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4話 贈り物
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4話 贈り物
次の日の朝、家に届いたのは大きな猪と美しい織物でした。手紙もなにもありませんでしたが、送り主は一人しか思いつきません。
そのとき初めてあの人の名前も知らないことに気がつきました。
「お肉ー!お肉ー!」
弟は嬉しそうに跳ね回っているし、母と妹は美しい織物をうっとりと眺めています。
「フェアリーデ、これは誰からの贈り物なんだい?」
不思議がる父に、昨日森であったことを話しました。贈り主はあの人で間違いないはずです。しかし名前が分かりません。
「騎士様からの贈り物にお礼しないわけにはいかないよ!フェアリーデ!今すぐドレスの準備をしなさい!」
聞けば今晩カザック家の屋敷で王子様を招いた夜会が開かれるそうです。そこに参加して贈り物の主を探してきなさいと父は言いました。
「カザック家の方にはなんとか私からお願いしておくから!分かったね?」
贈り主を探すのは嫌ではありません。お礼も直接言いたいです。でも、カザックの夜会に出るということはデュークとの縁談を受けると言っているようなもの。アイツが何をしてくるかも分かりません。
「…わかりました…。」
憂鬱な気分のまま、私は何年も着ていないドレスに穴が空いていないか確かめることにしました。
* * *
「フェアリーデ!よく来たな!俺に会いたくなったのか?」
趣味の悪いタキシードを着たデュークからはすでにお酒の臭いがします。まだ夜会が始まってすぐだというのに。
「違います。」
馴れ馴れしく肩を抱く手を払うと、美しい会場を進みました。どうやらまだ王子様は来ていないようです。会場にいる女性たちがソワソワと入り口を見つめていました。
「それにしても古くさいドレスだな。今度新しいの買ってやるよ。その分は持参金に上乗せしてくれればいい。」
親の金を使うことしか頭にない男がなにを偉そうにしているのでしょう。私は本当にこの男と結婚しないといけないのでしょうか?
周りの女性たちがチラチラとこちらを窺っています。その視線には憐れみと少しの優越感が漂っていました。
あんな男と結婚するのが自分じゃなくて良かった。きっとそう思われているのでしょう。
そのとき、来客を告げる声がかかりました。
「アーカス殿下、ご到着!」
美しい白のタキシードを着て、今夜の主役が登場しました。
アーカス・ランディオール。輝くような金髪に青い瞳。獅子のたてがみを思わせる髪をなびかせた王子は自信に溢れた表情を浮かべ、会場を見渡しています。
会場中の女性が王子様を見つめているなかで私は必死に昨日の騎士を探しました。王子の周りには護衛のための近衛兵がいます。しかしそのなかにあの熊のような大男は見当たりません。
やはり上流貴族でないと夜会には来ないのでしょうか?それとも顔が怖すぎて来るなと言われていたりするのかしら?
「フェアリーデ!アーカス殿下にご挨拶に行こうか!」
デュークに強引に引かれた腕を思い切り振り払いました。
「結構です!私は今日人を探しに来ただけですので!」
こんな場で酔っ払ったデュークに婚約者ですなどと紹介されるのは死んでも嫌でした。
するとみるみる奴の顔が歪みます。自分の思い通りにいかないことがあると、すぐ怒るのがデュークという男なのです。
「デューク様!私を殿下にご紹介くださいませ!」
「デューク様!わたくしもぜひ!」
周りのご令嬢たちがデュークに群がります。おかげで彼の機嫌が良くなったようです。その隙に私はその場を離れました。
* * *
「どこにもいないわ…。」
会場の隅から隅まで探しましたが、昨日の騎士はどこにもいませんでした。やはり、夜会には来ていないのでしょうか。
「ご令嬢、どなたかお探しですか?」
一人になったテラスで振り返ると、さきほどまでたくさんの人に囲まれていた夜会の主役がいらっしゃいました。
「アーカス様!?」
「突然すみません、先ほどデューク殿に貴女が人を探しているとお聞きしたもので。」
デュークが私をなんと言って紹介したのか気になりますが、今はそれどころではありません。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。フェアリーデ・アーランドと申します。」
こんなことなら新しいドレスとはいかなくても、誰かに借りるとか、もう少しマシな格好でくれば良かったと後悔しました。
「フェアリーデ嬢、デューク殿は貴女を婚約者だと言っていました。それは本当ですか?」
あぁ本当に、今日一番怖れていたことが起こってしまいました。よりにもよってアーカス殿下に伝えるなんて。
「いいえ…。縁談をいただいているというだけで、正式に婚約したわけではありません。」
「あぁ!それは良かった!」
なぜアーカス様がそんなに嬉しそうにされるのでしょう?
