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第二章
18話
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18話
ギルと2人、重要な会合などで使われる応接室の豪華な扉をくぐる。大きな円卓のある部屋で、そこには背の高いギルよりも、さらに頭ひとつ分くらい大きな人物たちが待っていた。
一人は見るからに筋骨粒々で美しい騎士服の胸元がはち切れそう。短い金髪を後ろになでつけ、頭には小さな獣の耳が生えている。獅子の獣人、ビスティア国宰相ダリオン・ヴォスクール様。
もう一人は背丈こそ同じくらいだが、ひどく猫背で線が細い。長い黒髪をひとつに結び、あまり顔色のよくない色白の肌。黄色い猫のような瞳だけがギョロっとしている。同じような騎士服を着ているけど、正直あんまり似合ってない。ゴシカ国宰相オアゾ・ローゼンフェルド様。
2人とも人間で言ったら40歳くらいかな。魔界の人の年齢は、見た目×2くらいらしいので80歳くらい?ちなみに魔力を持った私もそれくらい生きられるようになるらしい、実感はないけど。
私たちが入室すると2人は椅子から立ち上がり頭を下げた。私たちが腰掛けるまで、微動だにしなかった。
「頭をあげてくれ、堅苦しいのはなしだ。」
お二人は顔をあげ腰掛けると、私とギルの顔を見比べる。
「彼女が私の伴侶となったアヤだ。」
私は立ち上がり、深々とお辞儀をする。
「遠野綾と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
ゆっくりと腰かけた私に、大きな声がかかる。
「いや、驚いた!あの陛下が突然伴侶を連れてきたと思ったら人間だという!しかも血の盟約まで結んでいると聞いて会いにいかないわけにはいくまい!どんな女性かと思ったら、これはまた…」
声の大きいヴォスクール様は私の顔をまじまじと見つめた。
「陛下が心奪われるのも頷ける!私の4人目の妻にしたいくらいだ!」
そう言ってガハハと笑った。
ヴォスクール様はギルと同じように魔力が強く、それを補うために3人の奥さんを娶っているらしい。獣人の国は一夫多妻が認められているのだ。
「この度は伴侶を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げる。」
ヴォスクール様のセリフを無視して、ローゼンフェルド様がお祝いの言葉を仰る。まったく笑ってないので、お祝いに聞こえない。その異様に大きな黄色い瞳でじっと見つめられた。
「なるほど、人間と血の盟約を結び、魔力を補完し合う。陛下の魔力問題の解決方法としては最善かと。」
話す間も、目は私をずっと見つめたままだ。
その視線をギルの大きな手が遮る。そのまま私の肩に手を回した。
「たしかに、問題解決は嬉しいが、彼女を選んだのはそんな小さな理由ではない。彼女を軽視することは、私への侮辱だと思え。」
「失礼いたしました。」
感情の込もっていない声、正直何を考えているのかまったく分からなかった。
「ハハハっ!陛下が伴侶であるあなたを溺愛しているという噂も嘘ではないようだな!」
溺愛という言葉に頬が赤くなった。
「初々しい反応も可愛らしい!陛下!今晩だけでもお貸し願えないか!」
その言葉にギルの顔がみるみる険しくなった。
「ガハハ!冗談だ!私もまだ命は惜しい!」
ストレートすぎるセクハラ発言に苦笑いするしかなかった。キャバクラにもいたなこういうお客様。
その時、部屋のドアがノックされ、声がかかる。
「食事の用意ができたようだ。これからの話はそのあとにしよう。」
部屋を移動し、4人で会食。マナーに気をつけすぎて、まったく味は分からなかった。
* * *
「失礼いたします。」
食事のあと、国のトップ3人で話し合いが行われるということで私は退室した。廊下を歩きながらホッと胸を撫で下ろす。最初はどうなるかと思ったが、食事の間はピリピリした雰囲気もなくなり、何事もなく終わった。私もそんな大きなミスはしていない…と信じたい。
