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第三章
25話
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25話
「はぁ………。」
今日何度目か分からないため息をついた。アヤが御茶会に出掛け、そろそろ一時間。会場であるオフェール邸に着いた頃だろう。彼女と侍女だけで行かせたのは間違いだっただろうか。離れて護衛をつけてはいるが、何かあれば……。
「陛下、手が止まっています。書類が滞りますので手を動かしてください。」
「しかし……!」
バタンっ!
予告もなくドアが開き、護衛隊長であるサッシャが入ってきた。我が物顔でソファに座ると足を投げ出した。
「ノックくらいしなさい。あと足を乗せるな。」
「護衛から連絡、あいつは無事オフェール邸に着いたってよ。」
その言葉に一瞬安堵しかけたが、問題はそのあとだと気づく。さすがに邸のなかの様子を知ることはできない。
「てか、あいつ楽しそうじゃね?スゲー笑顔で出てっただろ。」
それは、私も思っていた。あの招待状が届いてから、今日までの一週間なぜかアヤは楽しそうだった。侍女のリリエラとドレスはどれにしよう、手土産はなにがいいかとあれこれと悩んでいた。私への機嫌もなおり、いつもと変わらない態度だった。
「過去の女なんて眼中にないってか。選ばれたのは私、外野は黙っとけって?恐えー。」
「彼女はそんな人じゃない。お前だって分かるだろ。」
ビスティアでの式典参列を無事に終え、他国からの彼女への評価もあがり、そのおかげでアルデバラン国内での評判もいい。城内での飾らない彼女の態度は臣下や護衛隊員たちにも伝わっている。
(ファンクラブというものの存在だけは、見逃せないが…。)
「じゃあ、なんなんだよ。俺だったら絶対イヤだね。誰が好き好んでてめーの男の元カノしかいない茶会なんか行く?」
「元婚約者もいらっしゃいますしね。」
田中まで口を挟む。
「あれはお前たちが勝手に決めたことだ。」
「ローゼンフェルド様の発言への対抗策として必要だと、陛下も納得したではありませんか。」
その言葉に私は反論ができない。アヤと出会うと分かっていたら、仮とはいえ婚約などしなかった。今さら言い訳のしようもないが…。
そのことにも、アヤは何も言わなかった。魔王という立場のためとはいえ、仮にも婚約者がいたこと。そのことを隠していたこと。なぜ何も言わない?
* * *
私はひたすらお茶を飲んでいた。私が話始めると、他の人が話し始め遮られる。その繰り返し。なるほど、ここは私に聞かせる場なのだ。自分たちがいかにギルに必要とされていたかを。いかに愛されていたかを。
しかし、その中心であるはずのマリアさん。マリア・オフェールさんは私と同じように黙ったままだ。その美しい顔からは表情が読み取れなかった。
* * *
邸に到着した私を迎えたのは、それはそれは美しい女性たちだった。5人それぞれタイプもバラバラで、可愛い系キレイ系セクシー系清楚系…六本木でもこんなにキレイな子がいるお店はないと思う。
その中でも飛び抜けて綺麗なのがマリアさんだった。腰まで伸ばした美しい金髪と同じ色の輝くような瞳。スラッと背が高く、私と頭ひとつ分くらい目線がちがう。背の高いギルと並んだら絵になりそう。体のラインが美しい赤いドレスがよく似合っている。
「本日はようこそおいでくださいました。ずっとお会いしたかった。」
そう言って微笑む彼女は彫刻みたいに整った笑顔だった。女の私でも見とれてしまう。
「お招きありがとうございます。とても楽しみにしていました。」
私の笑顔に、マリアさん以外の4人が怪訝そうな顔をした。そりゃそうだよね、こんなお茶会を楽しみにするって。
でも、私の正直な気持ちを伝えただけ。どう思われても仕方ない。
豪華な邸を通り、キレイな中庭に用意された席に着く。色とりどりのお菓子といい香りの紅茶。私とマリアさんが、テーブル端の対面に、残りの4人が2人ずつテーブルに並んだ。
そこからは彼女たちの独壇場、マリアさん以外の名前は覚えられないので、A子,B子,C子,D子としよう。
まずA子とC子がギルとの逢瀬について事細かに話出した。ちょっとこんな明るい中庭で話すのもどうかと思うことまで。
うーん、それを私に聞かせて、どうしたいのかな?悔しがってほしい?泣き出してほしい?期待された反応を返せなくてすみません。
何も反応せず、お茶を飲む私をA子とC子がなぜか睨む。この紅茶おいしい。
すると今度はB子とD子がギルの素晴らしさを褒め称える。歴代の魔王の中でも……。こんなに素晴らしい方と過ごした私は…。ギルを褒めているようで、結局自分たちの自慢だった。
そんな話にも反応せず、お菓子を食べる私をやっぱり睨む。お菓子もおいしい。
「気に入っていただけましたか?」
ふと、マリアさんが口を開いた。すると残りの4人が口をつぐむ。なるほど、5人の力関係がよくわかる。
「はいっ。この紅茶もお菓子もとてもおいしいです。特に紅茶は香りが素晴らしいですね。」
「わかっていただけて、嬉しいわ。今日のために特別に取り寄せたものなんです。」
お茶もお菓子も、中庭もすべてに気が配られていて素晴らしかった。きっとマリアさんの目が行き届いているからだろう。ますます、マリアさんと他の4人の違いを感じた。
「きっと綾さんにとっては、こんなもの特別ではないのかもしれないけれど…。」
「?どうしてですか?こんなにおいしい紅茶初めて飲みました。」
そう言った私を、ひどく驚いた顔で見ているマリアさん。
(そんなに変なこと言ったかな?)
