女と女 2

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夢で会う女

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 私は、夢で出会ったあの女を、どうしても忘れられない。
 顔はどちらかというと凛としており、優しさとはかけ離れている。
 身長は、日本女性の平均くらいだ。特別に痩せているわけでも、太っているわけでもない。
 いつもシンプルな服を身に纏い、私の夢に現れては親しげに会話をする。
 しかし、会話内容は聞き取れず、触れることさえできない。
 まるで深海に沈んだように、身動きできず、ただ彼女を見つめるだけ。
 その歯痒さに、胸が軋む。
 だが、夢とはそういうものだ。自分の思い通りにはならず、泥濘にいるような感覚に、私達を陥れる。
 けれど、私はどうしてもあの夢で会う女と会話がしたかった。触れてみたかった。
 私は彼女に恋をしていたのだ。



 私が彼女を認識し出したのは、五歳を過ぎたあたりからだ。
 夢にあの女が現れては私に親しく話しかけ、そして消えていく。
 最初は恐ろしかったものの、徐々に夢への耐性をつけた私は母に彼女の話をした。
 母も最初は困惑していたが「天使様なのかもね。きっと貴方を見守っているのよ」と言い出した。
 母の解釈はロマンチックだが、果たしてそれはどうだろうか。
 そう思い始めたのは、小学校四年生の頃だった。
 彼女はどう考えても、天使には見えない。ただの、女性だ。二十歳半ばの、普通の女性。
 羽は生えていないし、頭に輪っかもない。本当に平々凡々な女性なのだ。
 その辺りから、私は夢で会う女のことを他人に話さなくなった。この話をするたびに友人たちの顔が引き攣り、やがて別の話題へ移行しようとする流れを何度か経験してきたからだ。
 周りからすると、私は不思議な話で気を引こうとする奇妙な子、もしくは本当に変な体験をしている厄介な子だと思われかねない。それは避けたかった。
 なんてことない学生生活を円滑にこなしたかった私は、敢えて彼女の話を伏せた。
 しかし、彼女はずっと夢に現れる。それは毎日ではないが、頻繁である。
 私は、彼女が好きだった。けれど、触れられない葛藤と絶望に苛まれた。
 そして何より、彼女が私ではなく、私ではない誰かを見ているような気がしたのだ。
 私に話しかけ、私に触れ、私と共に過ごす。
 だが、私はそこにいない。
 私と彼女のあいだには、一枚の、どうしても越えられない何かがあった。
 それが何なのか。私には見当もつかない。
 
 ある日、私は夢を見た。
 私と彼女が利用するカフェ。夢によく登場するその場所は、チェーン店ではなく個人経営の落ち着いた雰囲気のカフェだ。
 彼女はいつもカフェオレを頼み、私はブラックコーヒーを頼む。注文したドリンクが届くまで、彼女は頬杖をつき、私に何かを喋りかけている。
 しかし、ぐわんとした耳鳴りに遮られ、声は届かない。
 彼女はきつい目元をしているが、微笑むと優しく弧を描き、儚げな表情を見せる。
 その一つ一つが、私の心臓を抉るのだ。
 おもむろに、彼女はバッグから何かを取り出した。
 それは小箱だった。丁寧に梱包された箱を開ける。中には小ぶりな腕時計が入っている。
 向かいに座っている彼女が私へ視線を投げ、笑った。
 きっと、私が嬉しそうにしていたからだろう。
 私は時折、こんな夢を見る。まるで、誰かの記憶を辿っているのではないか、というような、そんな夢。
 夢というものは記憶を整理し、反映させていると聞いたことがある。
 私は、女性に時計を貰った経験などない。今まで見てきた映像作品の影響だと言われれば、それまでなのだが、しかし。
 ────私は一つの仮説を立てていた。
 この夢は前世、もしくはこの世のどこかに存在する誰かの記憶を辿っているのでは、と。
 あまりにもリアルで、だけれど泥濘にいる。その夢は他の夢と比べて異常だった。
 出てくる人間は毎度同じ女で、シチュエーションは恋人同士のようなものばかりだ。
 仮に、誰かの記憶を辿っているのだとしたら、彼女はこの世の何処かに存在しているということになるはずだ。
 ならば、会いたい。
 私は生まれてこのかた、彼女しか見つめていないというのに。触れたくて、堪らなくて、苦しんでいるのに。こんなにも恋焦がれているのに、彼女には触れられない。
 あまりにも理不尽だ。
 ────ねぇ、名前を教えて。お願い。
 そう言いたくても、声が出せない。絞り出そうとするが、何も出てこない。
 徐々に、視界がブラックアウトする。
 鼓膜を刺すような携帯のアラームに叩き起こされた私は、部屋の窓から差し込む朝日を睨んだ。


────


加筆+既存の作品が修正されたバージョンがKindleにて電子書籍で出ています。
読み放題でしたら無料となりますので、もしよろしければお暇つぶし程度に読んでいただけますと嬉しいです。
プロフィールのリンクから、もしくはAmazonで「女と女2」で検索していただけますと幸いです。
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