高飛車フィルリーネ王女、職人を目指す。

MIRICO

文字の大きさ
187 / 316

復興2

しおりを挟む
「フィルリーネ姫とルヴィアーレ様が翼竜に乗り、ラータニアと反王派の戦いを助けたと言う話が既に街中で噂されているようです」

 サラディカはラータニアから送られてきた報告書を手に、それを読み上げた。
 街中と言うのは、ラータニアの街中である。ラータニアではフィルリーネが多くの働きをしたことが噂されていた。

 精霊によって造られた国境の結界が航空艇に破壊された後、小型艇から魔獣が投下された。その魔獣に対処したのが、ラータニアにいた商人たちである。
 商人を装っていた者たちはフィルリーネの手で、予め対魔獣用の薬を持っていた。航空艇より投下された魔獣相手に薬を使用すると、魔獣たちはお互いを食い争ったと言う。

 その後現れた王派には反王派の警備騎士たちが王派の背後を追い込む。そこに翼竜で現れたフィルリーネが魔導士顔負けの攻撃を繰り出した。士気が上がったフィルリーネの配下は声を上げてフィルリーネのために戦った。

 ラグアルガの谷で放たれた巨大化した獣は、封じられていた国境の壁を破壊しラータニアに入り込もうとした。しかし、そこにフィルリーネの罠が仕掛けてある。

 ヘライーヌの作った、巨大化させる薬を射らせ魔獣たちに注入。新しく作られた薬は無理に巨大化させられた魔獣たちを更に巨大化させるものだ。しかし、複雑な組織を無理に伸ばそうとする力が逆に作用し、暴れるだけで魔獣の筋肉や内臓に負担をかけた。

 ふらつく魔獣を容赦なく翼竜が燃やし、巨大化した魔獣は簡単に死んだ。
 フィルリーネより魔獣用の薬もラータニアに用意されていたが、あまりに簡単に倒してしまったため、襲撃のため待機していた兵士たちが呆気に取られた程だったらしい。

 翼竜がフィルリーネの手であることは、後に噂になった。
 ラータニアの浮島への襲撃にも翼竜が現れた。フィルリーネが巨大な防御壁を造ったことは、ラータニアの航空艇内にいた者たちが目撃している。王女であるフィルリーネが単身戦場に出たことは大きな話題となったようだ。

 フィルリーネの噂はあっという間にラータニアに広がった。何よりも魔導の力が強力で、グングナルドの兵を一気に仕留めた腕は闘いの女神のようだったと謳われた。その女神が翼竜によって現れラータニアを守ったと言うのだ。

「グングナルドは昨今ラータニアへの締め付けを増やしておりましたから、ラータニアからすれば良い印象はなくなっておりました。しかし、その中でフィルリーネ姫が翼竜に跨り、グングナルド兵を懲らしめたと言う話は美談となっているようです。それと、」

 ちらり、とサラディカがこちらを視界に入れる。その後言いたいことは分かっているが、これは結果論で、意図したことではない。

「ルヴィアーレ様がご一緒だったことが、かなり印象付けられたようです」
 翼竜に乗ったフィルリーネは英雄のようだっただろう。闘いの女神と称されて納得するが、自分もそれに一役買い更にラータニアでのフィルリーネの噂を広げさせてしまった。

 扉の前で待機していたイアーナは顔を真っ赤にし、息でも止めたかのように口を閉じている。もう爆発寸前のようにも見えるが、散々爆発した後で、既にレブロンやサラディカに猛注意を受け、あれでも必死に我慢している状態だ。

 イアーナはフィルリーネの行動を目にしなかったため、未だ何も信じていない。だが、ラータニアの民衆や兵士たちはフィルリーネの戦いを間近にし、目撃したため、決して誇張された噂ではないだろう。

「フィルリーネの魔導は、想像以上だったからな」
「ラータニアからの報告でも、フィルリーネ姫の攻撃は王直属の魔導士のようだったと」

 むしろ、あそこまで魔導があるとは思わなかった。
 的確に敵を選別し攻撃する。あれだけ人が入り混じった中で、大人数に対しての魔導を発動する力は並大抵ではない。
 ヨシュアの攻撃を弾く防御壁も見事だった。しかもその結界の広さがとんでもない。本来なら魔導士が数人いて行うような魔導を、フィルリーネ一人で発動し、それを永続させていた。

 あれを見た魔導士は言葉を失うだろう。精霊の力を得ていても、精霊からその力を借りていない状態で行っていたのだ。人型の精霊はともかく小さな精霊は戦いを好まないため、力を借りる真似をしていなかったのかもしれないが、あの巨大な結界は高位の魔導士でも作るのは難しい。

 それをいとも簡単に行い、疲れも見せない。その前に城の中で戦い魔導を使っていながら、尚且つあれだけの力を出しても魔導枯れを見せることがなかった。

「王族として高い魔導を持っているとは思っていたが、思った以上だった。人型の精霊と翼竜を仕えさせるだけの力はある」
「まさか、翼竜までもがフィルリーネ姫の配下とは思いもしませんでした」

 誰もが驚愕しただろう。ヨシュアは王の航空艇を追いやった後、城へ飛行して戻ってきた。城の上を旋回しその姿を多くの者たちに見せた後、フィルリーネの元へ飛んできたのだ。
 激突しそうなほど速さを上げて降下してきたヨシュアは窓にぶつかる寸前で姿を変え、フィルリーネに駆け寄り、正面から抱きついた。

 フィルリーネの配下ですら、それを知らなかったのだろう。誰もが驚きに目を見開いて口を開け閉めしていた。翼竜についてはフィルリーネやその周囲でしか共有していなかったのが分かる。

 そして人型の精霊エレディナを脇に置いた。これだけでフィルリーネがグングナルド王より魔導を持ち、強力な配下を持っていることが知れ渡る。

 フィルリーネの本性を知らぬ者たちはその噂をどう耳にするだろうか。簡単には信じられる話ではないが、ヨシュアはともかく身体が半透明であるエレディナを堂々と連れれば、否応なく噂が真であると知ることになる。

「ラータニアでは戦闘の用意を予め行っていた関係で、被害は最小限に食い止められました。ラータニア王はそれに関してもフィルリーネ姫に感謝を。事が落ち着けば一度お会いして今後についてお話をしたいとのことです」
「フィルリーネは早めにラータニア王との謁見を求めるはずだ。仮の王としてラータニア王に会うことは、フィルリーネにとっても損がない。外交が行える王女として手っ取り早く誇示できる」
「ラータニア王もそのようにお考えのようです」

 ラータニア王が話したい今後のこと。婚姻をどうするかについてだろう。既に婚姻する意味はなくなった。グングナルド王がいなければ婚姻に拘る者はいない。婚約の破棄をマリオンネにてフィルリーネが行えばそれで終わりだ。

 だがそれを、ラータニア王が望むか、

「何とも言えぬな…」
「何か?」
「いや、フィルリーネのところへ行く」

 フィルリーネは人に、部屋で大人しくていろ。と命令してきたが、それに従う謂れはない。
 最後の一口を飲み干すと、フィルリーネのいる執務室に足を運ぶことにした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...