「アヤさんは魔界に来てどのくらいになりますか?」
「そろそろ6ヶ月くらいになります。」
すると黙っていた4人が割り込む。
「そうなんですか、まだ6ヶ月。」B子。
「ギルバート陛下とお知り合いになって、どのくらいですの?」D 子。
「出会ってからだと、8ヶ月くらいですね。」
8ヶ月。たったそれだけしか経ってないのか。いろいろありすぎて、もう何年も過ごした気がする。
「まぁ、それでは陛下の功績も政務についても、わからないことばかりですのね。」A子。
「私は、幼い頃から陛下のこと存じておりますの。」C子。
すると口々にギルの昔話を始める。それ!私が聞きたかったやつ!
「そのお話、ぜひ聞かせてください!」
私の勢いにちょっと躊躇していたけど、4人は気分良さそうに話始めた。それを嬉しそうに聞いている私を、マリアさんがじっと見つめていた。
「はぁ………。」
今日何度目か分からないため息をついた。アヤが御茶会に出掛け、そろそろ一時間。会場であるオフェール邸に着いた頃だろう。彼女と侍女だけで行かせたのは間違いだっただろうか。離れて護衛をつけてはいるが、何かあれば……。
「陛下、手が止まっています。書類が滞りますので手を動かしてください。」
「しかし……!」
バタンっ!
予告もなくドアが開き、護衛隊長であるサッシャが入ってきた。我が物顔でソファに座ると足を投げ出した。
「ノックくらいしなさい。あと足を乗せるな。」
「護衛から連絡、あいつは無事オフェール邸に着いたってよ。」
その言葉に一瞬安堵しかけたが、問題はそのあとだと気づく。さすがに邸のなかの様子を知ることはできない。
「てか、あいつ楽しそうじゃね?スゲー笑顔で出てっただろ。」
それは、私も思っていた。あの招待状が届いてから、今日までの一週間なぜかアヤは楽しそうだった。侍女のリリエラとドレスはどれにしよう、手土産はなにがいいかとあれこれと悩んでいた。私への機嫌もなおり、いつもと変わらない態度だった。
「過去の女なんて眼中にないってか。選ばれたのは私、外野は黙っとけって?恐えー。」
「彼女はそんな人じゃない。お前だって分かるだろ。」
ビスティアでの式典参列を無事に終え、他国からの彼女への評価もあがり、そのおかげでアルデバラン国内での評判もいい。城内での飾らない彼女の態度は臣下や護衛隊員たちにも伝わっている。
(ファンクラブというものの存在だけは、見逃せないが…。)
「じゃあ、なんなんだよ。俺だったら絶対イヤだね。誰が好き好んでてめーの男の元カノしかいない茶会なんか行く?」
「元婚約者もいらっしゃいますしね。」
田中まで口を挟む。
「あれはお前たちが勝手に決めたことだ。」
「ローゼンフェルド様の発言への対抗策として必要だと、陛下も納得したではありませんか。」
その言葉に私は反論ができない。アヤと出会うと分かっていたら、仮とはいえ婚約などしなかった。今さら言い訳のしようもないが…。
そのことにも、アヤは何も言わなかった。魔王という立場のためとはいえ、仮にも婚約者がいたこと。そのことを隠していたこと。なぜ何も言わない?
