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2章 侍女編
第三十話
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第三十話
「ふふふ、ララ様は本当にアルセイン様とお似合いだと思います。」
突然笑い出した私にララ様もアゼルさんもきょとんとした顔をしていた。
「ララ様、今からお話することはここだけの秘密でお願いします。」
人差し指を口の前に当てるとララ様はコクコクと頷いた。
「実は少し前にアルセイン様からも同じような相談を受けました。もちろんお話をしただけですよ!その時はもうケイニアス様の教育係だったので。」
アルセイン様の悩みもきっとララ様となら大丈夫だ。
「アルセイン様は本当にララ様のことを想っています。ララ様も同じ気持ちだと分かって、私は本当に嬉しいです。私で良かったら何でも聞いてください。」
その瞬間のララ様の笑顔は本当に綺麗だった。まるで花が咲くようにキラキラと輝いて見えた。
「嬉しいです。いままでこんな風に思ったことをまっすぐにお話してくれる方はいませんでした。社交界で話すことは建前ばかりで、公爵令嬢である私の機嫌を皆窺ってばかりいるんです。」
貴族には貴族の苦しみや辛さがある。淑やかさが求められる世界なら尚更。
「こんなことを言うのはおかしいかもしれません。でも私、マリアさんとお友達になりたいです。」
公爵令嬢、しかも未来の皇后様。そんな方と友達だなんておこがましい。
そう思うのは簡単だけど、私が平民であることも春嬢だったことも気にせずに笑いかけてくれる人を大切にしないでどうするんだろう。
「私で良かったら友達になってください。」
* * *
「マリアさん、それでその‥‥。」
「マリアでいいですよ。もうお友達ですから。」
隣に座ったまま私達はいろんな話をした。アルバ公国のこと、ララさんの家族のこと。
「マリアは…その…たくさんの男性と経験されたのですよね?」
「そうですね、それが仕事だったので。恋人という意味なら今まで5人の方とお付き合いしました。」
「ごっ…5人!?」
もちろんこの世界に来る前、日本にいた頃の話だ。その数字が多いのか少ないのかはよく分からない。
「ちなみに…どんな方と?」
「学校の同級生や先輩。あとは友人の紹介で知り合った人とか。」
そういえば年下の人と付き合うのはケインが初めてだ。今の関係が恋人ならだけど。
「はっ、初めての経験は…?」
「たしか……17歳の時だったと思います。」
カシャーん……!
その音に振り向くとアゼルさんが赤い顔でお盆を落としてしまったところだった。
「アゼルさん?だいじょ…。」
「17歳ですか?そ、そんな……早すぎます!」
見ればララさんも真っ赤な顔をしている。マズいことを言ったかも。ここだとそんなに早いことなの?!
「はわわ…ロマンス小説で読みました。十代の男女が恋人ごっこをしていて…そのまま…一緒に…まさかそんなこと本当にあるなんて…!」
ララさんは一体どんな小説を!?
