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第一章
10話 初めての恋~シオン~*
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10 はじめての恋~シオン~
あれはいつのことだっただろう。騎士学校の卒業パーティーか、それよりも後のことだったか。
「どうして何も言わないの?貴方が何を考えているのか、本当にわからないわ。」
友人から紹介され、強引なアプローチを断るのも面倒だった私は、そうして付き合った女性が他の男と抱き合っている場に偶然出くわしてしまった。
彼女も相手の男もひどく取り乱し、あれこれ言い訳を並べていた。しかし、私が何も言わないと、突然彼女は先程のセリフを言い放った。
いつだってそうだ。何を考えているのか分からないと、何度同じセリフを言われただろう。
弟のガロンは、面白いほど正直な奴で部下からも慕われ、友人も多い。双子なのにこんなにも違うのかと思いながら、別段羨ましいという気持ちもなかった。
弟も両親も私を理解してくれる。それだけあれば別によかったのだ。
あの日浜辺で、彼女たちを助けるまでは。
* * *
「リリ、寒くないか?」
絹糸のような銀の髪がふるふると揺れた。今日の彼女は伏し目がちに下を向き、少しでも触れれば泣き出してしまいそうだった。
こういうとき、どうやって声をかければいいのか。本当に途方に暮れてしまう。
ここは、我々騎士団が宿舎として利用している屋敷。私の部屋は執務室を兼ねているので、一階のホールのすぐ横にある。ガロンの部屋は二階の突き当たり。いまごろ、弟もエルと話をしているはずだ。あいつだったら、大切な彼女にどういう言葉をかけるのだろう。
「リリ、すこしだけ話を聞いてくれないか?」
「おはなし?シオン…なぁに?」
彼女の瞳が潤んでいる。
「クレアに聞いたんだ、番のこともう知っているんだろう?」
今日までリリに会うことを禁じられ、診療所に行くこともできない。私はどうしてもその理由が知りたかった。
『あの子達は、お前たちについていきたくないと言ってる。番のことを知ってしまったから、そのせいで優しくしてくれてると思ってるんだよ。』
説明してくれと食い下がる私にクレアはそう言った。番という言葉を聞いた途端、リリの涙が溢れだした。
「ごめんなさいっ、たいせつなつがいが、わたしなんて。ほかのひとにしたほうがいい、もっといいひと。」
しゃくりあげる彼女にどう説明したら、わかってもらえるのか。
「リリ、番は替えがきくものじゃない。私が大切なのはリリだけだ。」
「でも、でも…わたしなんて…。」
「リリはいつも、私なんてって言う。どうしてそんなこと言うんだ?」
リリは一瞬怯えた顔をして、さらに大粒の涙を流した。
「いつも、いつも、わたしのせい。わたしがよわいから、エルはにげられない。エルばかりたたかれて、いたいのに。すごくいたいのに、わたしのまえでだいじょうぶっていうの。」
改めて彼女達の今までを思う。会ったこともない誰かに殺意を覚えたのは初めてだ。
「エルは、つよい。つよくてやさしい。でも、わたしはよわくて、なにももってない。わたしがおねいちゃんなのに、エルをまもってあげないといけないのに。わたし、なんにもない。シオンにもやさしくしてもらって、なにもかえせないのに、いっしょになんていちゃダメだよ。」
「リリは、たくさんのことを私にしてくれている。」
不思議そうにこちらを見上げるリリの髪をゆっくりと撫でた。
「私が疲れていることに、最初に気づくのはいつもリリだ。そしておいしいお茶を淹れてくれる。ご飯を一緒に食べて、笑ってくれる。リリの笑顔を、一番側で見ていたい。誰にも渡したくないんだ。」
涙の跡を指で拭う。
「この気持ちが番だからなのか、私にはわからない。でも、リリを思う気持ちは分かる。番だからかどうかなんて、私はどうでもいい。」