「それで、貴女は誰を探しているのですか?」
私は昨日の出来事をお話しました。あの騎士の容姿についてできるだけ詳しく、父からお礼をするように言われていることも。
「私がお名前を聞いておけば良かったのですが、その前に帰ってしまわれて…。」
「あの馬鹿…。名前も名乗らなかったのか…。」
「えっ?アーカス様?」
一瞬、王子様には似合わない舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいでしょうか。
「すみません、こちらの話です。その騎士なら、会場の外で警備をしているはずですよ。」
「そうなのですか!良かった。本当にありがとうございます。」
アーカス様は親切に騎士たちが控えている場所まで教えてくださいました。
「あの…その騎士様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「それはぜひ本人に聞いてください。彼もそれを望むでしょうから。」
訳もわからず頷き、私はアーカス様に教えられた場所に向かうことにしました。
次の日の朝、家に届いたのは大きな猪と美しい織物でした。手紙もなにもありませんでしたが、送り主は一人しか思いつきません。
そのとき初めてあの人の名前も知らないことに気がつきました。
「お肉ー!お肉ー!」
弟は嬉しそうに跳ね回っているし、母と妹は美しい織物をうっとりと眺めています。
「フェアリーデ、これは誰からの贈り物なんだい?」
不思議がる父に、昨日森であったことを話しました。贈り主はあの人で間違いないはずです。しかし名前が分かりません。
「騎士様からの贈り物にお礼しないわけにはいかないよ!フェアリーデ!今すぐドレスの準備をしなさい!」
聞けば今晩カザック家の屋敷で王子様を招いた夜会が開かれるそうです。そこに参加して贈り物の主を探してきなさいと父は言いました。
「カザック家の方にはなんとか私からお願いしておくから!分かったね?」
贈り主を探すのは嫌ではありません。お礼も直接言いたいです。でも、カザックの夜会に出るということはデュークとの縁談を受けると言っているようなもの。アイツが何をしてくるかも分かりません。
「…わかりました…。」
憂鬱な気分のまま、私は何年も着ていないドレスに穴が空いていないか確かめることにしました。
* * *
「フェアリーデ!よく来たな!俺に会いたくなったのか?」
趣味の悪いタキシードを着たデュークからはすでにお酒の臭いがします。まだ夜会が始まってすぐだというのに。
「違います。」
馴れ馴れしく肩を抱く手を払うと、美しい会場を進みました。どうやらまだ王子様は来ていないようです。会場にいる女性たちがソワソワと入り口を見つめていました。
「それにしても古くさいドレスだな。今度新しいの買ってやるよ。その分は持参金に上乗せしてくれればいい。」
親の金を使うことしか頭にない男がなにを偉そうにしているのでしょう。私は本当にこの男と結婚しないといけないのでしょうか?
周りの女性たちがチラチラとこちらを窺っています。その視線には憐れみと少しの優越感が漂っていました。
あんな男と結婚するのが自分じゃなくて良かった。きっとそう思われているのでしょう。
そのとき、来客を告げる声がかかりました。
「アーカス殿下、ご到着!」
美しい白のタキシードを着て、今夜の主役が登場しました。
アーカス・ランディオール。輝くような金髪に青い瞳。獅子のたてがみを思わせる髪をなびかせた王子は自信に溢れた表情を浮かべ、会場を見渡しています。
会場中の女性が王子様を見つめているなかで私は必死に昨日の騎士を探しました。王子の周りには護衛のための近衛兵がいます。しかしそのなかにあの熊のような大男は見当たりません。
やはり上流貴族でないと夜会には来ないのでしょうか?それとも顔が怖すぎて来るなと言われていたりするのかしら?
「フェアリーデ!アーカス殿下にご挨拶に行こうか!」
デュークに強引に引かれた腕を思い切り振り払いました。
「結構です!私は今日人を探しに来ただけですので!」
こんな場で酔っ払ったデュークに婚約者ですなどと紹介されるのは死んでも嫌でした。
するとみるみる奴の顔が歪みます。自分の思い通りにいかないことがあると、すぐ怒るのがデュークという男なのです。
「デューク様!私を殿下にご紹介くださいませ!」
「デューク様!わたくしもぜひ!」
周りのご令嬢たちがデュークに群がります。おかげで彼の機嫌が良くなったようです。その隙に私はその場を離れました。
* * *
「どこにもいないわ…。」
会場の隅から隅まで探しましたが、昨日の騎士はどこにもいませんでした。やはり、夜会には来ていないのでしょうか。
「ご令嬢、どなたかお探しですか?」
一人になったテラスで振り返ると、さきほどまでたくさんの人に囲まれていた夜会の主役がいらっしゃいました。
「アーカス様!?」
「突然すみません、先ほどデューク殿に貴女が人を探しているとお聞きしたもので。」
デュークが私をなんと言って紹介したのか気になりますが、今はそれどころではありません。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。フェアリーデ・アーランドと申します。」
こんなことなら新しいドレスとはいかなくても、誰かに借りるとか、もう少しマシな格好でくれば良かったと後悔しました。
「フェアリーデ嬢、デューク殿は貴女を婚約者だと言っていました。それは本当ですか?」
あぁ本当に、今日一番怖れていたことが起こってしまいました。よりにもよってアーカス殿下に伝えるなんて。
「いいえ…。縁談をいただいているというだけで、正式に婚約したわけではありません。」
「あぁ!それは良かった!」
なぜアーカス様がそんなに嬉しそうにされるのでしょう?
「それで、貴女は誰を探しているのですか?」
私は昨日の出来事をお話しました。あの騎士の容姿についてできるだけ詳しく、父からお礼をするように言われていることも。
「私がお名前を聞いておけば良かったのですが、その前に帰ってしまわれて…。」
「あの馬鹿…。名前も名乗らなかったのか…。」
「えっ?アーカス様?」
一瞬、王子様には似合わない舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいでしょうか。
「すみません、こちらの話です。その騎士なら、会場の外で警備をしているはずですよ。」
「そうなのですか!良かった。本当にありがとうございます。」
アーカス様は親切に騎士たちが控えている場所まで教えてくださいました。
「あの…その騎士様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「それはぜひ本人に聞いてください。彼もそれを望むでしょうから。」
訳もわからず頷き、私はアーカス様に教えられた場所に向かうことにしました。
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