「そんな大げさなことではないですよ?私の周りでは普通に……。」
「ふ、普通なのですか!じょ城下ではそんな…。」
「ララ様!城下町でも普通ではございません!」
聞けば男女での付き合いが家族に認められるのは早くても18歳。ほとんどは20歳になり成人してからだそうだ。
私の常識はここでは非常識だと久しぶりに思い知った。
「どうしましょう…まだまだ聞きたいことはたくさんありますのに。こんなことで狼狽えていてはダメですわ。」
そこからララさんの質問にできるだけ慎重に答えていった。その度、ララさんとアゼルさんは真っ赤になってしまい中々話が進まなかったのは言うまでもない。
「うぅ、こんなことでは時間が全然足りないです。」
あっという間に時間が過ぎていく。ミシェル婦人とのお茶会とは別の意味で楽しかった。
「ララさん、アゼルさんも一緒に見ていただきたいものがあるんです。」
私が取り出した物を見て二人の目が輝いた。
「なんて可愛らしい!こんな素敵なものをどこで?」
テーブルに並べたのはミシェル婦人から預かったコスメケースの試作品たちだ。あれから婦人と何度も連絡を取り、改良を重ねていた。
まだ一緒に働くと決めたわけではない。それでもこの商品だけは完成させたかった。
小花柄の口紅ケースにはレースで縁取りを付けた。手鏡にはクリスタルをつけ華やかにして、コンパクトには可愛らしい兎のモチーフをつける。まずは若い女性用に可愛らしいものを。これが売れればもっと大人っぽいものも考えている。
「いまある方とこれを商品化できればと考えていて、ぜひ感想を聞かせください。」
「これが買えるようになるのですか!」
ララさんは恐る恐る手鏡を手にすると、うっとりと眺めた。
「なんて素敵な手鏡なんでしょう。こんなもの見たことありません。」
公爵令嬢であるララさんには珍しくもないと思っていた。宝石だってたくさん身につけているのに。
「宝石やアクセサリーは人が身につけるものです。でも、鏡や化粧品は誰かに見せるものではありません。そのため華美な装飾があるものはあまりないのです。」
「マリア様、これは高価な物なのではないのですか?」
クリスタルは多少値が貼るが、それでも本物の宝石ではないし口紅ケースやコンパクトは城下町の女性でも充分買える値段になるはずだった。
「そんなにお安いのですか?!」
アゼルさんは口紅ケースを手に取り驚いている。
「たとえばイニシャルを入れたり、希望する柄を作れるとしたら貴族の方にも売れるでしょうか?」
「オーダーメイドですか?絶対に売れます!すぐにでも私が買いたいくらいです!」
ミシェル婦人の言葉は、嘘ではないみたいだ。このコスメケースたちが女性たちの自宅での楽しみになるかもしれない。
「マリア…いえマリアさん。これはこのトリスト王国での販売のみをお考えですか?」
ララさんの顔が友達から公爵令嬢の顔になった。
「私の率直な意見ですが、これは素晴らしい商品です。我がアルバ公国でも絶対に売れますわ。値段、品質、そして貴族への販売戦略を含めて、必ず成功します。」
アルバ公国では女性が事業を起こすことに、このトリスト王国よりも寛容だそうだ。
「私と一緒にアルバ公国に参りませんか?私がその事業お手伝いいたします。」
「ふふふ、ララ様は本当にアルセイン様とお似合いだと思います。」
突然笑い出した私にララ様もアゼルさんもきょとんとした顔をしていた。
「ララ様、今からお話することはここだけの秘密でお願いします。」
人差し指を口の前に当てるとララ様はコクコクと頷いた。
「実は少し前にアルセイン様からも同じような相談を受けました。もちろんお話をしただけですよ!その時はもうケイニアス様の教育係だったので。」
アルセイン様の悩みもきっとララ様となら大丈夫だ。
「アルセイン様は本当にララ様のことを想っています。ララ様も同じ気持ちだと分かって、私は本当に嬉しいです。私で良かったら何でも聞いてください。」
その瞬間のララ様の笑顔は本当に綺麗だった。まるで花が咲くようにキラキラと輝いて見えた。
「嬉しいです。いままでこんな風に思ったことをまっすぐにお話してくれる方はいませんでした。社交界で話すことは建前ばかりで、公爵令嬢である私の機嫌を皆窺ってばかりいるんです。」
貴族には貴族の苦しみや辛さがある。淑やかさが求められる世界なら尚更。
「こんなことを言うのはおかしいかもしれません。でも私、マリアさんとお友達になりたいです。」
公爵令嬢、しかも未来の皇后様。そんな方と友達だなんておこがましい。
そう思うのは簡単だけど、私が平民であることも春嬢だったことも気にせずに笑いかけてくれる人を大切にしないでどうするんだろう。
「私で良かったら友達になってください。」
* * *
「マリアさん、それでその‥‥。」
「マリアでいいですよ。もうお友達ですから。」
隣に座ったまま私達はいろんな話をした。アルバ公国のこと、ララさんの家族のこと。
「マリアは…その…たくさんの男性と経験されたのですよね?」
「そうですね、それが仕事だったので。恋人という意味なら今まで5人の方とお付き合いしました。」
「ごっ…5人!?」
もちろんこの世界に来る前、日本にいた頃の話だ。その数字が多いのか少ないのかはよく分からない。
「ちなみに…どんな方と?」
「学校の同級生や先輩。あとは友人の紹介で知り合った人とか。」
そういえば年下の人と付き合うのはケインが初めてだ。今の関係が恋人ならだけど。
「はっ、初めての経験は…?」
「たしか……17歳の時だったと思います。」
カシャーん……!
