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第三章
22話
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22話
晩餐会になっても、彼女の周りは人だかりで話しかけることもできない。夜は薄紅色のドレスを着た彼女は、会場の誰よりも綺麗だった。会場にいる誰もが彼女と話したくて、順番待ちになっている。ため息をついてその場から離れた。
中庭で会ったとき、もっとたくさん話せば良かった。うじうじ考えて、またため息が出る。
会場のもうひとつの人だかりには魔王陛下と護衛の獣人がいる。護衛隊長はビスティア国内でも有名だ。獣人には珍しい魔力持ちで、剣の腕も素晴らしいと聞く。しかし、彼は父ではなく、魔王陛下に仕えることを選んだ。だから、国内での評判は良い評判と悪い評判が半々だ。裏切り者なんて呼ばれることもある。でも俺は羨ましかった、いつか自分もこの国を出たい。自由な場所で生きてみたい。
晩餐会場から出て、また中庭に出る。イヤなことがあるといつもここに来る。他に行くところがないし、ここならひとりになれる。
俺は父の二番目の妻の子どもで兄が一人、妹と弟が一人ずつ。他の母の子ども合わせて10人のうちのちょうど5番目。5番目なんて父も母も気にかけることはない。居てもいなくてもいい存在、それが俺だ。魔力もなく、剣の腕もまぁまぁ。そんな俺を変える方法なんてひとつも分からない。
中庭の中央には噴水がある。いつも俺はその縁に腰掛けてこのイヤな気持ちが過ぎるのを待った。今日成人したダラス兄さんには魔力があり、父も母たち3人もとても期待している。俺とは違いすぎて、また惨めな気持ちになった。
ふと感じた人の気配に、こんな情けない顔を見られたくなくて、立ち上がった。立ち去ろうとする俺に
「今日はよくお会いしますね。」
優しい声がかかって驚いた。振り返ると彼女、魔王陛下の伴侶、綾さんが立っていた。
「なんで……ここに?」
「ただいま、ダリオン様の綾様へのアプローチが過剰なことに、魔王陛下がお怒りになり、綾様が退室を余儀なくされる事態になっております。」
後ろに控えた侍女の答えに、俺は恥ずかしさと怒りで顔が赤くなった。
「父が本当に申し訳ありません!」
深々と頭を下げた。いつもいつも、なんであんな父親のために俺がこんな思いをするのか。
「ふふっ、面白いお父様ですね。私なんかを口説かなくても、あんなに綺麗な奥様方がいらっしゃるのに。」
噴水の縁に腰掛ける彼女が、本心でそう言ってるようで驚いた。
「綾…様みたいな綺麗な人だから、父もそんなことしたんだと思います。」
彼女は少し驚いた顔をした後、びっくりするくらい可愛らしく笑った。その笑顔にどぎまぎしてしまう。
「様なんていりません。私が偉いわけではなくて、私はただの人間ですから。よかったら少しお話しませんか?」
「!……俺なんかで良かったら…?」
一人分の間をあけて、彼女の隣に腰掛け、いろいろな話をした。ビスティアのこと、獣人のこと、家族のこと、そして俺自身のこと。優しく相づちをうちながら聞いてくれる彼女に、普段誰にも言えない弱音まで話してしまった。
「ダグリーさんは、ご両親のことがお嫌いですか?」
改めて聞かれると、よく分からなかった。
「ものすごく嫌になるときはあります。でも、尊敬できるところもある…と思います。」
嫌だいやだと思いながら、認めてほしいと願う。子どもっぽい願いに恥ずかしくなった。
「私は、小さい頃に両親を亡くしました。それからずっと孤児院で暮らしてたんです。」
突然の話にびっくりした。綾さんはすごく特別な人だと思っていたから。そんな悲しいこととは無縁に見えたから。
「でも、自分を不幸だと思ったことはあまりありません。血が繋がってなくても、家族がいてくれたからです。