いつも無表情だと言われる私のことを、リリは優しいと言って気遣い、思いを汲み取ってくれる。それ以上に私が求めることなんてない。
椅子に腰かけるリリの前にゆっくりと跪いた。
「リリが好きだ。これは私の初めての恋で、最後の恋だ。一緒にいたくないなんて、そんなこと言わないでくれ。私はリリを愛してる。どうか信じてほしい。」
彼女の顔がくしゃくしゃに歪んだ。私は両手で、その小さな顔を包む。
「うぅ……なんで、なんでそんなにやさしい?しらない、こんなにあったかいの、しらないよ。」
「わたしがやさしいのは、イヤか?」
「いやじゃないよ。シオンといっしょにいきたくないなんて、うそ。こわいの、こんなにやさしくて、いつかわたしのこといらなくなるかもって…。」
リリの瞳に口づけた。そのまま舌で涙を舐める。
「はぅっ…シオン?」
誰かに口づけたいと思うのも、味わいたいと思うのも初めてだ。
「リリは、私のことが好きか?ちゃんと教えてくれ。」
濃紺の瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。
「すき、シオンがすきなの。ずっといっしょにいたい…っ。」
彼女の言葉を聞き終わる前に、その唇を塞いだ。体が熱い。これが自分の本能なのだろうか。
「んっ、んぅっ……ふぅ。」
彼女の小さな唇から、甘い声が漏れる。舌を絡め、彼女を求めた。ゆっくりと彼女の舌が、私の舌に答えてくれる。
「リリ、君を抱きたい。君を全部私のものにしたいんだ。イヤか?」
ふるふると首を振る彼女は頬を赤く染めていた。
* * *
「アァっ、ふぅ…んっ、シオンっ。」
彼女をベッドに運び、服を脱いで抱き合った。最初の頃と比べてふっくらしたとは言え、少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。
「ごめん、わたしのむね、ちっちゃいから…んっ、はぁんっ。」
私の手の平におさまる形の良い胸。ゆっくりと揉むと、先がツンと固くなっていく。
「エルは、大きくてかわいいのに、わたしぜんぜんおおきくないからっ。いやじゃない?」
「リリの体なら、全部いい。…でも、そうかエルは大きいのか。」
「?」
「いや、あいつが喜びそうだと思っただけだ。」
固くなった先を口に含んで転がした。リリの白い肌が、少しずつ赤く染まる。
「はぁんっ。クリクリしちゃ、だめぇっ!」
リリの腕が、私の頭を抱き締めた。彼女の柔らかさと匂いを顔全体で感じる。
「堪らないな。」
彼女の腰に手を回し、胸をさらに愛撫した。
「きゃあっんぅ、…んっ、シオン…。」
彼女が名前を呼ぶたび、私の身体が反応する。リリの全てが私の快感を刺激する。
彼女の下着を指でなぞると、布越しにもぬるぬるとしたものに触れた。
「気持ちいいか?」
下着の中に手を入れる。すんなりと指が入った。くちゅくちゅとわざと音を鳴らすと、リリの顔が羞恥で染まる。
「ひゃっん、ンンっ…はずかしいっ…。」
内側を指でこすると、リリが反応する場所を見つけた。何度も何度も擦り付ける。
「アアっ、そこっいやぁっ、…はぁっん!」
下着を下ろすと、彼女の中に舌を差し込んでいく。彼女は砂糖菓子のように、甘くやわらかい。
ジュルジュルと全てを吸い上げる。彼女の身体がピクピクと跳ねるのに、私もひどく興奮した。
「イヤっ、シオンっ、おくっだめぇっ!」
リリの白い肌が、体温が、すべてが愛しい。自分が誰かをこんなふうに想うなんて、想像したこともなかった。
「ひゃっん、ンン!」
ゆっくりと舌を離し、彼女の体をうつ伏せにした。後ろから、彼女の中に入っていく。入れただけで彼女が絡みついて、私を離さない。
「アアっンン!やぁ、ンンっ、シオンっ、シオン…!」
「もっと、もっと呼んでくれっ!」
彼女の腰を持ち上げ、さらに奥まで突く。トロトロと彼女の蜜がシーツに滴った。
「シオンっ、はっんぅ、おくっだめぇ、だめなのっ!」
「リリ、リリっ!好きだっ!」
彼女の背中を抱きしめ、さらに体を密着させる。彼女の中は狭く、それなのにぬるぬるとしてさらに締め付けてくる。