その音に振り向くとアゼルさんが赤い顔でお盆を落としてしまったところだった。
「アゼルさん?だいじょ…。」
「17歳ですか?そ、そんな……早すぎます!」
見ればララさんも真っ赤な顔をしている。マズいことを言ったかも。ここだとそんなに早いことなの?!
「はわわ…ロマンス小説で読みました。十代の男女が恋人ごっこをしていて…そのまま…一緒に…まさかそんなこと本当にあるなんて…!」
ララさんは一体どんな小説を!?
「そんな大げさなことではないですよ?私の周りでは普通に……。」
「ふ、普通なのですか!じょ城下ではそんな…。」
「ララ様!城下町でも普通ではございません!」
聞けば男女での付き合いが家族に認められるのは早くても18歳。ほとんどは20歳になり成人してからだそうだ。
私の常識はここでは非常識だと久しぶりに思い知った。
「どうしましょう…まだまだ聞きたいことはたくさんありますのに。こんなことで狼狽えていてはダメですわ。」
そこからララさんの質問にできるだけ慎重に答えていった。その度、ララさんとアゼルさんは真っ赤になってしまい中々話が進まなかったのは言うまでもない。
「うぅ、こんなことでは時間が全然足りないです。」
あっという間に時間が過ぎていく。ミシェル婦人とのお茶会とは別の意味で楽しかった。
「ララさん、アゼルさんも一緒に見ていただきたいものがあるんです。」
私が取り出した物を見て二人の目が輝いた。
「なんて可愛らしい!こんな素敵なものをどこで?」
テーブルに並べたのはミシェル婦人から預かったコスメケースの試作品たちだ。あれから婦人と何度も連絡を取り、改良を重ねていた。
まだ一緒に働くと決めたわけではない。それでもこの商品だけは完成させたかった。
小花柄の口紅ケースにはレースで縁取りを付けた。手鏡にはクリスタルをつけ華やかにして、コンパクトには可愛らしい兎のモチーフをつける。まずは若い女性用に可愛らしいものを。これが売れればもっと大人っぽいものも考えている。
「いまある方とこれを商品化できればと考えていて、ぜひ感想を聞かせください。」
「これが買えるようになるのですか!」
ララさんは恐る恐る手鏡を手にすると、うっとりと眺めた。
「なんて素敵な手鏡なんでしょう。こんなもの見たことありません。」
公爵令嬢であるララさんには珍しくもないと思っていた。宝石だってたくさん身につけているのに。
「宝石やアクセサリーは人が身につけるものです。でも、鏡や化粧品は誰かに見せるものではありません。そのため華美な装飾があるものはあまりないのです。」
「マリア様、これは高価な物なのではないのですか?」
クリスタルは多少値が貼るが、それでも本物の宝石ではないし口紅ケースやコンパクトは城下町の女性でも充分買える値段になるはずだった。
「そんなにお安いのですか?!」
アゼルさんは口紅ケースを手に取り驚いている。
「たとえばイニシャルを入れたり、希望する柄を作れるとしたら貴族の方にも売れるでしょうか?」
「オーダーメイドですか?絶対に売れます!すぐにでも私が買いたいくらいです!」
ミシェル婦人の言葉は、嘘ではないみたいだ。このコスメケースたちが女性たちの自宅での楽しみになるかもしれない。
「マリア…いえマリアさん。これはこのトリスト王国での販売のみをお考えですか?」
ララさんの顔が友達から公爵令嬢の顔になった。
「私の率直な意見ですが、これは素晴らしい商品です。我がアルバ公国でも絶対に売れますわ。値段、品質、そして貴族への販売戦略を含めて、必ず成功します。」
アルバ公国では女性が事業を起こすことに、このトリスト王国よりも寛容だそうだ。
「私と一緒にアルバ公国に参りませんか?私がその事業お手伝いいたします。」
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