灯のないところで

石嶺経

文字の大きさ
10 / 25

一章(6)

しおりを挟む
 二回目にはちょっと本気で泣きそうになった。一体どんな秘密があの手帳にあるというのか。特に使い込まれてもいないそれに(何なら新品かと思った)錬金術か死者を蘇らせる方法でも書かれているというのか。あるいはこの反応からして自作のポエムなんかが書いてあったりして。

 本気で気になってはいたけど、帰りの電車では思考を巡らせることは無かった。単純に疲れていた。行きは吊革に捕まっていた僕だったが、帰りは流石に座っていた。荷物もあったし。

 僕はなんだか霞がかった様にぼやっとした頭で考える。誰かが僕の家に来るなんて、引っ越してからは初めてのことだな。あまり喜ばしい来襲ではないけど。秋野は向かいに座っているが、心なしか焦っている様な。まあ、わからないでもない。僕だって人の手に日記だの手帳だのが渡ったら焦るだろう。どうにかして取り返したいと思うに違いない。まあ、生憎僕はメモを取る習慣も日記をつける習慣も無いけど。

 外の景色に視線を投げるものの、ぼんやりとした輪郭が見えるのみだ。外灯が少ないから、この時間はトンネルに入るまでもなく真っ暗だ。電車から零れる光のみが辺りを照らしている。


「ここから近いの?」

 駅からの道中、後ろを歩く秋野が呟く。駅から離れるにつれ、人通りが少なくなってくる。まるで人の流れから二人だけ取り残されたかのようだ。

「少し歩くかな」

「そう」

 振り返らず答えた僕に、そっけない言葉が返ってくる。
 僕は周りを見渡す。この時間に出歩いている高校生は中々居ないだろう。職質にでも遭うかもしれない。勿論僕一人ならどうでもいいようなことだが、今日は秋野と一緒だ。何か面倒くさいことになるかもしれない。用心に越したことは無い。

 秋野の足音を聞きながら擦れ違う人をやり過ごすけど、特に怪しいのはいない。強いて言うならきょろきょろしている僕が一番怪しい。
 もう少しで家に着く、といったところで僕の家の前に人がいるのを見つけた。外灯が無いので誰かは分からないが、随分と身長が高い。もしかしたら……。
 思わず立ち止まる僕だったが、向こうの方から近付いてきた。秋野も警戒しているのだろう、足音がしない。

「敬か?」

 聞き覚えのある低い声。同じクラスの相田のものだった。

「相田かよ。びっくりさせんな」

「別に驚かしたつもりはねーけどな。こんな時間に何してたんだ? 何だその荷物? サンタクロースか?」

 問い詰めるような口調。浅倉もこいつも、何のつもりなんだろうか。

「言わないと駄目か」

   振り返り背後を確認するけど、秋野が見当たらない。
 見つかってないのなら、秋野について言い訳する必要は無いが、どっちだ?

「別に。つーか特に用も無いぜ。ただ歩いてたら、向こうからお前が来たから話でもしてやろうかと」

 頭をぽりぽりと掻きながら周りを見渡す相田。その手と足がやたらと長く、制服が窮屈そうだ。

「余計なお世話だ」

「だろーな」

 どうでも良さそうに言い捨てる。じゃあ声なんか掛けなきゃいいのに。
 腹の中に黒いものが沸いてくる……何か言い返してやろう。

「お前こそ何でこんな時間に外にいるんだ」

「デートだよ、デート。浅倉と会ってたのさ。その帰りってわけ」

 暗がりでも分かるくらいにニヤついている。こいつの笑い方は心底嫌いだ、聞かなきゃ良かった。
 反撃しようなんて考えるんじゃなかった。

「おーおー。そりゃ良かったな。僕は今から、一人寂しく家に帰るとこだ。さっさと消えろ消えろ」

「お前が聞いたんだろうが……。まあ、そこまで言われたら帰るわ。ちゃんと明日も学校こいよ」

「へーい」

「じゃあ」

 手をヒラヒラさせて背を向ける。しばらく小さくなっていく後姿を見ていたが、そういえば秋野は何処に行ったんだ。まさか帰ったか……いや、それで問題ないか。

 ふと、相田と反対側の、さっき通ってきた道に視線を投げる。遠くの方に、しゃがんでる人? のシルエットがある気がする。

「秋野?」

 反応が無い。
 もしや霊的なものか、とか馬鹿なことを思いながらゆっくり近付いてみたけど、秋野で合っていた。しゃがんで猫を撫でている。猫の方も気持ち良さそうにごろごろ言ってる。猫を愛でる趣味があったのは意外だったが、そうしている秋野はなんだか絵になるな。猫の方は真っ黒だから良く見えないけど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...