「リリっ、すごいっ。」
「シオンっンン!イクっイっちゃうのっ、ん、アアっ!」
何度も何度も奥まで突き上げた。
「イクっ、アアっンン、イッちゃうっ!」
細い身体を反らせて、彼女が私を締め上げながら、果てた。同時に、私も彼女の中に欲望を吐き出していく。かつてないほどの快感に、一瞬頭が真っ白になった。彼女と体を離すことすら、もどかしい。
後ろからぎゅっと彼女を抱きしめる。彼女の体に歯を立てたいのを、必死に堪えた。
「リリ、私には君だけだ。君さえいてくれたら、それでいい。」
「……うん。いつか、やさしいのかえせるように、わたしもがんばる。」
彼女の耳に口を寄せた。
「返さなくていい、リリが返せないくらい。いっぱいにするよ。」
* * *
脱いだ服のポケットを探し、一つの箱をリリに手渡した。
「誕生日おめでとう。リリが生まれてきてくれて、本当に嬉しい。」
大事そうに箱を見つめるリリが微笑む。やっと彼女の笑顔を見られた。
「ありがとう、見てもいい?」
「もちろん。」
箱を開けると、小さなブローチが収まっている。陶器でできた雪の結晶を象ったものだ。
「かわいい。これは、ゆき?」
「雪の結晶だ。なんでだろうな、リリにはこれがいいと思ったんだ。」
慎重に箱にブローチを戻し、ぎゅっと抱き締めた。
「ほんとうにありがとう。たいせつにする。」
リリと二人寄り添ってベッドに横になった。リリがふと、二階を見上げる。
「エルは、ガロンとはなせた?」
「あいつなら、心配ないだろ。エルのことしか見えてないからな。」
リリが、声をあげて笑った。
「ふふふっ、ガロンはエルがいるとニコニコだもん。」
「エルには、あんまり伝わってないような気もするがな。」
リリの唇にそっと口づける。
「少し寒いか?体が冷たい。」
「だいじょうぶ、シオンといたら、あったかいの。あったかくてねむくなってきちゃう。」
「少し眠ったらいい、なにも心配いらない。」
柔らかい髪を撫でると、リリは気持ち良さそうに目を閉じた。
「おやすみ、リーリア。」
あれはいつのことだっただろう。騎士学校の卒業パーティーか、それよりも後のことだったか。
「どうして何も言わないの?貴方が何を考えているのか、本当にわからないわ。」
友人から紹介され、強引なアプローチを断るのも面倒だった私は、そうして付き合った女性が他の男と抱き合っている場に偶然出くわしてしまった。
彼女も相手の男もひどく取り乱し、あれこれ言い訳を並べていた。しかし、私が何も言わないと、突然彼女は先程のセリフを言い放った。
いつだってそうだ。何を考えているのか分からないと、何度同じセリフを言われただろう。
弟のガロンは、面白いほど正直な奴で部下からも慕われ、友人も多い。双子なのにこんなにも違うのかと思いながら、別段羨ましいという気持ちもなかった。
弟も両親も私を理解してくれる。それだけあれば別によかったのだ。
あの日浜辺で、彼女たちを助けるまでは。
* * *
「リリ、寒くないか?」
絹糸のような銀の髪がふるふると揺れた。今日の彼女は伏し目がちに下を向き、少しでも触れれば泣き出してしまいそうだった。
こういうとき、どうやって声をかければいいのか。本当に途方に暮れてしまう。
ここは、我々騎士団が宿舎として利用している屋敷。私の部屋は執務室を兼ねているので、一階のホールのすぐ横にある。ガロンの部屋は二階の突き当たり。いまごろ、弟もエルと話をしているはずだ。あいつだったら、大切な彼女にどういう言葉をかけるのだろう。
「リリ、すこしだけ話を聞いてくれないか?」
「おはなし?シオン…なぁに?」
彼女の瞳が潤んでいる。
「クレアに聞いたんだ、番のこともう知っているんだろう?」
今日までリリに会うことを禁じられ、診療所に行くこともできない。私はどうしてもその理由が知りたかった。
『あの子達は、お前たちについていきたくないと言ってる。番のことを知ってしまったから、そのせいで優しくしてくれてると思ってるんだよ。』
