12 / 25
一章(8)
しおりを挟む
やっぱり手帳が気掛かりなのだろうか。
少し手間取りながらも鍵を引き抜き、ドアノブに突き刺す。一回転させると、かちゃりと心地良い音がする。やっと帰ってきたって感じだ。
扉を開け放ち、玄関に荷物を降ろす。軽く伸びをすると、日頃使っていない筋肉共が悲鳴を上げる。明日には筋肉痛になっているかもしれない。
「お邪魔しまーす」
靴を脱ぎ、勝手に入っていく秋野。
一人暮らしの男子高校生の家に平気で上がるとは。こいつは自分をもっと大事にするべきだな。そうでないなら死ぬべきだ。
僕は鍵を閉めてから、秋野の後に続く。
「シンプルな部屋だね」
「そうだな」
少し広めのワンルーム。入って直ぐ左手のところに流しと冷蔵庫があり、向かい合うように風呂場がある。そこを抜ければリビングとなっているが、そのスペースには机と本棚ぐらいしか置いていない。必要の無い物は置かない主義だ。
「座ってろ。飲み物ぐらい出す」
コップを取りに流しに行くが、秋野もついてくる。
「そうはいかない」
何を言ってるんだこいつ、と思ったけど手を洗いたかっただけのようだ。蛇口を捻り、石鹸でこれでもかと手を擦る。そういえば猫触ってたしな。僕も秋野の横に立ち、手を洗う。肩が触れてしまいそうだ。
秋野は気にならないらしく、掛けっ放しのタオルに手を拭くと、机の前に鎮座していた。さっきは小動物と言ったが、今度は犬のようだ。
今度こそコップを取り出し、冷蔵庫に唯一入っていたジンジャーエールを注いで秋野の前に持っていく。
「ありがと」
秋野が喉を鳴らして飲んでいる隙に、その辺に投げてある僕の制服のポケットから手帳を取り出す。
「ほらよ」
手渡そうとして、猛禽類の様に奪われる。
あっぶねえこいつ。
少し引いた僕を余所に、秋野は奪い返した手帳をその豊満な胸で包む様に抱きしめる。さながら愛おしい我が子を抱くように。
「良かった……本当に良かった」
今にも泣き出さんばかりだ。一体どんな秘密が隠されているというのか。
僕はジンジャーエールに口を付ける。
これ以上面倒くさい事はごめんだし、聞く必要も無いかな。いや、でもここまでされたら流石に気になるっていうか。
「気になる?」
いつの間にか顔をあげていた秋野に、下から覗きこまれるような形になる。こいつはどういう感情なのか。推して知ることも出来やしない。
「そりゃ気になるけど」
「見せてあげようか?」
「……んー」
正直なところ見たいという気持ちはあるが、それより不安が先に立つ。女子の手帳なんて誰の悪口が書いてるとも知れない代物に、恐怖を抱くのは僕だけではないだろう。自分で性格悪いとか言っていたし、今までの恨み辛みが認めてあるかもしれない。そうであったならあんなに取り乱すのも判る気がするが……そんなもの見たくない。
「これも嘘。今の有川君には易々と見せられないの」
今のってなんだ。もしかしてこの「手伝い」ってこれからも続くものなのか。
「でも、内容は教えてあげる。この手帳には、私が自殺する理由が書いてあるの」
「ええ……」
絶句したが、秋野も僕だけには文句を言われたくはないだろう。
いやいや、それを差し置いてもだ。自殺しようとしていた者同士、打ち明けても良い気になったかもしれないけど、ちょっと重過ぎるだろう。
「ちょっと、トイレ」
居た堪れなくなって、取り敢えずこの場を離れようと言い放つ。返事を待たずに僕は洗面所へと入り鏡を見つめる。
何故秋野はあんなことを言うのだろうか。助けを求めているのか? 死にたくないとの心からの叫びが彼女をそうさせるとしたら、何故僕なのだろうか。本当に自殺仲間だからか? あの時僕は冗談とも取れるような言い方をした。だからと言うわけじゃないが、僕が自殺しようとしてたかなんて、確かに分かる事では無いのではないだろうか?それとも、既に自暴自棄になっていて、誰でもいいから助けを求めたということだろうか。