でも、両親に会いたいと思う気持ちはずっとずっとありました。大人になった今でも思います。
どうか、いまダグリーさんの目の前にあるものを大切にしてください。大人になって後悔することのないように。」
そう言って笑う笑顔が、綺麗で強くてかっこ良かった。女の人にかっこいいなんて思ったの初めてだ。
その時、彼女を呼ぶ声が聞こえた。父と魔王陛下がどうなったのか知りたいような、知りたくないような。
「ありがとうございます。綾さんと話せてすごく嬉しかった。」
「私もです。こちらこそありがとうございました。」
本当は、もっとずっと話していたかった。
でも、このときの俺はある思いでいっぱいだった。
* * *
翌日、魔王陛下と綾さんはアルデバランに帰るため、我々王族と最後の挨拶をしていた。魔王陛下のちょっと不機嫌な表情は絶対に父のせいだ。
俺はそこで、綾さんの前に出て、その手を取った。不思議そうな顔の彼女に宣言する。
「俺が成人したら、アルデバランに行って、貴女を守る騎士になります。絶対強くなります。待っていてください。」
彼女も侍女も護衛隊長も、魔王陛下もすっごくびっくりしてた。もちろん、父も母も兄弟たちも。
「頑張ってください。ダグリーさん。」
その時の彼女の笑顔を、俺は絶対忘れない。
* * *
「なんで?!なぜ彼が君の手を取るんだ!」
帰りの馬車に乗ると、ギルに問い詰められる。
「昨日、陛下とダリオン様が晩餐会で言い争う間、噴水でダグリー様と綾様はお話をされました。」
ダグリーさんの自分の国を出たい気持ちは、私にもわかる。私も東京に出て、いろんな経験をした。いまはこんな魔界に居たりする。人生ってどうなるか分からないから不思議。
「彼は君と同い年なんだ!彼が本気だったらどうするんだ。」
確かに同い年なのかもしれないが、魔界では人間の半分くらいの見た目。
明らかに小学生くらいの男の子に気をつけろと言われても…。
でも、ダグリーさん、どうか頑張って。特別なものがなくても、大切なものは見つけられるから。
晩餐会になっても、彼女の周りは人だかりで話しかけることもできない。夜は薄紅色のドレスを着た彼女は、会場の誰よりも綺麗だった。会場にいる誰もが彼女と話したくて、順番待ちになっている。ため息をついてその場から離れた。
中庭で会ったとき、もっとたくさん話せば良かった。うじうじ考えて、またため息が出る。
会場のもうひとつの人だかりには魔王陛下と護衛の獣人がいる。護衛隊長はビスティア国内でも有名だ。獣人には珍しい魔力持ちで、剣の腕も素晴らしいと聞く。しかし、彼は父ではなく、魔王陛下に仕えることを選んだ。だから、国内での評判は良い評判と悪い評判が半々だ。裏切り者なんて呼ばれることもある。でも俺は羨ましかった、いつか自分もこの国を出たい。自由な場所で生きてみたい。
晩餐会場から出て、また中庭に出る。イヤなことがあるといつもここに来る。他に行くところがないし、ここならひとりになれる。
俺は父の二番目の妻の子どもで兄が一人、妹と弟が一人ずつ。他の母の子ども合わせて10人のうちのちょうど5番目。5番目なんて父も母も気にかけることはない。居てもいなくてもいい存在、それが俺だ。魔力もなく、剣の腕もまぁまぁ。そんな俺を変える方法なんてひとつも分からない。
中庭の中央には噴水がある。いつも俺はその縁に腰掛けてこのイヤな気持ちが過ぎるのを待った。今日成人したダラス兄さんには魔力があり、父も母たち3人もとても期待している。俺とは違いすぎて、また惨めな気持ちになった。
ふと感じた人の気配に、こんな情けない顔を見られたくなくて、立ち上がった。立ち去ろうとする俺に
「今日はよくお会いしますね。」
優しい声がかかって驚いた。振り返ると彼女、魔王陛下の伴侶、綾さんが立っていた。
「なんで……ここに?」
「ただいま、ダリオン様の綾様へのアプローチが過剰なことに、魔王陛下がお怒りになり、綾様が退室を余儀なくされる事態になっております。」
