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終わり世界
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マーケットの床には、誰かの頭蓋骨が転がっていた。近くには制服があり、勤務中に亡くなったのだなと察する。
彼(もしくは彼女)を跨ぎ、工具が売っているコーナーへ向かった。並べられた器具たちを尻目に、隅に置かれていたオイルやネジをかき集め、ポケットに入っていたエコバッグに詰め込む。
重くなったエコバッグを肩にぶら下げ、坊っちゃまの元へ向かった。
途中、建物のコンクリートから飛び出た鉄棒を発見する。それを折った。近くにあった電線もエコバッグに詰める。
────このぐらいでいいだろうか。
レストランへ帰ると、坊っちゃまの姿がなかった。「坊っちゃま!?」と叫んだ私の声に引き寄せられるように、裏入口から顔をひょこりと出す。
「坊っちゃま、そこに……」
「ごめんね、ちょっと暇で」
ほっとした私とは裏腹に、彼はどこかモジモジとしていた。口を窄ませ、足を弾ませながら私へ近づく。
「何かあったのですか?」
「う、ううん、何も」
口を窄ませるのは彼の癖である。何か隠したいことがある時、そういう仕草をするのだ。
そうプログラミングされているのだろうなと考え「今すぐ、料理しますね」といい、厨房へ向かう。エコバッグに詰めていたものを取り出し、皿を探す。しまわれていたそれは割れてもおらず、埃もかぶっていない。
取り出した鉄棒を真っ二つに折り、また折る。繰り返して一口サイズにした。上に、針金を短く切りくるくると巻いたものを乗せる。ケーブルの外側を剥ぎ、導体を引っ張り出した。それらを添え物のように置く。
味を整えるためにオイルを垂らせば、完成だ。
スプーンと共に、トレーの上に乗せる。坊っちゃまの元へ戻ると、彼はおとなしく椅子に座ってテーブルに肘をついていた。割れたガラス窓から外を眺めぼんやりとしている。
「……坊っちゃま。料理ができましたよ」
「わぁ、ほんと? お腹すいたよ」
振り返り、花が咲いたような笑みを浮かべた彼の前に、鉄屑の乗った皿を置く。オイルの独特な匂いが漂った。
「……これ?」
坊っちゃまは眉を顰めて私を見上げた。静かに頷いた私に導かれるように、彼がスプーンを掴む。細かく砕かれた鉄棒と巻かれた針金。そして垂らされたオイルをスプーンに乗せ、口へ運んだ。
おずおずと咀嚼する。ゴリゴリと鈍い音が静かすぎるレストランに響いた。
「おいしい!」
嚥下した彼が、輝いた目で私を見つめた。その表情に満足し、こくりと頷いた。その瞳に覇気が宿る。
────相当、無理をして人間の食事を摂っていたのだろう。アンドロイドにとって最適な食事をしてきたことがないのだ、彼は。
手を止めることなく食べ続ける坊っちゃまの向かいに座る。
彼(もしくは彼女)を跨ぎ、工具が売っているコーナーへ向かった。並べられた器具たちを尻目に、隅に置かれていたオイルやネジをかき集め、ポケットに入っていたエコバッグに詰め込む。
重くなったエコバッグを肩にぶら下げ、坊っちゃまの元へ向かった。
途中、建物のコンクリートから飛び出た鉄棒を発見する。それを折った。近くにあった電線もエコバッグに詰める。
────このぐらいでいいだろうか。
レストランへ帰ると、坊っちゃまの姿がなかった。「坊っちゃま!?」と叫んだ私の声に引き寄せられるように、裏入口から顔をひょこりと出す。
「坊っちゃま、そこに……」
「ごめんね、ちょっと暇で」
ほっとした私とは裏腹に、彼はどこかモジモジとしていた。口を窄ませ、足を弾ませながら私へ近づく。
「何かあったのですか?」
「う、ううん、何も」
口を窄ませるのは彼の癖である。何か隠したいことがある時、そういう仕草をするのだ。
そうプログラミングされているのだろうなと考え「今すぐ、料理しますね」といい、厨房へ向かう。エコバッグに詰めていたものを取り出し、皿を探す。しまわれていたそれは割れてもおらず、埃もかぶっていない。
取り出した鉄棒を真っ二つに折り、また折る。繰り返して一口サイズにした。上に、針金を短く切りくるくると巻いたものを乗せる。ケーブルの外側を剥ぎ、導体を引っ張り出した。それらを添え物のように置く。
味を整えるためにオイルを垂らせば、完成だ。
スプーンと共に、トレーの上に乗せる。坊っちゃまの元へ戻ると、彼はおとなしく椅子に座ってテーブルに肘をついていた。割れたガラス窓から外を眺めぼんやりとしている。
「……坊っちゃま。料理ができましたよ」
「わぁ、ほんと? お腹すいたよ」
振り返り、花が咲いたような笑みを浮かべた彼の前に、鉄屑の乗った皿を置く。オイルの独特な匂いが漂った。
「……これ?」
坊っちゃまは眉を顰めて私を見上げた。静かに頷いた私に導かれるように、彼がスプーンを掴む。細かく砕かれた鉄棒と巻かれた針金。そして垂らされたオイルをスプーンに乗せ、口へ運んだ。
おずおずと咀嚼する。ゴリゴリと鈍い音が静かすぎるレストランに響いた。
「おいしい!」
嚥下した彼が、輝いた目で私を見つめた。その表情に満足し、こくりと頷いた。その瞳に覇気が宿る。
────相当、無理をして人間の食事を摂っていたのだろう。アンドロイドにとって最適な食事をしてきたことがないのだ、彼は。
手を止めることなく食べ続ける坊っちゃまの向かいに座る。
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