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プロローグ

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 プロローグ

 「マリアちゃーん!ご指名よー!」

 ここはトリスト王国という大きな国の首都オリト。西洋風な町並みの民家の間、賑やかな市場を抜けたさらに奥の路地の先の先。
 薄暗い路地の両側には昼間から酒呑みが集まる酒場や賭場が並んでいる。親が子どもに絶対行っちゃダメよとキツく言うような場所。いわゆる歓楽街だ。

 夜になると歓楽街はさらに賑わいを増す。女性の淑やかさが美徳とされるこの国では肌の露出はタブーだ。
 しかし、この歓楽街に並ぶ女性たちは皆下着が見えそうなミニスカート姿。胸元は大きく開いている。

「はーい!いま行きます!」

 そんな露出の多い服を着ていても、女性たちはベッドの中では大人しい。それが当たり前で、誰も疑うことなどなかった。

 女性は淑やかであれ、たとえ愛する相手であっても乱れることなかれ。

 そんな訓示があるほど、この国で女性の淑やかさは美徳とされていた。
 そんな世界で、ある風俗嬢が人気となっている。

 春を売る令嬢。この世界で風俗嬢は春嬢と呼ばれていた。

「こんばんは、マリアです。」

 ふわふわと癖のある黒髪を腰まで伸ばし、瞳も髪と同じ黒色。この世界で珍しい黒髪黒目の彼女は名をマリアと云う。

「マリアちゃん!あっ会いたかったっ。ずっとずっと君のために、働いて、お金貯めてきたんだ。」

「トロンスさんありがとう!」

 小柄な彼女はその大きな瞳と豊満な胸だけで人気の春嬢になったわけではない。

「おっ覚えてくれてるの!?僕のことっ!」

「もちろん!先月来てくれましたよね?」

 一度来た客は絶対に忘れない客覚えの良さ、どんな客でも嫌がらない人当たりの良さ。

「うっ嬉しい…。絶対覚えてないと思った。」

「トロンスさんがどんなことが好きかもちゃんと覚えてますよ?」

 訓示も美徳もお構いなし。誰よりも積極的な春嬢のマリアは、いまこの歓楽街で人気ナンバーワンだ。

 今日も彼女との逢瀬のために客が列をなし、娼館の主はその中から金を持っていそうなやつを見繕い、金を受けとる。周りの娼館の倍の値段でも、マリアの指名客は後を断たなかった。

 それもそのはず、彼女はこの世界の人間ではない。異世界からやってきた風俗嬢なのだから。
 彼女の積極的な接客は彼女のいた世界では至極当たり前のもの。それがまさかこんなに人気になるとは、マリア自身も思っていなかった。

 今日も彼女は異世界で春を売る。いつかお金を貯めて自分の店を持つという夢を叶えるために。
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