少し手間取りながらも鍵を引き抜き、ドアノブに突き刺す。一回転させると、かちゃりと心地良い音がする。やっと帰ってきたって感じだ。
扉を開け放ち、玄関に荷物を降ろす。軽く伸びをすると、日頃使っていない筋肉共が悲鳴を上げる。明日には筋肉痛になっているかもしれない。
「お邪魔しまーす」
靴を脱ぎ、勝手に入っていく秋野。
一人暮らしの男子高校生の家に平気で上がるとは。こいつは自分をもっと大事にするべきだな。そうでないなら死ぬべきだ。
僕は鍵を閉めてから、秋野の後に続く。
「シンプルな部屋だね」
「そうだな」
少し広めのワンルーム。入って直ぐ左手のところに流しと冷蔵庫があり、向かい合うように風呂場がある。そこを抜ければリビングとなっているが、そのスペースには机と本棚ぐらいしか置いていない。必要の無い物は置かない主義だ。
「座ってろ。飲み物ぐらい出す」
コップを取りに流しに行くが、秋野もついてくる。
「そうはいかない」
何を言ってるんだこいつ、と思ったけど手を洗いたかっただけのようだ。蛇口を捻り、石鹸でこれでもかと手を擦る。そういえば猫触ってたしな。僕も秋野の横に立ち、手を洗う。肩が触れてしまいそうだ。
秋野は気にならないらしく、掛けっ放しのタオルに手を拭くと、机の前に鎮座していた。さっきは小動物と言ったが、今度は犬のようだ。
今度こそコップを取り出し、冷蔵庫に唯一入っていたジンジャーエールを注いで秋野の前に持っていく。
「ありがと」
秋野が喉を鳴らして飲んでいる隙に、その辺に投げてある僕の制服のポケットから手帳を取り出す。
「ほらよ」
手渡そうとして、猛禽類の様に奪われる。
あっぶねえこいつ。
少し引いた僕を余所に、秋野は奪い返した手帳をその豊満な胸で包む様に抱きしめる。さながら愛おしい我が子を抱くように。
「良かった……本当に良かった」
今にも泣き出さんばかりだ。一体どんな秘密が隠されているというのか。
僕はジンジャーエールに口を付ける。
これ以上面倒くさい事はごめんだし、聞く必要も無いかな。いや、でもここまでされたら流石に気になるっていうか。
「気になる?」
いつの間にか顔をあげていた秋野に、下から覗きこまれるような形になる。こいつはどういう感情なのか。推して知ることも出来やしない。
「そりゃ気になるけど」
「見せてあげようか?」
「……んー」
正直なところ見たいという気持ちはあるが、それより不安が先に立つ。女子の手帳なんて誰の悪口が書いてるとも知れない代物に、恐怖を抱くのは僕だけではないだろう。自分で性格悪いとか言っていたし、今までの恨み辛みが認めてあるかもしれない。そうであったならあんなに取り乱すのも判る気がするが……そんなもの見たくない。
「これも嘘。今の有川君には易々と見せられないの」
今のってなんだ。もしかしてこの「手伝い」ってこれからも続くものなのか。
「でも、内容は教えてあげる。この手帳には、私が自殺する理由が書いてあるの」
「ええ……」
絶句したが、秋野も僕だけには文句を言われたくはないだろう。
いやいや、それを差し置いてもだ。自殺しようとしていた者同士、打ち明けても良い気になったかもしれないけど、ちょっと重過ぎるだろう。
「ちょっと、トイレ」
居た堪れなくなって、取り敢えずこの場を離れようと言い放つ。返事を待たずに僕は洗面所へと入り鏡を見つめる。
何故秋野はあんなことを言うのだろうか。助けを求めているのか? 死にたくないとの心からの叫びが彼女をそうさせるとしたら、何故僕なのだろうか。本当に自殺仲間だからか? あの時僕は冗談とも取れるような言い方をした。だからと言うわけじゃないが、僕が自殺しようとしてたかなんて、確かに分かる事では無いのではないだろうか?それとも、既に自暴自棄になっていて、誰でもいいから助けを求めたということだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる