短編集

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終わり世界

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 私はアンドロイドだ。人間たちが作った高性能な機械である。人間と瓜二つの私たちは、人間のような感情を持ち、人間のように働き、人間のように生きている。
 その中で、私は家庭用アンドロイドというものに部類される。いわゆる、家政婦だ。買われた先の家に住み込み、家事や育児をこなす────そういう類のアンドロイドである。
 そんな私は2年前にガルシア家に買われた。大企業に勤めるジェームスとその妻であるアヴァ、そして息子のレオのもとで家政婦として仕事をしてきた。
 ガルシア家はとても仲が良く、私にも優しく接してくれ、良い環境で過ごすことができていた。
 私は幸福だった。
 世界に、何かが起こるまでは。



 坊っちゃまの手を引き、ボロボロになったリビングへ向かう。彼は家の荒れように驚いており、声を震わせていた。私はそんな彼を落ち着かせたくて、ダイニングチェアに座らせる。彼の前に膝をついて、見上げるような体勢をとった。

「坊っちゃま。混乱しているとは思いますが、質問にお答えください。あなたはアンドロイドですか?」
「……そうなのかなぁ?」

 坊っちゃまは顎に手を当て首を傾げた。どうやら自分がどういう存在なのかを知らないらしい。
 ジェームスとアヴァは、中々子宝に恵まれなかった。ジェームスが酔った勢いで、私に愚痴ったから知っている。「アヴァは子供を身籠りにくい体質なんだ」と。グラスを片手に、項垂れながら語る彼の姿が今でも鮮明に思い出せる。
 「でも、今はレオさまがいらっしゃるじゃないですか」と肩を竦めると、彼は沈黙の後に「そうだね」と薄く笑った。
 ────あの笑みはこういうことだったのか。
 子宝に恵まれなかったから、子供型アンドロイドを買ったらしい。そこまでして子供を欲した二人を思うと、どうしようもない感情に襲われた。

「ねぇ、パパとママは?」

 ピタリと体が止まった。伝えるべきか、と悩む。坊っちゃまは射るように私を見ていた。

「……あの、えっと……」

 口篭った私は、額に手を当てた。

「……わかりません」
「そうなんだ。旅行に行ってるのかもね?」

 坊っちゃまは「いいなぁ、僕も行きたかったなぁ」とひとりごちる。やがて割れたガラス窓を見て「何があったの?」と続けた。

「わ、わかりません。私も先ほど目覚めて……どうやら強い衝撃でスリープモードに入っていたようです。坊っちゃま、眠る前に何が起こったか、知りませんか?」
「僕も、よくわからない。あ、でも……」

 パタパタと動かしていた足を止め、ポツリと呟く。

「窓の外が、すごく光った気がした」

 彼が表情筋を一つも動かさずに告げる。

「ピカって」
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