにが売れるか反応を見て、今後なにを売るか考えましょう」

 失敗しても大丈夫という恐ろしい金銭感覚を身に付けたくはないので、なんとか成功させたいものだ。あとは、魔法や薬の調査が可能な、信頼できる人間を確保したい。

「セレスティーヌ、お出掛けでしたか」

 戻ってすぐ届いた声に、フィオナは飛び上がりそうになった。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...