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終わり世界
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私は様々な考えが巡ったが、あえて口に出すことはせず「なるほど」と頷く。
とどのつまり、人類が滅亡するほどの事柄が発生し世界は終わったらしい。であれば部屋の光景も、外の光景も納得できる。
私はため息を漏らし、立ち上がった。
「……ここでお待ちください」
リビングを出て、子供部屋へ向かう。クローゼットを開け、彼がいつもきているシャツとサスペンダー、半ズボンと靴下を取り出した。丁寧に収納されたそれらを手に取り、踵を返す。
いつも通りの朝のルーティーンだ。寝起きの坊っちゃまをリビングへ連れて行き、できあがった朝食を奥さまが食べさせている間に、着る服を選ぶ。「まだ眠たいよ」と駄々をこねる彼に無理やり服を着せるのだ。
しかし、今は違う。ボロボロになった廊下を歩みながら、まるで昨日のことのように蘇った記憶を辿る。
「ありがとう。働き者ね、マリアは」。そう言って私を労る奥さまのことを思い出し、肩を落とした。
瞬間、足首に違和感を覚える。そういえば、定期検査を受ける予定だったことを思い出す。体の不調を味わい、タイミングが悪いなと眉を歪ませた。
「あっ!」
リビングへついた私は思わず悲鳴を上げる。そこには椅子に登り、戸棚から何かを取り出そうとしている坊っちゃまの姿があった。私は服を放り投げ、急いで駆け寄る。「危ないじゃないですか! 転んだらどうするおつもりです!」と怒鳴ると、彼はしゅんとした顔つきになる。
「……お腹、空いた」
その言葉に、ハッと我にかえる。「そうですよね、お腹が空きましたよね。少々お待ちください」と言い、戸棚を漁った。中にはクッキーや缶詰などが入っている。一つを取り出し、賞味期限を確認する。しかし、今がいつなのかがはっきりとせず、これが食べて良いものなのか分からなかった。
だが、背に腹は代えられない。私は坊っちゃまに「朝食はこれにしましょうか?」と返した。
「……美味しくない、それ」
「え?」
坊っちゃまがひとりごちた。
「ですが坊っちゃま、今はちょっと緊急事態で……」
「違うんだ、マリア。僕、そういう食べ物、好きじゃない」
そこで、彼がアンドロイドだということを思い出す。
────そういえば彼はやけに食事を嫌っていたな。
それは奥さまの悩みの種でもあった。「レオは好き嫌いが激しくて……」と言っていた。だが、それもそうだ。アンドロイドに人間の食事は合わない。奥さまもそれを理解した上で「人間の子供」のように接していたのだろう。人の食事を与えていれば、きっといつかは人間になると思い込んでいたのかもしれない。
あぁ、と私はそこで合点がいく。坊っちゃまが他の子供より弱々しく見えたのは適正な食事を摂取していなかったからなのか。
無理やりアンドロイドに相応しくない食事を提供され続ければ、次第に体調も崩れていくに決まっている。
「好きじゃないんだ……」
言いにくそうに頬を膨らませ俯いた坊っちゃまの頭部を見て、歪な関係性に気がつけなかった自分を恥じた。
「……では、私が今から作ります。まずはその服を着ましょう」
パジャマを脱がせ、持ってきた服を着せる。寝癖を直してやり、玄関へ向かう。並べられた靴を履かせた。
「さぁ、行きましょうか」
ドアノブに手をかける。しかし、びくともしない。押しても引いても微動だにしないドアを見つめた。
ドア自体が歪んだのか、それとも何かに塞がれているのか。兎にも角にも、ドアを開けることは不可能だった。
────階段を使って降りるのは無理みたいだな。
踵を返し、リビングへ帰った。
とどのつまり、人類が滅亡するほどの事柄が発生し世界は終わったらしい。であれば部屋の光景も、外の光景も納得できる。
私はため息を漏らし、立ち上がった。
「……ここでお待ちください」
リビングを出て、子供部屋へ向かう。クローゼットを開け、彼がいつもきているシャツとサスペンダー、半ズボンと靴下を取り出した。丁寧に収納されたそれらを手に取り、踵を返す。
いつも通りの朝のルーティーンだ。寝起きの坊っちゃまをリビングへ連れて行き、できあがった朝食を奥さまが食べさせている間に、着る服を選ぶ。「まだ眠たいよ」と駄々をこねる彼に無理やり服を着せるのだ。
しかし、今は違う。ボロボロになった廊下を歩みながら、まるで昨日のことのように蘇った記憶を辿る。
「ありがとう。働き者ね、マリアは」。そう言って私を労る奥さまのことを思い出し、肩を落とした。
瞬間、足首に違和感を覚える。そういえば、定期検査を受ける予定だったことを思い出す。体の不調を味わい、タイミングが悪いなと眉を歪ませた。
「あっ!」
リビングへついた私は思わず悲鳴を上げる。そこには椅子に登り、戸棚から何かを取り出そうとしている坊っちゃまの姿があった。私は服を放り投げ、急いで駆け寄る。「危ないじゃないですか! 転んだらどうするおつもりです!」と怒鳴ると、彼はしゅんとした顔つきになる。
「……お腹、空いた」
その言葉に、ハッと我にかえる。「そうですよね、お腹が空きましたよね。少々お待ちください」と言い、戸棚を漁った。中にはクッキーや缶詰などが入っている。一つを取り出し、賞味期限を確認する。しかし、今がいつなのかがはっきりとせず、これが食べて良いものなのか分からなかった。
だが、背に腹は代えられない。私は坊っちゃまに「朝食はこれにしましょうか?」と返した。
「……美味しくない、それ」
「え?」
坊っちゃまがひとりごちた。
「ですが坊っちゃま、今はちょっと緊急事態で……」
「違うんだ、マリア。僕、そういう食べ物、好きじゃない」
そこで、彼がアンドロイドだということを思い出す。
────そういえば彼はやけに食事を嫌っていたな。
それは奥さまの悩みの種でもあった。「レオは好き嫌いが激しくて……」と言っていた。だが、それもそうだ。アンドロイドに人間の食事は合わない。奥さまもそれを理解した上で「人間の子供」のように接していたのだろう。人の食事を与えていれば、きっといつかは人間になると思い込んでいたのかもしれない。
あぁ、と私はそこで合点がいく。坊っちゃまが他の子供より弱々しく見えたのは適正な食事を摂取していなかったからなのか。
無理やりアンドロイドに相応しくない食事を提供され続ければ、次第に体調も崩れていくに決まっている。
「好きじゃないんだ……」
言いにくそうに頬を膨らませ俯いた坊っちゃまの頭部を見て、歪な関係性に気がつけなかった自分を恥じた。
「……では、私が今から作ります。まずはその服を着ましょう」
パジャマを脱がせ、持ってきた服を着せる。寝癖を直してやり、玄関へ向かう。並べられた靴を履かせた。
「さぁ、行きましょうか」
ドアノブに手をかける。しかし、びくともしない。押しても引いても微動だにしないドアを見つめた。
ドア自体が歪んだのか、それとも何かに塞がれているのか。兎にも角にも、ドアを開けることは不可能だった。
────階段を使って降りるのは無理みたいだな。
踵を返し、リビングへ帰った。
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