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◇
現在
事務所から窓の外を見る。空は青々として雲は白い。昨日の豪雨が嘘みたいだ。嫌味のように太陽が輝いている。夏だと言っても過言ではない程の暑さだ。ワイシャツの袖を捲り上げる。半袖に切り替えるべきだろうかと悩み、窓を全開にする。風が入り込み気持ちがいい。カーテンが揺れた。
「昨日は、お見舞いに行ったの?」
「まひるのお母さんに、帰って欲しいと言われました」
「はぇ?」と素っ頓狂な声をかな子があげる。
椅子に座り、弁当箱を開いた。ブロッコリーの炒めもの、ミートボール、ミニトマト、白身魚のフライにタルタルソース。ミンチの甘辛煮と卵そぼろを乗っけたご飯。今日は力作だ。冷凍ばかりではなく、手作りも多い。
────段々、上手くなっている気がする。
自画自賛したくなるほどの出来栄えに、満足する。
────まひるが見たら褒めてくれるだろうか。
かな子はオムライス弁当らしい。表面にはケチャップで猫のイラストが描かれていた。スプーンで割くと中身はチキンライスだ。スプーンに乗っけたオムライスを口に入れ「なんで?」と聞いてくる。もふもふと口を動かし、それを緑茶で流し込んだ。白身のフライを食みながら「荻窪が言ったんでしょうね」と一言。
「え、荻窪くんが?」
「自分が、まひるに構いすぎているのがいけないんだと思います」
前に荻窪に言われたことをかな子に伝えると、神妙な顔で「難しいなぁ」とぼやいた。
「自分はただ、まひるに会いたいから会いに行ってるだけなんです。プライベートを蔑ろにしているわけじゃない。ちゃんと、まひるに会いに行った後は自宅で自分の時間を過ごせていますし、休日もまひるには会いに行ってますけどべったり何時間も病室に居座るわけじゃないんです」
ミンチの甘辛煮を箸で掴む。こういう類の料理はスプーンの方が食べやすいなぁ、と箸を持ってきたことを後悔した。
「何週間もまひるに会いに来なかった奴に、とやかく言われる筋合いはない」
増悪のこもった声が、事務所内に響く。
はっと我に返り「でも、身内の人に来ないでくれって言われたら、何も言い返せないですよね」と箸で無理に掴んだご飯を食べ、下手な笑顔でかな子を見た。
「……多分、まひるちゃんのお母様もきっと翔ちゃんのことが心配なのよ」
「……」
「それと同じように、荻窪くんも翔ちゃんのことが心配なの」
「……分かってはいるつもりです」
でも、自分はあの子なしでは、生きていけない。
そう続けようとしたが、言葉を発すると惨めに泣いてしまいそうになったのでぐっと飲み込んだ。
外でバイクのふかした音が聞こえた。
現在
事務所から窓の外を見る。空は青々として雲は白い。昨日の豪雨が嘘みたいだ。嫌味のように太陽が輝いている。夏だと言っても過言ではない程の暑さだ。ワイシャツの袖を捲り上げる。半袖に切り替えるべきだろうかと悩み、窓を全開にする。風が入り込み気持ちがいい。カーテンが揺れた。
「昨日は、お見舞いに行ったの?」
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「はぇ?」と素っ頓狂な声をかな子があげる。
椅子に座り、弁当箱を開いた。ブロッコリーの炒めもの、ミートボール、ミニトマト、白身魚のフライにタルタルソース。ミンチの甘辛煮と卵そぼろを乗っけたご飯。今日は力作だ。冷凍ばかりではなく、手作りも多い。
────段々、上手くなっている気がする。
自画自賛したくなるほどの出来栄えに、満足する。
────まひるが見たら褒めてくれるだろうか。
かな子はオムライス弁当らしい。表面にはケチャップで猫のイラストが描かれていた。スプーンで割くと中身はチキンライスだ。スプーンに乗っけたオムライスを口に入れ「なんで?」と聞いてくる。もふもふと口を動かし、それを緑茶で流し込んだ。白身のフライを食みながら「荻窪が言ったんでしょうね」と一言。
「え、荻窪くんが?」
「自分が、まひるに構いすぎているのがいけないんだと思います」
前に荻窪に言われたことをかな子に伝えると、神妙な顔で「難しいなぁ」とぼやいた。
「自分はただ、まひるに会いたいから会いに行ってるだけなんです。プライベートを蔑ろにしているわけじゃない。ちゃんと、まひるに会いに行った後は自宅で自分の時間を過ごせていますし、休日もまひるには会いに行ってますけどべったり何時間も病室に居座るわけじゃないんです」
ミンチの甘辛煮を箸で掴む。こういう類の料理はスプーンの方が食べやすいなぁ、と箸を持ってきたことを後悔した。
「何週間もまひるに会いに来なかった奴に、とやかく言われる筋合いはない」
増悪のこもった声が、事務所内に響く。
はっと我に返り「でも、身内の人に来ないでくれって言われたら、何も言い返せないですよね」と箸で無理に掴んだご飯を食べ、下手な笑顔でかな子を見た。
「……多分、まひるちゃんのお母様もきっと翔ちゃんのことが心配なのよ」
「……」
「それと同じように、荻窪くんも翔ちゃんのことが心配なの」
「……分かってはいるつもりです」
でも、自分はあの子なしでは、生きていけない。
そう続けようとしたが、言葉を発すると惨めに泣いてしまいそうになったのでぐっと飲み込んだ。
外でバイクのふかした音が聞こえた。
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