* * *
私はひたすらお茶を飲んでいた。私が話始めると、他の人が話し始め遮られる。その繰り返し。なるほど、ここは私に聞かせる場なのだ。自分たちがいかにギルに必要とされていたかを。いかに愛されていたかを。
しかし、その中心であるはずのマリアさん。マリア・オフェールさんは私と同じように黙ったままだ。その美しい顔からは表情が読み取れなかった。
* * *
邸に到着した私を迎えたのは、それはそれは美しい女性たちだった。5人それぞれタイプもバラバラで、可愛い系キレイ系セクシー系清楚系…六本木でもこんなにキレイな子がいるお店はないと思う。
その中でも飛び抜けて綺麗なのがマリアさんだった。腰まで伸ばした美しい金髪と同じ色の輝くような瞳。スラッと背が高く、私と頭ひとつ分くらい目線がちがう。背の高いギルと並んだら絵になりそう。体のラインが美しい赤いドレスがよく似合っている。
「本日はようこそおいでくださいました。ずっとお会いしたかった。」
そう言って微笑む彼女は彫刻みたいに整った笑顔だった。女の私でも見とれてしまう。
「お招きありがとうございます。とても楽しみにしていました。」
私の笑顔に、マリアさん以外の4人が怪訝そうな顔をした。そりゃそうだよね、こんなお茶会を楽しみにするって。
でも、私の正直な気持ちを伝えただけ。どう思われても仕方ない。
豪華な邸を通り、キレイな中庭に用意された席に着く。色とりどりのお菓子といい香りの紅茶。私とマリアさんが、テーブル端の対面に、残りの4人が2人ずつテーブルに並んだ。
そこからは彼女たちの独壇場、マリアさん以外の名前は覚えられないので、A子,B子,C子,D子としよう。
まずA子とC子がギルとの逢瀬について事細かに話出した。ちょっとこんな明るい中庭で話すのもどうかと思うことまで。
うーん、それを私に聞かせて、どうしたいのかな?悔しがってほしい?泣き出してほしい?期待された反応を返せなくてすみません。
何も反応せず、お茶を飲む私をA子とC子がなぜか睨む。この紅茶おいしい。
すると今度はB子とD子がギルの素晴らしさを褒め称える。歴代の魔王の中でも……。こんなに素晴らしい方と過ごした私は…。ギルを褒めているようで、結局自分たちの自慢だった。
そんな話にも反応せず、お菓子を食べる私をやっぱり睨む。お菓子もおいしい。
「気に入っていただけましたか?」
ふと、マリアさんが口を開いた。すると残りの4人が口をつぐむ。なるほど、5人の力関係がよくわかる。
「はいっ。この紅茶もお菓子もとてもおいしいです。特に紅茶は香りが素晴らしいですね。」
「わかっていただけて、嬉しいわ。今日のために特別に取り寄せたものなんです。」
お茶もお菓子も、中庭もすべてに気が配られていて素晴らしかった。きっとマリアさんの目が行き届いているからだろう。ますます、マリアさんと他の4人の違いを感じた。
「きっと綾さんにとっては、こんなもの特別ではないのかもしれないけれど…。」
「?どうしてですか?こんなにおいしい紅茶初めて飲みました。」
そう言った私を、ひどく驚いた顔で見ているマリアさん。
(そんなに変なこと言ったかな?)
「アヤさんは魔界に来てどのくらいになりますか?」
「そろそろ6ヶ月くらいになります。」
すると黙っていた4人が割り込む。
「そうなんですか、まだ6ヶ月。」B子。
「ギルバート陛下とお知り合いになって、どのくらいですの?」D 子。
「出会ってからだと、8ヶ月くらいですね。」
8ヶ月。たったそれだけしか経ってないのか。いろいろありすぎて、もう何年も過ごした気がする。
「まぁ、それでは陛下の功績も政務についても、わからないことばかりですのね。」A子。
「私は、幼い頃から陛下のこと存じておりますの。」C子。
すると口々にギルの昔話を始める。それ!私が聞きたかったやつ!
「そのお話、ぜひ聞かせてください!」
私の勢いにちょっと躊躇していたけど、4人は気分良さそうに話始めた。それを嬉しそうに聞いている私を、マリアさんがじっと見つめていた。
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※この物語はフィクションです。
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