後ろに控えた侍女の答えに、俺は恥ずかしさと怒りで顔が赤くなった。
「父が本当に申し訳ありません!」
深々と頭を下げた。いつもいつも、なんであんな父親のために俺がこんな思いをするのか。
「ふふっ、面白いお父様ですね。私なんかを口説かなくても、あんなに綺麗な奥様方がいらっしゃるのに。」
噴水の縁に腰掛ける彼女が、本心でそう言ってるようで驚いた。
「綾…様みたいな綺麗な人だから、父もそんなことしたんだと思います。」
彼女は少し驚いた顔をした後、びっくりするくらい可愛らしく笑った。その笑顔にどぎまぎしてしまう。
「様なんていりません。私が偉いわけではなくて、私はただの人間ですから。よかったら少しお話しませんか?」
「!……俺なんかで良かったら…?」
一人分の間をあけて、彼女の隣に腰掛け、いろいろな話をした。ビスティアのこと、獣人のこと、家族のこと、そして俺自身のこと。優しく相づちをうちながら聞いてくれる彼女に、普段誰にも言えない弱音まで話してしまった。
「ダグリーさんは、ご両親のことがお嫌いですか?」
改めて聞かれると、よく分からなかった。
「ものすごく嫌になるときはあります。でも、尊敬できるところもある…と思います。」
嫌だいやだと思いながら、認めてほしいと願う。子どもっぽい願いに恥ずかしくなった。
「私は、小さい頃に両親を亡くしました。それからずっと孤児院で暮らしてたんです。」
突然の話にびっくりした。綾さんはすごく特別な人だと思っていたから。そんな悲しいこととは無縁に見えたから。
「でも、自分を不幸だと思ったことはあまりありません。血が繋がってなくても、家族がいてくれたからです。
でも、両親に会いたいと思う気持ちはずっとずっとありました。大人になった今でも思います。
どうか、いまダグリーさんの目の前にあるものを大切にしてください。大人になって後悔することのないように。」
そう言って笑う笑顔が、綺麗で強くてかっこ良かった。女の人にかっこいいなんて思ったの初めてだ。
その時、彼女を呼ぶ声が聞こえた。父と魔王陛下がどうなったのか知りたいような、知りたくないような。
「ありがとうございます。綾さんと話せてすごく嬉しかった。」
「私もです。こちらこそありがとうございました。」
本当は、もっとずっと話していたかった。
でも、このときの俺はある思いでいっぱいだった。
* * *
翌日、魔王陛下と綾さんはアルデバランに帰るため、我々王族と最後の挨拶をしていた。魔王陛下のちょっと不機嫌な表情は絶対に父のせいだ。
俺はそこで、綾さんの前に出て、その手を取った。不思議そうな顔の彼女に宣言する。
「俺が成人したら、アルデバランに行って、貴女を守る騎士になります。絶対強くなります。待っていてください。」
彼女も侍女も護衛隊長も、魔王陛下もすっごくびっくりしてた。もちろん、父も母も兄弟たちも。
「頑張ってください。ダグリーさん。」
その時の彼女の笑顔を、俺は絶対忘れない。
* * *
「なんで?!なぜ彼が君の手を取るんだ!」
帰りの馬車に乗ると、ギルに問い詰められる。
「昨日、陛下とダリオン様が晩餐会で言い争う間、噴水でダグリー様と綾様はお話をされました。」
ダグリーさんの自分の国を出たい気持ちは、私にもわかる。私も東京に出て、いろんな経験をした。いまはこんな魔界に居たりする。人生ってどうなるか分からないから不思議。
「彼は君と同い年なんだ!彼が本気だったらどうするんだ。」
確かに同い年なのかもしれないが、魔界では人間の半分くらいの見た目。
明らかに小学生くらいの男の子に気をつけろと言われても…。
でも、ダグリーさん、どうか頑張って。特別なものがなくても、大切なものは見つけられるから。
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