説明してくれと食い下がる私にクレアはそう言った。番という言葉を聞いた途端、リリの涙が溢れだした。
「ごめんなさいっ、たいせつなつがいが、わたしなんて。ほかのひとにしたほうがいい、もっといいひと。」
しゃくりあげる彼女にどう説明したら、わかってもらえるのか。
「リリ、番は替えがきくものじゃない。私が大切なのはリリだけだ。」
「でも、でも…わたしなんて…。」
「リリはいつも、私なんてって言う。どうしてそんなこと言うんだ?」
リリは一瞬怯えた顔をして、さらに大粒の涙を流した。
「いつも、いつも、わたしのせい。わたしがよわいから、エルはにげられない。エルばかりたたかれて、いたいのに。すごくいたいのに、わたしのまえでだいじょうぶっていうの。」
改めて彼女達の今までを思う。会ったこともない誰かに殺意を覚えたのは初めてだ。
「エルは、つよい。つよくてやさしい。でも、わたしはよわくて、なにももってない。わたしがおねいちゃんなのに、エルをまもってあげないといけないのに。わたし、なんにもない。シオンにもやさしくしてもらって、なにもかえせないのに、いっしょになんていちゃダメだよ。」
「リリは、たくさんのことを私にしてくれている。」
不思議そうにこちらを見上げるリリの髪をゆっくりと撫でた。
「私が疲れていることに、最初に気づくのはいつもリリだ。そしておいしいお茶を淹れてくれる。ご飯を一緒に食べて、笑ってくれる。リリの笑顔を、一番側で見ていたい。誰にも渡したくないんだ。」
涙の跡を指で拭う。
「この気持ちが番だからなのか、私にはわからない。でも、リリを思う気持ちは分かる。番だからかどうかなんて、私はどうでもいい。」
いつも無表情だと言われる私のことを、リリは優しいと言って気遣い、思いを汲み取ってくれる。それ以上に私が求めることなんてない。
椅子に腰かけるリリの前にゆっくりと跪いた。
「リリが好きだ。これは私の初めての恋で、最後の恋だ。一緒にいたくないなんて、そんなこと言わないでくれ。私はリリを愛してる。どうか信じてほしい。」
彼女の顔がくしゃくしゃに歪んだ。私は両手で、その小さな顔を包む。
「うぅ……なんで、なんでそんなにやさしい?しらない、こんなにあったかいの、しらないよ。」
「わたしがやさしいのは、イヤか?」
「いやじゃないよ。シオンといっしょにいきたくないなんて、うそ。こわいの、こんなにやさしくて、いつかわたしのこといらなくなるかもって…。」
リリの瞳に口づけた。そのまま舌で涙を舐める。
「はぅっ…シオン?」
誰かに口づけたいと思うのも、味わいたいと思うのも初めてだ。
「リリは、私のことが好きか?ちゃんと教えてくれ。」
濃紺の瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。
「すき、シオンがすきなの。ずっといっしょにいたい…っ。」
彼女の言葉を聞き終わる前に、その唇を塞いだ。体が熱い。これが自分の本能なのだろうか。
「んっ、んぅっ……ふぅ。」
彼女の小さな唇から、甘い声が漏れる。舌を絡め、彼女を求めた。ゆっくりと彼女の舌が、私の舌に答えてくれる。
「リリ、君を抱きたい。君を全部私のものにしたいんだ。イヤか?」
ふるふると首を振る彼女は頬を赤く染めていた。
* * *
「アァっ、ふぅ…んっ、シオンっ。」
彼女をベッドに運び、服を脱いで抱き合った。最初の頃と比べてふっくらしたとは言え、少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。
「ごめん、わたしのむね、ちっちゃいから…んっ、はぁんっ。」
私の手の平におさまる形の良い胸。ゆっくりと揉むと、先がツンと固くなっていく。
「エルは、大きくてかわいいのに、わたしぜんぜんおおきくないからっ。いやじゃない?」
「リリの体なら、全部いい。…でも、そうかエルは大きいのか。」
「?」
「いや、あいつが喜びそうだと思っただけだ。」
