【R18】魔王陛下とわたし~キャバ嬢から魔王の妃に転職します~

塔野明里

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第三章

27話

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 27話

 ツラい……。どうしてこうなった。

 いや、理由はわかっているんだ。私の態度、気遣いのできない余裕のなさがいけなかった。   仮にも婚約していたこと、いつか言わなければと思いながら彼女との時間に甘えていたこと。

 しかし、そのことで怒っているわけではないと、彼女は言った。なら、私はどうしたらいいんだ。
 もう5日間、彼女に触れていない。

 * * *

「そんなご様子で陛下はうなだれており、政務も進んでいないようです。」

 私からの報告に綾様は満足そうです。

「私の作戦は成功ですね。」
「はい、大成功かと思われます。」

 我が主、綾様は現在魔王陛下へささやかな抵抗をおこなっております。綾様は、家庭内別居ですと仰っておりますが、聞き慣れない言葉で私には意味が分かりかねます。しかし、今の状況を別居というなら、そうなのかもしれません。

 現在綾様は、陛下の居室ではなく魔界にいらした時に使っていた城の尖塔にある離れで過ごされております。こちらは城の中央にある陛下の執務室や居室からは遠く、不便な場所にあるため別居には最適なお部屋です。

 きっかけは先日のマリア・オフェール様とのお茶会でした。綾様はマリア様とのお話のなかで思うことがあったようで、お帰りになった次の日からこちらに移られました。
 お食事だけは陛下と共にされていますが、それ以外の時間はお会いになっていません。もちろん、おやすみになるときも別です。陛下は仕事も手につかないご様子で、綾様の抵抗は成功のようです。

「しかし、綾様。別居をこのまま続けるおつもりなのですか?」
「うーん、それは彼次第ですね。でも多分、そろそろ…。」

 私は人の気配を感じ、ドアへ向かいます。しかし、私が開ける前に、勢いよく扉が開きました。

「てめぇ、いい加減にしろよ!」

 サッシャ様と、今日は珍しく田中様もご一緒です。

「なにに怒ってるか知らねーが、さっさとどうにかしろ!最近タダでさえ使えねーのが、さらにポンコツになってんぞ!」

 陛下の仕事が滞り5日目。そろそろ限界でしょうか。

「申し訳ありませんが、貴女の気分で、陛下の政務にまで影響を及ぼすのはやめていただきたい。」

「リリーさん、お茶を入れてもらってもいいですか?」

 綾様はお二人のご様子を気にも止めません。

「かしこまりました。」

 この離れにはキッチンがついていません。なので、わざわざ一階まで降りなければならず、それだけが私には不便です。

 リリーさんが部屋から出るのを見届けると、サッシャさんと田中さんに向き直る。

「なんでしたっけ?」

「おまえっ……!調子乗ってんのか。」

「ギルとのことは、私たちの問題なので口出しは無しです。」

「あぁ゛っ!?」

「もし口出しされるなら、私も口出しします。」

「なんのことを言っているですか?」
「なに言って……。」

「サッシャさんがリリーさんの手作りお菓子がある時しか私のところに来ないこと、気づいてないと?リリーさん本人にお伝えしてもいいですけど。
 田中さんは、千春と飲み友達としてこのまま会い続けるつもりですか?こそこそ私のこと聞き出しといて、結局千春のことどう思ってるんですか?」

 驚いた2人の顔が固まった。ちょっと面白い。

「私がなにに怒ってるのか。ギルが気づいてくれないと意味ないんです。それまで待っていてもらえませんか?」

 私が部屋に戻ると、入れ替わりでお二人が出ていかれました。綾様は、なぜか笑っておられます。なにがあったのかお聞きしても答えてもらえませんでした。

 * * *

 その夜、私はひとり、部屋で刺繍の練習。炊事、洗濯、掃除はずっとやってきたので大丈夫。でも刺繍や編み物は経験がなく、少しずつ練習中。

カタンっ

 「?」(リリーさんかな?)

 ひとりだと部屋の外からの物音に、敏感になる。ちょっと前までひとりが普通だったのに。変な感じだ。
 ドアに近づくが、人の気配はない。少しだけドアを開ける。やはり誰もいない。ドアを閉めるその瞬間、隙間に手が挟み込まれた。

「きゃあっ!」

 ドアの隙間から、手を掴まれた。

「アヤ…!ごめん!驚かせて……。」
「……ギル?びっくりしたー。」

 心臓が止まるかと思った。こんな時間にやめてほしい。

「ごめん。どうしてもアヤと話したくて…。部屋に入れてほしい。」

「うーん…」

「アヤがいいって言うまで、なにもしない。絶対に。」

「……わかった。いいよ。」

 ギルはほっとした顔で、部屋に入ってきた。これじゃ、私がすごい悪いことしてるみたいだ。

「あの2人に何を言ったんだ?ここ最近いつにも増してうるさかったのに、今日いやに静かだった。」

「ふふん、それは秘密だよ。私の切り札だもん。」

 部屋の中央、私はひとり掛けソファ、彼はふたり掛けに座る。

「ずっと謝りたくて、婚約のこと黙ってたことを。」

「それは怒ってないよ。前にも言ったけど。」

「分かってる、これは私が謝りたくてしてることだから。」

 真剣な眼差しに、あぁ私はやっぱり彼が好きだなと思う。

「ずっと考えていた。アヤがなにに怒ってるのか。ずっと……。」

「うん…?」

「私はずっと逃げていた。自分の過去から、私を想ってくれた人たちから。」

「……そうだね。」

「魔力をもらうために、たくさんの女性と過ごした。自分のことでいっぱいいっぱいで、彼女たちを気遣う余裕なんてなかった。彼女たちから、どう思われているのか。私に向けられる好意も嫌悪もなにもかも見ないふりをしたんだ。」

 ギルはずっと他の女性たちとは、体の関係だけで想いはなかったと言っていた。でもあのお茶会でマリアさんや他の女性と話して、みんなきちんと彼を想っている。
 やり方はすこし間違っていたかもしれないけど、みな彼の相手がどんな女なのか知ろうとしたのだ。彼がこれ以上傷つかないように。

「彼女たちの好意から逃げたこと、君には知られたくなかった。君に失望されたくなかった。だから、言えなかった。本当にごめん。」

「お茶会でギルの昔の話、たくさん聞いたよ。いいことも悪いこともいっぱい。ギル、自分のこと全然話してくれないから。」

 ゆっくりと彼の手を握った。嬉しそうに握り返してくれる。

「あんなに綺麗な人たちに想われてたのに、なんで私なんかにしたの?いまからでも……。」

「違う。それはちがう。私はアヤのすべてに惹かれたんだ。優しさも強さも、全部。君が側にいてくれたら、頑張れる。そう心から思ったんだ。他の人なんか関係ない。」

 彼の言葉を聞いた途端、私は涙が止まらなくなった。ずっとずっと怖かったから。

「マリアさんは、本当に、ギルのこと好きだったよ。あんな素敵な人、振るなんてバカだよ。
 でも……ギルのこと、諦めたくなくて、誰にも渡したくないの。昔のこと、気にならないなんて嘘だよ……。」
 
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