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第三章
30話 エルの想い
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30話 エルの想い
「覚えていてくださったんですね。」
音もなく近づいてくるその人は、笑っているはずなのにひどく冷たい目をしていた。
シュトヘルさんは恭しく跪き、メアリちゃんと目線を合わせる。
「メアリ様。皆が探しております。会場にお戻りください。」
私の後ろに隠れ、メアリちゃんはひどく怯えていた。
「わたしがつれていくので、だいじょうぶです。」
シュトヘルさんが誰かに合図をする。すると後ろから別の人が現れた。メアリちゃんの手を握り、その小さな体を抱きかかえてしまう。
「やだ!離して!エル姉さま!」
「会場へお連れしろ。」
あっという間の出来事に呆然としていると、立ち上がったシュトヘルさんの顔からは笑顔が消えていた。
「魔法を習ってどのくらいですか?まさか無詠唱で使えるとは…!」
その瞳は、獲物を狙う動物みたい。今まで感じたことのない恐ろしさを感じる。
「やはりもう少し探りを入れるべきでした。その力を使わないとは、あまりにもったいない。」
「いたいっ!」
後ずさる私の腕を大きな手で掴まれた。骨ばった指が手首に食い込む。
「貴女が娼婦でなければ、どんな手を使っても妻にしたのですがね…。」
娼婦という言葉に体が強張った。どうして知ってるの?私たちのこと、ガロンは大切な人にしか伝えないと言っていたのに。
「いくら番とはいえ、相手が娼婦だと知っていて妻に娶るなんて。ロックスフォードは相変わらず理解できません。」
それは私自身ずっと疑問に思っていたことだ。いつもは考えないようにしていることを指摘され、自然と涙が出た。
「そうやって男に取り入るんですか?あの単純な肉食獣にはよく効きそうですね。」
「バカにしないで!」
歯を食いしばり、涙を拭う。
「わたしはいい、でもガロンのことバカにしないで!わたしのたいせつなひと!」
私はどんなことを言われてもいい。でも、私の大切な人たち。私たちの過去を知っても優しくしてくれる人たちが、何故悪く言われないといけないの?
「そんなこと言っていいんですか?貴女たちが娼婦だと、他の貴族たちに伝えればロックスフォードの家名に傷がつくことになりますよ?」
大好きなお母様とお父様の顔が浮かんだ。どんな過去があっても関係ないと言ってくれた2人の悲しむ顔は見たくない。
「どうして?どうしてそんなかなしいことするの?」
「どうして?考えたこともない。分かるのはただロックスフォードが嫌いでたまらないということだけです。」
理由のない憎悪。ただそこにいるだけで殴られ、犯されたあの頃。目の前の瞳は、あの娼館で私たちを飼っていた男たちと同じ目だ。
拭っても拭っても溢れる涙を必死に堪えていたその時、
『うぉおおおおおぉ!!』
体が震えるほどの大きな咆哮。聞いたことのない獣の声。シュトヘルが振り返ったその視線の先にいたのは、大きな虎だった。
『俺の番に触るな!』
「覚えていてくださったんですね。」
音もなく近づいてくるその人は、笑っているはずなのにひどく冷たい目をしていた。
シュトヘルさんは恭しく跪き、メアリちゃんと目線を合わせる。
「メアリ様。皆が探しております。会場にお戻りください。」
私の後ろに隠れ、メアリちゃんはひどく怯えていた。
「わたしがつれていくので、だいじょうぶです。」
シュトヘルさんが誰かに合図をする。すると後ろから別の人が現れた。メアリちゃんの手を握り、その小さな体を抱きかかえてしまう。
「やだ!離して!エル姉さま!」
「会場へお連れしろ。」
あっという間の出来事に呆然としていると、立ち上がったシュトヘルさんの顔からは笑顔が消えていた。
「魔法を習ってどのくらいですか?まさか無詠唱で使えるとは…!」
その瞳は、獲物を狙う動物みたい。今まで感じたことのない恐ろしさを感じる。
「やはりもう少し探りを入れるべきでした。その力を使わないとは、あまりにもったいない。」
「いたいっ!」
後ずさる私の腕を大きな手で掴まれた。骨ばった指が手首に食い込む。
「貴女が娼婦でなければ、どんな手を使っても妻にしたのですがね…。」
娼婦という言葉に体が強張った。どうして知ってるの?私たちのこと、ガロンは大切な人にしか伝えないと言っていたのに。
「いくら番とはいえ、相手が娼婦だと知っていて妻に娶るなんて。ロックスフォードは相変わらず理解できません。」
それは私自身ずっと疑問に思っていたことだ。いつもは考えないようにしていることを指摘され、自然と涙が出た。
「そうやって男に取り入るんですか?あの単純な肉食獣にはよく効きそうですね。」
「バカにしないで!」
歯を食いしばり、涙を拭う。
「わたしはいい、でもガロンのことバカにしないで!わたしのたいせつなひと!」
私はどんなことを言われてもいい。でも、私の大切な人たち。私たちの過去を知っても優しくしてくれる人たちが、何故悪く言われないといけないの?
「そんなこと言っていいんですか?貴女たちが娼婦だと、他の貴族たちに伝えればロックスフォードの家名に傷がつくことになりますよ?」
大好きなお母様とお父様の顔が浮かんだ。どんな過去があっても関係ないと言ってくれた2人の悲しむ顔は見たくない。
「どうして?どうしてそんなかなしいことするの?」
「どうして?考えたこともない。分かるのはただロックスフォードが嫌いでたまらないということだけです。」
理由のない憎悪。ただそこにいるだけで殴られ、犯されたあの頃。目の前の瞳は、あの娼館で私たちを飼っていた男たちと同じ目だ。
拭っても拭っても溢れる涙を必死に堪えていたその時、
『うぉおおおおおぉ!!』
体が震えるほどの大きな咆哮。聞いたことのない獣の声。シュトヘルが振り返ったその視線の先にいたのは、大きな虎だった。
『俺の番に触るな!』
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