妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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「それに、お姉さんの元婚約者が付き添って帰るものだから、そっちも狙ってるんじゃない? って、そういう噂はあったのよ。だからって、姉が妹を殺そうとしたなんて本当かしら? 私、あの方ってとても上品で素敵な方だと思ったけれど」
「声が大きいぞ」

「だってえ。いっつもお姉様ああとか言いながら、寄ってくる男に色目使ってたわよ。私、可愛いでしょ? っていうのを前面に出して、姉より可愛いわよね? って言ってもらうの待ってる感じ。だから婚約者のせいでもめたのかしらって話もあったけど、それでなにかするような人には見えないわよ。どうせ妹があの婚約者を気に入って突っかかったんでしょ。あの男の顔はいいし」
「好みなのか?」
「冗談でしょ? 軽薄すぎない?」

 エスターはこれでもかと嫌そうな顔をした。妹がまともな感覚を持っていて安心する。エスターは、なんであれが婚約者になったのかしら。と顔をしかめた。
 ジョアンナ・ラスペードと、レオハルト・セディーンとの婚約は意外だった。接点があるように思えなかったからだ。セディーン家の名とラスペード家の財産を考えれば、婚約は親の意向だろう。

「はあ、似たドレスすらないわね。この店じゃないみたい。どこのデザイナーの作なのか聞きたかったわ。あの方、もう社交界に出てこないのかしら」

 なにもしていないと言っていたジョアンナの声が耳に残っている。無実であるのに、噂は誰もが知っているような状態だ。社交界に戻るとしても、苦労があるだろう。

「手助けできればいいのだが」
「お兄様? 急にそんな顔するのやめてくれる?」

 呟きは聞こえていなかったか、エスターが心底嫌そうな顔をしてくる。なんのことか、エスターは面倒そうにため息をついた。

「お兄様こそ、お相手見つけた方がいいと思うわよ。無駄に顔だけはいいんだから」
 脈絡がなくて意味がわからないが、もうこの店には用はないようだ。逃げるように足早に店を出ていく。後ろから女性たちの嘆くような声が聞こえて、さらに面倒そうな顔をした。女性たちの視線が集まっていたのだろう。

「あーあ、あの方に会えればいいのに」
 エスターの言葉に、まだ泣いているであろうか、ジョアンナの顔を思い出させた。







「父親も出てきていませんね。沈黙しています」
 ラスペード家に動きはない。屋敷に戻ると、部下のホレスが知らせてくれた。ジョアンナの父親が娘の無実を証明するのならば、早めに動いてその手助けをしたいと考えていたのだが、特になにかをしているわけではなさそうだ。

「そもそも、どこから出てきた噂なんだろうな。ラスペード家の当主であれば、そんな噂、簡単に広げさせるはずがないのだが」

 アルヴェールの知っているラスペード家の当主は、事業に長け、金のなる気配に鋭く、冷淡なところがある男だった。娘の不祥事などとんでもないだろう。なにかあればどんな手を使ってでも噂の元を消し去るくらいは行うと思っていたのに、誰もが知っている状態となっている。
 たとえ無実でも、噂が流れることを良しとするとは思えない。

 噂によると、ジョアンナはクリスティーンを突き落とす際、魔道具まで使ったという。
 それを、誰が見ていたのか。メイドしかいなければ、誰が話したなどすぐにわかるはずだが、メイドが追い出された気配はない。それなのに詳細な話が耳に入ってくる。ジョアンナが魔道具を使ってクリスティーンを殺そうとした。崖から突き落とした。婚約者を取り合った。加害者はジョアンナで、被害者はクリスティーン。それが強調されて噂が流れている。

「気づいたら、みんなが知っているという感じですよね。あちらの茶会、こちらの茶会でそんな話を聞いたと噂されるようで、誰が最初なのか特定できませんでした」
「ならば、意図的に流された可能性があるか?」
「はっきりとは言えませんが、あの速さを考えますと、まず間違いないかと」
「問題は誰が流したかだが。父親の関係かもしれないな」
「幅広く事業を行っていますからね。投資などもしていますし、邪魔に思う者は多いのかもしれません」

「クリスティーンが大怪我をしたのは事実なのか?」
「はい、意識不明のままだとか」
「どこで事件が起きたか聞いているか?」
「それは、入ってきていませんね。二人が争いはじめて、魔道具を使って殺そうとしたとしか」

 ジョアンナと院長の話を聞いた限りでは、ジョアンナは無実で、妹と婚約者が浮気をしていたということ。そして、殺されかけたということだけ。
 それだけしかわからないが、ジョアンナが無事でレオハルトに罪が及んでいないことから、犯人がクリスティーンだということがわかる。だからラスペード家の当主も沈黙しているのかもしれない。

「事件のせいでジョアンナ・ラスペードの婚約は破棄されたようですが、レオハルト・セディーンも沈黙しています。さすがに顔を出せないのではないですか? 二人が取り合ったようですから」
「それが確かとは思えないがな」
「え?」
「いや、引き続き調べてくれ」

 こんなことならば、あの時聞き耳を立てていたからと、話をしっかり聞くべきだったか。
 今さら言ってもだが。
 助けたいのは山々だが、事件の真相がわからないことには動くことができない。

「一度会って、話せないものだろうか」
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