解放感に、軽い足取りで進んでいると……。
「綾さん……。」
「!」
突然声をかけられ振り返ると、そこにはローゼンフェルド様が立っていた。いつの間に近づいてきたのだろう、人の気配なんてしなかった。
黄色い瞳がスッと近づいてくる。私は壁際に一歩下がった。
「ローゼンフェルド様?どうしてこちらに?」
「どうぞ、オアゾと呼んでいただきたい。これから長いお付き合いになるのですから。」
言いながら、さらに一歩近づいてくる。私もさらに一歩下がる。
「大切な会合ではないのですか?」
「会合も大切ですが、今日の目的は貴女ですから。」
私はさらに後ろへ下がろうとするが、背中に壁がついてしまった。私の髪に、色白の長い指が触れた。
「美しい。貴女の魂はなんと、かぐわしいのでしょう。」
「魂……?」
「我々死霊族は生きとし生ける者の魂から切り離された存在。美しい魂に目がないのです。特に貴女のような女性なら、なおさら……」
指が私の頬に触れそうになる、その瞬間、突然彼の体が私から引き離された。
「ローゼンフェルド、貴様何をしている。」
私とローゼンフェルド様の間に、ギルが立ち塞がった。
「ふふふっ、陛下のそのようなお顔は久しぶりに見ます。」
それでもローゼンフェルド様は飄々としていて、何を考えているのか分からなかった。
「彼女に何をした。」
私からはギルの顔が見えない。でも声色からひどく苛立っているのが分かった。
「ただご挨拶させていただいただけです。これから末長くお付き合いしましょうと。」
ギルが拳を握りしめた。グッと力がこもる。私は咄嗟にその手を掴んだ。ハッと私を振り返る。
「本当です。ご挨拶していただけですから。」
私が笑いかけると、彼の拳から力が抜けた。
「ふふふふっ、面白いものを見ました。この魔界で敵うものなどいない陛下も、可愛らしい伴侶にはかなわないらしい。」
ローゼンフェルド様はギルに掴まれ、乱れた襟元を正した。
「綾さん、いつかぜひゴシカへお越しください。貴女ならいつでも歓迎いたします。」
そう言って不敵な笑みを浮かべ去っていく。それを、私は呆然と見ていることしかできなかった。
ギルと2人、重要な会合などで使われる応接室の豪華な扉をくぐる。大きな円卓のある部屋で、そこには背の高いギルよりも、さらに頭ひとつ分くらい大きな人物たちが待っていた。
一人は見るからに筋骨粒々で美しい騎士服の胸元がはち切れそう。短い金髪を後ろになでつけ、頭には小さな獣の耳が生えている。獅子の獣人、ビスティア国宰相ダリオン・ヴォスクール様。
もう一人は背丈こそ同じくらいだが、ひどく猫背で線が細い。長い黒髪をひとつに結び、あまり顔色のよくない色白の肌。黄色い猫のような瞳だけがギョロっとしている。同じような騎士服を着ているけど、正直あんまり似合ってない。ゴシカ国宰相オアゾ・ローゼンフェルド様。
2人とも人間で言ったら40歳くらいかな。魔界の人の年齢は、見た目×2くらいらしいので80歳くらい?ちなみに魔力を持った私もそれくらい生きられるようになるらしい、実感はないけど。
私たちが入室すると2人は椅子から立ち上がり頭を下げた。私たちが腰掛けるまで、微動だにしなかった。
「頭をあげてくれ、堅苦しいのはなしだ。」
お二人は顔をあげ腰掛けると、私とギルの顔を見比べる。
「彼女が私の伴侶となったアヤだ。」
私は立ち上がり、深々とお辞儀をする。
「遠野綾と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
ゆっくりと腰かけた私に、大きな声がかかる。
「いや、驚いた!あの陛下が突然伴侶を連れてきたと思ったら人間だという!しかも血の盟約まで結んでいると聞いて会いにいかないわけにはいくまい!どんな女性かと思ったら、これはまた…」
声の大きいヴォスクール様は私の顔をまじまじと見つめた。
「陛下が心奪われるのも頷ける!私の4人目の妻にしたいくらいだ!」
そう言ってガハハと笑った。
ヴォスクール様はギルと同じように魔力が強く、それを補うために3人の奥さんを娶っているらしい。獣人の国は一夫多妻が認められているのだ。
