目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

文字の大きさ
90 / 103

41④ ー疑いー

「わあ、なんて綺麗なんでしょう!」

 目の前に広がる景色に感嘆して、初めて見たかのように周囲を見回しては、庭園の壮麗さに喜びを見せる。

「あちらに行ってみますか?」
「はい、旦那様!」

 笑顔で返してくると、促した方向に歩き出す。どこかへ行ってしまわないように手を繋いでいると、少しだけ恥ずかしげにして居心地悪そうにしたが、その手を離す気はないと、きつく握った。


 ————フィオナ・ブルイエは、体が弱かったようです。————

 封印の地で死亡。十八歳を迎える前で、封印を記す石碑の前で倒れていた。
 見付けたのはオリシス国の騎士で、最初は魔獣に殺されたとされていたが、実際の死因は不明。

 ————領主がオリシス国王に援軍を依頼したそうです。彼の地では数百年現れていなかったのに、魔獣が現れたと。————

 その魔獣を倒すために騎士が出て、見付かったのが、倒れた石碑とフィオナ・ブルイエだった。


「こちらは、公爵家の別邸かなにかなんでしょうか……?」
「————ええ。父が好んでいました」

 フィオナは、父親が好んでいたのも分かると、広大な土地に咲く色とりどりの花を見ながら納得した顔を見せた。
 この別邸は有名な場所で、どこよりも美しい庭園であると噂されることがある。景観に小山を利用しており、見る方向によって雰囲気が変わり、季節によってもその景色が変わった。

 それを、見せるつもりはなかったけれど、婚約中にどうしても見たいと駄々をこねられて、仕方なくここに連れてきた。父親が愛した別邸。広大な土地にある、珍しい庭園に。

 セレスティーヌはこの庭園に訪れたことがある。なのに、目の前の彼女は知りもしない。

 ノエルは言った。セレスティーヌは死んだかもしれない。中にいるのは別人だと。

(別人で当然なのだ。セレスティーヌのはずがない。むしろ、納得しかない)

 目の前で笑っている女性はセレスティーヌの姿をしていても、セレスティーヌではなく、セレスティーヌとは似ても似つかない性格をした、別人だった。

(私が愛した人は、フィオナ・ブルイエだ)

「また朝食を一緒にされませんか……?」

 どうしてそんなことを言ったのか。
 初めからやり直したいからだ。
 彼女が何者か分かって、初めから向き合いたいからだ。

 それなのに、フィオナは涙を流す。

「そうですね。そうであれば、嬉しいです」

 まるで、不可能とでもいうかのように。

 ノエルの言葉が耳に残っている。

 ————魔法陣を使用し、……元の体に戻ろうとするかも————

 もう、彼女の体はあの地に残っていないのに。






「エルネストです! 私が薬を渡したのは!」

 カタリーナは震えながら涙を溢れさせると、床に這いつくばるように何度も口にした。

「エルネストです。エルネストに、毒を渡したんです!!」
「バカな真似をしましたね」

 ノエルの冷えた声に同感しかない。しかし、カタリーナは顔を上げると、ギッとノエルを睨みつつも、クラウディオに憐れんでほしいと言わんばかりの情けない顔を向けた。

「だって、なぜあんな女と……。ずっと、お慕いしていたのに。どうして、あんな女と結婚なんて!?」
「そんなくだらないことで、エルネストに毒を?」

 クラウディオの言葉に、カタリーナは顔を歪ませた。ノエルも同情の余地はないとうんざりとした顔を向ける。

「では、禁書の魔法陣もあなたがエルネスト様に教えたんですね。あの禁書はエルネスト様が知ることのない情報でしたが」
「大国時代の魔法陣が見つかったって話したら、欲しがったのよ! あんな、古い魔法陣、伝説みたいな物だから、使えるかどうか分からなかったし、試すのも嫌だから、好きにすればって、教えただけじゃない!」
「あなたのような者が研究所に通っていたことに、憤りを覚えますよ」

 ノエルは凄みを増した。研究対象を疎かにした発言が許せないと、怒りを見せる。
 まだ見つかったばかりで研究は終わっていなかったが、危険な魔法陣だと指定されていた。にもかかわらず、古い時代の伝説のような魔法陣だからと軽視し、部外者に教えたのである。

「迂闊にも程があるな。今の時代の魔法は大国時代に作られたものばかりなのに、当時の魔法陣を軽視するなど。発動させてなにが起きるか分からない、危険な魔法陣だろうに」
「そんな考え方をする者が魔法師になどなれるわけがない。あなたが準魔法師のままである理由がよく分かりますね」

 カタリーヌはカッと顔を赤くした。魔法師になるには魔法や魔法陣のレベルを把握するのは当たり前のこと。危険なものに対しての警戒心を持つことぐらい、当然である。
 それをあまつ情報漏洩させた。エルネストは魔法師だが、まだ外に出すべき情報ではないと統制を取っていたはずなのに。

「別の毒も渡しましたか?」
「……公爵になるために必要だからって」
「金でも渡されたか? 教員の任は金で買ったか?」

 クラウディオの問いに、カタリーナは口を閉じた。赤いのか青いのか分からないような顔色をし、黙りこくったのを見て、ノエルの怒りは頂点に達した。

「厳重に、処罰をします」
「そうしてくれ。私はサルヴェール公爵邸へ行く。父親殺しの書状はもらっていくぞ」

 ノエルと別れてサルヴェール公爵邸へ騎士たちと移動する。空は暗闇に覆われて、雲間に隠れた月は見えず、不吉なほど真っ暗だった。

 公爵邸に到着すると、エルネストが抵抗することを想定して、魔法師が陣を取った。反撃されても逃げられないようにするためだ。

「バラチア公爵、一体何事ですか!?」
「公爵殺害に関わったとして、エルネストを連行する」

 執事がいきなり現れたクラウディオたちに面食らっていたが、書状を確認して青ざめた顔をした。ばらばらと屋敷に侵入する騎士たちを見たメイドたちの悲鳴が響く。

「え、エルネスト様は出掛けていて……」
「どこに行った!?」
「わ、分かりません。出掛けると行って馬で出て行ったきりで」

 気付かれたと分かり逃げたのか。エルネストがいきなり出て行って、執事たちも何事かと思っていたらクラウディオたちが現れたと口を揃えて言う。

「行く場所に心当たりは!」
「エルネスト様が行く場所などは……」
「母君はどうしている。エルネストの場所を知らないのか!?」
「奥様は、病で眠ったままです! エルネスト様がなにをしているかなど、ご存知では……!」

 騎士たちがエルネストの母親の部屋を確認したか、首を横に振る。寝たきりでほとんど動けないようで、意識も虚ろだと報告してくる。

「バラチア公爵! こちらを!!」

 一人の騎士が手紙を手に走ってきた。手紙の内容にクラウディオは目を見張った。

「————、フィオナ!!」
感想 78

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。