固くなった先を口に含んで転がした。リリの白い肌が、少しずつ赤く染まる。
「はぁんっ。クリクリしちゃ、だめぇっ!」
リリの腕が、私の頭を抱き締めた。彼女の柔らかさと匂いを顔全体で感じる。
「堪らないな。」
彼女の腰に手を回し、胸をさらに愛撫した。
「きゃあっんぅ、…んっ、シオン…。」
彼女が名前を呼ぶたび、私の身体が反応する。リリの全てが私の快感を刺激する。
彼女の下着を指でなぞると、布越しにもぬるぬるとしたものに触れた。
「気持ちいいか?」
下着の中に手を入れる。すんなりと指が入った。くちゅくちゅとわざと音を鳴らすと、リリの顔が羞恥で染まる。
「ひゃっん、ンンっ…はずかしいっ…。」
内側を指でこすると、リリが反応する場所を見つけた。何度も何度も擦り付ける。
「アアっ、そこっいやぁっ、…はぁっん!」
下着を下ろすと、彼女の中に舌を差し込んでいく。彼女は砂糖菓子のように、甘くやわらかい。
ジュルジュルと全てを吸い上げる。彼女の身体がピクピクと跳ねるのに、私もひどく興奮した。
「イヤっ、シオンっ、おくっだめぇっ!」
リリの白い肌が、体温が、すべてが愛しい。自分が誰かをこんなふうに想うなんて、想像したこともなかった。
「ひゃっん、ンン!」
ゆっくりと舌を離し、彼女の体をうつ伏せにした。後ろから、彼女の中に入っていく。入れただけで彼女が絡みついて、私を離さない。
「アアっンン!やぁ、ンンっ、シオンっ、シオン…!」
「もっと、もっと呼んでくれっ!」
彼女の腰を持ち上げ、さらに奥まで突く。トロトロと彼女の蜜がシーツに滴った。
「シオンっ、はっんぅ、おくっだめぇ、だめなのっ!」
「リリ、リリっ!好きだっ!」
彼女の背中を抱きしめ、さらに体を密着させる。彼女の中は狭く、それなのにぬるぬるとしてさらに締め付けてくる。
「リリっ、すごいっ。」
「シオンっンン!イクっイっちゃうのっ、ん、アアっ!」
何度も何度も奥まで突き上げた。
「イクっ、アアっンン、イッちゃうっ!」
細い身体を反らせて、彼女が私を締め上げながら、果てた。同時に、私も彼女の中に欲望を吐き出していく。かつてないほどの快感に、一瞬頭が真っ白になった。彼女と体を離すことすら、もどかしい。
後ろからぎゅっと彼女を抱きしめる。彼女の体に歯を立てたいのを、必死に堪えた。
「リリ、私には君だけだ。君さえいてくれたら、それでいい。」
「……うん。いつか、やさしいのかえせるように、わたしもがんばる。」
彼女の耳に口を寄せた。
「返さなくていい、リリが返せないくらい。いっぱいにするよ。」
* * *
脱いだ服のポケットを探し、一つの箱をリリに手渡した。
「誕生日おめでとう。リリが生まれてきてくれて、本当に嬉しい。」
大事そうに箱を見つめるリリが微笑む。やっと彼女の笑顔を見られた。
「ありがとう、見てもいい?」
「もちろん。」
箱を開けると、小さなブローチが収まっている。陶器でできた雪の結晶を象ったものだ。
「かわいい。これは、ゆき?」
「雪の結晶だ。なんでだろうな、リリにはこれがいいと思ったんだ。」
慎重に箱にブローチを戻し、ぎゅっと抱き締めた。
「ほんとうにありがとう。たいせつにする。」
リリと二人寄り添ってベッドに横になった。リリがふと、二階を見上げる。
「エルは、ガロンとはなせた?」
「あいつなら、心配ないだろ。エルのことしか見えてないからな。」
リリが、声をあげて笑った。
「ふふふっ、ガロンはエルがいるとニコニコだもん。」
「エルには、あんまり伝わってないような気もするがな。」
リリの唇にそっと口づける。
「少し寒いか?体が冷たい。」
「だいじょうぶ、シオンといたら、あったかいの。あったかくてねむくなってきちゃう。」
「少し眠ったらいい、なにも心配いらない。」
柔らかい髪を撫でると、リリは気持ち良さそうに目を閉じた。
「おやすみ、リーリア。」
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