「この度は伴侶を迎えられたこと、心よりお喜び申し上げる。」
ヴォスクール様のセリフを無視して、ローゼンフェルド様がお祝いの言葉を仰る。まったく笑ってないので、お祝いに聞こえない。その異様に大きな黄色い瞳でじっと見つめられた。
「なるほど、人間と血の盟約を結び、魔力を補完し合う。陛下の魔力問題の解決方法としては最善かと。」
話す間も、目は私をずっと見つめたままだ。
その視線をギルの大きな手が遮る。そのまま私の肩に手を回した。
「たしかに、問題解決は嬉しいが、彼女を選んだのはそんな小さな理由ではない。彼女を軽視することは、私への侮辱だと思え。」
「失礼いたしました。」
感情の込もっていない声、正直何を考えているのかまったく分からなかった。
「ハハハっ!陛下が伴侶であるあなたを溺愛しているという噂も嘘ではないようだな!」
溺愛という言葉に頬が赤くなった。
「初々しい反応も可愛らしい!陛下!今晩だけでもお貸し願えないか!」
その言葉にギルの顔がみるみる険しくなった。
「ガハハ!冗談だ!私もまだ命は惜しい!」
ストレートすぎるセクハラ発言に苦笑いするしかなかった。キャバクラにもいたなこういうお客様。
その時、部屋のドアがノックされ、声がかかる。
「食事の用意ができたようだ。これからの話はそのあとにしよう。」
部屋を移動し、4人で会食。マナーに気をつけすぎて、まったく味は分からなかった。
* * *
「失礼いたします。」
食事のあと、国のトップ3人で話し合いが行われるということで私は退室した。廊下を歩きながらホッと胸を撫で下ろす。最初はどうなるかと思ったが、食事の間はピリピリした雰囲気もなくなり、何事もなく終わった。私もそんな大きなミスはしていない…と信じたい。
解放感に、軽い足取りで進んでいると……。
「綾さん……。」
「!」
突然声をかけられ振り返ると、そこにはローゼンフェルド様が立っていた。いつの間に近づいてきたのだろう、人の気配なんてしなかった。
黄色い瞳がスッと近づいてくる。私は壁際に一歩下がった。
「ローゼンフェルド様?どうしてこちらに?」
「どうぞ、オアゾと呼んでいただきたい。これから長いお付き合いになるのですから。」
言いながら、さらに一歩近づいてくる。私もさらに一歩下がる。
「大切な会合ではないのですか?」
「会合も大切ですが、今日の目的は貴女ですから。」
私はさらに後ろへ下がろうとするが、背中に壁がついてしまった。私の髪に、色白の長い指が触れた。
「美しい。貴女の魂はなんと、かぐわしいのでしょう。」
「魂……?」
「我々死霊族は生きとし生ける者の魂から切り離された存在。美しい魂に目がないのです。特に貴女のような女性なら、なおさら……」
指が私の頬に触れそうになる、その瞬間、突然彼の体が私から引き離された。
「ローゼンフェルド、貴様何をしている。」
私とローゼンフェルド様の間に、ギルが立ち塞がった。
「ふふふっ、陛下のそのようなお顔は久しぶりに見ます。」
それでもローゼンフェルド様は飄々としていて、何を考えているのか分からなかった。
「彼女に何をした。」
私からはギルの顔が見えない。でも声色からひどく苛立っているのが分かった。
「ただご挨拶させていただいただけです。これから末長くお付き合いしましょうと。」
ギルが拳を握りしめた。グッと力がこもる。私は咄嗟にその手を掴んだ。ハッと私を振り返る。
「本当です。ご挨拶していただけですから。」
私が笑いかけると、彼の拳から力が抜けた。
「ふふふふっ、面白いものを見ました。この魔界で敵うものなどいない陛下も、可愛らしい伴侶にはかなわないらしい。」
ローゼンフェルド様はギルに掴まれ、乱れた襟元を正した。
「綾さん、いつかぜひゴシカへお越しください。貴女ならいつでも歓迎いたします。」
そう言って不敵な笑みを浮かべ去っていく。それを、私は呆然と見ていることしかできなかった。
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